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December 21, 20
スライド概要
大学講義資料「食や農業に関する課題に対する社会や企業の活動」
サツマイモの無限の魅力と可能性を日々探求|サツマイモに関するTV・ラジオ出演、雑誌・新聞取材、専門誌寄稿の実績多数|サツマイモの歴史や栽培、品種、加工や商品化まで、サツマイモに関する見識を深め、わかりやすく伝えることに情熱をそそいでいます
食や農業に関する課題に対する 社会や企業の活動 0
Ⅰ 農業の事業環境 1
Ⅰ 農業の事業環境 突然ですが、クイズです 私は自分がどんなに努力しても、農業経営者にはなれそうにありません。 世界市場のなかで、高度な技術力とマーケティング力、そして経営判断が 求められる、複雑な仕事です。学生時代にアルバイトしたとき「あんた仕 事できないわね」とすぐにクビになりましたから本当です。 さて、誰の言葉でしょうか? バラク・オバマ 第44代アメリカ合衆国大統領 農業は農地、人、技術・販売・企画などの総合知識産業 2
Ⅰ 農業の事業環境 農林水産業のバリューチェーン 一般的な農林水産業のバリューチェーンは、生産→加工/製造→流通/販売と繋が り、その中で多くの事業体が関わりあっていることが特徴です。 第一次産業者(生産者)が川下の付加価値を取りこもうとするのが「農業の六次 化」という取り組みでした。 農産物は現物取引が多いために評価基準が曖昧、卸売市場をはさむことにより生産 者と実需者のコミュニケーションが切られ、実需者からの評価や要望が生産者に フィードバックされにくい環境にあります。 また、流通効率化などから規格が定められており、消費者の手に届くものは流通や 販売がしやすいものに限られます。(消費者は自ら選んでいるようで選ばされてい ると言えます) 生産 加工 製造 流通 販売 3
Ⅰ 農業の事業環境 イノベーションを起こしにくい事業環境 ➢ 規制や団体、個人事業主が多く、他産業では当たり前のことができにく い。 地方社会ならではの人間関係が壁になることも多い。 当たり前のことが当たり前にできるようになるだけでもイノベーション ➢ 生産サイクルが多くの作物で1年。PDCAサイクルを短期間で回しにく い。 例えば一生をかけて稲作をやっていても、最大でも50回程度の栽培しかできな い。その間、同じ条件で栽培できるわけでもなく、小さな改善の積み重ねが必 要となる。 ➢ 生育環境がコントロールできず、天候など栽培条件が変わりやすい露地 栽培が大半を占める。 生育環境をコントロールしやすい施設園芸はほんの一部。機械化を進めるうえ では、様々な地形/天候/作物に対応したパターンを考える必要があり、省力 化が進みにくい。 4
Ⅰ 農業の事業環境 (橋本の考える)理想の農業の事業サイクル 基本的には三次産業を流通/販売という業種だけではなく、サービス業全般を対象にし、「連携」 して付加価値を「共創/協創」するという考え方が必要ではないか。 食べる用途以外の業種に適した品種も育成する。将来の環境変化等に対応するため、作物の多 様性を残しておく必要がある。 商品販売や飲食のみでは 付加価値は限られるし、 競合も多い。 ものを売ることから、体 験を売ることへシフトす る。異業種との協業が必 要となる。 12次産業化をはかる。 サービス 研究 加工 生産 作物自体が持っている特 性以上のものを作ること はできないということか ら、品種改良/育種から 始まると考える。 研究機関・種苗会社にも あまりマーケットは見え ていない。 5
Ⅱ 農業や食の課題 6
Ⅱ 農業や食の課題 農業や食の課題 農業や食の分野には様々な課題があると言われています。 事前学修で調べてきてもらいましたが、今回の授業では次のような課題について触れていきたいと思 います。 ≪農業≫ • 農家人口の減少 • 耕作放棄地 • 環境変動 • 遺伝資源流出 ≪食≫ • フードロス • 食の安全 • 食生活の変化 ※きっぱりとわけられるものは少ないですが、主にその原因が生産側にあるものを「農業」、消費 (流通含む)側にあるものを「食」と整理しています。 7
Ⅱ 農業や食の課題 《農》農家人口の減少 基幹的農業従事者※は、1995年に256万人 いたが、05年に224万人、15年に175万人、 19年に140万人と大幅な減少が続いている。 また、高齢化も進展していて、平均年齢は95年 に59.6歳だったが、05年に64.2歳に跳ね上がり、 その後も19年は66.8歳と依然として高い水準で 推移していて、60代以下は100万人を割り込ん だ状態が続いています。 一層の減少・高齢化が見込まれる中、生産基 盤を維持するために、60代以下の人材をどう確 保していくかが喫緊の課題となっています。 ※経営耕地面積30a以上または農産物販売 金額が年間50万円以上の農家 8
Ⅱ 農業や食の課題 《農》耕作放棄地 農地面積は、耕地の荒廃、宅地等への転用、自然災害等の要因により減少し、実際に作付 (栽培)している面積も減少傾向が続いています。 耕作放棄地(荒廃農地)の面積は、令和元年度時点で28万ha。このうち、再生利用が可能 なものは9万2千ha、再生利用が困難と見込まれるものは18万8千haとなっています。国内の農 業生産に必要な農地を確保し(グリーンインフラとしての機能維持のためにも) 、農地を担い手に 集積・集約化すること等で荒廃農地の発生を未然に防ぐこと等が重要です。 9
Ⅱ 農業や食の課題 《農》環境変動 日本の年平均気温は過去100年で1.2ºC上昇しており、農業の現場に顕著な影響が出始めて います。また、今後100年で1.1~4.4ºC上昇する予測がされています。 植物は温度に敏感であり、作物への高温の影響として次のような事象があげられます。 ⚫ 発育の変化・栽培適地の移動 ⚫ 一時的な極端な高温による障害 ⚫ 病害虫・雑草の変化 発育速度 また、月単位での異常少雨が増加しており、降水の極端化は干ばつの原因となります。 最適温度 低温障害 高温障害 気温 生存限界 生存限界 10
Ⅱ 農業や食の課題 《農》遺伝資源流出 農林水産物の輸出が拡大するなか、国内の産地が独自に開発した品種や、和牛など「遺伝資 源」が流出するケースが多く発生しています。 ◆和牛 日本からカナダに和牛の精液が1967年に輸出されました。その後、断続的に生体の和牛、雄、雌 両方が米国に輸出され、その後、米国で検疫手続を終えた和牛の精液、受精卵、それから生体 の和牛がオーストラリアに輸出され、和牛は今や世界の「WAGYU」として、米国、オーストラリア産 が世界を席巻しています。 ◆イチゴ 福岡県が品種の権利を持つイチゴ「あまおう」。苗を供給するJA全農ふくれんは、譲渡先を県内 の生産者のみに限定して保護してきましたが、県外への持ち出しのターゲットにされ、過去には他県 産の「あまおう」が市場で流通したほか、苗がインターネットオークションに出品されるケースも発生し ています。また、別品種を「あまおう」と偽装する事件も発生しています。 11
Ⅱ 農業や食の課題 ≪食≫フードロス 日本では日々多くの食糧が生産されていますが、そのすべて消費されるわけではなく、余ったものは 廃棄される「食品ロス」が起きています。 日本では年間646万トンが食品ロスが出ており、その中で289万トンは家庭から出た食品ロスであ ると報告されています。 食品ロスが起こる原因 ① 生産段階で需要を越える量を生産してしまう。しかし、凶作になる可能性への備え、事前の需 給量の見込みは難しいため、量の調整を行うことは難しい。 ② 流通・加工段階で生鮮食品に対して規格や外観品質基準という厳しい基準が設けられている ため、これに適さない分は廃棄されてしまう。(いわゆる規格外品) ③ スーパーなどの小売店では、ワンストップ・ショッピングによる利便性の提供、販売機会損失防止 のため大量陳列と幅広い品数をそろえるため、どうしても消費されない食品が出てきて、残ったも のは廃棄されてしまう。 ④ 消費者が無計画に購入したり、簡単に捨てる余裕があることから、食品を余らせてしまい廃棄し てしまうことが多い。 ⑤ リユースやリサイクルするよりも、廃棄した方がコストがかからない。(衛生面の課題もあるが) 12
Ⅱ 農業や食の課題 ≪食≫食の安全・安心 消費者の食品に対する安全・安心への関心の高まりが見られますが、この背景には、「安全」なも のに対する知識や情報の不足、食品の生産現場からのかい離による「不安」感が存在していると言 われています。 「安全」と「安心」は、ほぼ同じ意味で使われているように思いますが、実際には全く違います。生産 者や企業は「安全」な食品を消費者に提供することを常に目指しています。ただ、一生懸命食品を 作っても、消費者が「安心」な商品として認めてくれるかどうかは別問題であり、消費者自身で判断 できるように自立・自覚することも大事だと言えます。 13
Ⅱ 農業や食の課題 ≪食≫食生活の変化 従来は、肉や野菜などの食材を小売店やスーパーなどで購入し、家庭内で調理し、家庭の食卓で 食べるという食生活が一般的であった。70年代ごろからファミリーレストランやファーストフードなどの 外食チェーンが進出し、特に80年代にかけて外食産業が発展した。さらに、現在は、コンビニ弁当 や百貨店の地下食品売り場に代表されるような、外食と家庭内食の中間的な形態である中食の 分野が急成長している。この現象を「食の外部化」と言います。 14
Ⅱ 農業や食の課題 ≪食≫食生活の変化 食の外部化自体は課題というわけではないが、このような食生活の変化が進んでいる ことで、次のような影響が出ていると言われています。 ⚫ 子供の孤食・個食の増加 ⚫ 農産物や農業に対する関心の薄れ ⚫ 栄養の偏り、肥満や生活習慣病 ⚫ 調理技術の低下 ⚫ 弁当容器などの増加による容器包装廃棄物増加 15
Ⅲ 社会・企業活動事例 16
Ⅲ 社会・企業活動事例 《農》組織経営の推進 農林水産省のほうで農業の構造改革の推進が行われており、その一環として法人経営の参入を 促進するように法律を整備しました。 近年、農業経営体数は減少する中、組織経営体数は増加しており、2019年における組織経営 体数は3万6千経営体と前年に比べ1.4%増加しており、このうち法人経営体数は2万3千経営 体と前年に比べ3.1%の増加となっています。 法人経営体は従業員を集めやすい、経営継続がしやすいなどの利点があることから、年々増加し ています。従来の農業経営体が法人化する際にも、都道府県別にある農業経営相談所において 専門家派遣等による相談対応が実施されています。 17
Ⅲ 社会・企業活動事例 《農》農地の集積化 国は2014年に農地中間管理機構(農地バンク)を発足させ、地域内に分散・錯綜 する農地を借り受け、条件整備等を行い、再配分して担い手への集約化を実現する、 農地中間管理事業が始まりました。 農地バンクの活用により、農地の再配分による分散錯圃の解消、地域関係者との連携 の下に県外から企業を誘致した事例などがあります。 農地が集積されることにより、放棄される農地が減り、効率化による経営改善にもつなが ります。 18
Ⅲ 社会・企業活動事例 《農》耕作放棄地の活用 耕作放棄地は条件不利地(場所が悪い、土が悪い、水がないなど)であることが多く、 作付けしやすい作物は限られています。その中でも、よく作付けされる作物としては、そば、 大豆、茶、さつまいもがあげられます。 さつまいもは、「①芋掘り等と通じた体験学習としての活用が可能②観光農園としての活 用による都市、農村交流、③商品の原材料として栽培し、商品開発につなげる」として、 地域特産物として生産が推進されている事例が多くあります。 地域 登米市 (宮城県) 山江村 (熊本県) 大口市 (鹿児島県) 解消の契機 具体的取組と支援策等 農業体験が可能な作物として、トウモロコ シ、カボチャとともに導入 ・共同活動としての集落での取組、都市と の交流による芋掘り体験を開催 ・集落景観、地域住民の意識高揚とともに、 道の駅での直売、芋掘り体験により収益を 確保 県の遊休農地総合対策事業の活用により、 焼酎原料として地域特産物のさつまいもを 導入 生産部会(焼酎用甘藷部会)を設立、農業 委員会による農地賃貸借の斡旋、芋焼酎と しての加工を推進 ・構造改革特区(農地リース制度)の導入 (地元建設会社が参入) ・公共事業の減少期がさつまいも栽培の繁 忙期と 重なり、雇用の確保・分散に効果 ・焼酎原料用として地域特産物のさつまい もの栽培を推進 ・JA、普及指導センターにより「さつま いも栽培の手 引き」を作成、営農指導に活 用 19
Ⅲ 社会・企業活動事例 《農》温暖化適応策 温暖化に対する適応策としては、温暖化の被害を軽減するだけではなく、温暖化を利用 するという対応も考えられています。 主な対策は次の3つに整理されます。 1. 栽培(生産)技術での対応→温度を下げる、高温耐性の強化 2. 温暖化対応品種の利用 3. 作物転換 リンゴの栽培適地の移りかわり→北海道に適地が遷移する 現在 2060年頃 赤色が適地 緑色は高温の地域 青色は低温の地域 20
Ⅲ 社会・企業活動事例 《農》種苗法改正 2020年12月2日、改正種苗法が参議院本会議で可決され成立しました。 種苗法とは 作物の品種の権利を国が保護すること、世の中に役立つ品種の開発力を向上させること によって、日本の農林水産業を発展させるための法律です。 種苗法によって、新品種を育成した者が希望し、一定の要件を満たせば、品種登録され て育成者権が与えられます。育成者権とは知的財産権の一種です。 改正のポイント ひとつ目は、農作物の生産者が登録品種を自家増殖する際に、育成者の許諾が必要 になりました。自家増殖とは「自分で苗や種子を増やすこと」で、これまでも、自家増殖に よって増やした苗や種子を勝手に販売することは禁じられていましたが、そこから収穫され た果物や野菜や穀物などは自由に増やして販売することができました。この部分に発明 者の許諾が必要とされるように変わりました。 ふたつ目は、発明者が登録品種の栽培地域を制限できるようになりました。これによって、 育成者が指定した地域外(国や県など)に登録品種を持ち出す行為が、育成者権の 侵害にあたることになりました。 →国内・国外への不当な流出ができなくなった 21
Ⅲ 社会・企業活動事例 《食》フードシェアリングサービス TABETEとは、まだ美味しく食べられるのにお店の営業時間や賞味期限の問題で廃棄し てしまうかもしれない食事を、登録しているユーザーがレスキュー(購入)してフードロスを 減らすフードシェアリングサービスです。 22
Ⅲ 社会・企業活動事例 《食》 「賞味期限」の愛称・通称コンテスト 消費者庁が「賞味期限」の愛称・通称コンテストを実 施。 食品ロス削減のためには、国民各層がこの問題を「他 人事」ではなく「我が事」として捉え行動に移すことが必 要であるため、消費者庁は、食品ロス削減のための広 報・啓発活動の一環として、「賞味期限」の正しい理 解を促進する観点から「「賞味期限」の愛称・通称コン テスト」を、また、食品ロス削減のための取組やエピソー ドに基づいて作成したスローガン(宣言)及びその想いを 表現した写真を募集する「私の食品ロス削減スローガ ン&フォトコンテスト」を実施することといたしました。 23
Ⅲ 社会・企業活動事例 《食》食品安全委員会 リスク(食品を食べることによって有害な要因が健康に及ぼす悪影響の発生確率と程 度)を科学的知見に基づいて客観的かつ中立公正に評価。 リスク評価の結果に基づき、食品の安全性の確保のため講ずべき施策について、内閣総 理大臣を通じて関係各大臣に勧告を行う。 リスクコミュニケーション(消費者、食品関連事業者など関係者との幅広い情報や意見 の交換)を、意見交換会の開催、ホームページ等を通じて実施。 24
Ⅲ 社会・企業活動事例 《食》全国食育交流フォーラム 三重県にある伊賀の里モクモク手づくりファーム が主催している活動です。 食の体験や参加者同士の交流を通じて、新た な気づきと新たな仲間を見つけ、未来をつむぐ 食のプロジェクトを起こしていこう!とはじまった 研修会です。 毎日の食卓にならぶ食べものの成り立ちは? 次の世代、そして、その次の世代へとつながる 持続可能なライフスタイルのあり方とは?健康 で充実した食生活を次の世代につなげていくた めに、私たちがえらぶバトンが重要となります。 25
Ⅳ 本日のまとめ 26
Ⅳ 本日のまとめ 食や農業の課題と社会や企業の活動 ➢ 農業は農地、人、技術・販売・企画などの総合知識産業 ➢ 農業分野の事業にはバリューチェーンの理解が必要 ➢ 食や農業分野には様々な課題があり、課題の宝庫である ➢ それに対して国や企業で様々な活動が行われている ➢ 一方、消費者として食や農業に対するリテラシーを身に着け る必要性がある 27