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December 14, 20
スライド概要
大学講義資料「農業の多面的機能&農産物の生産・流通・販売の仕組み」
サツマイモの無限の魅力と可能性を日々探求|サツマイモに関するTV・ラジオ出演、雑誌・新聞取材、専門誌寄稿の実績多数|サツマイモの歴史や栽培、品種、加工や商品化まで、サツマイモに関する見識を深め、わかりやすく伝えることに情熱をそそいでいます
農業の多面的機能& 農産物の生産・流通・販売の仕組み 0
Ⅰ 農業の多面的機能 1
Ⅰ 農業の多面的機能 グリーンインフラで実現可能な複数の機能 • • • • • • • • • • • 治水 土砂災害防止 地震・津波減災 大災害時の避難場 水源・地下水涵養 水質浄化 二酸化炭素固定 局所気候の緩和 地域のための自然エネルギー供給 資源循環 人と自然にやさしい交通路 (グリーンストリート) (グリーンインフラ研究会ほか編2017:22) • 害虫抑制・受粉 • 食料生産、一次産業の高付加価値化 • 土砂供給 • 観光資源 • 歴史・文化機能の維持 • 景観向上 • 環境教育の場 • レクリエーションの場 • 福祉の場 • 健康増進・治療の場 • コミュニティー維持 2
Ⅰ 農業の多面的機能 農業の多面的機能とは 食料・農業・農村基本法(平成11年) 第三条 (多面的機能の発揮) 国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等農 村で農業生産活動が行われることにより生ずる食料その他の農産物の供給の機能以外 の多面にわたる機能(以下「多面的機能」 という。)については、国民生活及び国民 経済の安定に果たす役割にかんがみ、将来にわたって、適切かつ十分に発揮されなけれ ばならない。 グリーンインフラの特性として多機能性があり、前頁にあげたグリーンインフラで実現可能な 機能と農地の多面的機能では重複する項目が多い。 ⇒農地は潜在的にグリーンインフラの機能をもつといえる。 ⇒農地だけではなく、農地に付随する農業施設(農道・水路など)もグリーンインフラの 構成要素である。 3
Ⅰ 農業の多面的機能 多面的機能の概念図 土砂崩れを防ぐ機能 土の流出を防ぐ機能 地下水をつくる機能 農村の景観を保全する機能 洪水を防ぐ機能 文化を伝承する機能 川の流れを安定させる機能 暑さをやわらげる機能 癒しや安らぎを もたらす機能 生きもののすみかになる機能 体験学習と教育の機能 (資料:日本学術会議「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)」 (平成13年11月)及び 関連付属資料) 4
Ⅰ 農業の多面的機能 農業がもたらす生態系サービス 持続的な 食料供給 環境への貢献 1.物質循環系の形成 1) 水循環制御 ・洪水防止 ・土砂崩壊防止 ・土壌侵食(流出)防止 ・河川流況の安定 ・地下水かん養 2) 環境負荷緩和 ・水質浄化 ・有機性廃棄物分解 ・大気調節(大気浄化、気候 緩和など) ・資源の過剰な集積・収奪 防止 将来に対する 安心機能 農業・農村 地域社会の 形成・維持 2.二次的自然の形成・維持 1) 生物多様性保全 ・生物生態系保全 ・遺伝資源保全 ・野生動物保護 2) 土地空間保全 ・優良農地の動態保全 ・みどり空間の提供 ・日本の原風景の保全 ・人工的自然景観の形成 1.地域社会・文化の 形成・維持 1) 地域社会の振興 2) 伝統文化の保存 2.都市的緊張の緩和 1) 人間性の回復、 保健休養、やす らぎ 2) 体験学習と教育 5
Ⅰ 農業の多面的機能 洪水防止機能 畦に囲まれた田や耕作されている畑の土壌には、雨水を一時的に貯留する働きがあり、 農地はダムのように洪水を防止する役割を果たす。 6
Ⅰ 農業の多面的機能 土砂崩壊防止機能 斜面に作られた田畑を日々の手入れすることで土砂崩れを未然に防止することができる。 また、田畑を耕作することで、雨が降っても雨水が地下にゆっくりとしみこむ、地下水位が 急上昇することを抑え、地すべりなどの災害を防止する。 7
Ⅰ 農業の多面的機能 河川流況安定機能 水田に利用される灌漑用水や雨水は、時間をかけて河川に還元されることにより、河川 の流況を安定させ、下流地域の都市用水などに利用される。 8
Ⅰ 農業の多面的機能 地下水涵養機能 田畑に貯留した雨水等の多くは地下にゆっくりと浸透して地下水となり、下流地域の生 活用水などに利用される。 9
Ⅰ 農業の多面的機能 生物多様性保全機能 田畑に継続的に手入れをすることにより、豊かな生態系を持った里地里山が形成される。 10
Ⅰ 農業の多面的機能 景観保全機能 農村地域では、農業が営まれることにより、田畑に育った作物と農家の家屋、その周辺の 水辺や里山が一体となって美しい農村景観を形成している。 春の散居集落(山形県飯豊町) そば祭り(群馬県中之条町) ヒガンバナと棚田(奈良県明日香村) かやぶきの里(京都府南丹市) 棚田と漁火(山口県長門市) じゃがいも畑(北海道ニセコ町) 11
Ⅰ 農業の多面的機能 文化の伝承機能 全国各地に残る伝統行事や祭りは、五穀豊穣祈願や収穫を祝うものなど、稲作をはじ めとする農業に由来するものが多く、地域において永きにわたり受け継がれている。 逆面獅子舞(栃木県宇都宮市) 三河万歳(愛知県安城市) あえのこと(石川県輪島市) 農村歌舞伎(香川県土庄町) 御田植祭(大分県豊後高田市) 奴おどり(鹿児島県曽於市) 12
Ⅰ 農業の多面的機能 事例紹介:たんぼダム 低平地が多い新潟県では、水害に強い地域づくりを目指して、水田の貯水機能を高め る「田んぼダム事業」を展開。水田の排水口に「調整板」などを設置し、 ゆっくりと排水す ることで、下流域の洪水被害を防止・軽減している。 (平成26年度:13市町村、 約1万2千haで実施) 13
Ⅰ 農業の多面的機能 事例紹介:地下水涵養田 大津町・菊陽町・熊本市にて、灌漑期の一定期間、上流の転作田等に水を貯めること で(地下水涵養田)、下流域の地下水を保全。 水張りした水田で生産するにんじん、さといもなどを「水の恵み」のブランド名で販売。 14
Ⅰ 農業の多面的機能 海外事例:地域社会による食糧育成プロジェクト All London Green Grid (ALGG) 人々と野生生物の利益のために、ロンドン全体で「グリーンインフラストラク チャ」の設計と提供を促進するための政策の枠組み。緑地(街路樹や屋 上緑化などの機能を含む)と水域(川、運河、池など)のネットワークに より各種機能が提供できるように計画・設計・管理されている。 ALGCには「食料の安全保障」という大きな政策の一翼を担う視点が含ま れており、地域社会による食糧育成プロジェクト(Community Food Growing Projects)という形で実施されている。 都市内の空閑地・耕作放棄地を利用し、菜園やコミュニティガーデンを構 築。家庭菜園ではなく、コミュニティレベルでの生産支援を行うことで、一つ のインフラとして機能している。 15
Ⅰ 農業の多面的機能 多面的機能維持・発揮の課題 これまでは、農地周りの水路、ため池、農道などは、農家を主体とする集 落の共同活動によって保全されており、農業の多面的機能は、農業生産 とそれを支える保全活動を通じて、維持・発揮が図られてきた。 しかし、現状、集落では混住化・農家の高齢化・不在地主の増加により 農地周りの水路・ため池・農道などの管理が困難になっている。 管理体制を再構築し、多面的機能の発揮を維持することが必要だが、 土地持ち非農家や非農家にも義務を課すのが難しい現実がある。 16
Ⅰ 農業の多面的機能 日本型直接支払制度 農業・農村の多面的機能の発揮のための地域活動に対して支援を行い、 多面的機能 が今後とも適切に発揮されるようにするとともに、担い手の育成等構造改革を後押しして いくため、日本型直接支払制度を創設。 中山間地域等直接支払 多面的機能支払 農地維持支払 中山間地域等の条件不利地域(傾 斜地等)と平地とのコスト差(生 産費)を支援 多面的機能を支える共同活動を支援 ※担い手に集中する水路・農道等の管理を地域で 支え、農地集積を後押し。 支援対象 • 農地法面の草刈り、水路の泥上げ、 農道の路面維持等の基礎的保全活動 • 農村の構造変化に対応した体制の拡 充・強化、保全管理構想の作成等 水路の泥上げ 資源向上支払 地域資源(農地、水路、農道等)の質 的向上を図る共同活動を支援 支援対象 ・水路、農道、ため池の軽微な補修 ・植栽による景観形成、ビオトープづ くり ・施設の長寿命化のための活動 等 中山間地域 (山口県長門市) 農地法面の草刈り 環境保全型農業直接支払 環境保全効果の高い営農活動を 行うことに伴う追加的コストを 支援 水路のひび割れ補修 カバークロップ (緑肥)の作付け 植栽活動 17
Ⅰ 農業の多面的機能 食や農業と社会経済活動 ここまで見てきた通り、グリーンインフラを考えるうえで、農 地や農業施設、歴史・文化やコミュニティなど、農業の重要性 が大きいことが理解できる。 第4QTでは身近で考えやすいテーマであり、農業とは切り離せ ない「食」ということも含め「食と農業」にスポットをあてる。 農業は経済的・継続性の面を十分に考える必要があることから、 「社会経済活動」についても理解を深めることを目標とする。 18
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売 の仕組み 19
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売の仕組み 農産物流通の概要 日本における農産物の流通構造は下記の通り。その多くは、生産者から消費者に届くま で、JAなどの出荷団体、卸売市場、外食・食品小売を経由する。 中間業者を経ることで、市場規模が約7倍になっている。 (平成30年度 食料・農業・農村白書 第1部 食料・農業・農村の動向 第1章 食料の安定供給の確保 第6節 食品産業の動向より) 20
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売の仕組み 出荷団体 生産者が生産した農産物は約6割がJA(農協)に出荷されている。その他の出荷団 体・現地仲買人にも一部出荷され、卸売市場に持ち込まれる。 産直市場や通信販売は増えているが、生産者から消費者に直接販売されるのはまだま だ少ない。 21
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売の仕組み 農協とは 農業協同組合(略称:農協)は、日本において農業者によって組織された協同組合。 農業協同組合法に基づく法人であり、事業内容などがこの法律によって制限・規定され ている。 JAは、「農業協同組合」の英語表記(Japan Agricultural Cooperatives)の 頭文字をとってつけられたニックネーム。 相互扶助の精神のもとに農家の営農と生活を守り高め、よりよい社会を築くことを目的に 組織されている。 この目的のために、JAは営農や生活の指導をするほか、生産資材・生活資材の共同購 入や農畜産物の共同販売、貯金の受け入れ、農業生産資金や生活資金の貸し付け、 農業生産や生活に必要な共同利用施設の設置、あるいは万一の場合に備える共済等 の事業や活動を行っている。 22
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売の仕組み 農協の事業 JAは、組合員のニーズに応じて農業生産に必要な肥料や農薬等の資材を共同で購入 したり、農畜産物を共同で販売したりする他、貯金、貸出などの信用事業や、生命、建 物、自動車等の共済事業、高齢者福祉、健康管理、旅行など幅広い事業を展開して いる。 指導・経済・信用・共済などの事業ごとに、 JAとJA連合会等による事業組織が形づくら れ「JAグループ」として活動している。 農産物の生産や 流通に関わるのは この部分のみ 23
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売の仕組み 卸売市場とは 卸売市場は全国から集まった青果物(野菜、果物)、水産物、肉、花を取引し、小 売店(八百屋、スーパーなど)、外食事業者(レストランなど)、加工業者へ販売する 拠点。公正な売買取引が行われ、日々の取引結果(卸売数量・価格など)が公表さ れる。 卸売市場 なか おろし 仲卸業者 出荷者 (農協、個人等) 卸売業者 入荷・荷下ろし 卸売業者が全国から集めた荷(=の 農産物等)が届く。出荷品は効率 的に取引を行うため、品目や大きさ、 等級ごとに分けて卸売市場に並べら れる。 出荷者から卸売業者に販売を委託 する場合と、卸売業者が買って販売 する場合がある。 売買参加者 (加工業者など) 売買取引 卸売業者が売り手となって、買い手 (仲卸業者、売買参加者など)に 卸売をする。 「せり」や「相対取引」などの方法で、 取引数量・価格などを決める。 小売業者 外食業者 加工業者 など 消費者 販売、出荷 仲卸業者は、取引で 買った商品を、 販売先(八百屋やスーパー、レスト ランなど)からの注文を受けて、パッキ ング、小分け、配送を行う。 24
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売の仕組み 中央卸売市場 開設者が国(農林水産大臣)から認可を得て開設した卸売市場を、中央卸売市場と いう。 中央卸売市場は、広域的な生鮮食料品等流通の中核的な拠点であり、北海道 から沖縄まで、全国40都市(64カ所)に開設されている。 大田市場…青果物 豊洲市場…水産物 中央卸売市場と地方卸売市場 地方卸売市場とは、開設者が都道府県から許可を得て開設した卸売市場。地方卸売市場は、地 域の特産品を豊富に取りそろえている市場や、地元の小売店が夕方にも新鮮な食材を仕入れら れるように、せりを朝と夕方に行う市場など、地域の強みや特徴を活かした売買取引を行って いる。(全国に1,060カ所に開設(平成28年度末時点)) 25
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売の仕組み 卸売市場の状況 現在は産直取引、直売所、ネット販売など卸売市場を経由しない物品の増加により、 卸売市場を経由する生鮮食料品の割合は、ピーク時に比べ減少。それに伴い、中央卸 売市場の市場数及び卸売業者数も減少している。 しかし平成27年度のデータでも、青果、水産物、花きの卸売市場を経由する割合は 50%~80%と高く、卸売市場は食品流通において重要な役割を果たしている。 昭和55年度 平成27年度 青果 87.1% 57.5% 水産物 85.5% 52.1% 花き 79.2% 76.9% 食肉 19.1% 9.2% :卸売市場外流通の割合 資料:農林水産省「食料需給表」、「青果物卸売市場調査報告」等により推計 注:卸売市場経由率は、国内で流通した加工品を含む国産及び輸入の青果、水産物等のうち、 卸売市場(水産物についてはいわゆる 26 産地市場の取扱量は除く。)を経由したものの数量割合(花きについては金額割合)の推計値。
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売の仕組み 農産物流通はリスク分散が基本 これまで見てきた通り、生産者から消費者に農産物が届くまでには、多くの事業体が複雑 に絡み合って流通網を構築している。一方で、農産物は天候などの影響により、収量が 安定せず、価格の変動が大きく発生することが多々ある。そのため、各段階の事業者は 変動に備えるための仕組みを構築し、少しずつリスクを分散している。(フードロスもこの 辺が関係している) 各事業者の収益やリスクへの備えが積み重なり、生産者から最終消費者に届くまでに7 倍の規模に膨れ上がっている。(10.5兆円→76.3兆円) かといって、農業や食の分野では、どの 事業者も楽に儲かっているわけではない… 消費者として何かできることはあるのだ ろうか? 27
Ⅱ 農産物の生産・流通・販売の仕組み 農業の6次産業化 農業は第一次産業に分類され、農産物の生産を行うものとされている。だが、 生産だけでなく、食品加工(第二次産業)、流通・販売(第三次産業)にも 農業者が主体的かつ総合的に関わることによって、加工賃や流通マージンな ど第二次・第三次産業の事業者が得ていた付加価値を、農業者自身が得るこ とを目的とする。付加価値としては、ブランド化、消費者への直接販売、レ ストランの経営などが挙げられる。 地域活性化や、農業経営体の収益向上の手段として用いられる。 28
Ⅲ 本日のまとめ 29
Ⅲ 本日のまとめ 農業の多面的機能 ➢ グリーンインフラの特性として多機能性と農地の多面的機能 に類似性がある ➢ 農業の多面的機能には、国土の保全、水源のかん養、自 然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承がある ➢ 多面的機能維持・発揮には課題があり、日本型直接支払 制度による支援を行っている 30
Ⅲ 本日のまとめ 農産物の生産・流通・販売の仕組み ➢ 生産者から消費者に届くまでには多くの事業体が複雑に関 わっている。 ➢ 農業協同組合には様々な役割と事業が存在する。 ➢ 卸売市場は農産物流通の要であり、価格形成の機能があ る。 ➢ 農業の6次産業化が地域活性化や農業経営体の収益向 上の手段として用いられる。 31