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January 13, 21
スライド概要
大学講義資料「食や農業とテクノロジー」
サツマイモの無限の魅力と可能性を日々探求|サツマイモに関するTV・ラジオ出演、雑誌・新聞取材、専門誌寄稿の実績多数|サツマイモの歴史や栽培、品種、加工や商品化まで、サツマイモに関する見識を深め、わかりやすく伝えることに情熱をそそいでいます
食や農業とテクノロジー 0
Ⅰ フード&アグリテック 1
Ⅰフード&アグリテック フードテック・アグリテック これまでの講義でみてきたように、日本だけではなく世界中に様々な食と農の課題が 存在しています。 その解決法として、2020年代以降に普及が期待される食と農の最重要テーマが、フー ドテック・アグリテック分野です。 フードテック・アグリテックは「フード(食)」や「アグリ(農業)」にITやロボッ トなどの「テクノロジー」を掛け合わせた造語です。 その背景としては大きく5つあり、①農業の担い手不足を補完する省力化、②篤農家 の経験と勘の継承、③農業経営体の大規模化と担い手の多様化への対応、④将来的な 食料需給ひっ迫懸念の払拭、⑤SDGs達成、が期待されるからです。 フードテック・アグリテックは、1900年代のトラクターの開発と普及(第一次)、 1960年代の品種改良・化学肥料(第二次)に続いて、農業技術の革新を起こす第三次 農業革命の到来ともいわれています。 2
Ⅰフード&アグリテック アグリテックの領域 アグリテックの技術・ビジネス領域は次の4つに分類されます。 メイン領域 サブ領域 植物工場 次世代ファーム 説明 農業や水産業の新しい生産システム。 近年はセンサーやAIなどのデジタル技術を活 用し、効率化や省力化を進めている。 陸上・先端養殖 ドローン 農業ロボット 収穫ロボット ロボットトラクター 生産プラットフォーム 流通プラットフォーム 農業生産の効率化や省力化に寄与する新しい 農業機械。 ドローンは農薬・肥料散布や生育調査に使用 される。収穫ロボットは画像認識やロボット アームの技術を使って、主に青果物の自動収 穫を実施。ロボットトラクターは無人状態で の自動走行を目指している。 ー クラウド、センサー、ビックデータ、AIなど の技術を活用して、生産プロセスの効率化や 省力化をはかる。 ー オンライン上での消費者や実需者との直接販 売を可能とする取引プラットフォーム。近年 は卸売市場のデジタル化も。 3
Ⅱフード&アグリテック 食の未来 コンサルティング会社のシグマクシスがまとめた、世界中のフードにまつわるトレン ドや社会課題から導きだされた、私たち自身で目指すべき食の未来。深刻な社会課題 だけではなく、人々の生活の変化による「食の価値の再定義」が起こっています。 田中宏隆他『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』 日経BP 巻末付録 4
Ⅰフード&アグリテック 新型コロナとフードテック 新型コロナは「食」が抱えてきた社会課題を浮き彫りにし、新しい食生活への変化を 促しています。①医食同源、②料理のエンタメ化、③代替タンパク源、④フードロス 対策、⑤購買の非接触化に関する技術領域の関心が高まっています。 田中宏隆他『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』 日経BP 巻末付録 5
Ⅱ 日本のスマート農業 6
Ⅱ 日本のスマート農業 日本の農業の現状 – SWOT分析 日本の農業の現状をSWOT分析で整理してみます。 強み • ジャパンブランドプレゼンス 海外から「安心・安全で高品質」と認知されて いる。 • メイドバイジャパニーズ 日本人が作ったという事にプレミアム感がある。 弱み • イノベーター不足 補助金に守られており、農業生産者の9割以 上が競争意識(コスト含)がうすく、新しい事に 取り組む姿勢は無い。 • 農業知財不足 農業のノウハウはオープンにする事がリスクだと 思われている。 機会 • 農林水産物輸出額増加 年々、日本の農林水産物の輸出額は増えてお り、チャンスである。 • 農業経営体の法人化 農業生産法人が増加しており、1経営体あた りの単位面積も大きくなっている。 脅威 • 温暖化・天候不順 これまでと同じような栽培方法では品質が保て ない、栽培適地が変化している。収量や品質 のコントロールが難しくなる。 • 技術継承 「農業の匠の技術」は農業生産者の高齢化、 後継者不足により失われる危機にある。 7
Ⅱ 日本のスマート農業 スマート農業とは 農林水産省の定義によると、スマート農業とは「ロボット技術やICTを活用して超省 力・高品質生産を実現する新たな農業」とされています。 ロボットと聞くと、人間を模した人型ロボットを想像 するかもしれませんが、ここではトラクターの自動運 転やドローンによる農薬散布等から、工場などで動い ている産業ロボットの制御に用いられる技術までが含 まれています。 ICTの中には、センサーのIoT(=Internet of Things)化 や、AI(人工知能)を使ったデータ解析といった先端 技術だけではなく、インターネットを通じたデータ連 携やスマートフォンによる操作など、すでに日常生活 においては一般的になった技術も含まれています。 8
Ⅱ 日本のスマート農業 スマート農業が目指す将来像 1 超省力・大規模生産を実現 GPS自動走行システム等の導入による農業機械の夜間走行・複数走行・自動走 行等で、作業能力の限界を打破 2 作物の能力を最大限に発揮 センシング技術や過去のデータに基づくきめ細やかな栽培により(精密農業)、 作物のポテンシャルを最大限に引き出し、多収・高品質を実現 3 きつい作業、危険な作業から解放 収穫物の積み下ろしなどの重労働をアシストスーツで軽労化するほか、除草ロ ボットなどにより作業を自動化 4 誰もが取り組みやすい農業を実現 農業機械のアシスト装置により経験の浅いオペレーターでも高精度の作業が可 能となるほか、ノウハウをデータ化することで若者等が農家に続々とトライ 5 消費者・実需者に安心と信頼を提供 クラウドシステムにより、生産の詳しい情報を実需者や消費者にダイレクト につなげ、安心の信頼を届ける ※農業分野におけるデータの利活用より(平成28年12月9日 内閣官房) 9
Ⅱ 日本のスマート農業 農業の生産現場で利用されるITシステム 以下に、生産現場における課題とそれに対する提供されているITシステム、および期 待されている効果をまとめます。 課題 農作業の効率化 提供システム 効果 農作業・経営管理システム 最適な経営判断が 可能 作付や作業の計画と実績の管理 生産工程の 見える化 コスト・経営分析(シミュレーション) 人材育成 人材育成システム 栽培履歴の記録・工程管理(GAP) 農作物の 信頼性向上 人材の育成・ 能力の向上 篤農家の技の形式化 高品質・高収量の 安定化 生産現場での疑問・情報の共有化 収量・品質の 向上・安定化 生産・環境管理システム 収量や品質データの見える化 環境モニタリングや制御 施肥量や収穫時期の調整 ※農業分野における IT利活用ガイドブックより転載 10
Ⅱ 日本のスマート農業 サプライチェーンからみたデータ活用 次に農産物のサプライチェーンにおいて、各種データを活用したどのようなシステム が期待されているかを示します。 圃場センサー 匠の技DB 経営アドバイス 環境をモニタリングし、遠隔 地での確認、アラート通知 篤農家の作業を動画や数字で データ化し、マニュアルに 売上や費用から経営状態を診 断し、アドバイスを行う 育種 種苗調達 土づくり・ 播種・定植 育成 収穫 出荷 流通 販売 消費 自動運転ロボット 病害虫予測 収穫予測 無人トラクタ・ドローンによ る作業の自動化 農産物の状態チェックし、被 害が拡大するまでにアラート 収穫のタイミングや収穫量の 把握 11
Ⅱ 日本のスマート農業 大規模化とスマート農業 農業経営の大規模化は、個人の経験と勘による生産ではなく、組織として安定的な生 産が求められるようになります。そのためには、生産に関わる情報を収集しうまく活 用することが必要となります。また、人材の管理や育成が必要となります。 そのため、農業経営のサポートツールとして、スマート農業サービスが必要不可欠と なることが予想されますが、あくまでも生産者の頭(記憶・判断)、目(映像)、肌 (計測)、体/手足(労働力)の能力を補完するものに過ぎず、最終的な経営判断は 生産者自らが行う必要があります。 IT機器等を経営に利用しようと思わない理由 費用がかかるため どのような効果が 見込めるかわから ないため 1.2% その他 4.7% 5.5% 5.9% 忙しく時間的な 余裕がないため 40.4% 回答者数 265 人 (100.0%) 42.4% ITに関する知 識が少ないため 経営規模が小さく 必要がないため 12
Ⅱ 日本のスマート農業 スマート農業関連サービスの分類 すでに多くのスマート農業関連サービスが提供されています。 代表的なサービスを次の表にまとめてみます。 分類 内容 主な企業/サービス 栽培支援 主にスマートフォンを使った栽培管理、作業 管理などを行うサービス agri-note、Akisai、みどりノート、 農場物語等 販売支援 主に小売(EC)やマッチングサービスといっ たプラトフォームを提供する 食べチョク、ポケットマルシェ、オ イシックス等 経営支援 販売管理や会計管理サービスや、人材マッチ ングサービスなど Agrion、会計freee、人事労務freee、 あぐりナビ等 精密農業 センサーによる環境制御、水位計測、GPSによ る自動トラクタ運転など ㈱セラク、㈱クボタ、㈱笑農和、㈱ ベジタリア等 農業用ドローン 空中から光学的センサーによる生育や土壌や 水の状態把握、農薬散布などを行う ㈱オプティム、㈱ナイルワークスド ローン・ジャパン㈱等 農業用ロボット 収穫や除草などの作業を行うロボットを使っ て自動的に行う Inaho㈱、MY DONKEY等 その他 アシストスーツや鳥獣害対策、畜産関連の サービスが提供されている Eco-Pork、㈱ファームノート等 13
Ⅱ 日本のスマート農業 スマート農業市場の今後 株式会社矢野経済研究所によると「スマート農業」の国内市場規模は2017年度の約 129億円から、2018年度は約147億円、2024年には約387億円まで拡大。 栽培管理から精密農業、ドローン、ロボットへ、販売支援、経営支援といった経営改 善ソリューションの市場規模が拡大するとみられています。 14
Ⅱ 日本のスマート農業 スマート農業のこれから 日本のスマート農業には大きく「省力化」「人材育成」の二つの流れがあります。 アプローチの仕方は異なっていますが、いずれにせよ農業は短期的にも長期的にも気 候・環境の変化に影響されるため人間の関与は常に必要であり、一人当たりの生産性 を高めつつ、品質と収量の安定化・最大化に寄与するようなサービスを経営者が取捨 選択していくものと思われます。 省力化 補完関係 人材育成 農業用ロボット・ドローン 自動運転トラクタ 植物工場 経営の視点をもった ソリューションの導入 IoTセンサー 栽培管理・経営管理 販売支援 スマート農業を実現する 技術から人材育成へのシフト 15
Ⅱ 日本のスマート農業 スマート農業の主な取組み 前述の通り多くの取組みがありますが、以下の取組みについて紹介します。 スマートフォン等を利用 した作業・生育管理 農業機械の精密制 御・自動運転 各種センサを活用し た施設制御 生産者直販 16
Ⅱ 日本のスマート農業 スマートフォン等を利用した作業・生育管理 パソコンやスマートフォンによる作業実績・生育状況管理及びデータの集積・共有化 を実現する仕組みです。 データ蓄積 (クラウド環境) 《効果・メリット》 ・現場状況の即時把握、従業員による情報共有により、リスク回避、従業員教育に活用 ・農作業ノウハウの蓄積、従業員のコスト意識の向上 《課題》 ・農業生産者向けの操作性(ユーザーインターフェイス)の確立 ・モバイル機器の月額使用料、システム利用料によるコスト増 17
Ⅱ 日本のスマート農業 各種センサを活用した施設制御 センサー等を活用し、環境情報(気温、湿度等)を遠隔監視・自動制御します。 同時にデータ収集・分析を行い、生産者の判断をサポートします。 環境 センシング データ蓄積 (クラウド環境) 天窓自動 開閉など 《効果・メリット》 ・暗黙知や勘・経験の客観化による栽培管理の改善、リスク回避 ・後継者等への技術継承 ・収穫量増や病害虫の発生抑制 《課題》 ・環境制御装置の開発、費用対効果の改善 ・データ化された暗黙知の取扱い(提供者の権利保護) ・生育データの標準モデル化、データ解析が必要 18
Ⅱ 日本のスマート農業 施設制御等の実例 水管理 環境モニタ 19
Ⅱ 日本のスマート農業 農業機械の精密制御・自動運転 衛星・GPS技術等を活用し、ほ場情報(施肥、土壌、成熟度等)のマップ化による精密 で無駄のない農作業を実現する。収穫や人のサポートを自律的に行い省力化を実現し ます。 データ蓄積 (クラウド環境) 《効果・メリット》 ・労働力不足の解消 ・作業の効率化、肥料コストの抑制、作物の品質の均質化及び高付加価値化 《課題》 ・導入機器によるコスト増 20
Ⅱ 日本のスマート農業 精密制御・自動運転の実例 自動運転 ドローン © Smart Agri Consultants LLC. 21
Ⅱ 日本のスマート農業 精密制御・自動運転の実例 ロボット 22
Ⅱ 日本のスマート農業 生産者直販 生産者と消費者を繋ぐオンラインマルシェのプラットフォーム。消費者が、生産者と 農産物の種類や価格、配送方法等について指定して購入を行う。地域支援型農業 「Community Supported Agriculture(CSA)」の取組みの一種。 様々な生産者・農産物を掲載 生産者と消費者間の取引を仲介する オンラインマルシェ 直接取引 《効果・メリット》 ・生産者の所得向上、小規模な販売が可能 ・生産者と消費者のコミュニティの構築 《課題》 ・操作性 ・プラットフォーム側の収益性/サービス拡大 23
Ⅱ 日本のスマート農業 生産者直販実例 ポケットマルシェ 食べチョク 24
Ⅲ 本日のまとめ 25
Ⅲ 本日のまとめ 食や農業とテクノロジー ➢ 様々な食や農の課題に対する解決策として、フードテックや アグリテックへの期待が高まっている。 ➢ withコロナとして、食や農に関する既存システムの構造改革、 消費者マインドの変化が促進される面もある。 ➢ 日本では「スマート農業」として国(農林水産省)が推進 をしている。 ➢ 農業現場においては、「省力化」と「人材育成」が大きな テーマである。 26