【講義資料】持続可能な農業と食料安全保障

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January 06, 21

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大学講義資料「持続可能な農業と食料安全保障」

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サツマイモの無限の魅力と可能性を日々探求|サツマイモに関するTV・ラジオ出演、雑誌・新聞取材、専門誌寄稿の実績多数|サツマイモの歴史や栽培、品種、加工や商品化まで、サツマイモに関する見識を深め、わかりやすく伝えることに情熱をそそいでいます

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各ページのテキスト
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持続可能な農業と食料安全保障 0

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 1

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 SDGs 世界を変えるための17の目標 2015年9月、「国連持続可能な開発サミ ット」が開催され、150を超える首 脳が参加して、MDGsを受け継ぐ2030年までの新たな目標となる「持続可能 な開発目標(SDGs)」が採択されました。 17の目標と169のターゲットからなるSDGsは、ユニセフがSDGs採択前から 重視してきた公平性のアプローチ、“誰ひとり取り残さない”を掲げ、①ミレ ニアム開発目標(MDGs)で達成できなかった課題、②MDGsには含まれてい なかった課題、③新たに浮上してきた課題、を包括的に含んだ、先進国も途 上国も取り組むべき普遍的な目標です。 2

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 持続可能な農業と関連が高い目標 飢餓を終わらせ、食料安全保障および栄養改善を実現し、 持続可能な農業を促進する 持続可能な生産-消費の形態を確保する 陸域生態系の保護・回復・持続可能な利用の推進、森林の 持続可能な管理、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の 阻止・防止および生物多様性の損失の阻止を促進する 3

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 プラネタリー・バウンダリー 私たちの生活の前提条件は地球シス テムの維持です。 重要な地球システムの各機能が、どこ まで持ちこたえられるのか、人類が地球 システムで生存できる地球環境の「安 全限界」 機能が失われず、安全に活動できる範 囲内にとどまれば、人間社会は発展し、 繁栄できますが、その「限界」を超えれ ば、それは人間が依存している自然資 源を、自らの手で回復不可能な状況 に追いやっていることを示しています。 気候変動(CO2排出量)、窒素循環、 生物多様性の損失がすでに限界値を 超えていると言われています。 4

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 気候変動のリスク 気温が4度上昇した際の農業への影響 • 猛暑や洪水など異常気象による被害が 増加 • 大規模に氷床が消失し海面水位が上 昇し農地面積が減少 • 作物の生産高が地域的に減少する • 利用可能な水が減少し、干ばつが発生 する • 環境変化に伴う生産技術の損失 5

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 生物多様性の損失 現在、地球上の種の数は全体で3000万種と言われています。恐竜時代以降、1年間 に絶滅した種の数を比較すると、絶滅のスピードは時代とともに加速しており、現在では1 日に約100種となっていて、1年間に約4万種がこの地球上から姿が消えています。 現在もなおそのスピードは加速を続け、このままでは25~30年後には地球上の全生物 の4分の1が失われてしまう計算になっています。 6

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 チッソとリンの循環 窒素とリンは、生物地球化学的循環(Biogeochemical cycle)の阻害が発生して おり、地球環境中の蓄積バランスがとれていない状態にあります。 特に、窒素については、大規模な化学肥料の生産や農作物の栽培、化石燃料の燃焼 等といった人間活動により、環境中に過剰に蓄積されています。 窒素はその形態を変化させながら、土壌、地下水、河川等を経て海へと流出し、その過 程で湖沼や河川、海域の富栄養化、底層の貧酸素化、地下水の硝酸汚染を引き起こ しているほか、大気中に放出された窒素酸化物は酸性雨の原因となり、さらに地球温暖 化物質としても問題を引き起こしています。 また、窒素はプランクトンの栄養素でもあるため、水域に 過剰な窒素分が存在する(富栄養化が進む)と、プラ ンクトンの大量発生により毒性や腐臭などの水環境上の 問題を引き起こします(淡水のアオコ問題や海水での 赤潮問題)。さらに、プランクトンの大量発生は、水中 の酸素をも大量に消費することから、底層の貧酸素化を もたらし、底生生物等の斃死を誘発しています。 7

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 世界の食料需要 国連食糧農業機関(FAO)によれば、2050年の食料需要は1995年の2.25倍と大幅 増加します。 耕地面積の拡大には限界があり、また砂漠化の進行などの影響も考慮すれば、中長期 的には食料需給の不安定な局面が現れることが強く懸念されています。 報告書では現在の状況が完全に絶望的ではなく、工業的農法による公害と環境の悪 化を私たちが食い止め、魚の乱獲と地球温暖化に真剣に対処すれば良いと提言されて います。 8

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 持続可能な農業とは これからの世界が目指すべき農業として「持続可能な農業」が提言されていますが、国に より有機農業やアグロエコロジー(生態系を守るエコロジーの原則を農業に適用したも の)、環境保全型農業を軸にする等、展開の仕方は様々です。 日本の風土なり特質等を勘案すると、有機農業の普及が難しいと言わざるを得ないため、 特定の農法を対象に推進していくだけでなく、一定の要素を持つと同時に、一定の要件 を満たすものを「持続可能な農業」として包括し、日本農業全体として環境負荷の低減 をはかり、持続性を回復させていくものとしていくことが重要だと思われます。 持続可能な農業の基本三要素 1. 自然循環:土壌中の微生物が豊富で活性化し、生物を介在して物質が循環 2. 生物多様性:生態系・生物多様性が保全 3. 温室効果ガス排出抑制:炭素貯留効果の発揮をはじめとする温室効果ガス発生 を抑制 9

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Ⅰ SDGsと持続可能な農業 持続可能な農業を推進するにあたっての課題 • 持続可能な農業を明示し、法的見直しも含めて、本格的に取り組んでいく ためには、農業政策と環境政策の一体化が基本となる。 • 流通・消費の視点からの対応も不可欠。流通面での最大課題は流通の効率 化。地産地消を推進し、食料自給率を向上させていくことが重要。また食 生活の見直しも必要である。 • 消費者の理解促進と参画が不可欠であり、持続可能な農業の表示がそのカ ギを握る。消費者が持続可能な農業の農畜産物であることを容易に見て取 れるだけでなく、こうした農畜産物を購入・消費することによって地球温 暖化対策に自らも参画し実践していることが実感できるような仕組みとし ていくことが必要となる。(エシカル消費など) 10

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Ⅱ 食料安全保障 11

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Ⅱ 食料安全保障 食料安全保障とは 食料は人間の生命の維持に欠くことができないものであるだけでなく、健康で充実した生 活の基礎として重要なものです。全ての国民が、将来にわたって良質な食料を合理的な 価格で入手できるように日ごろから準備をしておくことが重要です。 そのため、「食料・農業・農村基本法」においては、国内の農業生産の増大を図ることを 基本とし、これと輸入及び備蓄を適切に組み合わせ、食料の安定的な供給を確保する こととしています。 食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)(抜粋) (食料の安定供給の確保) 第2条 食料は、人間の生命の維持に欠くことができないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なもの であることにかんがみ、将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない。 2 国民に対する食料の安定的な供給については、世界の食料の需給及び貿易が不安定な要素を有していることにかんが み、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせて行われなければならない。 4 国民が最低限度必要とする食料は、凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しく ひっ迫し、又はひっ迫するおそれがある場合においても、国民生活の安定及び国民経済の円滑な運営に著しい支障を生じ ないよう、供給の確保が図られなければならない。(不測時における食料安全保障) 第19条 国は、第2条第4項に規定する場合において、国民が最低限度必要とする食料の供給を確保するため必要が あると認めるときは、食料の増産、流通の制限その他必要な施策を講ずるものとする。 12

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Ⅱ 食料安全保障 食料の安定供給 食料の安定的な供給は、国内の農業生産の増大を図ることを基本としていま すが、加えて安定的な輸入と備蓄の活用を適切に組み合わせることにより確 保することが基本の考えです。 13

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Ⅱ 食料安全保障 食料自給率 自国で生産することは、輸送障害や他国との競合等のリスクが低く安定的な供給が期待 できることから、食料自給率・食料自給力の維持向上を目指すことが重要です。 食料自給率は、国内の食料供給に対する食料の国内生産の割合を示す指標です。 ニュースや国家間比較に用いられる自給率は、食料全体について計算している総合食 料自給率であり、熱量で換算するカロリーベースと金額で換算する生産額ベースの2種 類があります。 カロリーベース総合食料自給率 基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目して、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の 割合を示す指標です。 カロリーベース総合食料自給率(令和元年度) =1人1日当たり国産供給熱量(918kcal)/1人1日当たり供給熱量(2,426kcal) =38% 生産額ベース総合食料自給率 経済的価値に着目して、国民に供給される食料の生産額(食料の国内消費仕向額)に対する国内生産の割合を示す 指標です。 生産額ベース総合食料自給率(令和元年度) =食料の国内生産額(10.3兆円)/食料の国内消費仕向額(15.8兆円) =66% 14

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Ⅱ 食料安全保障 食料国産率 食料自給率のうち、畜産物については、輸入した飼料を使って国内で生産した分は、国 産として計算していません。日本の畜産業が輸入飼料に頼っている(75%が輸入)実 態に着目し、飼料が国産か輸入かにかかわらず、国内生産の状況を評価する指標として 食料国産率が作られました。(令和元年度より) カロリーベース食料国産率(令和元年度)=47% 生産額ベース食料国産率(令和元年度)=69% 15

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Ⅱ 食料安全保障 食料自給率の推移 海外依存度の高い小麦製品(パンや麺類など)、畜産物(肉類)や油脂類の消費 が増加したことから、長期的に低下傾向で推移しています。日本の食料自給率の低下に は 「食生活の変化」が大きな影響を与えています。 国は令和12年度までに、カロリーベース総合食料自給率を45%、生産額ベース総合食 料自給率を75%に高める目標を掲げています。 16

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Ⅱ 食料安全保障 世界の自給率 他の先進国に比べると、日本の食料自給率は最低の水準となっています。 ただし、日本も米は100%、野菜は79%を自給しており、全ての食料を輸入に依存して いる訳ではありません。また、自給率100%を超える国でも、全ての品目を国産でまかな えているわけではなく、日本と同じ様に一部の品目についてはほとんど輸入に頼っている ケースが多くなっています。 自給率100%を超える国は、農業輸出国として特定の品目の大量に生産しているケー スが多いです。 17

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Ⅱ 食料安全保障 輸入・備蓄について 食料の6割以上を輸入している状況から、作物の輸入を安定的に行えること、また、食 料供給の一時的な途絶などに対し、一定量の備蓄を行っておくことも重要です。 安定的な輸入の確保 海外からの輸入に依存している穀物等の安定供給を確保するために、輸入相手国との 良好な関係の維持・強化や関係情報の収集、流通基盤の強化等を通じて輸入の安定 化や多角化を図ることが重要となっています。 備蓄の適切な運用・家庭での備蓄 国は不測の事態の発生による供給途絶等に備えるため、食料等(コメや小麦、飼料) の備蓄を行っています。また、市区町村レベルでも地震等の大規模な災害の発生時に 備えた食料品の備蓄を行っています。 家庭においても、普段使いの食料品等の「買い置き」などにより、最低でも3日分、出来 れば一週間分程度の食料品の備蓄に取り組むことが望まれています。 18

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Ⅱ 食料安全保障 食料安全保障まとめ 日本の食料自給率(カロリーベース)が38%という数字は大きく取り上げられることも多 いですが、国産の割合が多い野菜は低カロリーなので、消費者の感じる実態と乖離して いることも事実です。(そのため、日本以外では生産額ベースの指標を優先することが多 い) 一方で、現在の日本人の食生活は欧米化しており、世界中で見られる異常気象や天 候不順、あるいは国際情勢など何らかの理由で、外国からの小麦や畜産物(肉類)や 油脂類の輸入が途絶えてしてしまった時、大きな影響を受けます。 また、爆発的な世界の人口増加により、地球規模での食料不足を懸念する声も上がっ ています。 日本は複数の国・地域と貿易をしているので、食料輸入の一部が途絶えたとしても完全 に途絶える可能性は相当低いですし、地球規模での食料不足も今すぐに起こるわけで はありませんが、皆さんが将来にわたって健康で充実した生活を送るためには、一人一人 が問題意識を持ち、取り組むこと必要です。 19

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Ⅱ 食料安全保障 食料自給率向上対策 食料自給率向上には様々な角度からの対策が必要ですが、これまでのグリーンインフラの 授業で出てきた話題を中心に紹介します。 農地面積の確保 日本は国土面積の約7割を森林が占め、農地として利用できる面積が 限られていることから、諸外国より1人当たり農地面積が小さい。そ のため、限られた農地を確保するためにも、耕作放棄地を増やさない、 再利用するという取組みが必要です。 農業生産力の向上 新規就農支援制度の充実、農業法人の増加促進など、農業生産人材確 保への取り組みが必要です。また、少ない人員でも生産量を増やせる ように従来の農作業を省力化&効率化していく取り組みも必要です。 フードマイレージ 作物は生育環境(土地の気候・地形等)に適した場合に、もっとも収 量が多く、栄養価も高くなることが多い。また生鮮野菜は鮮度も美味 しさ・栄養価に大きく作用する。できる限り近場で採れた食料を食べ ることが、食料自給率を上げることにもつながります。 フードロス対策 スーパーなどで売られている総菜、外食チェーンなどで利用されてい る食材は輸入に頼っていることが多く、食べ残しや廃棄商品を減らす 努力をすることで、余分な食料輸入を減らすことができます。また、 食料を海外に頼っているのに大量に食品を廃棄しているという矛盾を 解消できる。 20

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Ⅲ 本日のまとめ 21

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Ⅲ 本日のまとめ SDGsと持続可能な農業 ➢ SDGsとは「持続可能な開発目標」であり、目標達成には 単純にこれまでの農業のやり方を続けるのではなく、持続可 能な農業を考える必要がある ➢ 地球環境の「安全限界」は、気候変動(CO2排出量)、窒 素循環、生物多様性の損失がすでに限界値を超えている。 ➢ 「持続可能な農業」は国により展開の仕方は考える必要が あるが、自然循環、生物多様性、環境変動への対応は必 須条件である。 22

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Ⅲ 本日のまとめ 食料安全保障 ➢ 食料安全保障は国内の農業生産の増大を図ることが基本 だが、安定的な輸入と備蓄の活用も考慮している。 ➢ 日本の食料自給率の低下には 「食生活の変化」が大きな 影響を与えている。 ➢ 海外からの輸入に依存しているため、他国との良好な関係 の維持・強化も重要な要素である(外交) ➢ グリーンインフラの授業で学んできたことが、食料自給率向 上対策としても活用できる。 ➢ 持続可能な農業、食料自給率向上には、消費者の理 解促進と参画が必要不可欠である。(つまり、皆さ んのこれからにもかかっている) 23