>100 Views
July 29, 21
スライド概要
サツマイモ基腐病対策研修会 in 川越 「サツマイモ基腐病とその対策について」
2021/7/29開催
サツマイモの無限の魅力と可能性を日々探求|サツマイモに関するTV・ラジオ出演、雑誌・新聞取材、専門誌寄稿の実績多数|サツマイモの歴史や栽培、品種、加工や商品化まで、サツマイモに関する見識を深め、わかりやすく伝えることに情熱をそそいでいます
© Sweet Potato Company Inc. サツマイモ基腐病対策研修会 in 川越 サツマイモ基腐病とその対策について 2021年7月29日 18:00~@ウエスタ川越会議室 さつまいもカンパニー株式会社 代表取締役 橋本 亜友樹 1
© Sweet Potato Company Inc. 自己紹介 橋本亜友樹(はしもとあゆき) 1978年1月21日、兵庫県尼崎市生まれ。千葉県柏市在住。 【学歴】 2000年 神戸大学農学部 植物資源学科卒業 2002年 神戸大学大学院自然科学研究科 植物資源学修了 2015年 グロービス経営大学院大学 経営学修了(MBA取得) 【職歴】 2002年に日本ヒューレット・パッカード株式会社に入社、シ ステムエンジニアとしてクレジットカード等のシステム開発 を担当。 2008年にアビームコンサルティング株式会社に転職し、ITコ ンサルタントとして、オートリース会社のシステム統合、シ ステムの運用保守、業務改善を担当。 2012年6月、農業×ITを行う株式会社エーブリッジを設立し、 独立。その後、2015年8月にさつまいもカンパニー株式会社、 2019年8月に一般社団法人さつまいもアンバサダー協会を設立 し、代表に就任。 他、日本いも類研究会事務局長補佐、サツマイモまんが資料 館副館長を務める。 2
© Sweet Potato Company Inc. さつまいも生産のスマート化 さつまいも生産に対するスマート農業一貫体系の導入による 「超省力化・規模拡大」と「単収増加・高品質化」の実証 ・農業高校生の見学 ・農業高校生への講演 ・カリキュラムの提供 スマート育苗体系 苗床造成機→穴開け機→種いも伏せ込み →育苗の作業時間を20%削減 →疲労軽減、機械化による深刻な人手不足の解消、コスト 削減 →新品種「こないしん」も生産する データの蓄積と 分析 ドローンによる空撮・防除 →空撮画像を取得(基腐病等) →防除の作業時間を50%削減 →シェアリングを実施 (→ローカル5Gで接続を検討) 営農情報(経営情報・生産管理工程等)入力 →JGAP取得可能レベルの「安全性」「環境保全」 →経営資源の効率化(農地中間管理事業の活用等を含む) →熟練者の勘と経験を データ化 →防除適期等を見極め、 「単収増加・高品質化」 を実現 →さつまいも栽培 マニュアルを作成し、 全国へ普及させる スマート植付体系 耕運・整地→施肥・施薬・畝立→マルチ→採苗・植付→かん水 →耕運・整地~採苗・植付・かん水の作業時間を45%削減 →GPS情報の正確な速度を利用して散布ムラなく自動調整 →自走式・自動停止機構付きなので、散水の労力が大幅に削減 →疲労軽減、機械化による深刻な人手不足の解消、コスト削減 →シェアリングを実施 環境計測情報(温度、湿度、照度、地温、土壌水分、静止 画、動画、交換性加里、交換性石灰、等)の取得 →WEBカメラにより、見回り時間を50%削減、「安全性」向上 →疲労軽減、機械化による深刻な人手不足の解消、コスト削減 (→ローカル5Gで接続を検討) 農業データ連携基盤(WAGRI)の利用 目標 目標! スマート農業一貫体系の導入により 20%の省力化と10%の単収増加 3
© Sweet Potato Company Inc. AGENDA 1. サツマイモ基腐病とは 2. サツマイモ基腐病の特徴 3. サツマイモ基腐病の伝染経路と防除対策 4. 一次伝染防除対策 5. 二次伝染防除対策 6. その他の基腐病対策 7. 土壌病害防除の基本戦略 8. サツマイモの病害 4
© Sweet Potato Company Inc. サツマイモ基腐病とは • サツマイモ基腐病は糸状菌(Diaporthe destruens、旧名Plenodomus destruens)によって引き起こされ、ヒルガオ科のみ(主にサツマイモ)に寄 生する。 • 約100年前にアメリカで発見され、南北アメリカやアフリカ、ニュージーラン ドなどで被害が知られていたが、この10年の間にアジア地域(中国・台湾・ 韓国)でも被害が発生するようになった。 • 2018年11月に沖縄県にて日本で初めて発生が確認され、同年に鹿児島、宮崎 でも確認された。その後、福岡、長崎、熊本といった九州地域に拡大。さら に、高知、岐阜、静岡、群馬、千葉、茨城と九州以外の地域でも徐々に拡が りが確認されている。 • 生育温度は15~35℃(適温28~30℃)。病原菌は、茎や葉といった収穫残渣 の中に残存しており、残渣を栄養源として翌年まで生存し続けている。 5
© Sweet Potato Company Inc. サツマイモ基腐病の特徴 1. 苗の地際部分の茎が黒変する病徴から始まり、次第に地上部の茎葉、地中 の塊根へと進展し、やがて地上部が枯死するようになり、塊根の腐敗にも つながる。腐敗部はカビの臭いがし、この腐敗した表面を拡大すると、糸 状菌が作り出す黒い粒々が観察される。 2. 二次伝染力が強い。水に混じって感染するので、台風や降雨後に圃場内に 水が停滞すると胞子が大量に拡散され感染が拡がる。また、いも同士の接 触でも感染が広がるため、外観で病徴が確認できなくても病原菌に感染し ていれば、貯蔵中に他の出荷用いもや種いもにも感染する。 2020/8 鹿児島の視察先にて撮影 「JAcom 県内で初めてサツマイモ基腐病を確認 静岡県(2020/12/24)」より引用 https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2020/12/201224-48522.php 6
© Sweet Potato Company Inc. サツマイモ基腐病の伝染経路と防除対策 基本方針は「持ち込まない」「増やさない」「残さない」の3点。 サツマイモ栽培のすべての場面での対策が必要で、手を抜いてはいけない。 一次伝染 対策 ➢ 病原菌に感染した種いも・苗による「苗伝染」 健全苗の確保 ➢ 本圃での発病残渣による「土壌伝染」 圃場の菌密度抑制 二次伝染 ➢ 発病茎葉の接触による「接触伝染」 発病株の除去・拡散防止 ➢ 雨水等の停滞による「胞子伝染」 圃場の排水性の改善 被害拡大・蔓延 7
© Sweet Potato Company Inc. 一次伝染防除対策 健全苗の確保 健全種いもの確保・選別・消毒 • • 病気が発生していない圃場から採取した種いもを使用する。 病害や傷のある種いもは取り除き、伏せ込む前に消毒する。 健全な育苗圃場の確保 • • 殺菌効果のある薬剤で土壌消毒を行う。 育苗終了後は、できるかぎり残渣は持ち出し、耕耘を徹底する。 育苗中の発病種いもの除去 • 育苗中に発病した株は、直ちに種いもごと抜き取り、圃場外に 持ち出して処分する。 育苗方法と苗消毒 • 採苗用のハサミや苗の消毒は必ず採苗当日に行い、消毒液は使 用日ごとに毎回調整する。 前作残渣の除去・分解促進 • • 収穫後の残渣は可能な限り圃場外に持ち出す。 次作までに複数回耕耘し、残渣の分解を促進する。 土壌消毒 • 殺菌効果のある薬剤で、地温15℃以上の時期に土壌消毒を行う。 残渣が残っていると効果が低くなる。 • 他作物の作付を行い、圃場内の菌密度を低下させる。飼料作 物・緑肥・麦・露地野菜(根菜やトウモロコシ)等。 (被害が大きい場合は、2年程度サツマイモは植えない) 圃場の菌密度抑制 輪作 8
© Sweet Potato Company Inc. 二次伝染防除対策 発病株の除去・拡散防止 生育初期の発病株除去 • 伝染源となる初期の発病株は早急に抜き取り、圃場外へ持ち出 す。 薬剤による防除 • • 銅剤2種類とアミスター20が茎葉散布剤として登録されている。 どちらも二次感染防止には有効なため、発病株を除去した後に、 薬剤を複数回散布すると効果的である。 銅剤(ジーファイン水和剤、Zボルドー水和剤)は、 胞子が作物内に侵入するのを防ぐ効果のみ。 • アミスター20は、胞子が作物内侵入初期までに高い効 果がある。発病が人間の目で認識出来る段階は、進行 具合としてはかなり後期の段階。そのため、苗消毒の 効果が切れてくる定植5週目ごろを目安に、発病株の 抜き取りと並行してアミスター20を1回散布する。 • 圃場の菌密度抑制 ➢ 発病の多い地域では、圃場周囲の排水路が埋没している場合が多いため、栽培前に土砂などの除去 を行い、圃場外への排水性を確保する。 ➢ 圃場内では、圃場を均平化した後で、明渠やまくら畝の途中を切る等、排水溝を設置し、圃場外へ の排水を促す。 ➢ 圃場が圃場周囲よりも低く、圃場外に排水できない場合は、プラソイラなどによる耕盤破砕を徹底 し、表面水の地下への浸透を促す。 9
© Sweet Potato Company Inc. その他の基腐病対策 ウィルスフリー苗の利用 関東地域での発生例は、すべて他県種苗会社から購入した苗が原因となっている。 苗購入元の種いもや育苗床が汚染されていないことが確認できない状況では、ウィルスフリーとして 販売されている苗を優先的に選ぶことが推奨される。 抵抗性品種の活用 基腐病抵抗性には品種間の差がある。 鹿児島県の被害発生状況をみると、べにはるか・高系14号・コガネセンガンといった青果・焼酎用品 種の被害が大きく、シロユタカ・こないしんといったでん粉用品種の被害は少ない。 抵抗性の強い品種でも、植付4か月後以降に発病率が高まるため、発病前に予防的防除をするほうが 良い。 自然の発病抑止力の活用 基腐病のような土壌病害を抑止するためには、病原菌菌密度を下げることが重要。多種多様な微生物 (特に有用・日和見菌)がいることにより微生物が拮抗し合い、病原菌の増加を抑止することができ る。また、微生物が作物の抵抗性を誘導することもあり、菌根菌や病原性の無い、もしくは弱い病原 菌が根に侵入・定着していると、病原菌の侵入や感染が阻止される場合※がある。 鹿児島県においても、有機的農法を取り入れている圃場では、被害が少ないという話があり、中長期 的な視点では、有機質施用による土づくりが有効な対策だと言える。 ※)非病原性のフザリウム菌をサツマイモに接種することでサツマイモ蔓割れ病を防除することができる。 10
© Sweet Potato Company Inc. 土壌病害防除の基本戦略 土壌伝染性の病気は、作物を支え育てるべき土壌が感染源であるため、作物生産にとっては致命的で す。土壌病害防除の基本は、病気の発生源である病原菌を除去すること、自然生態系のもつ自然発病 抑止能力を活かすことができる環境づくりです。重要なポイントを6つ挙げます。 ①計画性 発生してからでは治療の方法がない。作物を作付けする前に、すべての対策を講じて防除計画を立てる必要がある。 ②病原菌を持ち込まない 土壌病害は病原菌が畑に蓄積するところに恐ろしさがあり、一度入り込むと病原菌をゼロにすることは不可能。病原 菌をそもそも持ち込まないための対策が重要である。 ③早期発見と素早い対応 土壌病害は発生後に連作によって汚染程度が高くなり、それにつられて防除手段の効力は著しく低下する。発生後の 対応は早いほど効果があるので、定期的に圃場を見回り、病気を発見した際には、病気の診断を行い、適切な防除策 を実施する。 ④土壌環境づくり 化学性・物理性・生物性の要因が複雑に絡み合うため、これらを利用した病気の発生しにくい環境づくりが重要であ る。また病気に抵抗できるような丈夫な作物を育てる肥培管理も大切である。 ⑤輪作が決め手 土壌病害防除の基本は輪作である。輪作を基本とした対策を練ることによって、他の防除手段も活きてくる。 ⑥地域ぐるみの取組み 病気の蔓延は地域的に起こるので、一戸の生産者ではなく、地域的な防除対策が必要である。 11
© Sweet Potato Company Inc. サツマイモの病害 サツマイモの栽培中や貯蔵中に発生する代表的な病害を一覧にした。 基腐病と同じく糸状菌が病原である病気が多く、つる割れ病・黒斑病対策をすることが、そのまま基 腐病対策にもつながると想定されます。 病名 病原 被害 防除 斑紋モザイク病 サツマイモ斑紋モ ザイクウイルス (普通系統) 葉は葉脈間に淡黄色の小さな斑紋が生じ、やがて斑紋 の周囲は紫色を帯びる。塊根は表皮が色あせ(退色)し たり、さめ肌となる。 • アブラムシ防除 • ウイルスフリー苗 を利用 帯状粗皮病 サツマイモ斑紋モ ザイクウイルス (強毒系統) 葉の病徴は、斑紋モザイク病と同様。塊根は表面に細 かなひび割れが横縞状に生じ、重症になると表面全体 が帯状のざらざらしたひびで覆われる。 • アブラムシ防除 • ウイルスフリー苗 を利用 立枯病 放線菌 葉が黄化あるいは紫褐色化し、著しく生育不良となる。 • 土壌の酸性化 激発すると定植後1か月程度でほとんどの株が枯死す • 土壌消毒 る。発病株の地下茎は黒変、細根は脱落する。 つる割病 糸状菌 苗床で発生した場合には、萌芽した新芽は下葉から黄 化して萎れ、落葉する。畑に定植後に発生すると、地 際部の茎が縦に大きく裂け枯死する。 • 土壌消毒 • 採苗道具の消毒 黒斑病 糸状菌 苗床や畑で苗、茎、塊根にも発生するが、特に貯蔵中 の塊根に発病すると被害が大きい。塊根に直径2~3㎝ の黒色の病斑を生じる。症状が進むと病斑は融合し、 腐敗は塊根の内部に進展し、病斑部がくぼむ。 • 種いも消毒(温湯 消毒・薬剤消毒) • キュアリング処理 軟腐病 糸状菌 塊根が暗褐色で水浸状になり、のちに軟化・腐敗する。 • キュアリング処理 多湿条件下で表面に白色のくもの巣様の菌糸が密生す る。腐敗した塊根はアルコール発酵臭を放つ。 12
© Sweet Potato Company Inc. まとめ • サツマイモ基腐病に特効薬はなく、基本技術の徹底が重要。「持ち込まない、 増やさない、残さない」ための施策を面倒くさらずに行う。 • 埼玉県ではサツマイモ基腐病はまだ見つかっていない。そのためいまは「持 ち込まない」を徹底する。 →信頼おける種苗会社から購入する、ウィルスフリー苗を利用する、苗や種 いもの消毒を行う。 • 未然に防ぐために、常日頃から土壌環境づくりを行っておく。 →圃場の排水対策、堆肥等の有機物を施用する。 →基腐病に関係なく、高品質なサツマイモ生産にもつながる。 • 生育が少しでもおかしいと思ったら株元を見る。怪しい株を発見したら抜き 取り、圃場外に持ち出して保管する。農林振興センターに連絡して検査して もらう。 13