ゲームデザイン概論 「第32章」

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April 21, 25

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Game Jammer working at Yasuda Women's University since April 2025. IGDA Japan board member, HEVGA individual member. 2025年より安田女子大学に移りました.

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各ページのテキスト
1.

Introduction to Game Design 第32章 ゲームはプレイヤーを変える 講師: 山根信二 Creative Commons Attribution 4.0 International license Creative Commons Attribution 4.0 International license .

2.

今回の内容 • 前回までの内容 • クライアント・ピッチ・収益 • 社会に出たときに役立つスキル • これからの内容 • Ch.32 Games Transform Their Players • Ch.33 Designers Have Certain Responsibilities • Ch.34 Each Designer has a Motivation • 収益は大事だが、収益が全てではない • ゲームデザインの締めくくり 1

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第32章 ゲームはプレイヤーを変える • 本章の構成: • §32.1 ゲームは人をどのように変えるのか? • §32.2 ゲームはよい影響を与えるのか? • §32.3 変容をもたらすゲーム • §32.4 ゲームは害をもたらすか? • §32.5 体験について 2

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§32.1 ゲームは人を変えるのか? • 終わらないゲーム論争 • ゲームの影響はどうでもいい問題ではない • ゲームは私たちを変える • よい方向にも,悪い方向にも. • そして個人だけでなく社会をも変える力がある. 「いい影響もわるい影響もある」という論争から, 「ゲームで社会をどう変えていきたいのか」という 問いへ 3

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§32.2 ゲームはよい影響を与えるか(1) • ゲームから得られる望ましい効果 • 感情のメンテナンス • 怒りやイライラを鎮める,元気を出す,新しい視点を得る, 自信を回復させる,リラックス効果 • つながり • 運動(エクササイズ) • 教育・学習 • 教育はゲーム • 教育でゲームを活用できない理由: 時間制限,一斉授業方 式,世代の壁,技術的困難 4

6.

§32.2 ゲームはよい影響を与えるか(2) • ゲームが効果的な分野は何か • 脳機能の活性化 たとえば, • 目に見える進捗 • 抽象的なものを具体化してみせる • 五感を使って脳全体を活動させる • 目標が次から次へと現れる 5

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ゲームで学べること (1) • Facts / ドリル式の練習問題 • Problem Solving / 課題解決 さらに, • 複雑な関係にとりくむ • 禅(Zen)の公案 • 『無門関』その40「水瓶を倒す」 • 知識の説明だけでは,実践につながらない • 実践するということは説明よりも高度なこと • 複雑な関係にとりくむにはどうすればよいか? 6

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ゲームで学べること (2) • 複雑な関係性を認識するということ • ミラーの学習ピラミッド(図32-2) • 言葉で説明できるだけでは高度な認識とは言えない • 複雑な概念は言葉では説明困難 • ゲームは複雑なモデルを操作できる • 読書体験とシミュレーション体験の違いとは? • ゲームでは失敗が許される.失敗から学べる. 7

9.

例: 学生作品『PeaceMaker』の衝撃 • イスラエルとパレスチナの紛争問題 • イスラエルの情報機関の軍人が退職して,アメリカの カーネギーメロン大学に留学.はじめてパレスチナ人の 学生に出会う。 • 大学院の課題で制作したのがPeaceMaker http://www.peacemakergame.com • 社会問題を「解説」するのではなく「敵の立場にな る」 • イスラエルの国会議事堂で議員にプレイテスト(追加資 料参照) 8

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ゲームで学べること (続) • 新たな認識を獲得する • 例: 映画『恋はデジャ・ブ』 (原題 Groundhog Day) • 「ループもの」の元祖 • マンガ・アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』ラスボス,ラノ ベ・映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』にも • ループする世界で変えられるのは自分の行動だけ • スキルが上達しただけでなく以前とは違う人間になった • シミュレーションは失敗を繰り返して攻略法を学べる. それだけでなく,世界や生き方について新たな認識 (明察,覚悟)に到達できるのではないか 9

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ゲームで学べること (完) • 好奇心 • 進歩が早い世界では,好奇心が弱い者はとりのこされる • 21世紀の教育システムは好奇心を育む遊びに近づいていく • 教えやすい状態を作り出す • 知識を獲得して使いこなし,さらに将来使えるように定着 させること • 有能な教師のように,解決すべき課題を明示する 10

12.

§32.3プレイヤーを変えるゲーム • エンタテインメントだけではないゲーム • 「シリアスゲーム」という呼び名もある • だがその呼び名だと,プレイする時に「このゲームはシリ アスだ」という予想のためにエンタテインメントに没頭で きなくなる • そこで本教科書ではその名称は使わない • “Transformational Games” • 「変化型ゲーム」と訳すと意味不明になる • 「プレイヤーを変えるゲーム」 • 変容を起こすゲーム(教育工学用語) 11

13.

プレイヤーを変えるゲームの7つのヒント 1. 変容を定義せよ Define Your Transformation 2. 専門家を探せ Find Great Subject Matter Experts 3. 教師が求めるものは何か? What Does the Instructor Need? 4. 多くをやりすぎるな Don’t Do Too Much 5. 変容を適切に評価せよ Assess Transformation Appropriately 6. 適切なプレイ環境を選べ Choose the Right Venue 7. マーケットの現実をうけいれろ Accept the Realities of the Market 12

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§32.4 ゲームは害をもたらすか? •親世代の不安 •自分たちが子供の頃になかったものに 子供が夢中になる •子供たちを指導できない不安 •親が特に心配する2項目 •「暴力」と「依存症」 13

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§32.4.1 暴力 Violence • 母親を対象にした『バーチャファイター』(セガ)と他の 格闘ゲームとの評価の違い • 暴力を超えた表現 『バーチャファイター』って、技の掛け方にしても、格闘ゲームと いうよりも格闘シミュレーターなんですよね。派手で奇妙な技で勝 つというのではなく、それこそ武道をやっているような感覚。強い プレイヤーは本当に尊敬されていたし、そんな感じでみんな遊んで いたんじゃないですかね 浜村 弘一 (20周年を迎えた『バーチャファイター』へのメッ セージ) 14

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§32.4.1 暴力 Violence (続) • デスレース(1976)の社会問題化 • プレイ動画 https://www.youtube.com/watch ?v=aBBtt72aJLA 15

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§32.4.1 暴力 Violence (続) • デスレース(1976)がパニックを起こした理由 • 「これは人間じゃないから殺人ではない!」では社会的理 解を得られない • 第5章(4大要素分析)でのインベーダーゲーム(1978)と の比較 • もしもタイトーが人間の兵士を撃つストーリーを変更し なかったらデスレースと同じパニックを招いたかも • VR版『パイレーツオブカリビアン』プレイテスト • コロンバイン高校銃乱射事件の直後のユーザ反応 • 大砲を撃つのは大丈夫だった (第18章, p.441) 16

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暴力的なゲームの悪影響はあるのか? • 流血に動揺しない人間になってしまう! • 医師や警察官と同じだよね? • プレイヤーはゲームと現実の区別がつかなくなるのか? • 暴力行為を楽しんでいるのではなく、そのビジュアルの背後にあ るゲームメカニクスに没入し,問題解決を楽しんでいるのでは • でも子供への影響が… • 暴力的な遊びも心の発達には必要 • 子供の年齢ごとにゲームを選ぶ「レーティング」の仕組み • 「ゲームの悪影響は存在しない」という態度は傲慢であり無 責任 17

19.

§32.4.2 依存症 Addiction • 人々が恐れているのはゲームをやめられないこと • 生活に悪影響が出るほどゲームを遊んでしまう人もいる • 歴史的には目新しいものではない • ニック・イー(Nick Yee)のネトゲ廃人研究 • http://www.nickyee.com/hub/addiction/ • 医者が診断する「依存症」ではなく「問題のある使い方」 problematic usage • 複雑で,現実世界での問題が原因になっている場合もある • 万能の治療薬もない 18

20.

ゲームデザイナは依存に対して何 ができるか • 「ゲームデザイナが魅力的すぎるゲームを作るから依存 が起きるんだ!」 • 過食症の原因はケーキ屋のせいなのか? • しかし,ゲームを使ってどんなプレイ体験を生み出すか はゲームデザイナの責任 • 「依存症は存在しない」「ゲーム開発者に責任はない」 と振る舞ってはいけない • ゲームをふくめてバランスのとれた人生を送りましょう, そんな社会的発言をできるゲームデザイナはいるのか? 19

21.

ゲームデザイナは依存に対して何ができる か(続く) • 宮本茂「晴れた日には外で 遊ぼう」リスペクト • 宮本茂はゲームだけやって いる開発者をほめない 20

22.

§32.5 体験 Experiences • ディズニー Toontown Online でのプレイヤーチャット • 大人が子供向けゲームで人格が変わったと自己申告 • ゲームは人類をより良く変えていく可能性を持ってい る • でもビジネスの現場でも、そう言えるのか?→次章 21

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レンズ#110: 変容(トランスフォーメーション) の レンズをてにいれた! • ゲームは体験を生み出し,体験は人々を変容させる • How can my game change players for the better? 「どうすれば私のゲームでプレイヤーをよりよく変え ることができるだろうか?」 • How can my game change players for the worse? 「どうすれば私のゲームでプレイヤーを悪い方へ変え ることができるだろうか?」 22

24.

参考文献補足 • ジェイン・マクゴニガル Reality is Broken ,『幸せな未来は 「ゲーム」が創る』(邦訳2011) • 著者による字幕付き講演としては、以下のものがある。 • ジェイン・マクゴニガル「ゲームが世界を救う」(TED2010) • ジェイン・マクゴニガル「ゲームで10年長生きしましょう」 (TEDGlobal 2012) • 本教科書出版後のジェシー・シェル自身の講演は、 • Global Game Jam G4C会場基調講演(2013) YouTube動画5分! • The Secret Process for Making Games that Matter(2017) YouTube動画15分、スライド 23

25.

補足資料:シミュレーションゲーム 「PeaceMaker」(p.682, 687) • イスラエル軍の諜報士官が退役後に留学先の大学院で(本教 科書の著者たちに)ゲーム開発を学び、課題として学生チー ムで開発したゲーム. • PeaceMakerは日本のニュース番組でも報道され,作者はさ らに新しいゲームイベント「Games for Change」を立ち上 げる.この流れについては以下の解説記事を参照: ゲーム ズ・フォー・チェンジ・フェスティバル解説記事(2020年7月 13日) 24

26.

補足資料:依存症について(教科書§32.4.2) • ゲームの悪影響論は,この教科書が出た後に専門家による国 際的な議論が深まった.なので最近の研究論文を示していな い解説には注意する必要がある. • 「依存について: シュビルスキー教授に「ゲーム障害」説に ついて一問一答(4)」 https://youtu.be/49Gy8q2MO5w • セリア・ホデント『はじめて学ぶ ビデオゲームの心理学: 脳 のはたらきとユーザー体験(UX)』(2022/12) • 日本語解説つき.ダークパターンなど今後の課題についても触 れている. • 国際論争については『ゲーム障害再考 嗜癖か、発達障害か、 それとも大人のいらだちか』 (2023)にまとめ記事あり 25