ゲームデザイン概論 「第8章」

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April 21, 25

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Game Jammer working at Yasuda Women's University since April 2025. IGDA Japan board member, HEVGA individual member. 2025年より安田女子大学に移りました.

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各ページのテキスト
1.

Introduction to Game Design 第8章 ゲームはイテレーションで向上する 講師: 山根信二 Creative Commons Attribution 4.0 International license Creative Commons Attribution 4.0 International license .

2.

今回の内容 •ゲームデザインは意思決定である →多くの意思決定を行うにはどうすればよい? •ゲーム開発はテストの繰り返し →ゲームを生き物のように成長させ続けるには? •今回は,以下の分野についても学びます. • プロジェクトマネジメント • ソフトウェア工学 1

3.

§8.1 アイデアの選定 • アイデアのリストができた! でも… • アイデアが最高のものかどうかはわからない • 自分のアイデアに即座にダメ出しできない • アイデアをテストする方法さえ持っていれば, 悩まずにアイデアを検討できる! • 教科書に出てくるレンズをテストに使う 2

4.

§8.1 8つのフィルターでテストする(1) • フィルタ1:直感 (Artistic impulse) 「このゲームは、しっくりくるか?」 • フィルタ2:ターゲット (Demographics) 「ターゲットユーザーは、このゲームをちゃんと気に 入るか?」(第9章) • フィルタ3:体験 (Experience design) 「このゲームは適切にデザインされているか?」 • フィルタ4:革新性 (Innovation) 「このゲームは、十分に革新的と言えるか?」 3

5.

§8.1 8つのフィルターでテストする(2) • フィルタ5:ビジネス&マーケティング 「このゲームは利益を生み出すか ?」 (第31章) • フィルタ6:技術 (Engineering) 「このゲームは技術的に開発可能か?」(第28章) • フィルタ7:ソーシャル&コミュニティ 「このゲームはソーシャル&コミュニティの目標を達 成できるか?」 (第23, 24章) • フィルタ8:プレイテスト 「プレイテストは好評だったか?」(第27章) 4

6.

レンズ#15: 8つのフィルタのレンズ を てにいれた! • デザインはいつ「完成した」と言えるのか? • フィルタを決めておけば,すべてのフィルタを通過したとき にだけ、あなたのデザインが「完成した」と言える • (略) • デザインの過程でフィルタを変更する場合もある (例えば,もっと適切なユーザー層に気づいたとき) • 状況によっては、フィルタが増えることもある (例えば,教育用ゲーム,非商用ゲーム) 5

7.

§8.3 繰り返しの法則 The Rule of the Loop • シンプルなゲームならば.アイデアをもとにすぐにつ くれる。だが、何ヶ月もかかりそうな場合は? • ゲームデザインのプロセスはテストの繰り返し • 8つのフィルタをパスさせるのは、ループをくり返す第一 歩にすぎなかった • テストを繰り返して、いつデザインが終わるのか? • ソフトウェア開発の中でも,ゲーム開発はさらにリス クが高い.その理由は? 6

8.

§8.3 繰り返しの法則 The Rule of the Loop (続) • ゲームが8つのフィルタ全部に合格するまでにテスト を何回繰り返すのか,正確に見通すことは不可能 • ループのルール(法則) p.130 とは, 「テストして改良すればするほどデザインはよくな る」 • このループの法則は真理であり、逃れられない (選んで使えるレンズとは違う) • ループの問題1: ループをどうやって見積もるのか? • ループの問題2: どうすれば速くループを回せるのか? 7

9.

§8.4 ソフトウェア工学のおはなし • 数ページで学ぶ1960年代-2000年代のソフトウェア工学 • いわゆる「ウォーターフォール」モデル • いいところ: いきなりプログラミングをはじめずに,じっくり設計できる • 問題点: ループの法則に逆らっている • 元論文の著者自身も「いわゆるウォーターフォールモデル」に異議 を唱えていた 8

10.

いわゆる「ウォーターフォール」 • 図8-2 9

11.

バリー・ビーム によるスパイラ ルモデル • 図8-3 10

12.

スパイラルモデルのソフトウェア開発 • 複雑だが、手短に言えば: 1. 2. 3. 4. 5. 基礎的なデザインからはじめる あなたのデザインの最大のリスクを明らかにする それらのリスクを軽減するプロトタイプをつくる プロトタイプをテストする 得られた知見をもとにさらに詳細なデザインにとり かかる 6. ステップ2に戻る • これはループの法則に逆らっていないだろうか? 11

13.

ループの法則に適合させる • 「ループの法則」をスパイラルモデルでやってみる • ループの問題1: ループをどうやって見積もるのか? • →リスクを事前に評価し、それらを軽減していく。リスク の数だけテストするループができる。 • ループの問題2: どうすれば速くループを回せるのか? • →ラフなプロトタイプをたくさんつくる • 「リスクのアセスメント(事前見積もり)」と「迅速 なプロトタイピング」をどうやって開発現場で行うか 12

14.

§8.5 アジャイル宣言 •ソフトウェア業界に 大きな影響 •日本でも数々の翻訳 •本節ではその重要な 要素を紹介 13

15.

アジャイル開発の重要な要素 • 柔軟な目標設定 • ゴールが変わることをおそれない • 優先順位をつけたバックログ • スプリント • 短期の締め切り • スクラムミーティング • 毎日10分 • デモ (Demo Day) • 振り返り(Retrospectives) 14

16.

§8.6 リスク評価とプロトタイピング • ループの法則のおさらい: 「リスクのアセスメント(事前見積もり)」と 「迅速なプロトタイピング」が重要 • リスクの事後評価ではなく,事前評価(アセスメ ント) • 例: 公共工事の前には環境アセスメント • 例:『シャボン玉の町の囚人たち』 • 4要素分析+リスクアセスメント+リスク軽減 • 経営陣に頼むしかないリスクもある 15

17.

レンズ#16: リスク軽減のレンズを てにいれた! • このレンズを使うには、ポジティブ思考はやめて、 あなたのゲームをダメにしそうな事柄について深 刻に考えよう (略) 16

18.

スパイラル型開発の成果を出すにはプロト タイピングを学ぼう • リスクを事前に見積もる重要性はわかった. だけど,どうすればプロトタイプをたくさんつくれる のか? • 質の高いゲーム開発には,ラピッドプロトタイピング (迅速なプロトタイプ制作)が不可欠 • プロトタイピングは学ぶことができる • 役立つ助言を厳選: §8.7 成果の上がるプロトタイピングのための10のヒント 17

19.

§8.7 成果の上がるプロトタイピングのた めの10のヒント • Prototyping Tip #1: 疑問に答えよ (Answer a Question) • Prototyping Tip #2:クオリティは気にするな (Forget Quality) • Prototyping Tip #3: 愛情を持つな (Don’t Get Attached) • Prototyping Tip #4: 優先順位をつけろ (Prioritize Your Prototypes) • Prototyping Tip #5: 並行作業で効率をあげろ (Parallelize Prototypes Productively) 18

20.

§8.7 成果の上がるプロトタイピングのた めの10のヒント(続) • Prototyping Tip #6: デジタルである必要はない (It Doesn’t Have to Be Digital) • Prototyping Tip #7:インタラクティブである必要はない (It Doesn’t Have to Be Interactive) • Prototyping Tip #8: 「ループを早く回す」ゲームエンジンを 使え (Pick a "Fast Loop" Game Engine) • Prototyping Tip #9: まずおもちゃを作れ (Build the Toy First) • Prototyping Tip #10:より多くループするチャンスをつかめ (Seize Opportunities for More Loops) 19

21.

レンズ#17: おもちゃのレンズを てにい れた! • ゲームをつくるにはまずおもちゃ(toy)からつく りはじめよう • ゲームデザイナはしばしばおもちゃの視点を忘れ てしまう.誘惑に負けるな • ゲームをプレイして楽しいか「考える」のはやめ て,ゲームで実際にプレイして楽しいのかどうか を考えてみる 20

22.

§8.8 イテレーションの終了 Closing the Loop リスク事前評価とプロトタイピングで開発ループを再定義する • 1. 解決すべき問題を言葉にする • 2. 可能性のある解決策のアイデアをたくさん出していく • 3. ある解決策を選ぶ • 4. その解決策をとった場合のリスクをリストにする • 5. 予想されるリスクを低減するプロトタイプをつくる • 6. プロトタイプをテストする.満足できれば止める • 7. 解決すべき次の問題を言葉にして,ステップ2に戻る 21

23.

§8.8 ゲーム開発のループを回してみた ら • チーム全員でゲームデザインに関わる例 • 最初のループ「新しいレース」ゲーム • 2回目のループ「レーシング潜水艦」ゲーム • 3回目のループ「空飛ぶ恐竜」ゲーム • 迷走したのか,それとも問題解決したのか? • 実際にはゲームデザインを6 回イテレーション できた 22

24.

§8.9 「必要十分」とはどれくらいか? • いつまで繰り返せるのか? • ゲームを完成させるために、何回のイテレーションが 必要なのか知ることはできない • しかし、イテレーションを重ねるたびに、予測の精度 は上がってくる • 開発予算を使い切らないためのベテランの経験則 • マーク・サーニーの「ザ・メソッド」 • 教科書の「50%ルール」(原著第3版ではさらに追加) 23

25.

§8.10 見えない燃料 Your Secret Fuel • 本章は開発の話なのにほとんど分析的な話 • 思慮深い分析は大いに役立つ.だがしかし, • 合理的分析だけでは,予算範囲内でゲームを 完成させても,駄作になる可能性もある • なぜそのアイデアを推進するのかという理由 を忘れてはならない.それは…. 24

26.

レンズ#18: 情熱(パッション)のレンズ をてにいれた! • 「スプリント終了!さて次にとりかかるのは…」 • プロトタイプの次のループに進むとき,そのゲー ムに対する情熱を忘れていないことを確認しよう • このゲームに対する情熱は失われていないか? • もしも情熱がもどらないならば,他にすべきこと があるんじゃないか? 25

27.

本章のまとめ • ゲーム開発は反復である • ループの繰り返しはスキルではなく法則 • ゲームはテストを繰り返しながら成長する • テストを合格する基準はフィルターとして明文化でき る • 体験をつくりだすゲーム開発は、事前の見積もりが難 しく、開発リスクが高い • まず、おもちゃから • 開発が長期化したら問い直す 26

28.

§8.11 参考文献補足 • Bill Buxtonは多くのUXデザイン入門で紹介されている • 『コボルドのボードゲームデザイン』は安田均訳が 2019, 2021年に出版 • Superbrothersの記事の元はGDC2010の5分間トーク (0:13:15から),彼らの受賞作Sword & Sworceryは『ス キタイのムスメ』として日本語化 • Ubisoftのジェイソン・ヴァンデンバーグの記事は雑誌 バックナンバーごと公開されている(Game Developer, Dec 2012 Issue pp.44-46) 27