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May 27, 21
スライド概要
BRCA遺伝子と遺伝性腫瘍の話(滋賀県立総合病院遺伝子診療カンファレンス資料)20210527
滋賀県立総合病院 化学療法センター 腫瘍内科医
BRCA遺伝子と遺伝性腫瘍の話 滋賀県立総合病院 消化器内科/化学療法部 後藤知之
これはあるがん患者さんの家系図です。 何かに気がつきませんか?
本人の父・祖母・おじおば等… 悪性腫瘍の家族歴が非常に多い(しかも比較的発症が若い) 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き 2017年版
がん抑制遺伝子の異常でがん細胞が発生する仕組み • 一般の人の細胞では、2つあるがん抑制遺伝子の片方の異常ではがん細胞化しない • 2つの遺伝子変異が重なるとがん細胞化してしまう(Knudsonの2 hit theory) 1 hit 正常細胞 2 hit 正常細胞 がん細胞 • 生まれた時点からすでに片方のがん抑制遺伝子が機能していないと1hitでがんになる 1 hit 正常細胞 がん細胞
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)という疾患 • 先ほどの図は遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の家族の家系図 • BRCA1/2などのがん抑制遺伝子の機能に生まれつき異常がある状態 • 乳癌や卵巣癌などを発症するリスクが非常に高い 本人だけでなく血縁者まで広いケアが必要 • 父か母のどちらかからがん抑制遺伝子の異常を受けつぎ、 子にも50%の確率でその素因を引き継ぐ常染色体優性(顕性)の遺伝性疾患 • 患者本人だけでなく、血縁者を含めた身体的・精神的なケアが必要
HBOCの累積発癌率は高い • 乳癌の生涯リスク BRCA1 39-87%、BRCA2 26-91% • 卵巣癌の生涯リスク それぞれ 40-60%、10-20% • 膵癌、前立腺癌にも関与 JAMA. 2017. 2401-2416
遺伝性腫瘍の人は実は少なくありません • 乳癌や卵巣癌の数%〜15%程度は遺伝性腫瘍によるものと考えられている • 日本人全体で200〜500人に1人はHBOCと考えられる 日本HBOCコンソーシアム「HBOCとは」 http://hboc.jp/about_hboc/whats_hboc/chap_1/
全く家族歴がなくてもHBOCの人も • 国立がん研究センターで実施された遺伝子パネル検査の臨床研究では NGS解析ができた559人中の20人(3.6%)に生殖細胞系列にバリアントを認めた • そのうち半数は家族歴・病歴では遺伝性腫瘍を疑う基準に該当しなかった Sunami et al. JSMO 2019 #02-6-2 Cancer Sci 2019. 1480-1490 →家族歴がなくてもHBOCの可能性はある
なぜHBOCを見つけたいのか? • 今後の発癌リスクを見極められる(血縁者の発癌も、本人の重複がんも) • 定期検診をして早期発見をしたり、禁煙節酒など予防策を講じることもできる • 予防的手術治療を行うこともある(RRSO:リスク低減卵巣卵管摘出術)→別の回へ • 子どもにも50%の確率で伝わるので将来に備えられる →遺伝カウンセリングの話へ • 治療薬の選択が変わる • BRCA変異があるがんはPARP阻害剤やプラチナ系抗腫瘍薬が著効する • BRCAとPARPは共にDNA修復に関わっていて同時に働かなくなると細胞死する(合成致死) =BRCAに関わるがんはPARP阻害剤を使う BRCA異常 正常細胞 PARP異常 がん細胞 細胞死
BRCA遺伝子を調べるためにどんな検査があるのか どの検体 を使う 生殖細胞・体細胞区別 (遺伝性腫瘍かどうか 特定できるか) 保険点数 対象臓器 BRACAnalysis 採血 で見る できる 20,200点 乳癌 卵巣癌 膵癌 前立腺癌 myChoise 腫瘍検体 で見る できるかも? 32,200点 卵巣癌のみ パネル検査 FoundationOne CDx 腫瘍検体 で見る できない 56,000点 固形がん全て (条件あり) パネル検査 NCCオンコパネル 腫瘍検体 と採血 できる 56,000点 固形がん全て (条件あり)
まとめ • 遺伝性腫瘍、とくにHBOCがどのような病態かを理解する • 遺伝する性質のものであることから、本人だけでなく血縁者も含めたケアを行うこと ができるようにする • 正しく検査し、その後の治療やケアにつなげる