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July 11, 19
スライド概要
がん最新治療「ゲノム医療について」湖南がん診療ネットワーク 20190711
滋賀県立総合病院 化学療法センター 腫瘍内科医
第56回湖南がん診療ネットワークミーティング 2019.7.11 がん最新治療「ゲノム医療について」 滋賀県立総合病院 消化器内科/化学療法部 後藤知之
がんのゲノム医療が非常に話題を集めています 毎日新聞 2019.5.30
細胞・染色体・DNA・遺伝子・ゲノム 細胞 染色体 生物の最小単位 遺伝子 DNAを巻き付けて細胞内に 効率よく保存している いわば「本」 DNA DNA上に記録された 蛋白質の作り方などの記載内容 遺伝情報を記録している物質そのもの いわば「インク」 ゲノム 生物にとってのDNAに記された遺伝情報全体 本に書かれた内容全体を指す
同じ臓器のがんでも、遺伝子異常の種類は多彩 J Clin Oncol 2010, 1254-1261 ▪ 同じ臓器のがんでも、遺伝子異常は個々人で異なる ▪ がん細胞の性質も、治療の効き具合も異なってくる
多様な遺伝子異常が次々と明らかにされている Transl Lung Cancer Res 2015. 156-164 ▪ 21世紀になってから遺伝子解析技術の急速な進歩により 様々ながんゲノムの異常が次々と明らかにされる
細胞の性質に応じて治療を決める ▪ がん細胞が持つ遺伝子異常に応じた治療薬を用いること でより治療効果が高まることが期待される ▪ 肺がんガイドライン2018の例
主なゲノム異常に応じた治療薬は すでに保険診療でも利用されている 薬剤名 主な標的遺伝子 主な対象のがん ゲフィチニブ(イレッサ) エルロチニブ(タルセバ) アファチニブ(ジオトリフ) オシメルチニブ(タグリッソ) EGFR 非小細胞肺がん トラスツズマブ(ハーセプチン) ペルツズマブ(パージェタ) トラスツズマブ・エムタンシン(カドサイラ) ラパチニブ(タイケルブ) HER2 乳がん 胃がん クリゾチニブ(ザーコリ) アレクチニブ(アレセンサ) セリチニブ(ジカディア) ロルラチニブ(ローブレナ) ALK 非小細胞肺がん ベムラフェニブ(ゼルボラフ) ダブラフェニブ(タフィンラー) BRAF 悪性黒色腫 非小細胞肺がん オラパリブ(リムパーザ) PARP 卵巣がん 乳がん
これまで有効であった臓器の壁を越えて 共通のゲノム異常があれば有効な薬剤が出てくる 乳癌 胃癌 大腸癌 (保険適用外) ハーセプチン HER2陽性 HER2陽性 Lancet 2010, 687-697 Lancet Oncol 2016, 738-746 8
複数の腫瘍が共通の治療標的となる変異を持つ 悪性 黒色腫 乳 癌 胃 癌 大腸癌 肺癌 膵癌 甲状腺癌 急性骨髄性 白血病 臓器別ではなく遺伝子変異に応じて治療を選ぶことが重要 9
ゲノム異常に応じた治療を行うには ゲノム異常を見つける検査を行う必要がある ▪ 現状では EGFR検査、ALK検査、PD-L1検査、HER2検査… 遺伝子に応じて多数の検査を行う必要がある。 ▪ 多数の検査を別個に行うのは、時間・費用・検体の 無駄が多くなりがちで非効率的である ▪ 次世代シーケンサーの進歩によりパネル検査を使えば 多数の遺伝子検査を速く効率的に行えるようになった。
今後の薬剤開発につながる 「アンブレラ型試験」と「バスケット型試験」 JAMA Oncol 2017. 423
臓器の壁を越えた新たな治療標的も ▪ 対象がどの臓器に生じたがんであっても、 そのゲノム異常を持っていれば治療効果が期待される ◼ 「MSI-Hのがん」に対する免疫チェックポイント阻害剤 ◼ 「NTRK融合遺伝子陽性のがん」に対するエヌトレクチニブ ◼ 「BRCA変異陽性のがん」に対するオラパリブ ▪ 今後は各臓器ごとに承認されるのではなく ゲノム異常に基づいて承認される薬剤が増える
2つのがん遺伝子パネル検査が保険承認された ▪ 2019年6月から保険承認されたパネル検査 ◼ がんセンター主導の「NCCオンコパネルシステム」 ◼ 米国企業が開発した「FoundationOne CDx」 ▪ 次世代シーケンサー(NGS)を用いて多数の遺伝子を 同時に調べることができる ▪ 対象となるのは、原発不明癌・希少癌・ 他の標準治療がない進行癌などに限られる ▪ 検査が実施できる施設は大学病院・拠点病院に限られる
近隣で利用できる主ながん遺伝子パネル検査 検査の種類 オンコガイド NCCオンコパネル Foundation One CDx OncoPrime Guardant 360 診療形態 保険診療 先進医療 保険診療 自由診療 自由診療 費用 560,000円 560,000円 880,000円 420,000円(初 回) 提出検体 腫瘍FFPE検体+ 末梢血2mL 腫瘍FFPE検体 腫瘍FFPE検体 末梢血20mL 対象遺伝子数 114遺伝子 324遺伝子 223遺伝子 73遺伝子 解析場所 日本国内 米国 米国 米国 所要時間 20営業日 14日間 1か月 10日間 二次的所見 ほぼ確定できる 再検査が必要 再検査が必要 再検査が必要 C-CAT登録 必要 必要 不要 不要 当院で採用準備中
パネル検査の実際の流れ 山陽新聞 医療健康ガイドMEDICA. 2018.11.15
検査そのものにもまだ課題も多い ▪ 検査費用・時間の問題 ◼ ◼ ◼ ◼ 保険適用になっても高額(検査代だけで保険点数 56,000点) 保険適用は、「標準治療のない原発不明癌・希少がん」または 「切除不能で標準治療が終了したあとの固形がん」が対象。 検体提出から検査会社からの結果返却まで数週間、 エキスパートパネル後の結果説明まで1ヶ月以上かかる場合も。 標準治療終了後の進行がん患者が検査に1か月以上かけて、 その後に積極的治療を受けるだけの時間的余裕があるか?
検査後にも様々な課題が(夢の検査ではない) ▪ 検査で遺伝子異常が判明しても治療薬がないケース ◼ がんに関連する遺伝子のうち治療薬があるのはごく一部(10%程度) ◼ 薬があっても「未承認」か「保険適用外」なら高額の薬剤費負担 例:ハーセプチン 月30万円、オプジーボ 月100万円(全額自費) ◼ 治験にエントリーできるのは京大では 1% 国内の第1相試験の9割以上は東京で実施(毎週通院できる?) ▪ さらに治療を受けられても有効であるとは限らない ◼ 遺伝子異常に応じて選んだ薬の奏効率が特別高いとは限らない。 ◼ 治験に参加できても、Phase Iは有効性を期待する臨床試験ではないし Phase Iの薬のうち有効と判定されて生き残るのは5%以下。
ではどうすればよいか? ▪ 現状では既存の「標準治療」にまさるものではなさそう ◼ 最先端の治療が最善の治療とは限らない ◼ まずは診療ガイドラインなどによる標準治療を勧めます ◼ すでに有効性が実証されている手術や治療薬があるならば その治療を行うことのほうが(ほとんどの場合は)メリットが 大きい ▪ 「標準治療」が効かない・治療薬を使い果たした局面で 場合によっては選択肢の一つとなりうる ◼ ◼ ただし「夢の新治療が見つかる」わけではない 希望もあるが課題も多い技術。メリット・デメリットを良く考 えて判断を
今日のお話のまとめ 1. 同じ臓器のがんでも遺伝子異常により性質や最適な治療が異なる 2. 今後は臓器の種類を超えて遺伝子異常に応じた治療が広がり 網羅的に遺伝子異常を検索するパネル検査も保険適用になる 3. 費用、時間、治療薬の有無、高額な治療費、有効性、副作用… 実際には課題が多く残されているため、慎重な判断が必要 4. まずは標準治療をきっちりと受けることが優先 担当医師や、通院先の「がん相談支援センター」などに相談を