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May 24, 21
スライド概要
滋賀県立総合病院 ラダーIVがん看護研修 20210524
滋賀県立総合病院 化学療法センター 腫瘍内科医
2021.5.24 看護研修 2021.5.24 滋賀県立総合病院 消化器内科/化学療法部 後藤知之 1
2人に1人はがんになり、3人に1人ががんで死 ぬ時代 • 日本人の死因第1位は悪性新生物(がん) がん>心疾患>肺炎>脳血管疾患>老衰 • 2016年にがんで死亡した人は372,986人 平成28年(2016)人口動態統計(確定数) 2
なぜ、がんが現代病のように言われるのか • がんが増えているのは事実だが… 国立がん研究センターがん情報サービス ganjoho.jp 3
なぜ、がんが現代病のように言われるのか • 年齢調整死亡率は順調に低下している (年齢分布が1985年と同じと仮定した場合の死亡率) 国立がん研究センターがん情報サービス ganjoho.jp 4
高齢化の影響を除けば、がん死亡率は低下して いる • がんの最大の危険因子は「加齢」そのもの • 各年代のがん死亡率は減っているが、 高齢化により、見かけ上はがんが増えているように見える • 喫煙の減少 早期発見 標準治療の進歩 など 5
標準治療の絶え間ない改善が がんの治療成績向上に 貢献している 6
「標準治療」って一体なに? • 標準治療とは、「科学的根拠に基づいた観点で、現在利用でき る最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さ んに行われることが推奨される治療」 • 診療ガイドラインはその時点での標準治療をまとめた文書 • 最先端の治療が最も優れた治療とは限らない • 最先端の治療は、臨床試験により評価され それまでの標準治療より優れていることが証明されると その治療が新たな標準治療となる 国立がん研究センターがん情報サービス ganjoho.jp 用語集 7
ガイドラインとはなにか • 診療におけるガイドラインとは 「重要な医療行為について、エビデンスの評価、益と害のバラン スなどを考量し、推奨を提示して意思決定を支援する文書」 • 各種がんやテーマごとに 様々なものが発行されている • 最近はネット上で公開される ものが増えている 8
さまざまなガイドラインが普及している • 臓器別ガイドラインのほかに各種テーマ別のガイドラインもある 9
患者さんむけガイドラインもある • がん患者が抱く疑問・悩み・不安などを重点的に 非医療従事者にもわかりやすく解説したガイドライン • 改訂が遅いのが若干の難点 • 患者さん向けガイドラインに限らず 内容が古くなっていないか注意 10
ガイドラインの中身を見てみよう • • • • ステージ別の治療方針(内視鏡切除? 外科手術? 化学療法?) 化学療法はどんなレジメンを使うべきなのか? 術後フォローの検査はどのように行うのか? このような疑問について、エビデンスやコスト、日本の医療制度 などとのバランスに基づいて、推奨をまとめている 11
推奨される治療指針が提示されている • 大腸がんの化学療法の指針は複雑だが 標準治療と新規治療を比較する臨床試験の 積み重ねで現在の形ができている。 • ガイドラインは絶対ではないので 個々の症例・状況に応じて調整が必要だが 正しくアセスメントし方針を立てるには ガイドラインの内容を把握することは重要。 • 自分が看護に携わる領域のガイドラインを ぜひ一度見てみよう! インターネット、大きな書店、院内図書館、 (病院により)患者相談支援センターなど 12
新たな標準治療が決まってゆく過程の例 • 胃がんの現在の標準治療の根拠になった臨床試験 S-1単独とS-1+CDDP(シスプラチン)の比較 S-1治療 約150人 進行胃癌患者 約300人 ランダム化 (くじびき) 縦軸:生存率(%) S-1+CDDP治療 約150人 それまでの 標準治療 治療成績 (生存期間)を比較 新規治療の候補 カプランマイヤー法による生存曲線 新規治療のS-1+CDDPは 従来の標準治療であったS-1よりも 曲線が上にある(生存率がよい) 横軸:生存期間(月) それまでの標準治療に代わって S-1+CDDPが新たな標準治療となる13
胃がん薬物療法の変遷で見る標準治療の変化 • JCOG9205試験(1992年) UFT+M<5-FU (生存期間7ヶ月) • JCOG9912試験(2007年) 5-FU<S-1 (9ヶ月) • SPIRITS試験(2007年) S-1<S-1+シスプラチン(11ヶ月) • S-1+シスプラチンは現在の標準治療となっている またSOX療法などもS-1+シスプラチンとほぼ同等と示された • さらにHER2陽性胃癌ではハーセプチンを併用することで さらに治療効果が高まることが示されている 14
標準治療は科学的根拠に基づいて作られてゆく • 「権威ある人(教授?専門家?)が言ったから」ではなく 科学的根拠に基づいて治療の有効性を厳密に検証され 標準治療そのものが徐々に優れたものになってゆく • Evidence Based Medicine (EBM) 科学的根拠に基づく医療 • 「からだに良さそう」 「理屈上は有効なはず」 ではダメ! 「玄米と有機栽培野菜の自然食」はからだに良さそうだが、 これでがんを治すことはできない 15
信頼できるただしい情報を集めるには • どんどん進歩する治療にアップデートするには常に勉強が必要 • インターネットには良質な情報もニセ医学情報もある • 一見すると最新の医学情報を解説したサイトのように見えて 実は非科学的な自費診療に誘導する罠のようなサイトも • 信頼できるがん情報が得られる場所 • がん情報サービス(国立がん研究センター) http://ganjoho.jp • がん情報サイト(神戸医療産業都市推進機構) http://cancerinfo.tri-kobe.org • キャンサーネットジャパン(認定NPO法人) http://www.cancernet.jp / • 各種学会・学術団体が発行する診療ガイドライン 16
前半のまとめ 1. がんは増えてきているが、現代病ではなく高齢化の影響が大きい 2. 標準治療は常に進歩している現時点での最善の治療であり、 我々は科学的根拠に基づいた標準治療を行うことが求められている 3. 臓器別がんや支持療法についても様々なガイドラインが普及し、 正しく治療方針を立てて良質な医療を行うのに有用である 4. 医療者は信頼できる正しい情報を集め、常に学び続けることが大切 17
遺伝子異常の種類が、がん細胞の性質を決める J Clin Oncol 2010, 1254-1261 ▪ 100人の大腸がん患者が抗EGFR抗体薬治療を受けたら? ◼ ◼ 遺伝子異常が細胞をがん化させ、その性質を決める 治療効果の有り・無しは、がん細胞が持つゲノム異常によって決まる 18
標的分子が発現した腫瘍だけに効果を示す薬 • がん細胞だけに見られる標的を狙えば 副作用を押さえつつ治療効果を高められる(分子標的治療) HER2 あり HER2 なし 19
がん薬物療法の中で重要性が高まる分子標的薬 • いまや、がん薬物療法において無くてはならない存在 • モノクローナル抗体(mAb) • VEGFを阻害する アバスチン(ベバシズマブ) • CD20陽性細胞を攻撃する リツキサン(リツキシマブ) • HER2陽性細胞を攻撃する ハーセプチン(トラスツズマブ) • 少分子化合物(チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が多い) • EGFRの過剰な活動を抑制 タルセバ(エルロチニブ) • Bcr-AblやKITの働きを阻害 グリベック(イマチニブ) • ALK転座阻害 ザーコリ(クリゾチニブ)、アレセンサ(アレクチニ ブ) 20
がん免疫療法 チェックポイント阻害剤 • がん細胞に対する免疫は抑制されている(ブレーキ) • がん細胞のPD-L1が、Tリンパ球のPD-1受容体に結合して起こる • 抗PD-1抗体がTリンパ球の免疫作用のブレーキをはずす • がん細胞を異物とみなして排除する免疫機構が回復する • オプジーボ、キイトルーダなどが代表例 Tリンパ球 PD-1 PD-L1 腫瘍細胞 21
免疫チェックポイント阻害剤特有の問題点も • 効果がある人と無い人の違いが大きい • 効果があるか無いか、治療前に見極めるのは現時点では困難 • バイオマーカー研究が進められているものの、まだまだ発展途上 • 免疫チェックポイント阻害剤特有の有害事象 irAE(immune-related adverse events:免疫関連副作用) • 間質性肺炎 • 内分泌異常 (劇症1型糖尿病、甲状腺・副腎機能異常、下垂体炎…) • 急性肝炎、(潰瘍性大腸炎様の)大腸炎 • 重症筋無力症、筋炎、心筋炎 • 皮膚障害 (薬疹、TEN:中毒性表皮壊死症、類天疱瘡…) • 医療費の問題 22
代表的な遺伝性腫瘍 • がん抑制遺伝子の機能に生まれつき異常がある家系など • 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC) • BRCA1・BRCA2遺伝子 • 乳癌(生涯発癌率50-85%)、卵巣癌(15-40%)、膵癌、前立腺癌 • 女優アンジェリーナ・ジョリーの予防的乳房切除で知名度が上がった • リンチ症候群(HNPCC) • ミスマッチ修復遺伝子 • 大腸癌(28-75%)、胃癌、子宮体癌、卵巣癌、尿管癌など • 家族性大腸腺腫症・ポリポーシス(FAP) • APC遺伝子 • 大腸癌(ほぼ100%)
後半のまとめ 1. がんは遺伝子異常の積み重ねで起こり 遺伝子異常の種類ががんの性質や治療効果を左右する 2. 副作用が少なく、有効性の高い治療を可能とするために がん細胞が持つ分子だけを標的とする分子標的薬が増えている 3. がんの臓器別だけでなく、がん細胞が持つ遺伝子異常に応じて 臓器横断的・診療科横断的に治療を行う時代 4. 多数の遺伝子を網羅的に調べるがん遺伝子パネル検査 5. 新しい治療の候補としての免疫チェックポイント阻害薬 6. 生まれつきがんになりやすい遺伝的な素因を持った遺伝性腫瘍 24