2024卒業論文_城戸遥稀・髙橋穂大

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February 19, 25

スライド概要

ファイナンシャルウェルビーイングを中心に、その規定要因とメンタルヘルスに与える影響を実証的に分析します。背景として、日本では長寿化が進み、退職後の生活に対する不安が高まっています。調査結果からは、資産形成が老後の経済的安定に必要不可欠であることが明らかになりました。しかし、ファイナンシャルウェルビーイングに関する認識は依然として低いことが浮き彫りになっています。本研究では、パネルデータを用いて日本におけるファイナンシャルウェルビーイングの要因を分析し、精神的健康への影響を評価することで、国民のファイナンシャルウェルビーイング向上を目指します。

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慶應義塾大学商学部商学科山本勲研究会 ホームページ: https://www.yamazemi.info Instagram: https://www.instagram.com/yamazemi2024

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各ページのテキスト
1.

卒業論文 最終発表 ファイナンシャルウェルビーイングの実証分析 〜ファイナンシャルウェルビーイングの規定要因とメンタルヘルスへの影響〜 城戸遥稀・髙橋穂大

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目次 ① 背景・問題意識 ② 先行研究 ③ 分析アプローチ ④ 分析結果 ⑤ 終わりに

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テーマ テーマ概要 ファイナンシャルウェルビーイングの実証分析 〜ファイナンシャルウェルビーイングの規定要因とメンタルヘルスへの影響〜 ファイナンシャルウェルビーイングの規定要因と ファイナンシャルウェルビーイングが精神的健康に与える影響を明らかにすることで、 現代における資産形成の重要性の提唱と 国民のファイナンシャルウェルビーイングの実現の一助となる

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背景・問題意識 資産形成の重要性 人生90年時代を迎えている現在の日本において、資産形成の重要性が高まっている。 2023年に公表された「日本の将来推計人口」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、 2070年には男性の平均寿命が85歳を、女性の平均寿命は91歳を超え、寿命の伸長は続いていくと 推計されている。このような現代において中高年世代は退職後20-30年の老後期間を想定し、 長期にわたって資産計画を立てる必要がある。 4

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背景・問題意識 資産形成の重要性 しかし、総務省統計局による 家計調査年報(2022)からは 2 人以上無職世帯のうち、 世帯主が 65 歳以上世帯の家計収支は 平均的には赤字であることを示しており、 若年期からの資産形成が 重要であると言える。

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背景・問題意識 内閣府世論調査(2023)によると、 日常生活に対する不安の理由は 「老後に対する不安」が 最も高いことが明らかになっている。 老後生活に対する不安の具体的な内容をみると、 「公的年金だけでは不十分」が79.4%と最も高いことからも、 90年以上の長期にわたる人生の様々なイベント、経済的リスク に対応するためには資産形成が重要になる。 6

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背景・問題意識 これらの背景を踏まえると、 老後の経済的安定性を確保し、 長寿化社会のリスクに対応するためには 若年期からの資産形成が不可欠であると言える。 内閣府世論調査(2023)によると、 日常生活に対する不安の理由は 「老後に対する不安」が 最も高いことが明らかになっている。 老後生活に対する不安の具体的な内容をみると、 「公的年金だけでは不十分」が79.4%と最も高いことからも、 90年以上の長期にわたる人生の様々なイベント、経済的リスク に対応するためには資産形成が重要になる。 7

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背景・問題意識 若年層の資産形成の現状 2022年に野村総合研究所が実施した生活者1 万人アンケート調査(金融編)では、投資経 験者割合は、20代で15%、30代で28%、40代 で32%、50代で40%、60代で46%と年代が 上がるごとに高まっている 現状、若年期からの資産形成は 一般的ではないと言える。 8

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背景・問題意識 ファイナンシャル・ウェルビーイングへの注目の高まり 近年ファイナンシャルウェルビーイングという 概念が注目されている。 2024年4月には金融経済教育推進機構が設立され、 「一人ひとりが描くファイナンシャル・ウェルビーイン グを実現し、自立的で持続可能な生活を送れる 社会づくりに貢献すること」が目標として掲げられ、 国全体としての国民のファイナンシャル ウェルビーイングの実現を目指している。 金融経済教育推進機構HPより 9

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背景・問題意識 日本におけるファイナンシャルウェルビーイングの現状 しかし、ファイナンシャルウェルビーイングの考え方は未だ広まっておらず、 国民のファイナンシャルウェルビーイングは低いのが現状である。 2021年に野村資産形成研究センターが 実施したファイナンシャル・ウェルネス (お金の健康度)アンケートでは、 お金・経済面についての 現在もしくは将来に不安を感じている人は 全体の82%であった。 10

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背景・問題意識 ファイナンシャル・ウェルビーイングに関する先行研究 日本におけるファイナンシャルウェルビーイングに関する先行研究では、年収や資産形成行動といった 経済的要因との関連性や経済状況がメンタルヘルスに与える影響を分析したものがある。 Kahneman and Angus (2010) 収入が増えるほど自らの生活に対する評価が 高くなる傾向を確認した一方で、日常的な感 情面の幸福度は年収75,000ドル(約800万円) を超えると、ほとんど改善しなくなることを 明らかにした。 日本においても内閣府が実施した 「満足度・生活の質に関する調査報告書 2022」では、 年収が増加するにつれて生活満足度も上昇する傾向が 確認された。 年収が「300万円以上500万円未満」から「700万円以 上1000万円未満」へと約2倍に増加すると、生活満足 度が1点以上上昇する一方で、年収が「700万円以上 1000万円未満」から「1000万円以上2000万円未満」 へと増加した場合、生活満足度の上昇幅は0.2点程度 にとどまっていた。 11

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背景・問題意識 ファイナンシャル・ウェルビーイングに関する先行研究 日本におけるファイナンシャルウェルビーイングに関する先行研究では、年収や資産形成行動といった 経済的要因との関連性や経済状況がメンタルヘルスに与える影響を分析したものがある。 日本においても内閣府が実施した 「満足度・生活の質に関する調査報告書 2022」では、年収が増加するにつれて生活満 足度も上昇する傾向が確認された。 。 年収が「300万円以上500万円未満」から 「700万円以上1000万円未満」へと約2倍に増 加すると、生活満足度が1点以上上昇する一 方で、年収が「700万円以上1000万円未満」 から「1000万円以上2000万円未満」へと増加 した場合、生活満足度の上昇幅は0.2点程度に とどまっていた。 収入の増加が生活の全体的な満足度に寄与するが、 感情的な幸福感の向上には限界がある Kahneman and Angus (2010) 収入が増えるほど自らの生活に対する評価が 高くなる傾向を確認した一方で、日常的な感 情面の幸福度は年収75,000ドル(約800万円) を超えると、ほとんど改善しなくなることを 明らかにした。 12

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背景・問題意識 ファイナンシャル・ウェルビーイングに関する先行研究 沼田(2024) 駒村(2024) 米国にて、収入や資産の規模だけでなく、 金融リテラシーや貯蓄や投資といった資産 形成行動がファイナンシャルウェルビーイ ングの向上につながることを示した。 個人の属性に関しては、雇用状況、収入、 学歴、人種差 はファ イナンシャル ウェル ビーイングに影響を与えることも明らかに した。 ・資産や収入に対する債務比率が上昇すると、メ ンタルに悪影響を与え、肥満や糖尿病の罹患率を 引き上げる、 ・返済負担の上昇が、寿命を短くする、 ・長期債務は、健康状態を悪化させる、 ・債務が「強い羞恥心や罪悪感」につながり、そ のストレスが鬱、将来不安など精神衛生上の問題 を引き起こす。 13

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背景・問題意識 ファイナンシャル・ウェルビーイングに関する先行研究 ファイナンシャルウェルビーイングに影響を与える 要因として年収や貯蓄・投資といった資産形成行動、 金融リテラシーの有無といった要因が挙げられる パネルデータを用いた実証的な研究は少なく、 日本におけるファイナンシャルウェルビーイングの 規定要因や老後不安に寄与するような中年期の 経済状況については明らかになっていない。 負債が健康に悪影響を与えることは示されている ファイナンシャルウェルビーイングが 精神的健康に与える影響について 実証分析をしたものは 筆者の知る限り存在しない 14

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背景・問題意識 本稿の目的 ファイナンシャルウェルビーイングの規定要因とファイナンシャルウェルビーイングが 精神的健康に与える影響を明らかにすることで、現代における資産形成の重要性の提唱と 国民のファイナンシャルウェルビーイングの実現の一助となる 独自性 ①パネルデータを用いて日本におけるファイナンシャルウェルビーイングの規定要因を分析する点 ②ファイナンシャルウェルビーイングが精神的健康に与える影響を分析する点 15

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分析アプローチ 分析の流れ 1 ファイナンシャルウェルビーイングの規定要因 2 中年期の経済状況が 高年期のファイナンシャルウェルビーイングに与える影響 3 経済状況が精神的健康に与える影響 16

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目次 ① 背景・問題意識 ② 先行研究 ③ 分析アプローチ ④ 分析結果 ⑤ 終わりに

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先行研究 先行研究の概要 1 ファイナンシャルウェルビーイングに関する先行研究 2 資産形成・老後不安に関する先行研究 18

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先行研究 ①ファイナンシャルウェルビーイングに関する先行研究 Kahneman and Angus (2010) 収入と幸福度の関係について分析した結果、 収入が増えるほど自らの生活に対する評価 が高くなる傾向が確認された一方で、日常 的な感情面の幸福度は年収75,000ドル (約800万円)を超えると、 ほとんど改善しなくなることを示した。 →収入の増加が生活の全体的な満足度には 寄与するものの、感情的な幸福感の向上に は限界があるといえる 沼田(2024) 米国におけるFWの実態とその決定要因についての 分析を行った。 ・収入 ・資産の規模 ・金融リテラシー ・身の丈に合った資産運用行動 ・資産形成行動(貯蓄や投資) はFWを高めることを明らかにした。 個人の属性に関しては、雇用状況、収入、学歴、人種差は ファイナンシャルウェルビーイングに影響を与えるが、 移住地域差、男女差は見られない。 また、成長過程において金融知識を学び金融に関して積極的に 関わった者はFWが高いことを指摘している 19

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先行研究 ①ファイナンシャルウェルビーイングに関する先行研究 Kadoya and Khan(2017) 金融リテラシーが個人の株式市場への参加に与える影響を分 析し、その結果がFWにも影響を与えることを示唆した。この 研究では、金融リテラシーが高いほど資産に関するリスクの 認識能力や投資判断の精度が向上し、それが資産ポートフォ リオの多様化を促進することが明らかになった。これにより、 経済的な安定感が高まりFWの向上につながる可能性が示され た。また、金融リテラシーの欠如は株式市場への参加を妨げ る要因となり、資産形成や長期的な経済的安定性を制限する 可能性が指摘されている。 Paul et al.(2013) 個人の経済状態とFWの関係性について の分析を行った結果、個人の財務管理能 力や資産形成における自信が、FWを高 める主要な要因であることが示唆された。 つまり、金融リテラシーの高さがFWの 高さに関係していると言える。 20

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先行研究 ①ファイナンシャルウェルビーイング Soyeon shim et al.(2009) 【概要】 若年成人のFWの潜在的な要因とその結果につ いて検証。 【結果】 ・自己実現的な個人的価値観や家庭・学校で の金融教育が金融に関する知識を獲得すること に寄与し、その知識に基づいた態度や行動意図 を形 成す ること がFWに影 響を 与える と示し た。 駒村(2024) ・資産や収入に対する負債比率が上昇すると、 メンタルに悪影響を与え、肥満や糖尿病の罹患率 を引き上げる ・返済負担の上昇が、寿命を短くする ・長期債務は、健康状態を悪化させる ・債務が「強い羞恥心や罪悪感」につながり、そ のストレスが鬱、将来不安など精神衛生上の問題 を引き起こす。 21

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先行研究 ①ファイナンシャルウェルビーイング Lempers and Clark-Lempers (1997) 【概要】 本研究では、6年生188人、中学2年生210人とその母親を対象に、経済的困難、妊産婦の経済 的負担、母親の夫婦間の幸せ、親子関係のストレス・苦痛について分析。 【結果】 部分最小二乗法を用いて、母娘と母子の双子について個別に分析した結果、経済的困難により 妊産婦の経済的負担が増大し、母親の夫婦間の幸福度や母子関係の質が低下することで、 思春期の子どものさらなる苦痛につながった。 22

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先行研究 ①ファイナンシャルウェルビーイング Elisabeth et al. (2017) 社会的要因と個人的要因に分けてFWに影響を与える要因について 分析した。 社会的要因としては ・国の経済状況 ・雇用の安定性 個人的要因としては ・金融知識の有無 ・金融リテラシーの欠如に伴う貯蓄額の不足 が挙げられた。 転職や退職、労働時間の変化などの働き方に関することや結婚・ 出産、両親の介護や死といったライフイベントもFWに影響を与え るとも指摘している。(右表より) 23

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先行研究 ①ファイナンシャルウェルビーイング Elisabeth et al. (2017) 社会的要因と個人的要因に分けてFWに影響を与える要因について 明らかになっていること 分析した。 社会的要因としては • 年収や負債といった経済状況、貯蓄や投資といった資産形 ・国の経済状況 成行動、金融リテラシーの有無などがファイナンシャル ・雇用の安定性 ウェルビーイングに影響を与える 。 個人的要因としては ・金融知識の有無 • 経済的困難は身体的・精神的共に悪影響を及ぼす。 ・金融リテラシーの欠如に伴う貯蓄額の不足 が挙げられた。 転職や退職、労働時間の変化などの働き方に関することや結婚・ 出産、両親の介護や死といったライフイベントもFWに影響を与え るとも指摘している。(右表より) 24

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先行研究 ②資産形成と老後不安 大風(2022) Paul(2009) 現役世代男女の生きがいとメンタルヘルスに関 して資産形成に着目し分析を行った結果、 預貯金・保険商品・NISA といった資産形成行 動は生きがいを高め、メンタルヘルスを良好に することを明らかにした。 若年期における積極的な貯蓄習慣が老後の金融 的な安定を強く支えることが確認し、若年期よ り資産を計画的に形成する人々は、退職後の貧 困リスクを回避する確率が高まることを明らか にした。

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先行研究 ②資産形成と老後不安 久我(2012) 大塚・谷口(2022) 明らかになっていること 貯蓄がゼロになる世帯は80歳、90歳時点において2 若年層における経済的余裕感が二極化している 割弱であることを明らかにし、貯蓄がゼロになる世 ことを明らかにした。具体的には、夫が高収入 帯の就業形態は、主にパートやアルバイト、派遣社 の専業主婦や正規雇用の共働き夫婦、正規雇用 • 資産形成行動と生きがいやメンタルヘルス関係していること 員などの非正規社員であると示した。さらに、その の未婚男性、親と同居の未婚女性は経済的に余 要因としては、現役時代の所得が少ないため年金生 裕感を持つ一方で、正規雇用でも年収が低い既 活に入るまでに十分な資産形成ができないことや、 • 若年期の資産形成行動や経済状況が高年期に影響を与えること それに伴い公的年金だけでは老後の家計支出を賄え 婚男性や非正規雇用者は余裕のなさを感じてい • ず資産を取り崩さなければならなくなってしまうこ ると示した。 とも指摘している • 職業や就業形態によって老後不安が異なること

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先行研究 先行研究まとめ 【明らかになっていること】 • 米国において、ファイナンシャルウェルビーイングを高める要因 • 資産形成行動とメンタルヘルスの関係 • 若年期の資産形成行動と老後の貧困リスクの関係 【明らかになっていないこと】 • 日本におけるファイナンシャル・ウェルビーイングの規定要因。 • リスクや環境が異なる世代別で、どのような経済状況がFWを高めるのか。 • ファイナンシャルウェルビーイングと身体的・精神的健康(ウェルビーイング、病気等)の関連 27

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目次 ① 背景・問題意識 ② 先行研究 ③ 分析アプローチ ④ 分析結果 ⑤ 終わりに

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分析アプローチ 分析の流れ 1 ファイナンシャルウェルビーイングの規定要因 2 中年期の行動や資産形成が 高年期のファイナンシャルウェルビーイングに与える影響 3 経済状況が精神的健康に与える影響 29

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分析アプローチ 分析の流れ ・要因 経済状況 個人特性 ・中年期要因 経済状況 推計1 FW 推計3 精神的健康 高年期のFW 推計2 30

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分析アプローチ 推計方法 1 ファイナンシャルウェルビーイングの規定要因 変量効果順序ロジットモデル or 順序ロジットモデル 𝑌𝑖𝑡 = 𝛼0 + 𝛼1 𝑋𝑖𝑡 + 𝛼3 𝑋𝑖𝑡 + 𝐹𝑖𝑡 + 𝜀𝑖𝑡 説明変数 被説明変数 ◆ FW指標 ◆ 金融リテラシーダミー ◆ 貯金額 ◆ 有価証券保有額 ◆ 所得 ◆ 借金 ◆ 年間消費額 ◆ 負債/資産 ◆ 有価証券額/預貯金額 コントロール変数 ◆ 結婚ダミー ◆ 扶養人数 ◆ 離婚ダミー ◆ 学歴 ◆ 就労時間 ◆ 残業時間 ◆ 年次有給取得日数 ◆ 男性ダミー 31

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分析アプローチ 推計方法 仮説 FWを高める規定要因 1 1)金融リテラシーが高い人、リスク資産を保有している人はファイナン シャルウェルビーイングが高い 順序ロジットモデル 𝑌𝑖𝑡 = Soyeon 𝛼0 +shim 𝛼1 𝑋et𝑖𝑡al.(2009) + 𝑋𝑖𝑡 + 𝜀𝑖𝑡 アメリカでは、金融リテラシーが高い人はファイナンシャルウェ ルビーイングが高いことや、金融リテラシーが高い人はリスク資 説明変数 コントロール変数 産保有傾向が高いことが報告されている。 ◆ 金融リテラシーダミー ◆ 貯金額 被説明変数 ◆ 家族構成 ◆ 有価証券保有額 ◆ 学歴 ◆ 所得 ◆ 借金 ◆ FW指標 ◆ 労働時間 ◆ 年間消費額 ◆ 性別 リスク資産保有が家計の資産選択において、主流な選択 ◆ リスク資産保有ダミー ◆ 就業形態 の一つになっている日本においても同様の傾向がある ◆ 年齢ダミー 32

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分析アプローチ 仮説 推計方法 2)年齢階層で直面するライフイベントやリスク、金融資産管理能力 が異なるため、FWに影響を与える要因も異なる。 FWを高める規定要因 1 20代、30代 若年層は結婚や出産といったライフイベントやそれに伴う教育費などが必要であることから、近い将来に 順序ロジットモデル 現金が必要であるため、預貯金額がFWに影響を与えると考えられる。また、定年まで長く、借金をして自 𝑖𝑡 0 1 𝑖𝑡 𝑖𝑡 𝑖𝑡 宅や車を購入しても返済可能性が高いことを理由に、若年層は中高年期に比べて、負債比率の高さがFWに 影響を与えないと考えられる。 𝑌 =𝛼 +𝛼 𝑋 +𝑋 +𝜀 40代、50代 説明変数 コントロール変数 多額の現金が必要な結婚や出産、子育てなどのライフイベントが少ないことや、Agarwal et al. (2009)の ◆ 金融リテラシーダミー 研究から金融資産の管理能力は50代でピークになることが明らかになっており、老後に向けての資産形成 ◆ 貯金額 被説明変数 ◆ 家族構成 ◆ 有価証券保有額 に目を向け、預貯金だけでなくリスク資産等にも分散させて資産形成を行っていくと考えられる。 ◆ 学歴 ◆ 所得 →中年層では預貯金額、リスク資産額、リスク資産比率がFWに影響を与えると予想される ◆ FW指標 ◆ 借金 ◆ 労働時間 ◆ 年間消費額 ◆ 性別 60代以上 ◆ リスク資産保有ダミー 定年後の生活資金を公的年金に依存せざるを得ず、不安感が強いことが大塚・谷口(2022)の研究で示され ◆ 就業形態 ◆ 年齢ダミー ており、医療費のための現金が必要という点からも預貯金額がFWを高める要因であると考えられる。 33

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分析アプローチ 推計方法 2 中年期の経済状況が 高年期のファイナンシャルウェルビーイングに与える影響 順序ロジットモデル 𝑌𝑖𝑡 = 𝛼0 + 𝛼1 𝑋𝑖𝑡 + 𝛼2 𝑃𝑖𝑡 + 𝐹𝑖𝑡 + 𝜀𝑖𝑡 説明変数 被説明変数 高年期(40代以降)のFW指標 中年期(30-40歳)の貯金額・所得 額・負債額・有価証券額・消費支出 額・貯蓄率・リスク資産比率・負債 比率 コントロール変数 ◆ 結婚ダミー ◆ 子持ちダミー ◆ 離婚ダミー ◆ 学歴 ◆ 就労時間 ◆ 残業時間 ◆ 年次有給取得日数 ◆ 男性ダミー ◆ 就業形態 34

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分析アプローチ 推計方法 3 仮説 若年期の行動や資産形成が 高年期のファイナンシャルウェルビーイングに与える影響 中年期に貯蓄(資産)を多くしている人は高年期のFWが高い。 順序ロジットモデル 𝑌𝑖𝑡 = 𝛼0 + 𝛼1 𝑋𝑖𝑡 + 𝑋𝑖𝑡 + 𝜀𝑖𝑡 Paul(2009)は、現役時代における積極的な貯蓄習慣が、老後の経済的な安定を強く支える ため、若い頃から資産を計画的に形成する人々は、退職後の貧困リスクを回避する確率が 高まることを確認している。このため、中年期の貯蓄行動は高年期のファイナンシャル 説明変数 ウェルビーイングを高めていると予想する。なお、中年期の負債額については、投資とし 被説明変数 コントロール変数 ての借入であれば返済可能性が高いためファイナンシャルウェルビーイングに影響は大き 若年期の く与えない と想定する。 高年期のFW指標 FW・貯金額・保有財産の種類・ 負債比率 35

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分析アプローチ 推計方法 3 経済状況が精神的健康に与える影響 変量効果モデル 𝒀𝒊𝒕 = 𝜶𝟎 + 𝜶𝟏 𝑿𝒊𝒕 + 𝜶𝟐 𝑿𝒊𝒕 + (𝑭𝒊 + 𝜺𝒊𝒕 ) 被説明変数 ◆ GHQ-12スコア 説明変数 ◆ FW指標 ◆ 貯金額 ◆ 負債額 ◆ 年間消費額 ◆ リスク資産保有ダミー コントロール変数 ◆ 家族構成 ◆ 学歴 ◆ 労働時間 ◆ 性別 ◆ 就業形態 ◆ 年齢 固有効果 時間によって 変わらない 個々人の固有効果 36

37.

分析アプローチ ①ファイナンシャルウェルビーイングが高い人ほど精神的健康は良い 推計方法 2 経済状況が精神的・身体的健康に与える影響 大風(2022)が資産形成行動はメンタルヘルスや生きがいを高めること 、Ekici and Koydemir,(2014) は将来の収入予測とメンタルヘルスには関係があること を明らかにしている。資産形成行動をした という前提でファイナンシャルウェルビーイングが高い人は、ファイナンシャルウェルビーイング か低い人に比べ相対的に資産形成行動をしていると考えられるため、精神的健康は良好であると予 想 できる。 変量効果モデル 被説明変数 𝒀𝒊𝒕 = 𝜶𝟎 + 𝜶𝟏 𝑿𝒊𝒕 + 𝜶𝟐 𝑿𝒊𝒕 + (𝑭𝒊 + 𝜺𝒊𝒕 ) ②年齢階層によって、ファイナンシャルウェルビーイングの高さ、資 産形成がどのようにメンタルヘルスに影響するかも異なる 説明変数 コントロール変数 固有効果 時間によって 60代以上 ◆ FW指標 20代・30代 ◆ 家族構成 変わらない ◆ GHQ-12スコア FWのメンタルヘルスへの寄 ◆ 貯金額 仕事におけるキャリアが初期 ◆ 学歴 40代・50代 与度は低下する。 個々人の固有効果 段階である若年層は経済的安 ◆ 負債額 若年層ほど強くはないが、 ◆ 労働時間 →年金や資産の蓄積が家計の 定性の確保が大きなストレス ◆ 年間消費額 FWの高さはメンタルヘルスを ◆ 性別 経済的安定をもたらしている の一因になっているため、FW 良くする。 ◆ リスク資産保有ダミー ◆ 就業形態 こと、健康や社会的孤立と を高めることはメンタルヘル →Lusardi et al.(2017) ◆ 年齢 いった非経済的要因がメンタ スの改善につながる。 ルヘルスに影響を与える。 →Ryu and Fan(2022) 37

38.

利用データ・変数 利用データ・変数 日本家計パネル調査(JHPS/KHPS) 調査対象 JHPS:20歳以上の男女 KHPS:20~69歳の男女 対象時期 KHPS:2012~2016 JHPS:2014~2016 調査対象者とその家計のデータを使用 38

39.

背景・問題意識 ファイナンシャルウェルビーイングの定義 アメリカ消費者金融保護局 (CFPB) 「現在および継続的に経済的義務 を果たすことができ、経済的安心 を将来に感じることができ、 人生を楽しむための 選択ができる状態である」 イギリス労働年金省(MaPS) 「個人が、経済的な健全性を 確保し、将来に向けて安心を 感じている状態」 OECD(2022) 「客観的および主観的な要因に 基づいて、自分の現在および将来 の財政を管理し、安全であると 感じ、自由を持つことを指す」 本論文においては 「主観的に、現在においても将来においても経済的安心感を持っている状態」 と定義する。 39

40.

利用データ・変数 変数説明(ファイナンシャルウェルビーイング指標) 【ファイナンシャルウェルビーイングの定義】 「主観的に、現在においても将来においても経済的安心感を持っている状態」 家計の経済状況が... 現在 将来 かつ 40

41.

利用データ・変数 変数説明(ファイナンシャルウェルビーイング指標) そう思う まあまそう思う どちらともいえ ない あまりそう思わ ない そう思わない 5 4 3 2 1 値が大きい方がFWが高いという順序変数として扱う 41

42.

利用データ・変数 変数説明(金融リテラシーダミー) Fernandes&Netemeyer (2014) 情報取得媒体 ダミー 1~6 1 7 0 金融教育は個人の金融知識を短期的に向上させるが、長時間経過 するとほとんど影響がない。行動変化まで至るには繰り返しの学 習や実践が重要である。 金融リテラシーは短期間ではほとんど変わらない 本論文では、2017年のデータを対象期間にそれぞれ適用する。 42

43.

利用データ・変数 変数説明(その他) • GHQ-12 精神状態に関する12個の質問項目の回答の数値を合計したもの。 数値が大きいほどメンタルヘルスが悪いことを示している。 • リスク資産保有ダミー 株や信託を含む証券などリスク資産を保有していれば1を取るダミー 変数 • 負債ダミー 家計に負債(借金)があれば1を取るダミー *住宅や自動車のローンは含まない 43

44.

利用データ・変数 基本統計量 ◼ FW指標:平均1.99 (min0、max5) ◼ GHQ :平均が25.50であり、回答者のメン タルヘルス状態は中程度で分布 ◼ 世帯所得 :平均657.18万円 ◼ 金融リテラシー :全体の51% が金融リテラ シーがある。 ◼ 預貯金額 :平均764.12万円 ◼ 負債額:平均1,215.64万円 ◼ 消費支出額:平均278.94万円 44

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目次 ① 背景・問題意識 ② 先行研究 ③ 分析アプローチ ④ 分析結果 ⑤ 終わりに

46.

分析 分析の流れ 1 ファイナンシャルウェルビーイングの規定要因 2 中年期の経済状況が 高年期のファイナンシャルウェルビーイングに与える影響 3 経済状況が精神的健康に与える影響 46

47.

分析アプローチ 推計方法 仮説 FWを高める規定要因 1 1)金融リテラシーが高い人、リスク資産を保有している人はファイナン シャルウェルビーイングが高い 順序ロジットモデル 𝑌𝑖𝑡 = Soyeon 𝛼0 +shim 𝛼1 𝑋et𝑖𝑡al.(2009) + 𝑋𝑖𝑡 + 𝜀𝑖𝑡 アメリカでは、金融リテラシーが高い人はファイナンシャルウェ ルビーイングが高いことや、金融リテラシーが高い人はリスク資 説明変数 コントロール変数 産保有傾向が高いことが報告されている。 ◆ 金融リテラシーダミー ◆ 貯金額 被説明変数 ◆ 家族構成 ◆ 有価証券保有額 ◆ 学歴 ◆ 所得 ◆ 借金 ◆ FW指標 ◆ 労働時間 ◆ 年間消費額 ◆ 性別 リスク資産保有が家計の資産選択において、主流な選択 ◆ リスク資産保有ダミー ◆ 就業形態 の一つになっている日本においても同様の傾向がある ◆ 年齢ダミー 47

48.

分析アプローチ 仮説(再掲) 推計方法 2)年齢階層で直面するライフイベントやリスク、金融資産管理能力 が異なるため、FWに影響を与える要因も異なる。 FWを高める規定要因 1 20代、30代 若年層は結婚や出産といったライフイベントやそれに伴う教育費などが必要であることから、近い将来に 順序ロジットモデル 現金が必要であるため、預貯金額がFWに影響を与えると考えられる。また、定年まで長く、借金をして自 𝑖𝑡 0 1 𝑖𝑡 𝑖𝑡 𝑖𝑡 宅や車を購入しても返済可能性が高いことを理由に、若年層は中高年期に比べて、負債比率の高さがFWに 影響を与えないと考えられる。 𝑌 =𝛼 +𝛼 𝑋 +𝑋 +𝜀 40代、50代 説明変数 コントロール変数 多額の現金が必要な結婚や出産、子育てなどのライフイベントが少ないことや、Agarwal et al. (2009)の ◆ 金融リテラシーダミー 研究から金融資産の管理能力は50代でピークになることが明らかになっており、老後に向けての資産形成 ◆ 貯金額 被説明変数 ◆ 家族構成 ◆ 有価証券保有額 に目を向け、預貯金だけでなくリスク資産等にも分散させて資産形成を行っていくと考えられる。 ◆ 学歴 ◆ 所得 →中年層では預貯金額、リスク資産額、リスク資産比率がFWに影響を与えると予想される ◆ FW指標 ◆ 借金 ◆ 労働時間 ◆ 年間消費額 ◆ 性別 60代以上 ◆ リスク資産保有ダミー 定年後の生活資金を公的年金に依存せざるを得ず、不安感が強いことが大塚・谷口(2022)の研究で示され ◆ 就業形態 ◆ 年齢ダミー ており、医療費のための現金が必要という点からも預貯金額がFWを高める要因であると考えられる。 48

49.

分析結果 推計① 予備的分析(ファイナンシャルウェルビーイングの規定要因) (注)低中高の区分は、データの三分位数に基づき分類したものである。サンプル全体を3等分し、下位を『低』、中位を『中』、上位を『高』と定義している。 所得と貯金額は右上がりの関係がありFWを高める一方で、 借金額の違いによるFWの違いは見られない。 年齢とFWの関係をみると、40代まで低下しその後は増加傾向にあることが見て取れる。 49

50.

分析結果 推計① 分析結果 50

51.

分析結果 推計① 分析結果 全年代共通 所得額、預貯金額が正に有意である。 →所得と預貯金額を増やすことで ファイナンシャルウェルビーイングが 高まる 51

52.

分析結果 推計① 分析結果 全サンプル 金融リテラシーダミー、所得額、預貯金額、証券額が正に有意である。 →金融リテラシーを身につける、所得を増加させる、預貯金額を増や す、保有証券額を増やすことでファイナンシャルウェルビーイングが 高まる。(仮説1と整合的) 一方で、消費支出額、リスク資産比率、負債比率が負に有意である →消費が増える、保有財産におけるリスク資産比率を増やす、資産に 対する負債の比率が高まると、ファイナンシャルウェルビーイングが 低下する。 52

53.

分析結果 推計① 分析結果 全サンプル (1)列 リスク資産比率の係数は負に有意 リスク資産である証券額の係数は正に有意 リスク資産を持つことはFWに正の影響を与えるが、財産においてリス ク資産比率が高まるとFWには負の影響が生まれてしまうと言える。 →リスク資産を持つことは将来への安心感につながりFWを高めるが、 預貯金額よりも保有するリスク資産額が多くなってしまうとFWを下げ る要因になってしまうため、リスク資産を預貯金額を超えない範囲で 保有し資産形成をしていくことがFWの向上につながると考えられる。 53

54.

分析結果 推計① 分析結果 20代・30代 金融リテラシーダミー 、所得、預貯金額、負債額が 正に有意である。 →金融リテラシーを身につける、所得を増加させる、 預貯金額を増やす、負債額を増やすことでファイナン シャルウェルビーイングが高まる。(仮説1と整合的) 54

55.

分析結果 推計① 分析結果 40代・50代 所得、預貯金額、証券額で正に有意である。 →所得を増やす、預貯金額を増やす、保有証券額を 増やすことでファイナンシャルウェルビーイングが 高まる(仮説1と整合的) 一方で、消費支出額と負債比率は負に有意である。 →消費額が増える、資産に対する負債比率が高まる とファイナンシャルウェルビーイングが低下する 55

56.

分析結果 推計① 分析結果 60代 所得額、預貯金額、証券額が 正に有意である。 →所得を増やす、預貯金額を増や す、保有証券額を増やすことで ファイナンシャルウェルビーイン グが高まる (仮説1と整合的) 56

57.

分析結果 推計① 分析結果 推計1 まとめ 60代 全年齢と若年期においては金融リテラシーが高い人はFWが高くなる。 所得額、預貯金額、証券額が正に有意 →仮説と合致 である。 全サンプル、40代・50代、60代においては証券額が正に有意。一方で、全サンプルでは リスク資産比率が負に有意であることから、預貯金額とのバランスで証券額を増やしすぎ ないことが重要である。 →仮説と合致 仮説との整合性 20,30代の預貯金額、40代・50代の預貯金額・リスク資産額、60代の預貯金額は FWに正の影響を与える。→仮説と合致 40代、50代のリスク資産比率では有意な結果が得られなかった。 →仮説は検証できなかった 57

58.

分析アプローチ 分析の流れ 1 ファイナンシャルウェルビーイングを高める規定要因 2 中年期の経済状況が 高年期のファイナンシャルウェルビーイングに与える影響 3 経済状況が精神的健康に与える影響 58

59.

分析アプローチ 推計方法 3 仮説(再掲) 若年期の行動や資産形成が 高年期のファイナンシャルウェルビーイングに与える影響 中年期に貯蓄(資産)を多くしている人は高年期のFWが高い。 順序ロジットモデル 𝑌𝑖𝑡 = 𝛼0 + 𝛼1 𝑋𝑖𝑡 + 𝑋𝑖𝑡 + 𝜀𝑖𝑡 Paul(2009)は、現役時代における積極的な貯蓄習慣が、老後の経済的な安定を強く支える ため、現役時代から資産を計画的に形成する人々は、退職後の貧困リスクを回避する確率 が高まることを確認している。このため、中年期の貯蓄行動は高年期のファイナンシャル 説明変数 ウェルビーイングを高めていると予想する。なお、中年期の負債額については、投資とし 被説明変数 コントロール変数 ての借入であれば返済可能性が高いためファイナンシャルウェルビーイングに影響は大き 若年期の く与えない と想定する。 高年期のFW指標 FW・貯金額・保有財産の種類・ 負債比率 59

60.

分析結果 推計② 予備的分析(中年期の経済状況が高年期のFWに与える影響) (注)低中高の区分は、データの三分位数に基づき分類したものである。サンプル全体を3等分し、下位を『低』、中位を『中』、 上位を『高』と定義している。 中年期の貯金、所得、負債額、有価証券額、消費支出額は 高年期のファイナンシャルウェルビーイングに正の影響を与える。ただし、消費支出額は仮説 と逆の関係である。 60

61.

分析結果 推計② 結果(中年期行動がその後のFWに与える影響) 全体 • 中年期の貯金額、所得額、有価証券額、貯蓄率の係数は それぞれ0.0007、0.00108、0,000499で正に有意 • 中年期の消費支出額の係数は-0.00109で負に有意 男性 • • 中年期の預貯金額、所得額、貯蓄率の係数が正に有意 消費支出額、リスク資産比率の係数は負に有意 女性 • • 中年期の預貯金額、所得額、有価証券額の係数は正に有 意 中年期の負債比率の係数は負に有意 61

62.

分析結果 推計② 暫定結果(若年期行動がその後のFWに与える影響) 全体 推計2 まとめ 若年期の貯金額、若年期の証券額で正に有意である。 男女問わず中年期の預貯金額、所得額、 男性 貯蓄率を高める行動あるいは、消費支出額を抑える行動は、 その後の高年期のファイナンシャルウェルビーイングを高める。 若年期の貯金額のみで正に有意である。 →仮説と合致 女性 若年期の貯金額のみで正に有意である。 62

63.

分析アプローチ 分析の流れ 1 ファイナンシャルウェルビーイングを高める規定要因 2 若年期の行動や資産形成が その後のファイナンシャルウェルビーイングに与える影響 3 経済状況が精神的健康に与える影響 63

64.

分析アプローチ ①ファイナンシャルウェルビーイングが高い人ほど精神的健康は良い 推計方法 大風(2022)が資産形成行動はメンタルヘルスや生きがいを高めること 、Ekici and Koydemir,(2014) は将来の収入予測とメンタルヘルスには関係があること を明らかにしている。資産形成行動をした という前提でファイナンシャルウェルビーイングが高い人は、ファイナンシャルウェルビーイング か低い人に比べ相対的に資産形成行動をしていると考えられるため、精神的健康は良好であると予 想 できる。 2 経済状況が精神的・身体的健康に与える影響 変量効果モデル 被説明変数 𝒀𝒊𝒕 = 𝜶𝟎 + 𝜶𝟏 𝑿𝒊𝒕 + 𝜶𝟐 𝑿𝒊𝒕 + (𝑭𝒊 + 𝜺𝒊𝒕 ) ②年齢階層によって、ファイナンシャルウェルビーイングの高さ、資 産形成がどのようにメンタルヘルスに影響するかも異なる 説明変数 コントロール変数 固有効果 時間によって 60代以上 ◆ FW指標 20代・30代 ◆ 家族構成 変わらない ◆ GHQ-12スコア FWのメンタルヘルスへの寄 ◆ 貯金額 仕事におけるキャリアが初期 ◆ 学歴 40代・50代 与度は低下する。 個々人の固有効果 段階である若年層は経済的安 ◆ 負債額 若年層ほど強くはないが、 ◆ 労働時間 →年金や資産の蓄積が家計の 定性の確保が大きなストレス ◆ 年間消費額 FWの高さはメンタルヘルスを ◆ 性別 経済的安定をもたらしている の一因になっているため、FW 良くする。 ◆ リスク資産保有ダミー ◆ 就業形態 こと、健康や社会的孤立と を高めることはメンタルヘル →Lusardi et al.(2017) ◆ 年齢 いった非経済的要因がメンタ スの改善につながる。 ルヘルスに影響を与える。 →Ryu and Fan(2022) 64

65.

分析結果 推計③ 予備的分析(経済状況が精神的健康に与える影響) ファイナンシャルウェルビーイングが高い人 貯蓄額が高い人 借金額が高い人ほど リスク資産を保有している人 ほど、GHQ-12のスコアが低い =精神状態が良好であるといえる 65

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分析結果 推計③ 暫定結果 66

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分析結果 推計③ 暫定結果(経済状況が精神的健康に与える影響) 20代・30代 ・消費支出額が正に有意 →消費支出が増加するとメンタルヘルスが悪くなる 。 40代 ・FWが正に有意 →FWが高まるほどメンタルヘルスは良くなる。 (仮説と合致) 60代 ハウスマン検定の結果、固定効果モデルが採択された。 リスク資産比率が負に有意 →リスク資産額が預貯金額よりも多くなるとメンタルヘル スは良くなる 。 67

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分析結果 推計3結果まとめ 推計③ 暫定結果(経済状況が精神的健康に与える影響) 20代・30代 20代・30代 消費支出の増加がメンタルヘルスを悪化させる ・消費支出額が正に有意 →経済的安定性には消費支出を抑えることが重要 →消費支出が増加するとメンタルヘルスが悪くなる 。 40代 40代 ファイナンシャルウェルビーイングの高さがメンタ ・FWが正に有意 ルヘルスを改善する。→仮説と一致 →FWが高まるほどメンタルヘルスは良くなる。 家計の保有する資産額よりも負債額が増加するほど (仮説と合致) メンタルヘルスは悪化する 仮説と不一致 60代 60代 リスク資産比率が負に有意 リスク資産額が預貯金額よりも多くなるとメンタル ハウスマン検定の結果、固定効果モデルが採択され →リスク資産額が預貯金額よりも多くなるとメンタルヘル ヘルスは改善する。 た。 スは良くなる 。 68

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目次 ① 背景・問題意識 ② 先行研究 ③ 分析アプローチ ④ 分析結果 ⑤ 終わりに

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分析結果概要 【推計①】 所得額、預貯金額は年代を問わずファイナンシャルウェルビーイングに正の影響を与えていることが 明らかになった。さらに若年期では金融リテラシーと負債額、中高年期では保有証券額が正の影響を 与えていることが示された。 一方で、中年期では負債比率が負の影響を与えていることが明らかになった。 【推計②】 中年期の預貯金額、所得額、有価証券額、所得に占める貯金の割合は高年期ファイナンシャルウェル ビーイングに正の影響を与えること、一方で、中年期の消費支出額、女性においては貯蓄に占める負 債比率が高年期のファイナンシャルウェルビーイングに負の影響を与えている 【推計③】 ファイナンシャルウェルビーイングの向上や預貯金額に占めるリスク資産割合の増加はメンタルヘル スに正の影響を与えることが明らかになった。一方で、消費支出額の増加や貯蓄に占める負債比率の 増加はメンタルヘルスの悪化につながることが示された。 70

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分析結果概要 【推計①】 以上を踏まえると、 所得額、預貯金額は年代を問わずファイナンシャルウェルビーイングに正の影響を与えていることが 明らかになった。さらに若年期では金融リテラシーと負債額、中高年期では保有証券額が正の影響を 与えていることが示された。 人生におけるファイナンシャルウェルビーイングを高めるためには 一方で、中年期では負債比率が負の影響を与えていることが明らかになった。 所得額、預貯金額、有価証券額を増加させることや 金融リテラシーを身につけることが重要であると言える。 【推計②】 中年期の預貯金額、所得額、有価証券額、所得に占める貯金の割合は高年期ファイナンシャルウェル さらに、老後に向けては中年期から資産形成を始め、消費支出額を抑え ビーイングに正の影響を与えること、一方で、中年期の消費支出額、女性においては貯蓄に占める負 預貯金額を増加させる(貯蓄率を上昇させる)べきであると言える。 債比率が高年期のファイナンシャルウェルビーイングに負の影響を与えている 資産形成に伴うファイナンシャルウェルビーイングの向上や 【推計③】 消費支出額を抑えることはメンタルヘルスの良好さにも寄与するため、 ファイナンシャルウェルビーイングの向上や預貯金額に占めるリスク資産割合の増加はメンタルヘル スに正の影響を与えることが明らかになった。一方で、消費支出額の増加や貯蓄に占める負債比率の 精神的健康の面からも資産形成は重要であると言える。 増加はメンタルヘルスの悪化につながることが示された。 71

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懸念点 懸念点 • ファイナンシャルウェルビーイング指標として利用した質問項目の調査 年度が2012年から2016年と短い点 長期的なデータによる分析ができていない。 • 金融リテラシーダミーの妥当性 金融リテラシーは短期的には変化しないとし、調査期間中は一年度のデータをその他の年度に当て はめているが、正確に反映できているか。 • リスク資産比率の変数の解釈、作成方法(推計3) 1. 推計1ではリスク資産比率を高めるとFWが低下するという結果が得られた一方で、推計3の60 代の推計ではリスク資産比率を高めるとメンタルヘルスが良くなる結果である。 2. ボラティリティの高いリスク資産を多く持つことがメンタルヘルスをよくするという解釈は考え にくく、仮説とは一致していない。 72

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参考文献
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ご静聴ありがとうございました。 76