2024卒業論文_森甚晟

>100 Views

February 19, 25

スライド概要

本研究では、急増する国内フリーランス人口の背景や参入者の特徴を分析します。フリーランスは、働き方の自由度や快適な労働条件を重視する一方で、収入の不安定さという課題も抱えています。具体的には、同一労働者が会社員からフリーランスに移行することで、収入が低下する可能性とウェルビーイングの向上とのトレードオフの関係を検討します。また、フリーランス労働環境の改善に向けた方策の考察も目的としています。

profile-image

慶應義塾大学商学部商学科山本勲研究会 ホームページ: https://www.yamazemi.info Instagram: https://www.instagram.com/yamazemi2024

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

フリーランスの働き方の実証分析 -参入・退出要因と参入前後の労働・生活の質の変化- 17期 森甚晟 1

2.

01 はじめに 02 先行研究 outline 03 分析アプローチ 04 分析結果 05 おわりに 2

3.

01 はじめに 02 先行研究 outline 03 分析アプローチ 04 分析結果 05 おわりに 3

4.

はじめに フリーランスとは? フリーランスの定義は公式のものはないが、 フリーランスの概念を働き方の特徴でとらえた『フリーランス白 書 2018』によれば、 「特定の企業や団体,組織に専従しない独立した形態で,自身 の専門知識やスキルを提供して対価を得る人」 を雇用によらない働き方と定義している。 本研究では、上記をフリーランスと捉え、分析を行う。 4

5.

はじめに 国内フリーランス人口は急増している 図1:フリーランス人口・市場の拡大 ①フリーランス人口・参入者の拡大 Lancersによるフリーランスの人口調査 では、2021年10月時点で1,577万人と、 調査を開始した2015年と比較し、人口 は約640万人増加。 (出典:『新・フリーランス実態調査 20212022年版』、Lancers) 5

6.

はじめに フリーランス参入の背景①:構造的な背景 ①クラウドソーシングの拡大 ②副業の解禁 インターネットを通じた仕事の仲介事業 であるクラウドソーシング の拡大により、 オンラインでの仕事の受注は取引コスト を大きく下げ、急速な非雇用就業者の増 大をもたらした。 (Carnell、 2016) 2018年1月に厚生労働省が「副業・兼業の 促進に関するガイドライン」の「モデル就 業規則」上で副業禁止の規定を削除し、副 業・兼業に関する規定を新設したのをきっ かけに、副業を解禁する企業が増えたこと が挙げられる。 上記の要因などにより、フリーランス参入の敷居が低下したことがフリーラ ンス急増の背景にあると考えられる。 6

7.

はじめに フリーランス参入の背景②:働き方の自由度 図2:フリーランス参入のきっかけ 「自由な場所時間で働きた い。」や「自分の裁量で仕事を するため。」といった仕事の自 由度を重視した労働者がフリー ランスに参入しているといえる。 (出典:フリーランス白書2019、フリーランス協会) 7

8.

はじめに フリーランスが直面するトレードオフ このようにフリーランスは自由な働き方として注目されているが..... Pawel (2017)の質的研究によれば、 フリーランスは、自由な場所や時間で働けるといったメリット がある一方で、高賃金になりにくいといったトレードオフに直 面するとされる。 8

9.

はじめに 実際に収入の不安定さが問題となっている 国内におけるフリーランス実 態調査において、 フリーランスとして働く上で の障壁として 「収入が少な い・安定しない」と回答した 者が約6割となっており、 収入の不安定さはフリーラン スが抱える大きな問題の一つ といえる。 出典(内閣官房日本経済再生総合事務局による「フリーランス実態 調査」(2020) 9

10.

背景・問題意識 フリーランス特有のリスク①:収入の不安定さ フリーランスとして働く上 での障壁として「収入が少 こうした収入の不安定さといったフリーランス特有の問題に ない・安定しない」と回答 焦点を当てた実証研究は少ない。 した者が約6割となってお り、収入の不安定さはフ リーランスが抱える大きな 問題の一つといえる。 出典(内閣官房日本経済再生総合事務局による「フリーランス実態 調査」(2020) 10

11.

はじめに 収入の不安定さに関する研究 Popiel(2017) フリーランスは、自由な 場所や時間で働けると いったメリットがある一 方で、高賃金になりにく いといったトレードオフ に直面するとされる。 長松(2021) 玄田(2021) コロナショックにおいて、 フリーランスは他の就業 形態に比べると、収入の 減少がより大きい点に加 えて、その減少の大きさ が持続している。 コロナショックにおいて、 フリーランスの中でも、 専門職や技術職に関して は雇用労働に比べるとよ りテレワークが進んでお り、それらは比較的収入 が減少せずに維持してい るということも分かって いる。 12

12.

背景・問題意識 収入の不安定さに関する研究 玄田(2021) 長松(2021) コロナショックにおいて収入が不安定であったことや高賃金になりにくいことな どが分かっているが、 問題意識①:実際に同一労働者がフリーランスに参入したことで、収入がどう変 新型コロナの影響は、職種によって異なる。特に事業の コロナショックにおいて、フリーランスは他 オンライン化を早急に導入できた自営業者たちは、意外 化するのか に持ちこたえていることが分かっている。また、雇用者 の就業形態に比べると、収入の減少がより大 問題意識②:前職の収入がフリーランスの参入に与える影響 に比べてフリーランス はテレワークの導入が比較的緩や きい点に加えて、その減少の大きさが持続し ている。 かだったということが分かる。フリーランスの中でも、 専門職や技術職に関しては雇用労働に比べるとよりテレ これらは明らかになっていない。 ワークが進んでおり、それらは比較的収入が減少せずに 維持しているということも分かっている。 13

13.

はじめに 補償賃金仮説から導き出される本稿での仮説 補償賃金仮説にによれば、 快適な労働条件を重視する労働者は、賃金が低くても快適な労働 条件の仕事を選び、労働条件をあまり重視しない労働者は、きつ い労働条件でも賃金が高い仕事を選ぶとされる。 14

14.

はじめに 補償賃金仮説から導き出される本稿での仮説 補償賃金仮説にによれば、快適な労働条件を重視する労 本稿での仮説 働者は、賃金が低くても快適な労働条件の仕事を選び、 フリーランスは賃金よりも快適な労働条件を重視する労働者が多いと考えられる 労働条件をあまり重視しない労働者は、きつい労働条件 ため、もともと賃金が低い人や健康状態が悪かった人が快適な労働条件を求めて でも賃金が高い仕事を選ぶとされる。 フリーランスに参入するのではないか。 15

15.

はじめに 収入の不安定さだけでなく、フリーランスのメリットにも着目 石山(2021) フリーランスのワーク・エンゲージメントの 水準は、傾向スコアマッチングで調整したう えで、会社員より高かった。 P.zwan(2020) フリーランスは他の雇用主と賃金労働者と同 様の生活満足度を得るが、余暇と仕事の満足 度については賃金労働者よりも満足度が高い。 フリーランスは会社員に比べてワークエンゲージメントや仕事満足度が高いこと が実証研究でも明らかになっている。 16

16.

背景・問題意識 フリーランス参入のメリットにも注目する 石山(2021) フリーランスは会社員と比べて仕事満足度が高いことなどが分かっているが、 問題意識①:同一労働者が会社員からフリーランスに移行したことで、 フリーランスのワーク・エンゲージメントの ウェルビーイング指標がどう変化するのか 水準は,傾向スコアマッチングで調整したう えで,会社員より高かった。その差異は, 問題意識②:実際に参入後収入が低くなり、ウェルビーイングが高まるといった キャリア自律,専門性,創造性という規定要 フリーランスは他の雇用主と賃金労働者と同 トレードオフの関係が生じているのか(Popielの質的研究) 因が会社員と比べて高いために生じており, 様の生活満足度を得るが、余暇と仕事の満足 規定要因からワーク・エン ゲイジメントに与 度については賃金労働者よりも満足度が高い。 これらは明らかになっていない。 えるメカニズムにフリーランスと雇用者の間 に違いがあるためではなかった。この研究で は副業系フリーランスを含めている。 17

17.

はじめに 本稿で明らかにすること・目的 1 どのような属性・問題をもった労働者がフリーランスに参入するのか、またフリーランスから退 出するのか 2 同一労働者が会社員からフリーランスになったことで収入が低くなり、ウェルビーイングが高ま るといったトレードオフの関係が生じているのか これらを明らかにすることで、 フリーランスが直面するトレードオフを解消し、自由度のある働き方 といったメリットを最大化するための方策を考察し、フリーランス労 働環境の改善に向けた示唆を得ることを目的とする。 18

18.

はじめに 本研究の分析①:フリーランスの参入・退出要因 フリーランスに参入、または退出した際に1をとるダミー変数のそれぞれを 被説明変数とし、時給やウェルビーイング指標(仕事満足度・健康状態)、 個人属性などを説明変数に用いた変量効果プロビットモデルを推計 19

19.

背景・問題意識 本研究の分析①:フリーランスの参入・退出要因 仮説・着目点 ①補償賃金仮説に基づき、フリーランスを選択する労働者は賃金よりも快適な労働 条件を重視する人が多いと考えられるため、前職でもともと賃金が低かった人や健 康状態が悪い人がフリーランスに参入しやすいかどうかを検証する。 フリーランスに参入、または退出した際に1をとるダミー変数のそれぞれを ②先行研究では着目されていなかった個人属性が参入に与える影響にも焦点を当て 被説明変数とし、時給やウェルビーイング指標(仕事満足度・健康状態)、 る。 個人属性などを説明変数に用いた変量効果プロビットモデルを推計 ③参入要因を把握した上で、退出要因に関しても同様の分析を行うことで、会社員 とフリーランスとで退出の構造がどのように異なるのかに注目する。 20

20.

はじめに 本研究の分析③:フリーランスへの参入前後のアウトカムの変化 フリーランス参入前後の賃金、ウェルビーイング、労働時間の変化を把握す るため、ダイナミックDID分析を行う。 分析では、トリートメントグループをフリーランスに参入した人、コント ロールグループを前年の雇用形態を継続している人として、フリーランスの 参入前後の賃金、労働時間、ウェルビーイングの変化について、観察されな い個人の異質性などの労働者固有効果や景気などの年固有効果をコントロー ルしたうえで推計する。 21

21.

背景・問題意識 本研究の分析③:フリーランスへの参入前後のアウトカムの変化 仮説・着目点 フリーランス参入前後の賃金、ウェルビーイング、労働時間の変化を把握するため、ダイ ①実際にフリーランス参入後に収入が減少し、ウェルビーイングが高まるというトレードオフの ナミックDID分析を行う。分析では、トリートメントグループをフリーランスに参入した 関係が生じているのかどうか 人、コントロールグループを前年の雇用形態を継続している人として、フリーランスの参 入前後の賃金、労働時間、ウェルビーイングの変化について、観察されない個人の異質性 ②参入前後で収入や労働時間がどの程度減少するのか などの労働者固有効果や景気などの年固有効果をコントロールしたうえで推計する。 22

22.

はじめに 本研究の独自性 1 先行研究で着目されていなかった個人属性が参入・退出に与える影響を検証する点 2 参入・退出要因についてそれぞれ同様の分析を行うことで会社員とフリーランスとでの退出構造の 違いを検証 3 フリーランス参入前後のアウトカムの変化について、パネルデータを用いてダイナミックDID分析 を行うことで、同一労働者がフリーランスに参入したことによるアウトカムの変化を検証できる点 23

23.

01 はじめに 02 先行研究 outline 03 分析アプローチ 04 分析結果 05 おわりに 24

24.

先行研究 先行研究の分類 1 フリーランスの収入の不安定さに関する研究 2 フリーランスのウェルビーイングに関する研究 3 フリーランスへの参入要因 4 フリーランスからの退出要因 25

25.

先行研究 収入の不安定さに関する研究:直面するトレードオフ Popiel(2017) オンラインマーケットプレイス「Upwork」でフリーランスとして 働く労働者を対象とした事例研究によれば、フリーランスは、仕 事の場所や時間の自由を手に入れるが、高賃金になりにくいと いった大きなトレードオフに直面するとされる。 →ただし、この研究は質的研究である。 26

26.

先行研究 収入の不安定さに関する研究:コロナショックによる影響 玄田(2021) 新型コロナによるフリーランスの収入への影響を 検証し、フリーランスの中でも専門職や技術職の 従事者は雇用労働者に比べるとテレワークが進ん でおり、それらは比較的収入が減少しなかったこ とが分かっている。 長松(2021) 「JILPT新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生 活への影響に関する調査」を用いて、就業形態に よる収入減少への影響を二項ロジスティック分析 により検証し、コロナショックにおいて、フリー ランスは他の就業形態に比べると、収入の減少が より大きいことを示している。 27

27.

先行研究・独自性 収入の不安定さに関する研究:コロナショックによる影響 玄田(2021) 長松(2021) <明らかになっていること> 「JILPT新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生 新型コロナによるフリーランスの収入への影響を 活への影響に関する調査」を用いて、就業形態に 検証し、フリーランスの中でも専門職や技術職の ・質的研究によれば、フリーランスは会社員に比べて収入が不安定である よる収入減少への影響を二項ロジスティック分析 従事者は雇用労働者に比べるとテレワークが進ん により検証し、コロナショックにおいて、フリー でおり、それらは比較的収入が減少しなかったこ ・新型コロナウイルスなどのショックによる収入減少への影響が大きい ランスは他の就業形態に比べると、収入の減少が とが分かっている。 より大きいことを示している。 28

28.

先行研究 ウェルビーイングに関する研究 石山(2021) P.zwan(2020) 『フリーランス白書 2019』を作成するためにフ リーランス協会が行った WEB上の質問紙調査を用 いて、フリーランスと会社員のワークエンゲージ メント水準の差の検定を行った結果、傾向スコア マッチングで調整したうえで、フリーランスの ワークエンゲージメントは会社員よりも高く、そ の差異は、キャリア志向や創造性、専門性といっ た規定要因が会社員と比べて高いために生じてい ることを示している。 イギリスの家庭を追跡調査した縦断データである 「Understanding Society」を使用し、フリーラ ンスと他の雇用形態とのウェルビーイングの違い を固定効果モデルで検証した結果、フリーランス は他の雇用形態と同様の生活満足を得るが、余暇 と仕事の満足度については会社員よりも満足度が 高いことが示唆された。 29

29.

先行研究 ウェルビーイングに関する研究 Davis et al.(2014) ロシアのインターネット上で仕事を行うフリーランスである6,009人から 得たデータを用いて、JD-Rモデル(仕事の要求度-資源モデル)に基づき、 仕事の要求度と仕事の資源のそれぞれがワークライフバランスの満足度に 与える影響を重回帰分析で検証した結果、労働時間が長いほど満足度が低 いことがわかり、フリーランスにおいてもJD-Rモデルがあてはまる可能 性があることを明らかにした。 30

30.

先行研究・独自性 ウェルビーイングに関する研究 Davis et al.(2014) <明らかになっていること> ・仕事に関するウェルビーイング指標のスコアが他の就業形態に比べて高い ロシアのインターネット上で仕事を行うフリーランスである6,009人から ・ワークエンゲージメントを高める要因として会社員とどうようにJD-Rモデル 得たデータを用いて、JD-Rモデル(仕事の要求度-資源モデル)に基づき、 が機能している。 仕事の要求度と仕事の資源のそれぞれがワークライフバランスの満足度に 与える影響を重回帰分析で検証した結果、労働時間が長いほど満足度が低 <明らかになっていないこと> いことがわかり、フリーランスにおいてもJD-Rモデルがあてはまる可能 ・同一労働者がフリーランスに参入したことでウェルビーイングが高まるか 性があることを明らかにした。 ・前職のウェルビーイングがフリーランスの参入に与える影響 31

31.

先行研究 フリーランスの参入要因 Riyono and Usman(2022) 情報技術分野で少なくとも2年間フリーラ ンスであった6人にインタビューを行い、 収集したデータを用いて質的研究を行っ た結果、自由な働き方、学習の機会、経 済的安定、家族との時間、人生の充実感 が、フリーランスとして働く動機となっ ていることが明らかになっている。 小前(2023) 「全国就業実態パネル調査」を用いて、フリーラ ンスの参入要因をプロビットモデルで分析した結 果、女性では時給が高いほど翌年のフリーランス への参入確率が低下することが示された。 32

32.

先行研究 フリーランスからの継続要因 玄田(2021) フリーランスの継続要因に関してプロビットモデルを用いて分析し、男性に 比べ女性の方が、継続率が低いことや年収が300万円未満だった人よりも300 ~500万円であった人の方が、継続率が高かったことが示唆されている。 33

33.

先行研究・独自性 フリーランスからの継続要因 <明らかになっていること> 玄田(2021) ・女性においては、前職時給が低い人ほどフリーランスに参入しやすい ・比較的年収が高い方がフリーランスを退出しにくい <明らかになっていないこと> フリーランスの継続要因に関してプロビットモデルを用いて分析し、男性に 比べ女性の方が、継続率が低いことや年収が300万円未満だった人よりも300 ・個人属性や前職のウェルビーイングがフリーランスへの参入に与える影響 ~500万円であった人の方が、継続率が高かったことが示唆されている。 ・特に、男性におけるフリーランスに参入する要因は何か ・会社員とフリーランスとでの退出要因の違い 34

34.

01 はじめに 02 先行研究 outline 03 分析アプローチ 04 分析結果 05 おわりに 35

35.

分析アプローチ 推計方法①:フリーランスの参入要因 使用モデル:変量効果プロビットモデル 𝑷𝒓 𝑬𝒏𝒊𝒕 = 𝑭(𝜶𝟎 + 𝜶𝟏 𝑾𝒊𝒕−𝟏 + 𝜶𝟐 𝑾𝑺𝒊𝒕−𝟏 + 𝒂𝟑 𝑯𝒊𝒕−𝟏 + 𝒂𝟒 𝑿𝒊𝒕 + 𝑭𝒊 + 𝜺𝒊𝒕 ) 被説明変数:𝑬𝒏𝒊𝒕 (フリーランスへの参入ダミー) 説明変数 :𝑾𝒊𝒕−𝟏(前職の時給)、𝑾𝑺𝒊𝒕−𝟏 (前職の仕事満足度)、 𝑯𝒊𝒕−𝟏 (前職の健康状態) コントロール変数: 𝑿𝒊𝒕 (男性ダミー、既婚ダミー、子供ありダミー、学歴ダミーなどの個人属性や産業ダミー や職種ダミー、年ダミー) 固有効果: 𝑭𝒊 誤差項: 𝜺𝒊𝒕 36

36.

分析アプローチ 推計方法①:フリーランスの退出要因 使用モデル:変量効果プロビットモデル 𝑷𝒓 𝑬𝒙𝒊𝒕+𝟏 = 𝑭 𝜶𝟎 + 𝜶𝟏 𝑾𝒊𝒕 + 𝜶𝟐 𝑾𝑺𝒊𝒕 + 𝒂𝟑 𝑯𝒊𝒕 + 𝒂𝟒 𝑿𝒊𝒕 + 𝑭𝒊 + 𝜺𝒊𝒕 被説明変数:𝑬𝒙𝒊𝒕+𝟏 (フリーランスからの退出ダミー) 説明変数 :𝑾𝒊𝒕 (時給)、𝑾𝑺𝒊𝒕 (仕事満足度)、𝑯𝒊𝒕 (健康状態) コントロール変数: 𝑿𝒊 (男性ダミー、既婚ダミー、子供ありダミー、学歴ダミーなどの個人属性や産業ダミーや 職種ダミー、年ダミー) 固有効果: 𝑭𝒊 誤差項: 𝜺𝒊𝒕 37

37.

分析アプローチ 推計方法②:フリーランス参入前後のアウトカムの変化 分析手法:傾向スコアマッチング・ダイナミックDID分析 𝒀𝒊𝒕 = ෍ 𝜷𝒋 𝟏 𝒕 − 𝒄𝒐𝒏𝒗𝒆𝒓𝒕𝒚𝒆𝒂𝒓𝒊 = 𝒋 + 𝜶𝒊 + 𝝀𝒕 + 𝒂𝟏 𝑿𝒊𝒕 + 𝜺𝒊𝒕 𝒋≠−𝟏 𝒀𝒊𝒕 はiのt時点における、ウェルビーイング、賃金、週平均労働時間などのアウトカム変数、 𝟙(𝑨)は𝑨が真であるならば𝟏をとるダミー変数、𝒄𝒐𝒏𝒗𝒆𝒓𝒕𝒚𝒆𝒂𝒓𝒊 はiがフリーランスに参入した年、 𝑭𝒊 は個人固有効果、 𝝀𝒕 は時間固有効果、 𝑿𝒊𝒕 はコントロール変数、 𝜺𝒊𝒕 は誤差項である。 38

38.

分析アプローチ 推計方法②:処置群と対照群の属性差を考慮する(傾向スコアマッチング) フリーランスに参入する人とそうでない人とでは属性に大きな差があると考えられる。こ れを考慮するために、傾向マッチングを行い、サンプルを絞る。 処置群(フリーランス参入者) 99 62 対照群(他の就業形態を継続) 58 3 -43 32 8 -21 マッチング 具体的には、他の就業形態を継続する労働者とフリーランスに参入する労働者の間で差異があると考え られる個人属性、学歴、産業、職種を共変量として傾向スコアを設定し、そのうえで他の就業形態を継 続しているものとフリーランスに参入したものから 1 対ずつ傾向スコアが近接しているペアをマッチン グする最近傍マッチングを行う。 39

39.

分析アプローチ 使用データ 全国就業実態パネル調査(JPSED)—リクルートワークス研究所 <調査目的> 調査前年1年間の個人の就業 状態、所得、生活実態などを、 毎年追跡して調査を行い、全 国の就業・非就業の実態とそ の変化を明らかにする。 <調査対象> 全国15歳以上の男女 <調査時期> 2016年~2023年 ・本稿では、雇用労働者と同様の労働市場を仮定し、分析を行いたいた め20歳以上59歳以下の男女に限定。 ・フリーランスを特定できるのが2018年からのため、2018~2023の データを使用。 40

40.

分析アプローチ フリーランスの定義 フリーランスの定義は、 1 雇人のいない自営業主あるいは内職 2 実店舗をもたない 3 農林漁業 (産業)に従事しない就業者 上記の3つの条件を満たしている労働者をフリーランスとして、 フリーランス参入・退出を示す変数を作成する。 42

41.

分析アプローチ 変数説明:フリーランス参入・退出ダミー 参入ダミー 雇用労働者からフリーランスに参入したものを1、 それ以外を0とするダミー変数をフリーランスの参入を示す変数 退出ダミー 翌年にフリーランス以外の就業形態に移行した場合に1、フリーランスを継続している場合に0を とるダミー変数をフリーランスの退出を示す変数 43

42.

分析アプローチ 変数説明:時給、年収の使い分けに関して フリーランスは雇用労働者に比べて、労働時間が短いために時給が高くなってしまうことが考えられる。フ リーランス時における賃金が過大評価されてしまう可能性を防ぐために、フリーランス参入前後の賃金の変化 の分析に関しては、年収を被説明変数として用いる。フリーランスへの参入要因分析などで用いる前職の賃金 に関しては、すべて雇用労働者のデータのため時給を用いる。時給の算出式は以下のとおりである。 年収 時給= 年間労働時間(残業を含めた週労働時間×365÷7) 44

43.

分析アプローチ 変数説明:仕事満足度 仕事満足度に関する8つの項 目の平均値を仕事満足度とし て使用する。 45

44.

分析アプローチ 変数説明:ストレス指標 健康状態に関する8つの項目 の平均値をストレス指標とす る。値が大きいほど健康状態 が良いことを示す。 46

45.

基本統計量 47

46.

基本統計量(アウトカム変数) ・フリーランスの時給は全体サンプルよ りも高く、対して年収は全サンプルより も低く、正社員よりも約180万低いことが 分かる。 ・労働時間は全サンプルよりも約10時間 短いことが分かる。 ・仕事満足度、ストレス指標(健康状 態)に関しては、いずれも大きな違いは みられなかった。 これらの結果により、フリーランスは他の就業形態に比べ、 短い時間で効率的に働けているが収入は不安定である可能 性があるとわかる。 48

47.

基本統計量(個人属性) フリーランスの既婚者の割合は約48%、子持ち の割合は約40%と正社員などの他の就業形態に 比べ、割合が低いことがわかる。 このことから、フリーランスは収入が不安定であるために 家庭を持つ労働者は参入しにくい可能性が示唆される。 49

48.

フリーランス参入者・退出者数の推移 50

49.

01 はじめに 02 先行研究 outline 03 分析アプローチ 04 分析結果 05 おわりに 51

50.

分析結果 分析の流れ Step1 フリーランスの参入・退出要因 Step2 フリーランスへの参入前後のウェルビーイング、賃金、労働時間の変化 52

51.

分析結果 分析の流れ Step1 フリーランスの参入・退出要因 Step2 フリーランスへの参入前後のウェルビーイング、賃金、労働時間の変化 53

52.

推計①:参入要因結果 54

53.

推計①:退出要因結果 55

54.

分析結果 推計①:結果(前職の時給) 参入要因 全サンプルと男性において、前職の時給の係数は負に有意となっている。 →男性においては、前職の時給が低い人ほどフリーランスへの参入確率が高いことがわかる。この結果 は仮説と一致しており、男性においては、前職の時給が高い人はさらなる収入増加のためにきつい仕事 を選ぶが、もともと時給が低い人は労働環境を重視し、フリーランスに参入するといった補償賃金的な 要素が働いている可能性があるといえる。 56

55.

分析結果 推計①:結果(時給) 退出要因 時給の係数が全サンプル、女性において負に有意となっている。 →つまり、女性においては時給が低い人ほどフリーランスから退出する確率が高いといえる。この点は、 女性は収入が高い人ほどフリーランスを継続することを示す玄田(2021)の研究結果と一致する。 57

56.

データ・推計 推計①:結果(時給) 男性は前職の時給が低い人ほどフリーランスに参入しやすく、 時給が高い人はそのままの就業形態を継続する。 →補償賃金的な要素がある(仮説と一致) 時給の係数が全サンプル、女性において負に有意となっている。 →つまり、女性においては時給が低い人ほどフリーランスから退出する確率が高いといえる。この点は、 女性は収入が高い人ほどフリーランスを継続することを示す玄田(2021)の研究結果と一致する。 58

57.

分析結果 推計①:結果 参入要因 (1)・(3)列において、ストレス指標の係数は負に有 意 →女性においてはストレス指標のスコアが小さい (健康状態が悪い)人ほどフリーランスに参入する 確率が高いことが分かり、仮説と一致している。 退出要因 (3)列において、ストレス指標の係数は正に有意 →女性においてストレス指標のスコアが大きい(健 康状態が良い)人ほどフリーランスから退出する確 率が高いことが示された。 59

58.

データ・推計 推計①:結果 女性は健康状態が悪い人がフリーランスに参入し、健康状態が良くなった人 がフリーランスから退出するといった構造が生じている可能性がある。 (1)・(3)列において、ストレス指標の係数は負に有意 となっていることから、女性においてはストレス指 標のスコアが小さい(健康状態が悪い)人ほどフ リーランスに参入する確率が高いことが分かり、仮 説と一致している。 (3)列において、ストレス指標の係数は正に有意と なっていることから、女性においてストレス指標の スコアが大きい(健康状態が良い)人ほどフリーラ ンスから退出する確率が高いことが示された。 60

59.

分析結果 推計①:結果(前職の職場環境) 参入要因 全サンプルと女性において、前職の職場環境の係数は正に有意となっている →女性は前職の職場環境が良い人ほどフリーランスに参入する確率が高いことが分かる。こ のことは、女性の場合、もともと職場環境の良好さを重視していた人がより自由な労働環境 であるフリーランスを選択しやすいといえる。 61

60.

分析結果 推計①:結果(既婚ダミー) 参入要因 既婚ダミーの係数をみると、男性において負に有意、女性において正に有意となっている。 →男性においては独身の方がフリーランスに参入する確率が高く、 女性においては既婚者ほど参入しやすいことがわかる。 62

61.

データ・推計 推計①:結果(既婚ダミー) 既婚者の女性は、家庭と仕事の両立のために自由な時間、場所で働ける フリーランスを選択するのに対して、 家庭を持つ男性は賃金の不安定なフリーランスには参入しにくい可能性がある。 既婚ダミーの係数をみると、男性において負に有意、女性において正に有意となっている。 →男性においては独身の方がフリーランスに参入する確率が高く、女性においては既婚者ほど参入しや すいことがわかる。 63

62.

分析結果 分析の流れ Step1 フリーランスの参入・退出要因 Step2 フリーランスへの参入前後のウェルビーイング、賃金、労働時間の変化 64

63.

分析結果 推計②:予備的分析(マッチング前後のグループ間の属性の違い) ここでの値は標準化差を百分率で示したもので ある。 労働時間、年収、子供有ダミー、配偶者ダミー、 男性ダミー、年齢ダミー、業種ダミー、職種ダ ミーといった変数がマッチング前において大き な違いがみられることがわかる。そして、マッ チング後は、それらの変数における標準化差の 絶対値が小さくなっており、グループ間のバラ ンスが改善されたといえる。 65

64.

分析結果 推計②:予備的分析(年収平均の変化) フリーランス参入直後に大幅 に減少する。 その後増加するが、フリーラ ンス参入前より年収は低いこ とが分かる。 →仮説に近い傾向。 66

65.

分析結果 推計②:予備的分析(週労働時間平均の変化) フリーランス参入直後にに減 少する。 その後は大幅な変化はないが、 増加傾向が続く。 67

66.

分析結果 推計②:予備的分析 仕事満足度 仕事満足度は参入年には低くなり、1年後に 高まっている。 ストレス指標 ストレス指標は参入1年後から徐々に増加し ている。 68

67.

分析結果 推計②:結果(年収)全体サンプル F検定の結果p値は0.1以上で あり、平行トレンドの仮定は 満たされている。 参入直後に賃金は点推定値で 約45万円減少しており、参入 1年後以降も減少傾向にある。 <平行トレンドの検定:p値=0.9206> 69

68.

分析結果 推計②:結果(年収)男性・女性 男性 <平行トレンドの検定:p値=0.8578> 女性 <平行トレンドの検定:p値=0.8851> 男性では、参入直後に年収が有意に減少し、その後も減少傾向が続くとわかる。 対して、女性では、参入直後に年収が減少するのは男性と同じであるが、その後微増していく傾向 があるとわかる。 70

69.

データ・推計 推計②:結果(年収)男性・女性 男性 女性 収入は男性、女性どちらにおいても参入直後に大幅に減少し、 女性はその後収入が微増していくものの男性は収入が増加しない 男性では、参入直後に年収が有意に減少し、その後も減少傾向が続くとわかる。 対して、女性では、参入直後に年収が減少するのは男性と同じであるが、その後微増していく傾向 があるとわかる。 71

70.

分析結果 推計②:結果(労働時間)全体サンプル 参入直後に週平均労働時間は有意 に減少していることが読み取れる。 その後、増加していくものの参入1 年前に比べると労働時間は短い傾 向にあるといえる。 <平行トレンドの検定:p値=0.1369> 72

71.

分析結果 推計②:結果(労働時間)男性・女性 男性 <平行トレンドの検定:p値=0.2319> 女性 <平行トレンドの検定:p値=0.0677(<0.1)> 男性において、参入1年後以降は有意な差異が確認できなかったため、参入1年後以降において参入前に くらべ必ずしも労働時間が減少するとはいえない。 女性は、平行トレンドが満たされていないものの、全サンプルと同様の傾向にあることが分かる。 73

72.

データ・推計 推計②:結果(労働時間)男性・女性 男性 女性 男性、女性どちらにおいても参入直後労働時間は大幅に減少するとわかり、フリーランス参入直後は フリーランスとして働くための準備などに時間を当てているためではないかと考えられる。 女性は参入1年後から微増していくものの参入前に比べると短く、子育てとの両立などの理由から短 時間労働を選択している可能性があるといえる。 対して男性は、必ずしも労働時間が参入前に比べ短いとは言えず、前職に近い労働時間で働いている 可能性があるといえる。 男性において、参入1年後以降は有意な差異が確認できなかったため、参入1年後以降において参入前に くらべ必ずしも労働時間が減少するとはいえない。 女性は、平行トレンドが満たされていないものの、全サンプルと同様の傾向にあることが分かる。 74

73.

分析結果 推計②:結果(仕事満足度)全サンプル 参入1年後に仕事満足度は有意に 増加するも、その後もその傾向が 維持されるとはいえないことが確 認できる。 <平行トレンドの検定:p値=0.9825> 75

74.

分析結果 推計②:結果(仕事満足度)男性・女性 男性 女性 <平行トレンドの検定:p値=0.6274> <平行トレンドの検定:p値=0.5570> 男性では参入直後に有意に増加し、参入から2年後までは有意に増加しているといえる。 対して、女性では、参入から仕事満足度は4年後に有意に減少しており、 男性のように前職と比べ仕事満足度が高まるといった傾向はみられなかった。 76

75.

データ・推計 推計②:結果(仕事満足度) 男性 女性 男性はフリーランスへの参入を経て、自身の望む仕事ができるようになった ことにより仕事満足度が高まったのに対して、 女性は望む仕事に就けていない、もしくは仕事目的でフリーランスに参入し ていない(育児などの両立のためにフリーランスを選択したなど)ために 仕事満足度が高まっていない可能性があるといえる。 男性では参入直後に有意に増加し、参入から2年後までは有意に増加しているといえる。 対して、女性では、参入から仕事満足度は4年後に有意に減少しており、男性のように前職と比べ仕事満足 度が高まるといった傾向はみられなかった。 77

76.

分析結果 推計②:結果(健康状態)全サンプル 参入1年後に健康状態は有意に増加し、その後 も増加していく傾向が確認できる。 →参入前よりも健康状態は良くなっている。 <平行トレンドの検定:p値=0.2616> 78

77.

分析結果 推計②:結果(健康状態)男性・女性 男性 <平行トレンドの検定:p値=0.0272> 女性 <平行トレンドの検定:p値=0.622> 男性では、平行トレンドの仮定を満たしていないことに注意する必要があるが、参入から2年後に有意に 増加し、その後も増加しており、全体サンプルに似た傾向がある。 女性においても、参入から1年後に有意に増加しおり、その後増減を繰り返すも、参入前に比べ、健康状 態は高い基準にあることがわかる。 79

78.

データ・推計 推計②:結果(健康状態)男性・女性 男性 女性 男性は平行トレンドの仮定が満たされていないため、必ずしも参入後に健康状態が改善するとはいえ ないものの、女性においては参入1年前に比べ、健康状態が改善しているといえる。 男性では参入から2年後に有意に増加し、その後も増加しており、全体サンプルに似た傾向がある。 女性においても、参入から1年後に有意に増加しおり、その後増減を繰り返すも、参入前に比べ、健康状態 は高い基準にあることがわかる。 80

79.

分析結果 推計②:トレードオフについて 年収 仕事満足度 健康状態 賃金と仕事満足度、健康状態の結果から、自由な働き方を手に入れる一 方で賃金の高障壁に直面するといったトレードオフの関係が生じている ことが分かる。 81

80.

01 はじめに 02 先行研究 outline 03 分析アプローチ 04 分析結果 05 おわりに 82

81.

おわりに まとめ①(フリーランス参入・退出要因) 男性の場合、 前職での賃金 低 高 快適な環境を求めてフリーランスに参入。 高収入を求めてきつい労働を継続する。 83

82.

おわりに まとめ①(フリーランス参入・退出要因) 前職での賃金 男性の場合、補償賃金仮説に基づき、前職での収入が高い人はさらに高収入の仕事を求めてフリーラ ンス以外のきつい仕事に就くのに対して、前職での収入が低い人は自由な働き方を求め、フリーラン 低 スに参入する可能性があるといえる。 快適な環境を求めてフリーランスに参入。 高 高収入を求めてきつい労働を継続する。 84

83.

おわりに まとめ①(フリーランス参入・退出要因) 前職での健康状態 悪 フリーランス時の健康状態 快適な環境を求めてフ リーランスに参入 良 フリーランスを退出し、 他の就業へ移行 85

84.

おわりに まとめ①(フリーランス参入・退出要因) 前職での健康状態 フリーランス時の健康状態 健康状態が悪かった女性がフリーランスを選択し、自由な働き方を手に入れたことで健康状態が改善 し、他の就業形態に移行した可能性が示唆された。 悪 快適な環境を求めてフ リーランスに参入 良 フリーランスを退出し、 他の就業へ移行 86

85.

おわりに まとめ①(フリーランス参入・退出要因) 家庭を持つ男性 フリーランスにならず、 会社員での労働を続ける。 家庭を持つ女性 家庭と仕事の両立のため にフリーランスを選ぶ可 能性がある。 87

86.

おわりに まとめ①(フリーランス参入・退出要因) 家庭を持つ男性はフリーランスの収入の不安定のためにフリーランスを選びにくく、女性は家事と仕 フリーランスにならず、 家庭を持つ男性 事の両立といった理由でフリーランスを選択している可能性があるといえる。 会社員での労働を続ける。 家庭を持つ女性 家庭と仕事の両立のため にフリーランスを選ぶ可 能性がある。 88

87.

おわりに まとめ②(フリーランス参入前後のアウトカムの変化) 収入 ・収入は男性、女性どちらにおいても参入直後に大幅に減少 する。 ・女性はその後収入が微増していくものの男性は収入が増加 していかないことが示された。 男性の収入が増加しにくい理由として、男性はフリーランスの中でも自営業 などの短期間に収入が安定しにくい仕事に就いている可能性が挙げられる。 89

88.

おわりに まとめ②(フリーランス参入前後のアウトカムの変化) 労働時間 ・男性は参入直後に労働時間が大幅に減少し、その後は参入 前と有意な差がないことから参入後も前職と同様の労働時間 を維持している可能性が示唆された。 ・女性においては、男性と同様に参入直後に大幅に減少し、 その後増加していくが、参入前よりも労働時間は短い傾向に あるといえる。 女性の労働時間の短さは、家庭を持つ女性ほどフリーランスへの参入確率 が高いことが影響していると考えられ、女性のフリーランスは家庭と仕事 の両立のために労働時間を短くしている可能性があるといえる。 90

89.

おわりに まとめ②(フリーランス参入前後のアウトカムの変化) 仕事満足度 ・男性は参入直後から参入から2年後にかけて前職よりも仕 事満足度が高い傾向にあるものの、女性においては、参入前 と有意な差は確認されなかった。 健康状態 ・男性、女性どちらにおいてもフリーランス参入後に健康状 態が改善している可能性が示された。 ・フリーランスに参入することで収入が減少し、仕事 満足度や健康状態が改善するといったトレードオフの 関係が生じている。 ・女性においては、フリーランス参入後に仕事満足度 が高まらないことに注意する必要がある。 91

90.

おわりに まとめ②(フリーランス参入前後のアウトカムの変化) 仕事満足度 ・男性は参入直後から参入から2年後にかけて前職よりも仕 事満足度が高い傾向にあるものの、女性においては、参入前 以上を踏まえると、 と有意な差は確認されなかった。 ・最も収入が大幅に減少するフリーランス参入直後において、フリーランスの事業をいちはやく軌道 ・男性、女性どちらにおいてもフリーランス参入後に健康状 に乗せられるように事業支援を拡充する 健康状態 態が改善している可能性が示された。 ・女性のフリーランスに対しては、家庭と仕事の両立を支援し、消極的な理由(育児・家事で仕事が できないからなど)でフリーランスを選択するのでなく、自身の望む仕事をするためにフリーランス を選択できるように環境を整える ・フリーランスに参入することで収入が減少し、仕事 満足度や健康状態が改善するといったトレードオフの 関係が生じている。 ことが重要である。 ・女性においては、フリーランス参入後に仕事満足度 が高まらない可能性があることに注意する必要がある。 92

91.

おわりに 課題点 1 ダイナミックDID分析によるフリーランス参入前後のアウトカムの推移に関し て、フリーランスを継続しているサンプルが少ない点がある。 2 フリーランスの中でも自営業を営む人と内職をする人では持つリスクが異な る可能性があり、そうした違いを分析で考慮できていない点がある。 3 フリーランスの定義に関して、本稿では現在増加している副業フリーランス を含んでおらず、実際のフリーランスの実情に即した分析ができていない可 能性がある。 93

92.

参考文献 Popiel, Pawel (2017) “Boundaryless in the creative economy: assessing freelancing on Upwork”,Critical Studies in Media Communication, Volume 34, 2017 - Issue 3 Riyono, Bagus and Rima Fazriah Usman (2022) “Life fulfillment: The motivation dynamics of freelancers”, Humanitas: Indonesian Psychological Journal, Volume 19, pp. 31–40 Davis, Shannon, Andrey Shevchuk and Denis Strebkov(2014) “Pathways to Satisfaction with Work-Life Balance: The Case of Russian-Language Internet Freelancers”, Journal of Family and Economic Issues, Volume 35,pp.542–556 Zwan, Peter (2020) “Happy Free Willies? Investigating the relationship between freelancing and subjective well-being”, Small Business Economics, Volume 55, pp. 475–491 石山恒貴(2021)「雇用によらない働き方におけるワーク・エンゲージメントの規定要因-雇用者とフリーラ ンスの比較分析-」『日本労働研究雑誌』No.726、67-87頁 玄田有史(2021)「コロナ禍に踏みとどまったフリーランスとは──テレワーク・オンラインの効用」樋口 美雄・労働政策研究・研修機構『コロナ禍における個人と企業の変容─働き方・生活・格差と支援策』慶 應義塾大学出版会 94

93.

参考文献 小前 和智 (2024)「フリーランスの働き方、参入と 定着・退出に関する研究」『Works Discussion Paper』 No.64 長松奈美江(2021)「コロナ禍のフリーランスの収入減少と家計悪化」樋口美雄・労働政策研究・研修機構 編『コロナ禍における個人と企業の変容―働き方・生活・格差と支援策』慶應義塾大学出版会 <各種統計> 令和2年5月 内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査」 95

94.

ご清聴ありがとうございました 96