2024卒業論文_與那覇優棋

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February 19, 25

スライド概要

本研究のテーマは「パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)が雇用形態の違いによる待遇格差を縮小させたのか?」です。2020年に施行されたこの法律の政策評価を行い、雇用形態による賃金や福利厚生格差をデータに基づいて定量的に分析します。非正規労働者の賃金やメンタルヘルスに与えるインパクトを明らかにすることが目的です。また、先行研究や社会背景を踏まえ、同一労働同一賃金の重要性とその適用の複雑さについても考察します。

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慶應義塾大学商学部商学科山本勲研究会 ホームページ: https://www.yamazemi.info Instagram: https://www.instagram.com/yamazemi2024

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各ページのテキスト
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卒論計画発表▐ 山本勲研究会 17期 與那覇 パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)は雇用形態の違いによる待遇格差を縮小させたのか? ——全国就業実態パネル調査(JPSED)を用いた実証分析——

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⒈ テーマ紹介 ⒉ 背景・問題意識 ▐ Presentation ▐ Outline ⒊ 先行研究と独自性 ⒋ 利用データと分析概要 ⒌ 総括/懸念点と今後の予定 2

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⒈ テーマ紹介 ⒉ 背景・問題意識 ▐ Presentation ▐ Outline ⒊ 先行研究と独自性 ⒋ 利用データと分析概要 ⒌ 総括/懸念点と今後の予定 3

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⒈ テーマ紹介 卒論テーマ パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)は雇用形態の違いによる 待遇格差を縮小させたのか? ——全国就業実態パネル調査(JPSED)を用いた実証分析—— 4

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⒈ テーマ紹介 テーマ概要 2020年4月(中小企業は2021年)に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」 の政策評価を、以下の流れに沿って行う。 ①雇用形態(正社員・有期・パート・派遣など)の違いによって生じる賃金・福利厚 生格差を、地域別要素・職務内容などを統制した上で定量的に分析する。 ②その格差を属性の差と係数の差に分け(Blinder-Oaxaca分解) 、それぞれの 寄与度を明らかにする。例えば、非正規は平均的に勤続年数が短いから賃金が低 いのか、または勤続年数の係数が小さいから賃金が低いのか、などを明らかにする。 ③上記を踏まえた上でDID分析を行い、パート・有期労働者の賃金(公正感)、 福利厚生、メンタルヘルスなどにどのようなインパクトを与えたのかを分析する。 5

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⒈ テーマ紹介 ⒉ 背景・問題意識 ▐ Presentation ▐ Outline ⒊ 先行研究と独自性 ⒋ 利用データと分析概要 ⒌ 総括/懸念点と今後の予定 6

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⒉ 背景・問題意識 背景 富岡[2022]を参考に、パート・有期法(同一労働同一賃金)が制定された背景を ⑴日本国内における非正規労働者の構造、およびその役割の変化 ⑵国際的な潮流 の2つの観点から整理して説明していく。 7

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⒉ 背景・問題意識 背景⑴ 近年、非正規雇用で働く人は労働者全体の約4割を占める一方で(左図) 時間あたり賃金は正規雇用労働者の約7割に抑えられている(右図)。 非正規雇用の人数推移 2,500 非正規雇用の賃金推移 39 37 2,000 35 1,500 33 1,000 31 29 500 27 0 25 非正規の職員・従業員(実数) 非正規の職員・従業員(割合) 230 220 210 200 190 180 170 160 150 140 130 68 67 66 65 64 63 62 61 60 59 58 賃金(千円) 雇用形態間賃金格差【正社員・正職員=100】 8

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⒉ 背景・問題意識 背景⑴ 非正規労働者といえば、かつては家計補助のためのパートタイマーが中心だったが、現 在は産業構造の高度化により一部の産業では非正規労働者がビジネスの中核と なっている(質的基幹化)。 特に一人親世帯では女性が非正規雇用を掛け持ちして生計を立てることが多く、ま た、就職氷河期に正規雇用に就けなかった人々もいまだ非正規で働き続けている (溶けない氷河)。(大内[2019], 沼田[2024]) ⇨正規・非正規間の待遇格差は、社会的不公正の問題だけにとどまらず、少子化 や一人親家庭の貧困の要因になるなど、日本の労働市場や社会全体にわたる社 会問題である(水町[2018]) 9

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⒉ 背景・問題意識 背景⑴ また、非正規労働者が安価な労働力と認識されることで、能力開発機会の乏しい 非正規労働者の増加に繋がり、労働生産性の向上や成長と分配の好循環を阻害 する要因となる(水町[2018]) これを受け政府は、「ニッポン一億総活躍プラン」の目玉として、また、「働き方改革」 の3本柱のうちの1本として、「同一労働同一賃金」を掲げるように 10

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⒉ 背景・問題意識 背景⑵ 同一労働同一賃金の起源① 米国では1963年にEqual Pay Act(同一賃金法)、英国では1970年にEqual Pay Act 1970(同一賃金法)が導入され、男女間の賃金格差を解消する法的 枠組みが整備された。 ⇨同一労働同一賃金の原則は、当初は性別賃金格差の是正を目的としていた 11

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⒉ 背景・問題意識 背景⑵ 同一労働同一賃金の起源② 1994年には国際労働機関(ILO)にて「パートタイム労働に関する条約」が採択さ れている(2024年現在、日本は未批准)。 これは「パートタイム労働者の労働条件が比較可能なフルタイム労働者と少なくとも 同等になるよう保護すると同時に保護が確保されたパートタイム労働の活用促進を 目的」としている。 さらに、SDGsの開発目標8のターゲット8.5は、同一労働同一賃金を実現することを 目指しており、これは、同じ価値の労働に対して同じ賃金を支払う原則である 12

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⒉ 背景・問題意識 背景 上記の流れを汲み、2020年4月(中小企業は2021年) 「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する 不合理な待遇の禁止等に関する指針(同一労働同 一賃金ガイドライン)」を盛り込んだ 「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の 改善等に関する法律(以下、パートタイム・有期雇用 労働法)」が施行 13

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⒉ 背景・問題意識 目的 パートタイム・有期雇用労働法は同一企業内における 雇用形態の違い(正規・非正規・有期・派遣)にかか わらない、公正な待遇の実現を目的としており、非正 規・有期労働者の処遇に対する納得感や労働生産性 を向上させることが期待されている。 本研究では、果たしてこれらの目的が実際に達 成されたのかを定量的に明らかにしていく 14

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⒉ 背景・問題意識 内容 主なポイントは右表の通り。 均等待遇:①職務内容、②配置変更 の範囲が同じ場合は、パート・有期労働 者であることを理由とした差別的取り扱 いを禁止。 ※ただし、同じ取扱いのもとで能力・経験等の違いによる差異を設けることは可能 均衡待遇:①職務内容、②配置変更 の範囲、③その他の事情を考慮して不 合理な待遇差を禁止。 15

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⒉ 背景・問題意識 具体例 右表は正社員との賃金・福利厚生格差 を不合理とした判例。 賃金・福利厚生はその性質・目的に沿っ て、正社員も非正社員も同じ取扱いのも とで支給が決定される必要がある。 例えば正社員には通勤手当を支給し、 非正社員には支給しない、といった場合 は不合理な格差である。 16

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⒉ 背景・問題意識 参考資料( [左] 同一労働同一賃金が注目され始めた頃の日経新聞記事、 [右]同一労働同一賃金ガイドライン) 17

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 今年2024年はパート・有期法が施行されてから4年が経過した。その一方で実証 的な手法を用い、政策効果を測定した研究は筆者の知る限り存在していない。 また、正規・非正規の間における賃金格差については幅広く実証分析が行われて いる(長松[2023], 浜田[2016], 島貫[2018], 安井ほか[2018], 川口[2018]など)一方で、福利厚生(フリ ンジベネフィット; 有給休暇日数、職業訓練機会、諸手当など)格差とそれに起因して変化する 副次的アウトカム(納得感、労働生産性、ワークエンゲージメント、メンタルヘルスなど)に着目した先 行研究は山本[2010]や柴田[2018]などを除き、蓄積が不十分である。 18

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 しかし、いったい同一労働とは何であろうか? 何が”同一”労働であって、何が”同一”労働ではないとみなされるのだろうか? そもそも日本は職務(job)によって賃金が決まる職務給ではなく、能力などの属人 的な部分によって賃金が決まる職能給が導入されていることが多い(下表参照) 基本給の賃金項目(非管理職)※複数回答方式 賃金制度 職能給 年齢・勤続給 役割給 業績・成果給 資格給 職務給・仕事給 総合決定給 採用社割合 65.5% 45.9% 39.3% 36.3% 33.8% 30.1% 5.5% 経団連「2019年人事労務に関するトップ・マネジメント調査結果」 ⇨同一労働同一賃金が海外から輸入されたものであることを踏まえると、日本の特 殊な雇用システムに採り入れるのは難しい? 19

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 同一労働同一賃金の誤解として、水町[2020]が「賃金を職務給にしなければならない(中略 )といった論調が聞かれる」がそうではなく、「職務給以外の賃金形態でも、それぞれの性質・目的 に沿った取り扱いがなされていれば適法」であると指摘しているように、同一賃金は日本においても 機能するはずである。 しかし、職務・責任範囲が明確であればあるほど(Job型雇用に近いほど)、同一賃金が進展し やすいと筆者は考えている。 ⇨そこで本研究ではタスク内容・レベルや責任度合いなどに着目し、賃金の高低を分析する。また 、Blinder-Oaxaca分解により、非正規は正規に比べ、高度なタスクを任されにくいから賃金が低 いのか、はたまたタスクレベルの係数が低いから賃金が低いのか、といったことを分析する。 ここで、同一賃金が達成されている⇒係数差=0であることが期待される。 20

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 鶴[2011]、川口[2018]、大内[2019]、沼田[2024]などによると、正規・非正規間での賃 金格差は、求められている役割の違いよって生じている。 すなわち、正社員が企業内部での長期的な活躍を、非正社員が正社員の補助的な活躍 を期待されているため、前者は基本給に加え勤続給および福利厚生(フリンジ・ベネフィッ ト)が基本的に支払われる一方で、後者は労働市場の需給によって賃金が決定されること がほとんどである。また、非正規には長期的な活躍が想定されていないことから、有期雇用 となることが一般的である。 坂本[2024]も指摘しているように、近年の非正規労働者の賃金の上昇は、同一労働同 一賃金政策の効果ではなく、労働市場における超過需要がもたらしたものである可能性が 高い。 ⇨そこで本研究ではJPSEDの居住地域データを用い、都道府県別の最低賃金・求人倍率 を統制した上で、政策評価の実証分析を行う。 21

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 さらに続けて、川口[2018]が整理しているように、標準的な労働経済学の理論に基 づくと、正規非正規間の賃金格差の要因は以下の4つに区分される。 1. 技能の違い─技能が異なれば生産性が異なり賃金も違う 2. 職場環境の違い─深夜勤務など厳しい労働条件には高い賃金が支払われる (補償賃金仮説→次頁) 3. インセンティブ設計の違い─労働者の技能蓄積を促す種々の労務管理に服して いると賃金が高い 4. 労働市場における外部機会の違い─好待遇で他社に転職できる労働者は交 渉力を持ち賃金が高い 22

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 これに加え、賃金に関する労働経済理論として①補償賃金仮説と②タスクモデルの 2つがある。 ①補償賃金仮説とは、久米[2010]によると「危険を伴う仕事に対する補償分がプレ ミアムとして賃金に上乗せされるという考え」である。(理論的な定義は次頁) 久米[2010]は、危険な仕事の選択(セルフセレクション)を考慮した賃金関数の推計 モデルを用いて、怪我の危険性や心身の疲労度に関する補償賃金仮説について実 証的に分析した結果、危険に対する個人の態度と危険を伴う仕事の選択との間に は明確な関係はみられなかったが、仕事に付随する危険の指標は統計的に有意に 賃金に影響した。 23

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 Ehrenberg and Smith[2003]によれば、補償賃金仮説とは 1. 効用最大化 2. 労働者は彼らにとって潜在的に重要な仕事上の特性を知っている 3. 労働者への仕事のオファーには幅があり その中から選ぶことができる という3つの仮定のもと、 1. 労働者は安全を好むため,危険を伴う仕事に対して賃金プレミアムを求め 2. 企業は致命的な危険を減らすにはコストがかかり、競争により利潤ゼロの条件が成り立つとき 3. 仕事の特性を与件として、労働者と企業のマッチングにおいて、危険な仕事ほど賃金が高く、 安全志向の労働者は低い賃金を受諾する と説明される仮説である。 24

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 ②タスクモデルとは、「業務内容(タスク)」に焦点を当てた賃金格差の分析モデルで、欧米を中 心に研究が行われている(伊藤[2017])。 特に、職業を5つのタスク(⑴Routine-manual/⑵Routine-cognitive/⑶Nonroutinemanual/⑷Nonroutine-analytic/⑸Nonroutine-interactive)に分類したAutor et al.[2003]モデルを応用した研究が行われている。応用研究の結果によると、IT技術の進展に伴い、 ①マニュアルタスクから分析能力を要するタスクへと労働需要がシフトし、 ②肉体労働の優位性が低下したこと などが男女間賃金格差を縮小させたとの見解が得られている(Borghans, ter Weel Weinberg[2006], Black and Spitz-Oener[2010], Bacolod and Blum[2010]など)。 and 25

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 Yamaguchi[2013]は、職業ごとにMotor-task(運動能力が要求されるタスク)/Cognitivetask(分析・相互能力が要求されるタスク)のデータを作成し、これらタスクが男女間賃金格差に 与える影響を検証している。その結果、他の研究と同様、 ①Motor-taskが要求される職業における男性比率が高く、 ②Motor-taskに対するリターンが低下した ことで男女間賃金格差が縮小したと指摘している。 26

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 伊藤[2017]は、日本の男女間賃金格差について、Motor-task(運動能力を要するタスク) /Analysis-task(分析の応力・思考力を要するタスク)/Interaction-task(コミュニケーションの 応力を要するタスク)の3つからなるタスクモデルを用いた分析を行なっている。 分析の結果、男女ともにAnalysis-taskが賃金に正に有意であり、分析能力に対する要求度が 高い業務であるほど賃金が高いという結果が得られた。 また、賃金格差への影響を見てみると、タスクの属性差、すなわち男性の方が多くのAnalysistaskを行なっていることが賃金格差を拡大させている可能性が示された。 また、女性はAnalysis-intensiveな職業に就く確率が低いことが示されているが、特に、社内の配 置転換や転職が女性をAnalysis-taskから遠ざけている可能性があることを明らかにした。 27

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⒉ 背景・問題意識 問題意識 ①補償賃金仮説によれば、危険な仕事や深夜勤務など厳しい労働条件の場合、賃金・福利厚 生が高くなる可能性が示唆される。 ⇨正社員とパート・有期・派遣などで違いがあるのか。厳しい労働条件下では長期的に人材を育 成することが困難だと推測されるため、有期雇用が多いのではないか?(補論として分析) ②タスクモデルを用いた分析によれば、男女にかかわらず分析能力に対する要求度が高い業務で あるほど賃金が高いことが示されている。 ⇨正社員・非正社員間待遇格差について、タスクという要因がどれだけ格差を説明できるのかを分 析する。例えば非正社員は正社員に比べて分析的な仕事を任されにくいから賃金が低いのか、ま たは、分析的な仕事の係数が正社員よりも小さいから賃金が低いのかを明らかにする(BlinderOaxaca分解)。 28

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⒈ テーマ紹介 ⒉ 背景・問題意識 ▐ Presentation ▐ Outline ⒊ 先行研究と独自性 ⒋ 利用データと分析概要 ⒌ 総括/懸念点と今後の予定 29

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⒊ 先行研究と独自性 雇用形態別の賃金格差やパートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金) とその政策評価に関する先行調査・先行研究として、 ⑴正社員・非正社員間の賃金格差に関するもの ⑵パートタイム・有期雇用労働法に関する公的統計調査に関するもの の2つに大別した。 30

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⒊ 先行研究と独自性 ⑴正社員・非正社員間の賃金格差に関するもの 坂本[2024] 島貫[2018] 川口[2018] ・ここ10年間では非正規及び短時間労働 者の方が正規雇用に比べ賃金上昇率が高 いことを報告 ・近年の労働市場における超過需要が非 正規の賃金水準を高めているためだと推 察 ・ 正 社員 と同 じ仕 事 をす る無 期 ・ 有 期 パートや有期社員の賃金が、賃金決定要 素が異なる事業所では正社員の水準より も低いことが明らかになった。 ・この結果は、他の事業所調査データで も確認された ・最終学歴・潜在経験年数といった観察 可能な属性の違いを制御しても、無期の 正社員に比べて有期の非正社員は男女と もに約 18 % 時間当たり賃金が低い。 ・賞与を含めて時間当たり賃金を計算す ると、賃金差はおよそ50 %拡大する。 長松[2023] 労働政策研究・研修機構(JILPT)[2024] 安井ほか[2016] ・1990年代後半以降の非正規雇用の増加 が賃金格差に与えた影響を分析。 ・男性では非正規雇用者が増加し、賃金 の分布が広がり、格差が拡大した。 ・女性では非正規雇用の増加が一部で賃 金水準を向上させ、特に中位から上位の 賃金格差を変化させた。 ・要因分解の結果からは、学歴や職業よ りも年齢や就労時間が賃金格差の拡大に 寄与していたことが示されている ・2010年と2019年のデータを用い、雇用 形態が賃金に与える影響について検討。 ・OLSの結果から、男女とも正規雇用に 対する非正規雇用の賃金ペナルティが存 在している ・また、分位点回帰分析の結果から、労 働者がどの程度の賃金を受け取っている のかによって、非正規雇用の賃金ペナル ティが一様ではないことが示された ・有期雇用労働者の時間当たり賃金は正 社員よりも8.8%低く、属性を統制しても 残る賃金格差の水準は欧州の同様の分析 と比較してもほぼ同程度の水準であるこ とが分かった。 ・また、Blinder-Oaxaca 分解によると、 正社員と有期雇用労働者の賃金差を説明 する重要な属性は、男性の場合は勤続年 数、職種であり、女性の場合は職種、学 歴であることが明らかとなった。 31

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⒊ 先行研究と独自性 ⑴正社員・非正社員間の賃金格差に関するもの 柴田[2018] 安井ほか[2018] 山本[2010] ・非正規の雇用形態別に、その特性(年 齢、学歴、配偶関係等、家族内経済的地 位、職業等 )を明らかにした。 ・そのうえで、処遇格差(賃金水準のみ ならず、企業内諸制度の適用)が、正規 に比べ劣悪な状態であることも確認した ・限定正社員の月収は無限定正社員より 低い(勤務地限定は13%低く、職務限定 は5.2%低い)。 ・限定正社員の方が無限定正社員よりも 時給が高い傾向にある ・非正規雇用の健康状態は正規雇用よりも悪 くなっていたが、他の要因を統制すると変わ らなかった。 ・非正規雇用の健康状態が正規雇用と変わら ないことは、労働時間以外の面で非正規雇用 に起因する不利益が労働者に生じていること を示唆している 鈴木[2018] 石井・樋口[2015] 余合[2016] 1. 雇用形態は賃金水準を直接決定するの で はな く 、 賃 金決 定 シス テ ム ( 賃 金関 数)の選択に大きく影響している。 2. 労働市場は2つの異質なセグメントから 構成されている。 3. そのセグメントの区分線は雇用形態の 区分と完全には一致せず、正規雇用は2つ の異なる賃金決定システム(賃金関数) に分かれる一方、非正規雇用は1つのシス テムに従う。 ・非正規労働者の給与所得が所得分布の下層に 集中しており、非正規労働の増加が労働者間の 給与所得の格差拡大に大きく影響していること がわかった。 ・その要因について分析したところ、単に非正 規労働者の労働時間が短いことが原因であるの みならず、むしろ時間当たり賃金率に大きな格 差があり、それが所得格差拡大に寄与している こと、さらに時間当たり賃金率が低い者ほど労 働時間が短い傾向にあることが、給与所得にお ける格差拡大を助長していることがわかった。 ・組織的公正理論や職務特性、ワーク・ ライフ・バランス等の先行研究を踏まえ て、従業員の働き方の観点から、処遇の 公正性との関連性について、理論的・実 証的検討を行った。 ・分析の結果、非正規従業員が不確実性 の高い業務を行う場合や、転居を伴う転 勤のある働き方を受け入れられる場合に は、不公平感に繋がることが示唆された 32

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⒊ 先行研究と独自性 ⑴正社員・非正社員間の賃金格差に関するもの 明らかになっていること 正社員・非正社員間における賃金格差 の程度や要因について(長松[2023], 浜田 [2016], 島貫[2018], 安井ほか[2018], 川口[2018]など) 明らかになっていないこと ・正社員・非正社員間の福利厚生格差の程度と要因分解 ・地域別要因(最低賃金・求人倍率)を統制した上での賃金格差 ・タスクの内容・職場の環境・責任範囲に着目した、正規・非正規での属性・係数の 差の分解 ・副次的アウトカム(納得感、労働生産性、ワークエンゲージメント、メンタルヘルスな ど)に着目した分析(山本[2010]や柴田[2018]などを除く) 33

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なぜ明らかにすることに意味があるのか どのように明らかにするのか 独自性 の順番 34

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⒊ 先行研究と独自性 ⑵パートタイム・有期雇用労働法に関する公的統計調査に関するもの ①「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の概況」 • 「正社員と職務が同じであるパートタイム・有期雇用労働者がいる」と回答した企業の割合は21.5% • そのうち、「正社員と比較した場合の1時間当たりの基本賃金」が「正社員より低い」と回答した企業の割合は 41.3%となっており、パートタイム・有期雇用労働法が全面適用された後も、正社員と職務が同じであるにもかかわ らず、パート・有期社員の賃金を正社員よりも低く抑えている企業が半数近くいることがわかった。 • 対労働者調査において、「業務の内容及び責任の程度が同じ正社員がいる」と回答したパート・有期労働者の割合 は21.1%であり、企業と労働者の間での賃金格差の認識はほとんど乖離が見られない • このうち「業務の内容及び責任の程度が同じ正社員と比較した賃金水準についての意識」について、「賃金水準が 低い」と回答した者を合算すると70.5%に上る。同一労働同一賃金の認識については、企業側(41.3%)と労働 者側(70.5%)で大きく乖離している 35

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⒊ 先行研究と独自性 ⑵パートタイム・有期雇用労働法に関する公的統計調査に関するもの ②「パートタイム・有期契約労働者の雇用状況等に関する調査」 • パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)の対応に際し、パート・有期社員を雇用している企業6,877 社のうち、45.8%が「必要な見直しを行った・行っている、または検討中」、34.1%が「従来通りで見直しの必要な し」と回答したことが明らかになった • 「待遇面で必要な見直しを行った・行っている、または検討中の企業」と回答した企業1,765 社のうち、その見直しの 内容について、パート・有期社員の基本的な賃金、昇給に関する制度を新設した割合がそれぞれ11.4%, 11.7%であ り、増額や拡充をした割合がそれぞれ43.4%, 33.7%である一方で、正社員の賃金、昇給の減額や縮小を行った割 合はどちらも4.4%である。 • このことから、パートタイム・有期雇用労働法は非正規・有期労働者の待遇を向上させるだけでなく、正規労働者の 待遇を悪化させるなどの影響も与えていることがわかる。 36

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⒊ 先行研究と独自性 ⑵パートタイム・有期雇用労働法に関する公的統計調査に関するもの ③「派遣労働をめぐる政策効果の実証分析」 ①「19 年度調査と20 年度調査のマッチングデータから分析すると、全体的に「施行後推定値」の賃金は微増、派遣料金は 上昇傾向にある。」 ②「派遣先均等・均衡方式よりも労使協定方式を選択した事業所の方が、賃金、派遣料金、マージン率ともに高い傾向にある。」 ③「賃金に職務内容、能力、成果といった項目が反映されている場合、賃金、派遣料金が高くなる。これは無期雇用派遣と 有期雇用派遣に共通して観察される。」 ④「勤続年数(「勤続指数」)が長く(高く)なると賃金や派遣料金が高くなる関係がみられる。」 ⑤「手当等は19 年度調査から20 年度調査にかけて、適用割合が上昇している。特に、通勤手当、職務関連手当や賞与、 退職金の適用割合の増加が顕著である。」 しかしこれらの分析にはいくつか課題があり、対照群と比較したDID分析を行っていないことや、労働者の学歴や年齢、国内 の景気や労働市場における需給(求人倍率)などの要素を統制していないこと、さらに企業パネルデータを使用しているため、 パート・有期労働者の賃金、待遇、教育機会、労働時間、仕事・生活満足度、ワークエンゲージメント、生産性、メンタルヘ ルスなどに与える処置効果が不明瞭であることなどである。 藪(2023)は対照群を設定しない多変量解析では、欠落変数バイアスなどにより頑健な結果が得られるとは限らないと指 摘している。 37

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⒊ 先行研究と独自性 ⑵パートタイム・有期雇用労働法に関する公的統計調査に関するもの 明らかになっていること ・パート有期法に対応できていない企業が一定数いる ・同一労働同一賃金の達成度合いについては、労働者と企業側で認識にズレがある ・正社員の賃金を減額した企業が少なからずある ・19 年度調査から20 年度調査にかけて、派遣労働者の手当等は適用割合が上昇してい る。特に、通勤手当、職務関連手当や賞与、退職金の適用割合の増加が顕著である。 明らかになっていないこと ・最低賃金・求人倍率を統制した上でも、非正規の賃金・福利厚生は改善したか否か ・タスクの内容・責任範囲に着目した、正規・非正規での係数の差の変化 ・前後比較分析ではなく、DID分析による精緻な政策効果推計 38

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⒈ テーマ紹介 ⒉ 背景・問題意識 ▐ Presentation ▐ Outline ⒊ 先行研究と独自性 ⒋ 利用データと分析概要 ⒌ 総括/懸念点と今後の予定 39

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⒋ 利用データと分析概要 利用データ 全国就業実態パネル調査(JPSED)—リクルートワークス研究所 調査目的 調査前年1年間の個人の就業状態、所得、生活実態などを、毎年追跡して調査を行い、全国の就業・非就業 の実態とその変化を明らかにする。 調査対象 全国15歳以上の男女 調査手法 インターネットモニター調査。調査会社保有の調査モニターに対して調査を依頼。2016年実施第1回調査で回答の 得られたサンプルに対し、毎年1月に調査を依頼する。 利用サンプル 利用可能な2016年〜2023年までのデータを使用。 18歳以上60歳未満のサンプルに限定。(川口[2011]によると60歳以降は収入が不連続になるため推計結果に支障が出る) 40

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⒋ 利用データと分析概要 分析の流れ ❖分析1——雇用形態の違いを考慮した賃金・福利厚生関数の推定(Mincer型関数) ❖分析2——雇用形態の違いと賃金・福利厚生格差の分析(Blinder-Oaxaca分解) ❖分析3——パートタイム・有期雇用労働法の効果測定(DID分析) 分析の目的 異なる雇用形態の間で賃金・福利厚生格差を生じさせている要因とその影響度合いを明らか にし(分析1・2)、パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)の政策効果を 測定する(分析3) 41

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⒋ 利用データと分析概要 分析1——雇用形態の違いを考慮した賃金・福利厚生関数の推定(Mincer型関数) 大内(2019)と同じ枠組みのもと、まず雇用形態を o 〔a〕労働契約期間(無期〔a1〕/有期〔a2〕) o 〔b〕所定労働時間(フルタイム〔b1〕/パートタイム〔b2〕) o 〔c〕雇用関係(直接雇用〔c1〕/間接雇用〔c2〕) の観点に沿って以下のようにカテゴライズする。 〔a1〕かつ〔b1〕かつ〔c1〕を正社員と定義し、それ以外を非正社員と定義する。 ①無期・フルタイム・直接雇用 ②無期・フルタイム・間接雇用 ③無期・パートタイム・直接雇用 ④無期・パートタイム・間接雇用 ⑤有期・フルタイム・直接雇用 ⑥有期・フルタイム・間接雇用 ⑦有期・パートタイム・直接雇用 ⑧有期・パートタイム・間接雇用 42

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⒋ 利用データと分析概要 分析1——雇用形態の違いを考慮した賃金・福利厚生関数の推定(Mincer型関数) このように細分化して定義することで、〔a〕、〔b〕、〔c〕のどの要素が賃金・福利厚生に影響を与 えているのかを分析しやすくなり、精緻な推計を行うことができる。 ただしその一方で、カテゴリごとのサンプルサイズが少なくなることや、結果が複雑になることで解釈 が困難になるなどの懸念点も存在している。 このように雇用形態を定義した上で、推計式は以下のようなMincer型賃金関数とそれを応用し た福利厚生関数、そして副次的アウトカム関数を想定する。 時間あたり賃金 勤続年数 職場・タスク内容ベクトル 個人固有効果 福利厚生 賃金納得感、仕事満足度、ワークエン ゲージメント、主観的生産性、メンタ ルヘルスなど 順序ロジット・ロジット 地域要因ベクトル 時間固有効果 43

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⒋ 利用データと分析概要 分析1——雇用形態の違いを考慮した賃金・福利厚生関数の推定(Mincer型関数) 職場・タスク内容ベクトル(JPSED):「あてはまる」〜「あてはまらない」の5段階評価 仕事属性 補償賃金仮説に関連する変数 所定内労働時間 • 業種 従業員規模 職種 役職 労働者の利益を代表して交渉してくれる 組織がある、あるいは、そのような手段が 確保されていた 処理しきれないほどの仕事であふれていた •性別・年齢・国籍・障がいの有無・雇用 形態によって差別を受けた人を見聞きした ことがあった • パワハラ・セクハラを受けたという話を見聞 きしたことがあった •身体的な怪我を負う人が発生した •ストレスによって、精神的に病んでしまう人 が発生した なおタスクモデルの作成に際し、Yamaguchi[2013]、伊藤[2017]を参考に 業種・職種から分類する タスク内容・レベルに関連する変数 •単調ではなく、様々な仕事を担当した •業務全体を理解して仕事をしていた •社内外の他人に影響を与える仕事に従事していた •自分で仕事のやり方を決めることができた •自分の働きに対する正当な評価を得ていた •給与は、年齢や勤続年数より成果が重視される •目標管理制度(MBO)など、仕事をするうえでの目標を明 確に設定する仕組みがある •評価の理由や今後の課題について、上司からフィードバックを得 る機会がある •異動では、本人の意向を尊重する仕組み(社内公募制度な ど)がある •女性、シニア、障がい者、外国籍など多様な人が活躍できてい る •新卒入社か中途入社かに関係なく、活躍できる職場である 44

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⒋ 利用データと分析概要 分析1——雇用形態の違いを考慮した賃金・福利厚生関数の推定(Mincer型関数) 時間あたり賃金 勤続年数 職場・タスク内容ベクトル 個人固有効果 福利厚生 賃金納得感、仕事満足度、ワークエン ゲージメント、主観的生産性、メンタ ルヘルスなど 地域要因ベクトル 時間固有効果 仮説①賃金に関して、正社員であれば𝛽1 , 𝛽2 はそれぞれ統計的に正、負(逆U字型)を示す一 方で、非正社員の場合は統計的有意性を示していない。 仮説②職場が劣悪な環境にあれば、賃金・福利厚生は上増しされる(補償賃金仮説)。 仮説③非正社員の都道府県別最低賃金・求人倍率の係数は、正社員のそれに比べて大きい。 仮説④サンプルを法改正前後で分けて分析した場合、非正規の係数は改善する(前後比較)。 45

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⒋ 利用データと分析概要 分析2——雇用形態の違いと賃金・福利厚生格差の分析(Blinder-Oaxaca分解) 前節の分析手法を踏襲しつつ、山本[2014]の手法に沿って、正社員(①)と非正社員(②〜⑧)の間 の賃金格差の発生要因をBlinder-Oaxaca分解により明らかにする。雇用形態𝑗(𝑗 = 1,2, … , 8)の賃金、 𝑗 𝑗 𝑗 福利厚生をそれぞれ𝑊𝑎𝑔𝑒𝑖𝑡 , 𝐹𝑟𝑖𝑛𝑔𝑒𝐵𝑒𝑛𝑒𝑓𝑖𝑡𝑖𝑡 , 𝑌𝑖𝑡 とし、以下のように定式化する。 𝒋 ここで、𝑿𝑖𝑡 は(1)・(2)式で使用したものと同じ説明変数(𝐸𝑥𝑝𝑖𝑡 , 𝐸𝑥𝑝𝑖𝑡 2, 𝑻𝑖𝑡 , 𝑨𝑖𝑡 )を縦に並べたベクトルである。 46

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⒋ 利用データと分析概要 分析2——雇用形態の違いと賃金・福利厚生格差の分析(Blinder-Oaxaca分解) このとき、正社員(𝑗 = 1)と非正社員(𝑗 ≠ 1)との平均的なアウトカムの差は次式のようになる。 ここで、添え字のない変数は各雇用形態グループ内の平均値、∆は交差項およびそれ以外の要因をまとめた ものを表す。(7)・(8)・(9)式の右辺第1項は、正社員・非正社員間での勤続年数やタスクの内容の差から生 じる賃金・福利厚生の違い(寄与度)を、第2項は勤続年数やタスクの内容が同じ場合に生じる、雇用 形態の違いによって説明される賃金・福利厚生の差を表す。 つまり、勤続年数やタスクが同じでも生じてしまう賃金・福利厚生の格差を示していることから、仮に同一労 働同一賃金が達成されている場合、その差は統計的有意性を示していないことが期待される。 47

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⒋ 利用データと分析概要 分析2——雇用形態の違いと賃金・福利厚生格差の分析(Blinder-Oaxaca分解) 属性の差 係数の差 仮説①非正社員、特に有期労働者は平均勤続年数が短いがために賃金・福利厚生・副次的アウトカムに 差が生じている(属性の差) 。 仮説②非正社員は平均的なタスクレベルが低いがために賃金差が生じている(属性の差)。 仮説③非正社員は都道府県別最低賃金・求人倍率の係数差が正に有意である(係数の差)。 仮説④同一労働同一賃金が達成されている場合、2020年(中小企業は2021年)以降、タスクレベルの 係数差は0である。 48

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⒋ 利用データと分析概要 分析3——パートタイム・有期雇用労働法の効果測定(DID分析) パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)施行のインパクト評価を行うため、処置群 を「当該制度の影響を受けた群」、対照群を「当該制度の影響を受けなかった群」としてDID分析 (Difference-in-Difference analysis)を行う。 また、政策の介入タイミングとして、パートタイム・有期雇用労働法が大企業に施行されたのが2020 年4月、中小企業に施行されたのが2021年4月、また、「全国就業実態パネル調査(JPSED)」 の調査時期が毎年1月であることから、以下のような時系図が描ける。 49

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⒋ 利用データと分析概要 分析3——パートタイム・有期雇用労働法の効果測定(DID分析) したがって、2021年1月時点では大企業にはパートタイム・有期雇用労働法の処置効果があるが、中小企業にはほと んどないと考えられることから、2021年までのサンプルにおいては処置群・対照群を次のように定義する。 処置群:大企業で働く非正規・有期労働者 対照群:中小企業で働く非正規・有期労働者 ただし、両者には企業規模の違いに伴い、共変量に差異が生じている可能性が大きいことから、傾向スコアを用いた 加重最小二乗法を用い、可能な限り内生性を除外した推計を行う。 説明変数はこれまでと同様のものを使用する。アウトカム変数としては、これまでの分析と同様、対数賃金、福利厚 生、副次的アウトカム(賃金納得感、仕事満足度、ワークエンゲージメント、主観的生産性、メンタルヘルスなど)に加 え、正社員転換確率を加える。 これはパート・有期法13条において、事業主は非正社員の「正社員転換を推進する」義務を負うためである。 50

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⒋ 利用データと分析概要 分析3——パートタイム・有期雇用労働法の効果測定(DID分析) 次に、2022年1月以降では全ての企業に処置効果があり、かつ、大企業と中小企業では介入タイミングにラグがあるこ とで、両者には処置効果の影響の大きさに違いがあると考えられるため、2022-2023年のサンプルにおいては処置群・ 対照群を次のように定義した上で、DID分析を行う。 処置群:雇用形態の違いによる待遇格差が存在している職場で働く非正規・有期労働者 対照群:雇用形態の違いによる待遇格差が存在していない職場で働く非正規・有期労働者 上記のように定義する理由として、そもそも雇用形態の違いによる待遇格差が存在していないような企業では当該法の 施行の影響はほとんど受けず、また、処置群と対照群では処置の有無以外の共変量はほぼ同質であると考えられるた めである。 51

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⒋ 利用データと分析概要 分析3——パートタイム・有期雇用労働法の効果測定(DID分析) 職場において雇用形態の違いによる待遇格差が存在しているか否かは、JPSEDの次の設問の回答によって判断する。 自分と同様の働き方をしている正規の職員・従業員への評価と比較し、 自分の働き方に対する評価が不合理ではなく公正だと感じた。 パートタイム・有期雇用労働法が施行される2020年以前に、この設問に対し「あてはまらない」、「どちらかというとあ てはまらない」と回答した者を処置群、「あてはまる」、「どちらかというとあてはまる」と回答した者を対照群と定義する。 ただし、この設問は2018年以降しか存在しないことに加え、質問の回答は主観的な判断であることに注意されたい。 アウトカム変数および説明変数は先ほどの推計と全く同じものを使用する。 52

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⒈ テーマ紹介 ⒉ 背景・問題意識 ▐ Presentation ▐ Outline ⒊ 先行研究と独自性 ⒋ 利用データと分析概要 ⒌ 総括/懸念点と今後の予定 53

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⒌ 総括/懸念点と今後の予定 まとめ パートタイム・有期雇用労働法の政策評価を、以下の手順で行う。 ①雇用形態別に、都道府県別最低賃金・求人倍率を統制した上で、タスクモデル を用い、賃金・福利厚生・副次的アウトカム関数を推計する。 ②Blinder-Oaxaca分解により、格差を属性の差と係数の差に分解する。特に同一 労働同一賃金が達成されている場合には、タスク内容に関する係数の差は、0であ ることが期待される(法改正後)。 ③処置群・対照群を選定した上で、DID分析を行い、パートタイム・有期雇用労働 法(同一労働同一賃金)の政策インパクトを分析する。 本研究では、正規・非正規格差をタスクに着目して分析し、日本独自のメンバーシッ プ型雇用において、同一労働同一賃金が成立しうるのかを明らかにすることを目指し ている。 54

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⒌ 総括/懸念点と今後の予定 懸念点 1) 海外の先行研究のリサーチが甘い。特にタスクと賃金に関するもの、福利厚生( フリンジベネフィット)に関するものが見つけられていない。また、国内の先行研究 の整理にも苦労している 2) (労働)経済理論の詰めが甘い。それゆえに分析時の仮説も貧弱 3) 雇用形態を8つに細分化する場合、それぞれのサンプルサイズが少なくなる恐れが ある 4) DID分析の処置群・対照群の定義は適切か?群分けで使用する質問が2018 年度からしか訊かれておらず、処置前の期間(プレウィンドウ)が2年分しかない 5) 文献を読んで整理するのに時間をかけすぎてしまい、計画書を提出するのが遅れ てしまった 55

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⒌ 総括/懸念点と今後の予定 今後の予定 7月 9-10月 ・先行研究リサーチ ・執筆開始 ・理論の精緻化 ・初稿提出 ・データセット入手⁇ ・論文の精緻化 8月 11月6日(締切) ・データセット構築 ・最終稿完成⁇ ・予備的分析 ・『三田商学研究学生論 ・推計開始 文集』に応募 56

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参考文献 <文献> 大内伸哉. (2019). 非正社員改革 : 同一労働同一賃金によって格差はなくならない. 中央経済社. 水町勇一郎. (2018). 同一労働同一賃金のすべて. 有斐閣. 藪友良. (2023). 入門 実践する計量経済学. 東洋経済新報社. <webサイト> 坂 本 貴 志 . (2024, January 29). 就 業 形 態 と 賃 金 ― 進 む 非 正 規 雇 用 者 の 処 遇 改 善 、 将 来 的 に は 更 な る 賃 金 上 昇 へ . https://www.works-i.com/column/wage/detail007.html 厚生労働省(2022)「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の概況」 労働政策研究・研修機構(JILPT)(2022)「派遣労働をめぐる政策効果の実証分析」 労働政策研究・研修機構(JILPT)(2020)「パートタイム・有期契約労働者の雇用状況等に関する調査」 57

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参考文献 <論文> 石井加代子, & 樋口美雄. (2015). 非正規雇用の増加と所得格差: 個人と世帯の視点から: 国際比較に見る日本の特徴. 三田商学研 究, 58(3), 37-55. 伊藤大貴. (2017). タスクモデルを用いた男女間格差の考察. RIETI Discussion Paper, 17. 太田清. (2006). 非正規雇用と労働所得格差. 日本労働研究雑誌, 557, 41-52. 川口大司. (2011). ミンサー型賃金関数の日本の労働市場への適用. 現代経済学の潮流, 67-98. 川口大司. (2018). 雇用形態間賃金差の実証分析. 日本労働研究雑誌, 60(12), 4-16. 久米功一. (2010). 危険に対するセルフセレクションと補償賃金仮説の実証分析. 日本労働研究雑誌, 52(6), 65-81. 柴田弘捷. (2018). 日本の非正規労働者問題 (2): 男性非正規労働者の現在 (いま). 専修人間科学論集. 社会学篇, 8, 19-40. 島貫智行. (2018). 正社員と非正社員の賃金格差. 日本労働研究雑誌. 鈴木恭子. (2018). 労働市場の潜在構造と雇用形態が賃金に与える影響: Finite Mixture Model を用いた潜在クラス分析. 日本労働 研究雑誌, 60(9), 73-89. 58

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参考文献 <論文> 富岡禎司. (2022). 非正規雇用問題における賃金格差の同一労働同一賃金モデル. 商学研究論集, 57, 121-140. 長松奈美江. (2023). 増加する非正規雇用と賃金格差拡大. 関西学院大学社会学部紀要, 140, 85-105 浜田浩児. (2016). 近年の賃金格差の要因分解 雇用形態, 学歴, 経験年数, 勤続年数の寄与. 生活経済学研究, 43, 43-52. 安井健悟, 佐野晋平, 久米功一, & 鶴光太郎. (2016). 正社員と有期雇用労働者の賃金格差. RIETI Discussion Paper, 16. 安井健悟, 佐野晋平, 久米功一, & 鶴光太郎. (2018). 無限定正社員と限定正社員の賃金格差. 日本労働研究雑誌, 60(12), 67-81. 山本勲. (2010). 正規・非正規雇用間格差の発生と健康状態への影響. 樋口美雄・宮内環・CR McKenzie 編 『貧困のダイナミズム―― 日本の税社会保障・雇用政策と家計行動』 慶應義塾大学出版会, 133-151. 山本勲. (2014). 上場企業における女性活用状況と企業業績との関係-企業パネルデータを用いた検証. RIETI Discussion Paper Series 14-J-016. 余合淳. (2016). 働き方と公正感の関係性に関する一考察―小売業非正規従業員対象の質問紙調査を用いて―. 岡山大学経済学会 雑誌, 48(2), 23-37. 59