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June 13, 24
スライド概要
本スライドは2024年5月25日(土)に開催したゲーム開発者向けのリアルイベント『ゲームメーカーズ スクランブル2024』で行われた講演のスライドとなります。
タイトル:
心に残る物語のつくりかた
内容:
企画コンセプトの創り方と、受け手の心に残り続けるキャラクターやシナリオの導き方を提案します。
アニメ化を果たしたゲーム『カリギュラ』や、チャンネル登録者数50万人の『ミルグラム』など、自作品の事例を用いて山中がシナリオ作りで大切にしている点を解説します。
企画やシナリオに携わる方以外にも楽しんでいただける内容になると思います。
登壇者:
プロデューサー / ディレクター / 脚本家
山中拓也 氏
講演動画も公開中!
https://youtu.be/rl3-73svm2c
【アーカイブ記事】https://gamemakers.jp/article/2024_06_13_69382/
【イベントページ】https://gamemakers.jp/scramble2024/
【イベントレポート記事】https://gamemakers.jp/article/2024_06_04_69158/
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心に 物語のつくりかた 山中拓也
話す人 山中 拓也(37) ▼フリーランス ▼ゲームクリエイター ▼ゲームやアニメ等の脚本家 ▼コンテンツの企画/原作/プロデューサー ▼大学時代はカウンセラーになりたくて、 心理士資格を取得
経歴 22-26歳 株式会社ユークス 26-31歳 フリュー株式会社 プランナー プロデューサー/ディレクター/脚本家 →『カリギュラ』(2016)発売 →『カリギュラ』(2018)アニメ化 31-37歳 フリーランス プロデューサー/ディレクター/脚本家 コンテンツ企画/漫画原作 など →『SDガンダムワールド三国創傑伝』(2019)脚本参加 →『ミルグラム』 (2020)運用開始 →『カリギュラ2』(2021)発売 →『うたごえはミルフィーユ』(2022)発表 アニメ化決定
カリギュラ(2016-) ■フリュー株式会社 ■担当:企画/シナリオ原案 プロデューサー/ディレクター ▼現代学園RPG ▼『見てはいけないものほど見たくなる』 =カリギュラ効果がタイトルの由来 ▼現代病理とコンプレックスに焦点を当てた シナリオでコアなファンを獲得。 ▼2018年にフリュー作品初のアニメ化。 ▼2021年にフリュー作品初の続編を発売。
ミルグラム(2020-) ■山中権利物(原作) ■担当:企画/原作/シナリオ/プロデューサー/音響監督 ▼視聴者参加型YouTube映像作品 ▼心理実験「ミルグラムの服従実験」が タイトルの由来。 ▼10人のヒトゴロシの罪を映像と音楽で表現。 視聴者が考察し、『赦す/赦さない』を投票することで シナリオが変化していく。 ▼視聴者の価値観と倫理観を問う内容。 ▼ YouTubeチャンネル登録者数50万人超 全MV100万再生超。
ダンスマカブル(2020) ■バンダイナムコオンライン ■担当:企画原案/シナリオ ■担当:企画原案/シナリオ ▼人気アプリ『IDOLiSH7(アイナナ)』内の イベントストーリー(劇中劇)。 ▼16人のアイドルたちが演じる 荒廃した世界のダークファンタジー作品。 ▼天と地に二分された世界での群像劇。 死生観を問うような容赦のないシナリオ。 ▼賛否両論巻き起こしつつ、 強烈に支持する層を獲得し、 何の動きもないときに唐突にトレンドになる。
やってる仕事 プランナー プロモーション ディレクター 音響監督 プロデューサー メディアライター 脚本家 出演者 すべての仕事の苦労を知る者 細部まで一貫した 体験のコントロール すべてを憎みし者
作品に共通する特徴を言葉にするならば、 『心に残る』 ▼コアな作品ファンが絶やさずに情熱を持ち続けてくれる。 ▼作品終了後もファンが発信を続けてくれる。 ▼作品終了後も内容について議論がされる。語られ続ける。 ▼作品のファン→クリエイターのファンになってくれる。 【重要】 これらはすべてデザインされたものである。 それぞれにギミックが存在する。
疑問 何故『売れる』ではなく、 『残る』を目指すのか?
解答 どうしたら売れるかなんて 僕にはマジでわからねぇので。
売れる。 ・外的要因が影響する ・予算感/クライアント/ブランド等に依存する 残る。 ・企画/内容次第で実現することができる ・コンテンツ規模に依存しない ・大衆性を備えていなくても良い 売れるに再現性はないが、残るに再現性は見出だせる。
ごめん
現代のエンタメ価値観について ▼人間が同時に楽しめるコンテンツには限りがある。 FGO 原神 ウマ娘 ←ここの取り合い ▼エンタメの消費が早い現代。 残りの1枠は新しいコンテンツが出るたびに変わっていく。 FGO 原神 ウマ娘 ←“席に座る”力と同時に、 “席に居続ける”力が重要 居続けるためにはどうすればよいか?
居続ける方法 ① クオリティで残る 大きな組織が取るべき方法。 十分なリソースで、大衆のニーズに応えていく。 安心感で居場所を作り出す。 ② 心に残る 誰でも取れる方法。 そのコンテンツでしか満たせない体験がある。 どんな欠陥があろうと、替えが効かない存在になる。 個人の力でなんとかできる可能性のある 『心に残る』ために重要な体験・物語について話します
この人生送ってみて…… ゲーム開発者 プロデュース ディレクション 企画 面白い 面白い 脚本家 シナリオ ライター TVアニメ ゲーム 漫画原作 は、 を内包している
これから話すこと ゲーム開発者の方 ・自分の考えるゲームのシナリオに必要なこと ・シナリオ担当に何を求めればいいか シナリオに関わる方 ・企画とシナリオの関係性 ・求められるシナリオの作り方 それ以外の方 ・良い企画、良いシナリオの受け取り方
心に残る物語のギミック① コンセプトを貫く 受け手に与えたい感情を デザインする。
コンセプトとは ゲームにおける【コンセプト】とは =【体験】 =【受け手に何を感じさせるか?】 ゲーム開発における羅針盤であり、 最も重要なもの。
コンセプトとは ゲームコンセプトって例えば何? ○○感 で表現してみましょう。
コンセプトのわかりやすい例 一騎当千の 爽快感。 (真・三國無双より)
3Dアクションゲームを創ってみよう コンセプト 一騎当千の爽快感 手に汗握る緊張感 敵の数 うじゃうじゃ ぼちぼち 難易度 誰でもクリアできる 苦労してクリアできる 手軽さ 誰にでも触りやすく プレイヤースキルを求める 敵の体力 吹けば飛ぶような かなり手強く コンセプトが違うと、実装の指針が変わってきますね。 『体験』の目指す先を定義することが重要!
自作品のコンセプトは? 『見てはいけないものほど見たくなる』 =カリギュラ効果がタイトルの由来 『背徳感』 やってはいけないことをやっているときの ドキドキ/ゾワゾワ/ゾクゾク カリギュラ(2016-) 設定/シナリオ/キャラクター/楽曲すべてが 『背徳感』をかきたてるために存在している
コンセプトに則ったキャラクターの作り方 背徳感 ▼仮想世界で仮初の姿でゲーム中に登場する。 →人の隠したい秘密・コンプレックスを暴く。 →現代社会に根付いたリアリティのあるもの。 →自分の隣にいるかもしれない人たち。 →人の隠したい秘密・コンプレックスを暴く。 ✕ 秘密をとにかく派手にグロく露悪的にする ◯ 隣りにいるリアルさを目指す
コンセプトに則ったキャラクターの作り方 隣りにいるリアルさを目指したキャラクター ✕ 地味 ◎ 他に存在しない ・大衆性がない。 ・「これだけ?」 ・「こんなことで悩む? 共感できない」 ・「ゲームでやるにはショボくない?」 ・「これって私のこと?」 ・「他では理解されないけど、私にはわかる」 ・「ゲームで扱われるとは思わなかった」 表面上のエンタメ性よりも、 受け手との強い結びつきを選ぶ。
徹底したこと ▼髪色も服の色もリアルトーンのキャラクター ✕ 見分けがつかない / 一目見て覚えられない → 覚えづらいものほど、覚えたときに忘れない。 うるせぇ ▼芝居のトーンを生っぽく。キレイに整形しない ✕ 音が汚い/ どういう感情なのかわからない → 人の気持ちなんてわからない。感じろ。 やかましい ▼恋愛要素/エロ要素を入れない ✕ 売りづらい / キャラを愛せない → 人間は都合よく自分を好きにならない。 黙ってろ
徹底したこと キャラクターを人間扱いする だからこそ、 秘密を暴くことに『背徳感』が生まれる
徹底したこと キャラクターを人間扱いする だからこそ、 秘密を暴くことに『背徳感』が生まれる
選択と集中の結果 100人の理解を捨ててでも、 1人と特別に繋がる ・他の作品では救われていない人たち ・今後も他の作品で救われない人たち ・この作品が次に提示するものが必要な人たち
キレイゴトではなく…… IP保持のためには強いファンが必要。 強く心に残る 1人 → グッズを買ってくれる → イベントに来てくれる → 次の展開を気にしてくれる
心に残る物語のギミック② 時間を専有する 向き合ってない時間も作品のことを 考えてもらう 鍵になるのは『考察』と『深さ』
2作品の共通点 『考察』によるユーザーコミュニケーションを前提とした 作品であるということ ★現代のコンテンツにとって、この構造のメリットを語っていきます
カリギュラにおける考察 ■味方も敵も理想世界で理想の姿で登場する。 ■自分の現実を隠したい登場人物。 言動の節々から現実の姿を感じる。 ■敵は楽曲制作者。 ダンジョンでは彼らが創った楽曲が流れる。 その歌詞から敵の正体もわかる? ■主人公たちの武器や、胸から咲く花などに 数々のアレゴリーが存在する。 発売前のユーザーコミュニケーションとして考察を撒く。 → 答え合わせしたいから買う
アレゴリー=寓意とは? ぐう‐い【寓意】 〘 名詞 〙 他の物事に仮託して、 ある意味をあらわすこと。 この絵画は何を描いているかわかりますか? この少女は何を悲しんでおり、 老婆は何を怒っているでしょうか? ジャン・バッティスト・グルーズ作「割れた卵」
ミルグラムにおける考察 ■10人のヒトゴロシの“心象風景”を MVの形にして順次公開。 ■MVに含まれる断片的な情報や、 伏線やアレゴリーを見つける。 ■殺しの動機、シチュエーション、背景などを 考察して自分の価値観と照らし合わせ、 『赦す』『赦さない』を選択する。 ■すべてのヒトゴロシは視聴者の価値観によって 判断が分かれるものばかりである。 価値観の違いが大きく出る内容。 他人の意見/価値観が聞きたくなる→布教に繋がる。
考察構造のメリット ①『考察』とは無料のプロモーションである。 ②考えている時間を長くすることで、 作品との結びつきを強くする。 →『消費』させない 作品と触れている時間だけではなく、 日常を奪うことで『心に残る』状態を創りだす。
深いって何? ■ 物語の浅い・深いってなんだろう? 児童文学は浅い? 難しくて、対象年齢が高ければ深い?
山中の思う物語の『深さとは』 作品が伝えたいメッセージ性に対して、 作品内でしっかりと反論があること。 そして、その反論を飲み込みながら進むこと。
例えば 作品のメッセージ 理想を求めていてはダメだ。 現実に向き合わないといけない。 夢を見ていても何も変わらない 現実に帰っても何も起きないよね? 立ち上がらなければいけない 一人の力で社会って変わらないよね? 自分の本当の気持ちに向き合わなければ それって他の人の幸福考えてないよね? 仲間を現実に帰してあげなければ お前は主人公だから劇的だけど描かれない人は? 敵の理想を砕かなければならない それを虚構で描いてどうするの? エンディング
ゲームシナリオの可能性 心に残るのは、 割り切れない余りのようなもの。 作品が現実を侵食していくような作りを目指す。 ゲームシナリオは他メディアに比べて 『快感』『娯楽性』『納得感』に振った シナリオが多い。
カリギュラ2(2021) ■フリュー株式会社 ■担当:企画/シナリオ プロデューサー/ディレクター ▼現代学園RPG ▼『見てはいけないものほど見たくなる』 =カリギュラ効果がタイトルの由来 ▼2020年の現代社会と価値観を下敷きに 作成したストーリー。 ▼クライマックスの展開は、 RPGのスタンダードへの挑戦。
心に残る物語のギミック③ 現実を拡張する 現実の見え方を変える 当事者意識と没入感
現実を侵食する要素 隣人にも秘密があるのではないか?
現実を侵食する要素 すべての凄惨な事件にも理由があるのではないか
現実を侵食する要素 現実を生きるたびに 作品を思い出す。
心に残る物語の要素 コンセプトを貫く 時間を専有する 現実を拡張する
うたごえはミルフィーユ(2022) ■ポニーキャニオン ■担当:企画原案/シナリオ ■担当:原作/脚本 ▼『輝かなくても青春だ』をキャッチコピーとする 高校のアカペラ部を舞台とした物語。 ▼キャストもアカペラを練習。 キャラクターの体験と連動して成長。 ▼少女の持つコンプレックスがアカペラという 音楽を通して生々しく描かれるストーリー展開。 ▼TVアニメ化決定。 シリーズ構成と脚本作業中。 放送の際にはよろしくどうぞ。
オマケ ゲーム開発者 v プロデューサー ディレクター 企画 発注 脚本家 企画者はどこまで脚本を 理解していなければならないのか? 脚本家はどこまで企画を 理解していなければならないのか?
いきなり結論 ゲーム開発 v プロデューサー ディレクター 企画 発注 脚本家 発注側が脚本のプロになる必要はなし! 企画者は、脚本家に 『感情』をリクエストせよ!
パターン① v ゲーム開発者 脚本家 設定は現代学園ものです。 理想の世界の中で、理想の姿で生活している話です。 8人くらいの仲間キャラクターがいて、 自分たちを理想の世界に閉じ込めようとする 敵と戦い、最終的には現実に帰る話でお願いします。 わかりました! (そういう設定で好きに書くぞ!) ゲーム開発者『なんかイメージしたものと違うな……』
パターン② ゲーム開発者 v ゲーム開発者 脚本家 脚本家 ヒロインの設定は実は◯◯で、それが中盤で△△になって 終盤では✕✕な風に効いてくる感じで、 ◯◯な展開を書いてください。 その際、◯◯は✕✕で△△△で……… まぁ、その通りには書けますけど…… ゲーム開発者『想像を超えてこないな……』
パターン③ ゲーム開発者 v ゲーム開発者 この作品のコンセプトは◯◯感です。 ゆえにシナリオでも随所に◯◯感をプレイヤーに 感じさせるものにしたいです。 例えば◯◯◯◯にするとか、そういった方向性で 脚本の作成をお願いしたいです。 わかりました! 脚本家 脚本家 (◯◯感を感じさせるキャラクターって ああいうのがあるなぁ) (ああいう展開にしたら、 より◯◯感を感じさせられるんじゃないかなぁ) ゲーム開発者『なるほどこういうのがあったか!!』
シナリオを発注するときは ゲーム開発者 シナリオ担当も制作チームの一人。 ゲーム全体のコンセプトをシナリオまで徹底しよう。 脚本家の100%を引き出そう。 シナリオ シナリオの目的はゲーム全体の体験を引き上げること。 単体で面白いことに意味はない。 コンセプトを理解し、コンセプトに則って書こう。
もしくは…… ゲーム開発者 コンセプトから提案できる脚本家にお願いしよう!!