3.5K Views
April 14, 23
スライド概要
災害医療の基礎であるCSCATTT、START法、PAT法について解説しました。手っ取り早く災害医療を概観したい人にオススメです。
中京病院救急科医師 第2救命救急センター長 災害医療センター長 臓器提供委員会委員長 呼吸サポートチーム(RST)委員長 災害対策委員長 統括DMAT 日本救急医学会指導医および専門医 熱傷専門医
災害医療の基礎 独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO) 中京病院 救命救急センター/災害医療センター 黒木 雄一
災害医療の原則 CSCATTT Command & Control: 指揮命令系統 Safety: 安全確保 Communication: 連絡 Assessment: 状況把握 Triage: トリアージ Treatment: 応急処置 Transportation: 搬送
災害医療の原則 CSCATTT Command & Control: 指揮命令系統 Safety: 安全確保 Communication: 連絡 Assessment: 状況把握 Triage: トリアージ Treatment: 応急処置 Transportation: 搬送
C:指揮命令系統 災害現場における階層 本部長 副本部長 部下
C:指揮命令系統 ダメな組織 本部長 副本部長 部下1 部下2 役割分担がないまま 伝言ゲームが繰り返され 本末転倒な方向に進んでいく
C:指揮命令系統 役割分担がなされた組織 本部長 副本部長A 副本部長B 副本部長C 副本部長D A担当部下 B担当部下 C担当部下 D担当部下
C:指揮命令系統 役割分担がなされた組織 本部長 副本部長A 副本部長B 副本部長C 副本部長D 搬送担当 トリアージ担当 リエゾン担当 情報担当 A担当部下 B担当部下 C担当部下 D担当部下
C:指揮命令系統 役割分担がなされた組織 本部長 傷病者を見ない人員 が必ず必要 副本部長A 副本部長B 副本部長C 副本部長D 搬送担当 トリアージ担当 リエゾン担当 情報担当 A担当部下 B担当部下 C担当部下 D担当部下
災害医療の原則 CSCATTT Command & Control: 指揮命令系統 Safety: 安全確保 Communication: 連絡 Assessment: 状況把握 Triage: トリアージ Treatment: 応急処置 Transportation: 搬送
S: 安全確保 • 3S:Self(自分)→Scene(現場)→Survivor(傷病者) の順 • まず「自分」の安全を確保する • 見える危険だけでなく,「見えない」危険を想定して探す • 見えない危険:化学物質・放射性物質・微生物など
災害医療の原則 CSCATTT Command & Control: 指揮命令系統 Safety: 安全確保 Communication: 連絡 Assessment: 状況把握 Triage: トリアージ Treatment: 応急処置 Transportation: 搬送
C:連絡 ダメな連絡 本部長 副本部長A 副本部長B 副本部長C 副本部長D A担当部下 B担当部下 C担当部下 D担当部下 ヨコの連絡ばかり
C:連絡 本部長 副本部長A 副本部長B 副本部長C 副本部長D A担当部下 B担当部下 C担当部下 D担当部下 タテの連絡を必ず行う
災害医療の原則 CSCATTT Command & Control: 指揮命令系統 Safety: 安全確保 Communication: 連絡 Assessment: 状況把握 Triage: トリアージ Treatment: 応急処置 Transportation: 搬送
A: 状況把握 • 状況把握は「数」 • 全傷病者「数」、重症度別傷病者「数」をまず把握する • 「数」の把握には専任者が必要となるため、情報管理要員 を必ず確保する
災害医療の原則 CSCATTT Command & Control: 指揮命令系統 Safety: 安全確保 Communication: 連絡 Assessment: 状況把握 Triage: トリアージ Treatment: 応急処置 Transportation: 搬送
T:トリアージ • フランス語 • コーヒー豆を選別する作業を指す言葉が語源 • 災害においては、まず第一に救命すべき重症患者を選出 する手段を指す
T:トリアージ START法 Simple:簡便な Triage:トリアージ And:と Rapid:迅速な Treatment:応急処置
START法 歩行可能 はい 軽症群(緑) 黒 いいえ 呼吸あり 下顎挙上しても呼吸回復なし いいえ 下顎挙上で呼吸回復あり はい 呼吸数 9回/分以下、30回/分以上 10-29回/分 橈骨動脈触知 脈触知あり 意識:従命反応 あり 黄 脈触知せず なし 赤 赤 赤
START法のポイント ・歩ければ緑 ・CPAは黒 ・歩けない患者で以下のいずれかがあれば赤 ✓気道:気道開放(下顎挙上法)で再開する呼吸停止 ✓呼吸:呼吸数30 回以上または9回以下 ✓循環:橈骨動脈触知しない ✓意識:指示に従わない ・歩けないが,気道,呼吸,循環,意識をすべてクリアして いれば黄
T:トリアージ PAT法 Physiological:生理学的(バイタルサイン) Anatomical:解剖学的(臓器別重症徴候) Triage:トリアージ
第1段階:生理学的評価 以下のバイタルサイン異常があれば 赤 • 意識:JCS IIケタ以上 • 呼吸数:9回以下 または 30回以上 • 脈拍:49bpm以下 または 120bpm以上 • 血圧:収縮期血圧 90mmHg未満 または 200mmHg以上 • SpO2:90%未満 • ほかに:ショック徴候、低体温(35℃以下)
第2段階:解剖学的評価 全身観察により以下の外傷が疑われれば 【頭部・顔面】 (開放性)頭蓋骨骨折 頭蓋底骨折 顔面・気道熱傷 【胸部】 気管・気道損傷 心タンポナーデ 緊張性気胸 フレイルチェスト 開放性気胸 【腹部】 腹腔内出血 腹部臓器損傷 赤 【骨盤・四肢】 骨盤骨折 両側大腿骨骨折 四肢麻痺 四肢切断 クラッシュ症候群 【皮膚・軟部】 デグロービング損傷 広範囲熱傷(15%以上) 穿通外傷(臓器や大血管に 達する) 脳・脊髄を含めた臓器損傷が 疑われれば重症
ABCDE+Crアプローチ Airway:気道 Breathing:呼吸 Circulation:循環 Dysfunction of CNS:神経 Exposure & Environment:脱衣と体温 Crush:クラッシュ症候群
A:気道の評価 ✓ 視診 気道熱傷を疑う所見はないか? (顔面熱傷,スス付着,鼻毛消失etc) ✓ 聴診 嗄声,ゴロゴロ音,イビキ音
B:呼吸の評価 ✓ 胸部視診 ✓ 頸部視診 胸郭運動の左右差 頸静脈怒張 奇異性呼吸(フレイルチェスト) 呼吸補助筋使用 開放性気胸 ✓ 頸部触診 ✓ 胸部聴診 皮下気腫 呼吸音の左右差 気管偏位 ✓ 胸部触診 皮下気腫 肋骨動揺 ✓ 胸部打診 鼓音・濁音の有無
C:循環の評価 ✓ ✓ 骨盤骨折 脈 圧痛(特に仙腸関節) 皮膚冷感と湿潤 動揺 ✓ 活動性外出血 ✓ 大腿骨骨折 ✓ 腹腔内出血 大腿部変形・腫脹・圧痛 腹部膨隆 腹部圧痛 (もしあれば)エコー ショックの認知
D:神経系の評価 ✓ 意識レベル評価(JCS, GCS) ✓ 頭蓋底骨折 ✓ 瞳孔 パンダ目・Battle徴候 瞳孔不同 髄液漏 対光反射 ✓ 麻痺 片麻痺→頭蓋内血腫 対麻痺,四肢麻痺→脊髄損傷
E:脱衣と体温管理 ✓ 全身観察 熱傷 デグロービング損傷 四肢切断 穿通性外傷 ✓ 体温管理 保温に努める
Cr:クラッシュ症候群 ✓ 受傷機転 長時間(4時間以上)は さまれていたか? ✓ 観察 腫脹 緊満 感覚鈍麻 利尿の有無 尿の色 ◆ ただちに急速輸液を開始する ◆ 急速輸液に対する利尿がなければ、 緊急透析が必要となる
第3段階:受傷機転による対応 体幹部の挟圧 1肢以上の挟圧(4時間以上) 爆発 高所墜落 異常温度環境 有毒ガス発生 汚染(NBC) 特に第三段階の受傷機転で重症の可能性があれば 一見軽症のようであっても待機的治療群(Ⅱ)以上 の分類を考慮する
第4段階 災害弱者の扱い 小児 高齢者 妊婦 基礎疾患のある傷病者 旅行者 外国人 は、必要に応じて待機的治療群(Ⅱ)
START法とPAT法の使い分け • 傷病者数>>>救助要員数のとき 👉START法を繰り返す • START法により、振り分けが行われ、救助要員に余裕が出てき たとき 👉PAT法を行う
バイタル監視 • トリアージが完了し、各重症度別テントに移動した傷病者に対しては、 呼吸数、SpO2、血圧、心拍数、意識レベルの観察を繰り返し行う。 • バイタルサインの異常が出現したら、トリアージ順位を上げることを 上司に進言する。
災害医療の原則 CSCATTT Command & Control: 指揮命令系統 Safety: 安全確保 Communication: 連絡 Assessment: 状況把握 Triage: トリアージ Treatment: 応急処置 Transportation: 搬送
気道確保とRICE • 下顎挙上による気道確保とともに • Rest:安静 • Ice:冷却 • Compression:圧迫止血 • Elevation:挙上
CPAに対する蘇生をするかどうか? • 多数傷病者が存在し、救助要員が不足している状況におい ては、CPA傷病者への蘇生は控えざるをえない →黒タグより赤タグを優先 • 中毒(化学テロなど)によるCPAは蘇生のチャンスがある →例)地下鉄サリン事件
災害医療の原則 CSCATTT Command & Control: 指揮命令系統 Safety: 安全確保 Communication: 連絡 Assessment: 状況把握 Triage: トリアージ Treatment: 応急処置 Transportation: 搬送
災害拠点病院 ① 24時間いつでも災害に対する緊急対応ができ、被災地域内の傷病者の受 け入れ・搬出が可能な体制を持つ。 ② 実際に重症傷病者の受け入れ・搬送をヘリコプターなどを使用して行う ことができる。 ③ 消防機関(緊急消防援助隊)と連携した医療救護班の派遣体制がある。 ④ ヘリコプターに同乗する医師を派遣できることに加え、これらをサポー トする、十分な医療設備や医療体制、情報収集システムと、ヘリポート、 緊急車両、自己完結型で医療チームを派遣できる資器材を備えている。
実際の事例 製鉄所爆発事故 2014. 9. 3
傷病者詳細 番号 年齢・性別 トリアージ 気管挿管 熱傷面積 手術 転帰 1 35歳・男性 赤(顔面気道熱傷) なし 3% なし 14日間入院 2 53歳・男性 赤(顔面気道熱傷) なし 8% あり 13日間入院 3 43歳・男性 赤(顔面気道熱傷・ なし 16% あり 28日間入院 広範囲熱傷) 4 39歳・男性 黄 なし 3% なし 7日間入院 5 37歳・男性 緑 なし 3% なし 帰宅 6 44歳・男性 緑 なし 2% なし 帰宅 7 49歳・男性 緑 なし 1% なし 帰宅
課題 傷病者数がさらに多い場合は、現場でのトリアージと、 分散搬送体制をさらに強化する必要がある。