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April 14, 23
スライド概要
熱傷で入院する患者さんのなかでも特に多い、小児と高齢者の受傷原因について、カルテ調査し、集計しました。そこから見えてくる、熱傷予防策とは?
中京病院救急科医師 第2救命救急センター長 災害医療センター長 臓器提供委員会委員長 呼吸サポートチーム(RST)委員長 災害対策委員長 統括DMAT 日本救急医学会指導医および専門医 熱傷専門医
ヤケドの予防について考える 独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO) 中京病院 救急科 黒木 雄一
内容 1. 中京病院と熱傷 2. 子どもがヤケドする原因 3. 子どものヤケドの予防策 4. 高齢者がヤケドする原因 5. 高齢者のヤケドの予防策
内容 1. 中京病院と熱傷 2. 子どもがヤケドする原因 3. 子どものヤケドの予防策 4. 高齢者がヤケドする原因 5. 高齢者のヤケドの予防策
熱傷入院患者数(2016-20) 120 100 80 60 40 20 0 男性 女性
熱傷入院患者数(2016-20) 120 100 80 60 40 20 0 男性 女性
内容 1. 中京病院と熱傷 2. 子どもがヤケドする原因 3. 子どものヤケドの予防策 4. 高齢者がヤケドする原因 5. 高齢者のヤケドの予防策
年齢別分布 男 60 女 40 20 0 0歳 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 ➢ 年齢別に見ると、1歳が最多で、0歳が続きました。 ➢ 98%は高温液体が原因でした。
子どもの高温液体熱傷の統計 ~受傷原因~ 年齢 0歳 数 32(男20女12) 1歳 48(男36女12) 22(男15女7) 1位 電気湯沸器(11) お椀の湯(9) 受 傷 原 因 2歳以上 鍋の湯(7) 2位 お椀のスープ(5) 電気湯沸器(8) 鍋のスープ(5) 3位 鍋のスープ(4) 鍋のスープ(6) 電気湯沸器(3) 急須のお茶(6) ※電気湯沸器とは「電気ポットまたは電気ケトル」のことです。 (電気ケトルを電気ポットと間違えてカルテに記載している可能性が高いため、 ほとんどは電気ケトルと考えられます。)
子どもの高温液体熱傷の統計 ~高温液体のあった場所~ 年齢 数 置 い て あ っ た 場 所 0歳 1歳 2歳以上 32(男20女12) 48(男36女12) 22(男15女7) 1位 テーブル(21) テーブル(33) キッチン(13) 2位 キッチン(7) キッチン(12) テーブル(7) 3位 浴室(2) 床(2) 浴室(2) 浴室(2)
ヤケドのメカニズム_0歳 ➢受傷原因は電気湯沸器(電気ケトルまたは電気ポット)が最多でした。 ➢高温液体の存在場所はテーブルが最多でした。 ➢6か月を過ぎると、ハイハイやつかまり立ちができるようになり、テーブルの 上の電気ケトルなどを倒して受傷するのが典型的なパターンです。
ヤケドのメカニズム_1歳 ➢受傷原因はお椀の湯が最多でした。 ➢高温液体の存在場所はテーブルが最多でした。 ➢1歳になると、歩き回ったり、上にあるものをつかもうとするようにな ります。ミルクを温めるために、熱湯の入ったお椀やボウルをテーブル に放置しておくと、テーブルクロスを引っぱるなどしてお湯がこぼれて 受傷するのが典型的パターンです。
ヤケドのメカニズム_2歳以上 ➢受傷原因は鍋の湯が最多でした。 ➢高温液体の存在場所はキッチンが最多でした。 ➢2歳以上になると、さらに行動が活発になります。調理中の 鍋の柄をつかもうとしたり、調理中の親に体当たりして熱湯が こぼれて受傷するのが典型的パターンです。
加温・沸騰機能 保温機能 電気コード JIS規格 電気ケトル 電気ポット あり あり ないものがほとんど あり 本体に固定 マグネット式プラグ なし あり ➢ 2000年代に入り、すぐにお湯を沸かせる製品として、電気ケトル が急速に普及してきています。 ➢ 同時に、電気ケトルの湯がこぼれて受傷する子どもが急速に増加 しており、日本小児科学会からも警告が出ています。
国民生活センター 「電気ケトルによるやけど事故に注意!」より ➢電気ケトルは電気コードが本体に固定されているため倒れやすい です。 ➢電気ケトルには湯こぼれ防止機能などに関するJIS規格がなく、 とくに外国製のものはお湯がこぼれやすいです。
保存治癒 要手術 約6倍 ➢ 今回の統計によると、電気ケトルまたは電気ポットの湯による熱傷 は、手術が必要な深いヤケドになる頻度が他の原因と比較して約6倍 になることがわかりました。
電気ケトルの熱湯による 深いヤケド 植皮手術 ➢電気ケトルの熱湯は高温のため、手術が必要な深いヤケドになりやすい と考えられます。
内容 1. 中京病院と熱傷 2. 子どもがヤケドする原因 3. 子どものヤケドの予防策 4. 高齢者がヤケドする原因 5. 高齢者のヤケドの予防策
予防策1.電気ケトルに注意 ➢ 電気ケトル(または電気ポット)は0歳の受傷 原因1位、1歳の受傷原因2位でした。 ➢ 手術が必要になる深い熱傷となる頻度が他に 比較して約6倍でした。 ➢ 電気ケトルや電気ポットは台所の奥などに置 き、テーブルの上には決して置かないように しましょう。
予防策2.テーブルの上に熱湯を置かない ➢ ヤケドの原因となる高温液体の置き場所として、0歳 と1歳ではテーブルが第1位でした。 ➢ チャブ台などの低いテーブルに熱湯を置かないように しましょう。 ➢ 高いテーブルでも油断は禁物です。子どもが小さいう ちは、テーブルクロスを使わないようにしましょう。
予防策3.子どもをキッチンに近づけない ➢ キッチンの鍋の熱湯やスープによる受傷が2歳以上の受傷原因 第1位でした。 ➢ キッチンに柵を設置するのがベストです。
内容 1. 中京病院と熱傷 2. 子どもがヤケドする原因 3. 子どものヤケドの予防策 4. 高齢者がヤケドする原因 5. 高齢者のヤケドの予防策
熱傷入院患者数(2016-20) 120 100 80 60 40 20 0 男性 女性
後期高齢者の受傷原因(117例中) 1位 2位 3位 4位 5位 6位
後期高齢者の受傷原因(117例中) 1位 2位 3位 4位 5位 6位 仏壇(6例)
6位:仏壇(6例/117例) ➢仏壇のロウソク火が着衣に着火 して起こります。 ➢全例が女性でした。 ➢全例で手術が必要でした。 ➢3ヶ月以上の入院が必要となっ た例もありました。
後期高齢者の受傷原因(117例中) 1位 2位 3位 4位 5位 野焼き(10例) 6位 仏壇(6例)
5位:野焼き(10例/117例) ➢多くの自治体で禁止されています。 ➢全例が男性でした。 ➢全例で手術が必要でした。 ➢筋骨に達する熱傷となり、腕や脚の切断 を要した方が2例いました。 ➢1例が熱傷創感染による敗血症で亡くな りました。
後期高齢者の受傷原因(117例中) 1位 2位 3位 4位 風呂(17例) 5位 野焼き(10例) 6位 仏壇(6例)
4位:風呂(17例/117例) ➢ 追い焚きをしたまま熱中症で意識を失う ことが原因で受傷します。 ➢ 熱傷性ショックなどで8例が亡くなりま した。
後期高齢者の受傷原因(117例中) 1位 2位 ストーブ関連(22例) 2位 家屋火災(22例) 4位 風呂(17例) 5位 野焼き(10例) 6位 仏壇(6例)
2位:家屋火災(22例/117例) ➢ 煙を吸い込むことによる吸入損傷を合併す ることが多いです。 ➢ 吸入損傷に続発した一酸化炭素中毒や肺炎、 広範囲熱傷による熱傷性ショックなどで 10例が亡くなりました。
2位:ストーブ関連(22例/117例) ➢ ストーブ上のヤカンの熱湯(10例)、ストーブの火(9例)、 ストーブへの接触(3例)が原因でした。 ➢ 15例で手術が必要でした。 ➢ 3例が熱傷創感染による敗血症などで亡くなりました。 ➢ ストーブ関連熱傷は、子どもが祖父母宅でヤケドする (いわゆる「おばあちゃんち熱傷」)原因にもなります。
後期高齢者の受傷原因(117例中) 1位 調理関連(25例) 2位 ストーブ関連(22例) 2位 家屋火災(22例) 4位 風呂(17例) 5位 野焼き(10例) 6位 仏壇(6例)
1位:調理関連(25例/117例) ➢ コンロの火による着衣着火(13例)、調理中の高温液体によ るもの(12例)が原因でした。 ➢ 18例で手術が必要でした。 ➢ 原疾患の悪化などにより2例が亡くなりました。
内容 1. 中京病院と熱傷 2. 子どもがヤケドする原因 3. 子どものヤケドの予防策 4. 高齢者がヤケドする原因 5. 高齢者のヤケドの予防策
原因 対策 調理関連 電磁調理器の使用 ストーブ関連 エアコンの使用 家屋火災 火災予防 風呂 家族の監視・追い焚き禁止 野焼き 野焼きしない・油を加えない 仏壇 LEDロウソクの使用
おわりに • ヤケドで入院した小児と高齢者についてお示ししました。 • 外来治療可能な軽症例も含めると、さらに原因は多彩です。 • 入院を要するような重いヤケドの原因を知っていただき、ご家庭、 ご親戚、ご友人などと共有していただくことで、ヤケドを負う人 が一人でも減れば幸いです。