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June 24, 24
スライド概要
日本人間工学会第65回大会
講演番号:2F5-2
大阪公立大学生活科学部居住環境学科デザイン人間工学研究室(土井俊央研究室)
2024/6/23 日本人間工学会第65回大会 日々の製品利用経験評価と 一連の利用期間における総合的な 満足の評価の関係の分析 土井 俊央 大阪公立大学生活科学研究科 居住環境学分野デザイン人間工学研究室
ユーザの利用経験を時系列で考える 製品やサービス利用時のUX(ユーザエクスペリエンス)向上を図るためには, ユーザの中長期的な利用状況を考える必要がある ユーザの体験の時系列を考えるための方法として, カスタマージャーニーマップ(CJM)などのモデル化手法がよく用いられる ステージ ユーザの行動 興味・関心 利用中 • ウェブで検索する • SNSで見る • 価格比較サイトで最安値 のページから購入 • 毎日着用する • 使ってみたい • いくらくらい? • すぐに買えた • ちゃんと使えるかな? • 簡単に使えて嬉しい タッチポイント 思考 購買 利用後 • 1日の利用結果をアプリ で確認する 行動経済学分野で提唱された ピーク・エンドの法則が利用されることがある • 日々の記録を見るのが楽 しい 感情 ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 1
ピーク・エンドの法則 Kahneman & Fredrickson, 1993 一連の体験の印象は, ピークとエンドの中間の評価になる → 最後の印象が大事 • ある対象の印象が時間経過で変化するとき,一連の変動が終わった直後の評価は,最も印 象に残った(明確であった)時の評価(ピーク)と最終段階で感じた評価(エンド)の中 間になりやすい ピーク・エンドの法則が検討された研究例 • 冷水に手を付けた際の苦痛(Kahneman & Fredrickson, 1993) • 内視鏡検査の苦痛(Redelmeier & Kahneman, 1996) シンプルかつ短期間の刺激を対象としたものが多い ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 2
製品・サービス利用におけるピーク・エンドの法則 製品やサービスの利用におけるUXといった 日常的かつ長期間な経験についてもピーク・エンドの法則は成り立つのか? 過去に利用した製品利用体験を想起させ(回顧法),過去の満足度の時系列 変化が現時点の総合満足度に与える影響を検討(Doi, et al., 2022; 土井ら, 2022) ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 3
先行研究における課題 長期間の過去の記憶の想起による研究(Doi, et al., 2022; 土井ら, 2022) • 忘却や記憶のバイアスによる影響 • 調査参加者ごとに異なる製品,異なる利用期間であった • 満足度のみを分析対象としており, 製品やその利用から得たUXの特徴については言及されていない 実験室での単一の製品操作タスクを対象にした研究(Chen & Ho, 2021) • あくまでも一時的な利用を対象としたものであり,中長期のUXに適用できるかは不明 ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 4
本研究の目的 先行研究と異なる状況において,日々の製品利用経験評価と 一連の利用期間における総合的な満足度評価の関係性を分析した • 調査参加者の利用状況を統制し,かつ一定の間隔で定期的に満足度評価を行い, ピーク・エンドの法則を検証 • 利用期間中のUXの印象評価を確認 ??? 日々の利用経験での満足 ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University ある期間全体の 総合満足度 5
調査方法 調査参加者:対象製品に対して利用意欲があり,かつ利用経験のない大学生 • 10名(男性:5名,女性:5名,平均年齢:20.6歳) • 大阪公立大学生活科学研究科倫理委員会の承認を得て実施(承認番号:23-64) 調査対象製品:Fitbit Inspire 3 • 当該製品および対応するアプリケーションを8週間利用してもらった • 各参加者の自由意思に基づく » 毎日の使用の強制や機能・タスクの指示は行わなかった » ただし,製品配布直後から全く(およびそれに近い状態で)使わずに 放置し続けるなど利用を放棄することはしないように指示した ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 6
データの取得・分析 1週間ごとにMS formsを用いたアンケート 8週間の利用終了後の1週間以内に半構造化インタビュー • 1週間の総合満足度(-10~10) • 各日での利用エピソードとその日の満足度(-10~10) • AttrakDiff Mini(7段階のSD法) 1wk 1wk 1wk 1wk 1wk • 8週間の総合満足度(-10~10) • 利用状況の振り返り 1wk 1wk 1wk 8wks ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 7
データの取得・分析:AttrakDiff Mini AttrakDiff (Hassenzahl & Monk, 2010) • UX評価のための質問紙 • 7段階のSD法 PQ (pragmatic quality) • 簡易版のAttrakDiff Miniを利用した 4つの下位指標に分けて算出 HQ-I (hedonic quality-identify) •格好悪い-格好良い •安っぽい-高級感がある HQ-S (hedonic quality-stimulation) • PQ(実用的品質) • HQ-I(快楽的品質:同定) • HQ-S(快楽的品質:刺激) • ATT(魅力) •実用的でない-実用的である •予測不可能な-予測可能な •複雑な-シンプルな •ゴチャゴチャした-整然とした •想像力に乏しい-創造的な •退屈な-魅惑的な ATT (attractiveness) •醜い-美しい •悪い-良い ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 8
結果:1週間ごとのデータによる分析 満足の最大値(ピーク)と最終日の満足度(エンド)が 有意に総合満足度に寄与 • F(3,75)=49.23 (p<0.01), R2 = 0.65 支配的ではないもののピーク(最大)とエンドによって ある程度,総合満足度を説明できることが示唆された 10名×8週 = 80サンプル ⇒1回欠損で79サンプルで分析 目的変数:1週間の総合満足度 説明変数: ・各日の満足度の最大値,最小値 (ピーク) ・最終日の満足度(エンド) ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 9
結果:8週間全体での分析 有意なモデルは得られなかった 目的変数:8週間の総合満足度 • F(3,8)=3.22 (p=0.49), R2 = 0.23 説明変数:8週間の各日の満足度 の最大値,最小値,エンド値 Satisfaction 8週全体で見た時には 各日のピーク,エンドの影響は見られない 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 wk1 wk2 wk3 wk4 wk5 wk6 wk7 wk8 Week ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 10
結果:AttrakDiff Miniによる印象評価 2-way ANOVAの結果に有意差なし • 下位指標(PQ, HQ-I, HQ-S, ATT)の4水準 × 利用週数の8水準 • 調査期間を通して,4指標間に違いは認められなかった 重回帰分析の結果より,PQ(実用的品質)とATT(魅力)が満足に寄与 • F(4,74)=31.03 (p<0.01), R2 = 0.61 目的変数:各週の総合満足度 説明変数: 各週における4指標の評価値 ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 11
考察:日々の満足度と総合的満足の関係 製品の実利用状況を追跡した評価においても ピーク・エンドの法則が成り立つ可能性が示唆された • 1週間の総合満足度には,その週の最大の満足値(ピーク)と 最終日の満足値(エンド)が有意に寄与していた • ただし,8週全体では有意なモデルは得られず,期間の長さが影響する可能性もある • ピーク(最小)の影響は見られなかったが,今回の対象製品は全体を通して不満足の評価 (マイナスの満足度)が見られなかったためかもしれない ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 12
考察:UXの印象と満足度の関係 AttrakDiff Miniでは,PQとATTが特に総合的満足に対する影響が強かった • Fitbit Inspire 3を実用的な目的(歩数計測やスケジュールのリマインドなど)で 利用していた参加者が多かったためPQの影響が大きかったのではないかと思われる • 時間経過(週数)による変化は見られなかった Score of AttrakDIff Mini 8 7 6 5 4 3 2 PQ 1 0 0 2 4 6 Satisfaction ATT 8 10 ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 13
まとめ 先行研究では検討されていない観点から, 時系列の満足度評価とある期間全体の総合的満足度の関係を調査した • 利用経験のない機器を8週間利用してもらう • 1週間ごとに日毎の満足度とその週の総合満足度を記録 • AttrakDiff Miniによって,週ごとのUX評価の変化を記録 1週間ごとに見た場合,ピーク(最大)とエンドの満足度が総合的満足度に 有意に寄与していることが示唆された ご清聴ありがとうございました。 土井俊央 [email protected] ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 14
調査データの分析:ピーク・エンドの法則の検証 1. 1週間ごとのデータ(10名 x 8週間 = 80サンプル)の分析 • 参加者1名に1度欠損があったため,79サンプル • 重回帰分析 » 目的変数:1週間の総合満足度 » 説明変数:各日の満足度の最大値,最小値,エンド値(最終日の満足度) 2. 8週間全体の分析 • 目的変数:8週間の総合満足度 • 説明変数:8週間の各日の満足度の最大値,最小値,エンド値 ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 15
調査データの分析:UXの印象評価 3. AttrakDiff Miniのデータの分析 1. 2-way ANOVA » 下位指標(PQ, HQ-I, HQ-S, ATT)の4水準 × 利用週数の8水準 2. 重回帰分析 » 目的変数:各週の総合満足度 » 説明変数:各週のAttrakDiff Miniの4指標の評価値 ©Design Ergonomics Lab., Osaka Metropolitan University 16