360度揺れる椅子がVDT作業中のユーザに与える影響

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July 01, 25

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日本デザイン学会第72回春季研究発表大会

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大阪公立大学生活科学部居住環境学科デザイン人間工学研究室(土井俊央研究室)

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1.

360度揺れる椅子が VDT作業中のユーザに与える影響 日本デザイン学会 第72回春季研究発表大会 大阪公立大学大学院生活科学研究科 ⼤阪公⽴⼤学研究推進課 ○野田 彩加,土井俊央 山下久仁子

2.

研究背景 近年,長時間にわたるVDT作業を行うことが増えている 座位による作業では,背骨のS字形がアーチ形に近づき, 椎間板が圧迫されて周りの神経を刺激してしまう →腰痛(上野, 1994) 椎骨 神経 椎間板 よいオフィスチェアの条件: • 上体をS字形に保つ(上野, 1994) • 脊椎を動かし,脊椎への負担を減らす(van Deursen, 2000) 上野義雪:いすと腰痛,治療,Vol.76, No.7, 1994 van Deursen, D.L., Lengsfeld, M., Snijders, C.J., Evers, J.J., Goossens, R.H.: Mechanical effects of continuous passive motion on the lumbar spine in seating. J. Biomech. 33, 695–699, 2000 2

3.

アクティブチェアの開発 前傾座面 アクティブチェア: 座る人が椅子を動かす動作を提供し, 椅子のメカニズムがその動作に対応する(Pynt, 2015) → × 座面が前傾していると,骨盤は後方に回転せず, 腰椎が自然と前弯し,椎間板への負荷軽減が期待できる 脊椎の動きを促す 座面前傾椅子 バランスボール Pynt : Rethinking design parameters in the search for optimal dynamic seating, Journal of Bodywork & Movement Therapies, 19, 291- 303, 2015 3

4.

アクティブチェアの評価 座面前傾椅子 • 体幹の動きや脊柱起立筋の運動量は影響を受けなかった(Van Dieen, 2001) バランスボール • 体幹の動きや腰部の変動は増加◎(Kingma, 2009) • 筋負担がかかっている(Kingma, 2009) • 不快感がある(北村, 2021) Idsart Kingma , Jaap H. van Dieen: Static and dynamic postural loadings during computer work in females: Sitting on an office chair versus sitting on an exercise ball, Applied Ergonomics, 40 , 199–205, 2009 北村孝寛,中島康貴,生野岳志,山本元司:腰痛予防用チェア開発のためのバランスボール使用時の筋電計測と認知試験評価,日本機械学会論文集,Vol.87, No.898, 2021 4

5.

360度揺れる椅子 • バランスボールのような感覚で体の 自然な動きに追随 • 前傾させるときとさせずに座るとき の使い分けができる • 心地のよさや身体面への良い影響が ある可能性が示唆された (田中, 2018) 田中知里,河合隆史:360°揺れる椅子を使用したオ フィス業務の評価, 2018 https://www.kokuyofurniture.co.jp/products/office/inglife/ 5

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研究目的 動作解析,筋電図,座面圧力,主観評価の各観点から, 360度揺れる椅子が VDT作業中のユーザに与える影響を明らかにする 6

7.

実験1 概要 2条件の椅子を比較: • 360度揺れる椅子(コクヨ ing LIFE) • 一般的な事務椅子(コクヨ CRS-G287N) 評価項目:筋電図,座面圧力,主観評価 実験参加者:健常な女子大学生8名 360度揺れる椅子 一般的な事務用椅子 年齢(平均±標準偏差)20.3±1.2歳,身長154.7±3.2cm,体重は51.8±4.1kg 場所:大阪公立大学生活科学部人工気候室 7

8.

実験1 平均筋活動量 内腹斜筋 内腹斜筋 • 反復測定二元配置分散分析 椅子の種類(2水準)×作業区間(4水準) • 多重比較(Bonferroni) 360度揺れる椅子の活動量が大きい 平均筋活動量(%MVC) 360度揺れる椅子 開始直後 (5秒間) 一般的な事務用椅子 中半 前半 後半 (0~10分) (10〜20分) (20~30分) 作業区間 内腹斜筋の平均筋活動量(%MVC) 8

9.

先行研究のビデオから見られた実験参加者の傾向 • 360度揺れる椅子での作業時には座面を前傾させていた 内腹斜筋 一般的に見られる座り方 前傾させた座り方 × 9

10.

実験1 主観評価 総合的な座り心地の良さ 臀部・大腿部のフィット感 臀部・大腿部の支持される感じ 360度揺れる椅子 臀部・大腿部の感触 腰部のフィット感 一般的な事務用椅子 腰部の支持される感じ *=p<0.05 腰部の感触 背部のフィット感 背部の感触 * 座面の位置 座面のサイズ感 360度揺れる椅子と 一般的な事務用椅子の 評価はほとんど変わらない 背もたれの位置 背もたれのサイズ感 作業後における座り心地評価 10

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実験1 実験2 内腹斜筋の活動量 主観評価 ※異なる座位姿勢の効果を検証 前傾でない=AC① 前傾足前=AC② AC>OC ほとんど差なし 前傾足後ろ=AC③ 座面前傾でない、座面前傾足前、座面前傾足後ろ+ 一般的な事務用椅子 =4条件でそれぞれ5分間のVDT作業を行う 11

12.

実験2 概要 2条件の椅子を比較: • 360度揺れる椅子(コクヨ ing LIFE) • 一般的な事務椅子(コクヨ CRS-G287N) 360度揺れる椅子 一般的な事務用椅子 評価指標:動作解析,筋電図,座面圧力,主観評価 実験参加者:健常な女子大学生10名 年齢(平均±標準偏差) 20.8±0.9歳,身長159.2±.7cm,体重は51.1±5.4kg 場所:大阪公立大学生活科学部人工気候室 12

13.

実験2 111.91° 平均体幹角度 115.37° 119.89° 125.57° 頸椎点 転子点 膝関節点 OC AC① AC② AC③ 13

14.

脊柱起立筋 背部 • 反復測定一元配置分散分析 • 多重比較(Bonferroni) AC②の活動量が大きい 平均筋活動量(%MVC) 実験2 平均筋活動量 脊柱起立筋背部 AC前傾でない AC前傾足前 AC前傾足後ろ (AC①) (AC②) (AC③) OC 脊柱起立筋背部の平均筋活動量(%MVC) 14

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脊柱起立筋 腰部 • 反復測定一元配置分散分析 • 多重比較(Bonferroni) AC②の疲労が大きい MPF(Hz) 実験2 MPF(筋疲労) 脊柱起立筋腰部 AC前傾でない AC前傾足前 AC前傾足後ろ (AC①) (AC②) (AC③) OC 脊柱起立筋腰部のMPF(Hz) 15

16.

MPF(筋疲労) 腹直筋 腹直筋 • 反復測定一元配置分散分析 • 多重比較(Bonferroni) AC③の疲労が小さい MPF(Hz) 実験2 AC前傾でない AC前傾足前 AC前傾足後ろ (AC①) (AC②) (AC③) OC 腹直筋のMPF(Hz) 16

17.

主観評価結果 AC① AC② AC③ OC ※有意差なし どの条件でも 評価はほとんど 変わらない 実験2座り心地評価 17

18.

まとめと考察 実験1: 内腹斜筋の活動量 主観評価 AC>OC ほとんど差なし (背部の感触 AC>OC) 実験2: 体幹角度 AC③>AC②>AC①>OC 脊柱起立筋背部の活動量 AC②>AC③ 脊柱起立筋腰部の疲労 AC②大 腹直筋の疲労 AC③小 主観評価 有意差なし • 実験2では内腹斜筋に有意差なし → わずかな前傾が活動を増加させた可能性 • AC③は体幹角度が大きい → 椎間板に負担が少ない可能性 • AC②は上体の筋活動が比較的大きく,AC③は小さい → AC③では下半身に負担がかかっている可能性がある • 主観評価ほとんど差なし → ACに「不快感」はない 18

19.

まとめと考察 実験1: 内腹斜筋の活動量 主観評価 AC>OC ほとんど差なし (背部の感触 AC>OC) 実験2: 体幹角度 AC③>AC②>AC①>OC 脊柱起立筋背部の活動量 AC②>AC③ 脊柱起立筋腰部の疲労 AC②大 腹直筋の疲労 AC③小 主観評価 有意差なし 実験1 実験2 • 実験2では内腹斜筋に有意差なし → わずかな前傾が活動を増加させた可能性 • AC③は体幹角度が大きい → 椎間板に負担が少ない可能性 • AC②は上体の筋活動が比較的大きく,AC③は小さい → AC③では下半身に負担がかかっている可能性がある • 主観評価ほとんど差なし → ACに「不快感」はない 19

20.

まとめと考察 実験1: 内腹斜筋の活動量 主観評価 AC>OC ほとんど差なし (背部の感触 AC>OC) 実験2: 体幹角度 AC③>AC②>AC①>OC 脊柱起立筋背部の活動量 AC②>AC③ 脊柱起立筋腰部の疲労 AC②大 腹直筋の疲労 AC③小 主観評価 有意差なし AC③ • 実験2では内腹斜筋に有意差なし → わずかな前傾が活動を増加させた可能性 • AC③は体幹角度が大きい → 椎間板に負担が少ない可能性 • AC②は上体の筋活動が比較的大きく,AC③は小さい → AC③では下半身に負担がかかっている可能性がある • 主観評価ほとんど差なし → ACに「不快感」はない 20

21.

まとめと考察 実験1: 内腹斜筋の活動量 主観評価 ほとんど差なし (背部の感触 AC② AC>OC AC>OC) 実験2: 体幹角度 AC③>AC②>AC①>OC 脊柱起立筋背部の活動量 AC②>AC③ 脊柱起立筋腰部の疲労 AC②大 腹直筋の疲労 AC③小 主観評価 有意差なし AC③ • 実験2では内腹斜筋に有意差なし → わずかな前傾が活動を増加させた可能性 • AC③は体幹角度が大きい → 椎間板に負担が少ない可能性 • AC②は上体の筋活動が比較的大きく,AC③は小さい → AC③では下半身に負担がかかっている可能性がある • 主観評価ほとんど差なし → ACに「不快感」はない 21

22.

まとめと考察 実験1: 内腹斜筋の活動量 主観評価 AC>OC ほとんど差なし (背部の感触 AC>OC) 実験2: 体幹角度 AC③>AC②>AC①>OC 脊柱起立筋背部の活動量 AC②>AC③ 脊柱起立筋腰部の疲労 AC②大 腹直筋の疲労 AC③小 主観評価 有意差なし • 実験2では内腹斜筋に有意差なし → わずかな前傾が活動を増加させた可能性 • AC③は体幹角度が大きい → 椎間板に負担が少ない可能性 • AC②は上体の筋活動が比較的大きく,AC③は小さい → AC③では下半身に負担がかかっている可能性がある • 主観評価ほとんど差なし → ACに「不快感」はない 22

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結論 本研究の目的: AC① AC② AC③ 動作解析,筋電図,座面圧力,主観評価の各観点から, 360度揺れる椅子がVDT作業中のユーザに与える影響を明らかにする • 360度揺れる椅子は姿勢の自由度が高く,さまざまな座位姿勢をとりやすい • 座面の前傾が姿勢維持や筋疲労のバランスに関与し,足の配置が筋負担に影響する • 360度揺れる椅子は一般的な事務用椅子と比べて快適性に劣らない 23

24.

残った課題・今後の展望 • 測定していない筋肉部位に影響がある可能性 • 実際にアクティブチェアを使用する対象となる年齢層は広く,女性に限らない • 斜めや横への体重移動を想定した実験ができていない 24

25.

ご清聴ありがとうございました