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July 01, 25
スライド概要
日本デザイン学会第72回春季研究発表大会
大阪公立大学生活科学部居住環境学科デザイン人間工学研究室(土井俊央研究室)
Today’s Topic 制御焦点理論からみたユーザ特性の違いが ゲーミフィケーションの有効性に与える影響 大阪公立大学大学院 黒田俊希 生活科学研究科 土井俊央 日本デザイン学会 第72回春季研究発表大会 1
目次 研究背 フェーズ フェーズ まとめ 2
01 研究背景 3
ゲーミフィケーション ゲームの要素をマーケティングや学習などのゲーム以外のものに取り入れ, モチベーションや学習意欲を高めようとする取り組み 4
具体例 マーケティング(左:びっくりドンキーアプリ) 購入によってポイントをため, 一定のポイントがたまると会員ランクが上がる 学習(右:Focus To-Doアプリ) 学習時間によって,ソフト内の植物を育てる など,活動にテーマ性・ストーリー性を持たせる 仕事,活動 ちょうどいい難易度の目標を提示する 5
ゲーミフィケーションの現状 課題:多くの分野で有効性を示す一方で,ユーザの特性によって有効性が異なるとされている 失敗例 ホテルにおいて,従業員の働きがリアルタイムで更新されるリーダーボードを導入し, 効率的な働きを求めたが,ストレスの原因となったり,事故などの失敗に繋がった ユーザの特性を把握し, 安定して有効性を示すゲーミフィケーションデザインの知見が必要 6
研究目的 ゲーミフィケーションは主に動機付けに関連する手法である (やる気が出ない・モチベーションがないことに対して「ついやりたくなる」といった体験を生み出す) 動機付け理論の観点からユーザの特性を把握することが重要となる可能性がある 目的 動機付け理論の観点からユーザの特性を把握し, どのようなユーザがどのゲーミフィケーション要素によって動機付けされるのかを調査する 7
制御焦点理論 当人の持つ制御焦点の違いで,どのようにして目標を達成しようとするかは異な 促進焦点:利得の存在に接近し,利得の不在を回避す 予防焦点:損失の不在に接近し,損失の存在を回避する Higgins, E. T. (1997). Beyond pleasure and pain.American Psychologist, 52, 1280-1300. 高い得点を取りたいから 勉強を頑張る 低い得点を取りたくないから 勉強を頑張る 8
制御焦点理論 ユーザの各制御焦点の程度は,尾崎らの促進予防焦点尺度(PPFS-J)の質問を応用することで 確認することが可能である 尾崎由佳,唐沢かおり (2011).自己に対する評価と接近回避志向の関係性 —制御焦点理論に基づく検討 —. 心理学研究 ,82 (5): 450–458 この理論に基づいたユーザ特性を制御焦点特性とする. 9
研究の流れ フェーズ1:制御焦点特性とゲーミフィケーション要素の関係性調査 アンケート調査から制御焦点特性によるユーザの分類を行う. グループ毎にどのゲーミフィケーション要素によって動機付けされる傾向にあるのか分析し, 結果から仮説を得る. フェーズ2:実利用場面を想定したゲーミフィケーション実証実験 得られた仮説の検証を目的として,歩行を対象としたゲーミフィケーションの実証的調査を行う 10
02 フェーズ1 ~制御焦点特性とゲーミフィケーション要素の関係性調査~ 11
方法 オンラインアンケート調 Freeasyを利 内容(7段階のリッカート尺度 どのゲーミフィケーション要素により,モチベーションが高まる どのような制御焦点特性であるか それぞれの結果から制御焦点特性とゲーミフィケーション要素の関係性を分析す 調査参加者 350名(男性:175名,女性175名,平均:52.6歳,SD:8.51) 12
アンケート項目 どのゲーミフィケーション要素により、モチベーションが高まるか 52項目 Marczewski の Gamification Elements and Mechanicsに示された 52 のゲームデザイン要素を, 質問項目に変換し利 この要素は属性によって「General」「Schedules」「Socialiser」「Free Spirit」「Achiever」 「Philanthropist」「Disruptor」「Player」に分けられている.各グループの合計得点を利用する Gamified UK(2023)52 Gamification Mechanics and Elements,https://www.gamified.uk/user-types/gamification-mechanicselements/ 13
ゲーミフィケーションデザイン要素アンケート項目例 General:一般的にゲーミフィケーションで利用される要素 ex)活動・利用に対して,進捗状況やフィードバックを得られ (Reward)Schedules:報酬に関する要素 ex)報酬にランダム性がある,毎日の活動・利用で報酬を得られ Socialiser:活動や利用をとおして、他者と交流できる要素 ex)活動・利用に関して,他者と競争でき Free Spirit:創造,探求ができる要素 ex)自分の活動・利用についてカスタマイズできる 14
ゲーミフィケーションデザイン要素アンケート項目例 Achiever:新しいことを学び,自身を向上できる要素 ex)活動・利用を通して,新しい知識や技術が得られ Philanthropist:他者に与え,他者の生活を豊かにできる要素 ex)活動・利用を通して,他者をサポートでき Disruptor:混乱を起こし,変化を生む要素 ex)活動・利用の仕組みやルールを変えることができ Player:ゲーム的な形で報酬や情報を得ることができる要素 ex)活動・利用における自分のランキングや全体的な位置づけの確認ができる 15
アンケート項目 どのような制御焦点特性であるか 14項目(促進焦点7項目,予防焦点7項目) PPFS-Jから今回の調査の状況に沿わない項目を1項目ずつ省い 促進焦点,予防焦点について各合計得点を利用する 質問項目例 促進焦点:私はたいてい、将来自分が成し遂げたいことに意識を集中している 将来どんな人間になりたいかについて、よく考える 予防焦点:私はたいてい、悪い出来事を避けることに意識を集中している 自分が将来そうなってしまったら嫌だと自分像について、よく考えることがある 16
結果:クラスター分析(非階層型k-means法) ユーザの制御焦点特性をクラスター分析によって5つに分類 クラスター2はどちらの制御焦点も中程度で 制御焦点についての特徴的なクラスター間での分析を行えないため除去 17
結果:クラスター分析(非階層型k-means法) ユーザの制御焦点特性をクラスター分析によって5つに分類 クラスター2はどちらの制御焦点も中程度で 制御焦点についての特徴的なクラスター間での分析を行えないため除去 18
クラスター1 結果:一元配置分散分析 クラスター3 多重比較(Tukey-Kramer) クラスター4 クラスター5 General, Schedules, Disruptor 大きい:1,3,4 小さい:5 Socialiser, Philanthropists 大きい:3,4 小さい:1,5 促進焦点 小 大 大 小 予防焦点 大 大 小 小 Free Spirit, Achiever, Player 大きい:3,4 中程度:1 小さい:5 19
考察(得られた仮説) <仮説1> 促進焦点と予防焦点のどちらか一方または両方が大きければ, General, Schedules, Disruptorの要素によって動機付けされる <仮説2> 促進焦点が大きければ, Socialiser, Free Spirit, Achiever, Philanthropist, Playerの要素によって動機付けされる 20
03 フェーズ2 ~実利用場面を想定したゲーミフィケーション実証実験~ 21
方法 仮説をもとに運動(歩行)に対して,ゲーミフィケーション要素を付与し,検証を行う パフォーマンスや歩行に対する意欲を分析する 仮説2 促進焦点が大きければ,Socialiser, Free Spirit, Achiever, Philanthropist, Playerの要素 によって動機付けされ 調査参加者(大学生10名) 以下を条件としてスクリーニングを実 運動すべきと考えているが実際に行えていな 促進焦点が大きいor小さい 促進焦点が小さい5名 促進焦点が大きい5名 促進焦点 18.0 39.0 年齢平均 20.6(1.20) 20.4(1.74) 22
方法 Google社の腕時計型アクティビティトラッカーFitbit inspire3を装着してもらい, 2週間にわたり歩数の測定を 行った. 1週目:ベースライン取得期間 2週目:ゲーミフィケーション要素付与期間 <評価指標 歩 主観評価 (歩行に対するモチベーションなど 半構造化インタビュー (ゲーミフィケーション要素の付与による 変化はあったか,楽しんでいたかなど) https://store.google.com/jp/product/fitbit_inspire_3?hl=ja&pli=1 23
付与するゲーミフィケーション要素 ランキング(Socialiser) 毎日,10名の協力者から歩数データの収集を行い 「一日あたり歩数ランキング」と「合計歩数ランキング」を動画形式で提示した. 24
結果(歩数) 二元配置分散分析(時期×制御焦点特性) 時期(ベースライン取得期間,要素付与期間) F(1,7)=1.9541 p=0.2048 有意差は認められなかった 制御焦点特性(促進焦点が小さい,促進焦点が大きい) F(1,7)=6.6961 p=0.0361<0.05 有意差が認められた 時期と制御焦点特性の交互作用 F(1,7)=3.6888 p=0.0962<0.10 有意な傾向が認められた ⇒単純主効果検定を実施 25
結果(主観評価) 付与された要素に 対する意識の強さ 全ての主観評価で“促進焦点が大きい”方が“促進焦点が小さい”方に比べ肯定的な結果を示した. 歩行に対するモチベーション 歩行量に対する自己評価 26
結果(半構造化インタビュー) 促進焦点が小さい 促進焦点が大きい 5名中4名 ポジティブな発話量<<ネガティブな発話量 5名中4名 ポジティブな発話量>>ネガティブな発話量 得られた発話 ランキングを見ることを楽しみにしてい ランキングがあるから頑張ろうという意識には ならなかっ ランキングを見ない日があった 得られた発話 ランキングが下位だった場合,翌日はもっと歩 こうという意識になっ 余裕があれば一駅分あるいて移動したりし ランキングにより他者をライバル視することは なかった 27
考察 仮説2: 促進焦点が大きければ,Socialiser, Free Spirit, Achiever, Philanthropist, Playerの要素 によって動機付けされる 実証実験結果は仮説に則したものがほとんどであり, 促進焦点の大きさが有効性の程度に関連していることが示唆された. 仮説1: 促進焦点と予防焦点のどちらか一方または両方が大きければ,General, Schedules, Disruptorの 要素によって動機付けされる. <付与要素>「目標」と「フィードバック」(General) <実証実験結果> 促進焦点と予防焦点のどちらか一方または両方が大きい参加者は肯定的な結果がほとんどであり, どちらも小さい参加者は肯定的な結果が得られなかった. 28
04 まとめ 29
まとめ ゲーミフィケーションの課題:ユーザによって有効性が異なる 本研究の目的: どのようなユーザがどのゲーミフィケーションデザイン要素によって動機付けされるのかを明らかにする 得られた知見 促進焦点と予防焦点のどちらか一方または両方が大きければ, 目標とフィードバックの機能により動機付けされ 促進焦点が大きければ, ランキングの機能によって動機付けされる 30
今後 課題: アンケート調査と実証実験の参加者で年齢に差があった 展望: フェーズ2では実施が容易な要素に絞った実験を行い,得られた仮説を部分的に検証することができた. 今後は仮説の検証をより総合的に行い,検証していくことで有効性の高いゲーミフィケーションデザイン を行うための基礎的な知見となりうると考える. 31