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September 03, 26
スライド概要
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
2026年9月3日 第219回ヒューマンコンピュータインタラクション研究発表会 デジタル時計における時刻の部分的な視覚的強調が 短期記憶に及ぼす影響:年齢群による効果差の検証 重松龍之介,中村聡史 明治大学
背景 人は日常の中で 何気なく時計を確認している スマートフォンで時刻を確認した直後に 「今、何時何分だったっけ?」ともう一度確認してしまう 時計を見ても、確認した時刻が記憶に残らないことがある 1
着眼点:時刻の一部を強調 デジタル時計の時間単位を部分的に大きく表示 強調した時間単位が、短期記憶に残りやすくなるのではないか? 通常表示 強調表示 2
関連研究:視覚的な大きさと注意・記憶に関する研究 3 - 大きく表示された対象は、課題に関係がなくても注意を引く [Proulx, 2010] - 注意を引いた情報は、複数の情報の中で優先的に記憶に残る [Ravizza et al., 2016] これらの知見が,時刻情報にも当てはまるかは明らかではない ◆ Proulx, M. J. (2010). Size matters: Large objects capture attention in visual search. PLOS ONE, 5 (12), e15293. ◆ Ravizza, S. M., Uitvlugt, M. G., & Hazeltine, E. (2016). Where to start? Bottom-up attention improves working memory by determining encoding order. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 42(12), 1959–1968.
着眼点:部分強調と時刻情報の短期記憶 部分強調によって,特定の時間単位への注意配分が変わる可能性 時刻の一部を視覚的に強調する 強調した時間単位に注意が向く その時間単位が優先的に処理され、短期記憶に残りやすくなる可能性 通常表示 強調表示 4
過去に行った実験[HCI217] 5 部分的な視覚的強調が、時刻情報の短期記憶に及ぼす影響を調査 実験設計 実験で使用した表示一覧 ➢ 時と分から構成される時刻情報 通常表示 時強調表示 分強調表示 ➢ 実験参加者:436名 ➢ 各参加者は1条件・1試行 手順 複数の操作タスク 時刻を1秒間提示 30秒間の操作タスク 提示内容を回答 重松 龍之介, 萩原 亜依, 中村 聡史. 部分的な視覚的強調が短期記憶に及ぼす影響:デジタル時計の時刻情報と非時刻情報の比較, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol. 2026-HCI-217, No.39, pp.1-8, 2026.
結果:強調対象の正答率 通常表示と強調表示の同じ単位の正答率を比較 時強調表示 12:34 12:34 分強調表示 12:34 12:34 (n=436) 時の正答率:2.2%上昇 分の正答率:2.8%上昇 強調対象が上昇傾向 正答率は数値上わずかに上昇したが,有意な差は確認されなかった 6
探索的分析:年齢群別の強調対象の正答率 各年齢群で、通常表示と強調表示の正答率を比較 50歳未満群(n=218) 50歳以上群(n=218) 時の正答率:3.3%低下 時の正答率:8.0%上昇 分の正答率:2.3%低下 分の正答率:8.2%上昇 強調対象が低下傾向 強調対象が上昇傾向 強調による正答率変化が、年齢群によって異なる可能性が探索的に示された 7
本研究の目的と仮説 8 年齢に応じて強調表示を切り替える必要があるかを明らかにする 検証方法 仮説 通常表示と強調表示で、 同じ時間単位の正答率を比較 強調による正答率の変化は、 50歳未満群より50歳以上群で大きい 時の正答率 通常表示 時強調表示 分の正答率 通常表示 分強調表示 過去の研究で見られた傾向 50歳未満群:低下傾向 50歳以上群:向上傾向
実験 9 実施環境:スマートフォン(Webブラウザ) STEP 1 時刻提示 ① 表示ボタン押下 ↓ ② 時刻を提示 ↓ ③ 自動で画面遷移 提示時間:1秒 STEP 2 回答入力 時と分をそれぞれ入力 不明な場合は空欄可
実験 10 意図的な記憶を避けるため,時刻提示の前後に操作課題を実施 シンプルな操作課題 3種類・計8試行(順不同) タップタスク×3 情報表示タスク×2 スワイプタスク×3 S T E P 1 時 刻 提 示 保持間隔中の操作課題 タップタスク (30秒) S T E P 2 回 答 入 力
実験 実験参加者 11 実験設計 • Yahoo!クラウドソーシングで募集 • 表示形式:通常/時強調/分強調 • 1,500名を募集→分析対象:1,312名 • 各参加者に1条件を無作為に割当 • 50歳未満:680名/50歳以上:632名 • 時刻提示・回答は1回のみ 評価指標 • 時の正答率 • 分の正答率
結果:強調対象の正答率(50歳未満群) 時の正答率 12:34 100.0% 分の正答率 12:34 12:34 12:34 81.7 79.6 通常表示 分強調表示 100.0% 80.0% 80.0% 60.0% 60.0% 40.0% 12 86.5 90.9 40.0% 20.0% 20.0% 0.0% 0.0% 通常表示 時強調表示 正答率が4.4%上昇 正答率が2.1%低下 強調対象の正答率に有意な向上は認められなかった
結果:強調対象の正答率(50歳以上群) 時の正答率 12:34 100.0% 分の正答率 12:34 80.0% 60.0% 60.0% 80.8 77.2 40.0% 20.0% 20.0% 0.0% 0.0% 通常表示 時強調表示 正答率が3.6%低下 12:34 12:34 76.0 75.0 通常表示 分強調表示 100.0% 80.0% 40.0% 13 正答率が1.0%低下 強調対象の正答率に有意な向上は認められなかった
結果:強調による正答率変化の年齢群差 時の正答率の変化 14 分の正答率の変化 4.4%上昇 2.1%低下 3.6%低下 1.0%低下 変化量に有意な年齢群差なし 変化量に有意な年齢群差なし Holm補正後 p = .171 Holm補正後 p = .793
考察:強調効果と年齢群差 過去の研究[HCI217] 15 今回研究 各年齢群×表示条件:n = 67〜78 各年齢群×表示条件:n = 188〜230 50歳未満群:強調対象が低下傾向 50歳未満群:一貫した変化なし 50歳以上群:強調対象が上昇傾向 50歳以上群:強調対象が低下傾向 強調による記憶向上と年齢群差はいずれも確認されなかった • 強調表示による正答率の有意な向上は認められなかった • 過去の研究でみられた年齢群差は再現されなかった
探索的分析:部分正解した回答に着目 16 主分析 12:34 [ [ 時と分をそれぞれ2桁の情報として扱い、 2つの位が両方とも一致した場合だけを正解 探索的分析 12:34 [ [ [ [ 片方の位だけ正解した回答に注目し、 十の位と一の位のどちらが正解していたか
探索的分析:部分正解した回答 17 片方の桁のみ正解した回答の内訳を探索的に分析 100% 時の部分正解 80% 60% 27件 38件 正解した桁に有意な偏りなし Holm補正 p=.724 40% 20% 0% 64件 34件 分の部分正解 十の位のみ正解した回答が有意に多かった 時の部分正解(N=72) 分の部分正解(N=91) Holm補正 p<.001 十の位のみ正解 一の位のみ正解 分が不正解と判定された人の中で,十の位までは覚えていた人が多かった
考察 主結果 強調対象の正答率向上、および強調効果の年齢群差は確認されなかった 本研究で用いたサイズによる部分強調だけでは、 正答率の向上にはつながらなかった 探索的結果 分では、十の位のみ正解した回答が有意に多かった 回答候補数の違いが影響した可能性 「40分台」のように、大まかな時間帯として保持された可能性 18
今後の展望 強調方法:強調の程度や、異なる視覚的強調を比較 適応基準:強調表示が有効となる場面や個人特性を検討 時刻情報の記憶:桁や時間単位など、時刻情報に特有の記憶のされ方を調査 時刻情報を行動につなげるための表示設計を、複数の観点から検討 19
まとめ 20 背景 実験 ・時計を見るだけでは行動に繋がらない ・年齢を50歳未満/以上で分け比較 ・部分強調の効果における年齢群差の再検証 ・通常/時強調/分強調の3条件 結果 展望 ・強調対象の正答率は向上せず ・強調方法や適用場面の検討 ・強調効果に明確な年齢群差なし ・時刻特有の記憶特性の調査 ・分では十の位のみ正解が有意に多い