124 Views
November 27, 20
スライド概要
情報学の演習・講義をオンライン環境で実施する工夫
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
ARG 第16回WI2研究会(20分) 情報学の演習・講義を オンライン環境で実施する工夫 明治大学 中村聡史
中村聡史 研究室 (2020/07)
ちょっと思い出してみる • 1月下旬 – 新型肺炎の中国の様子を対岸の火事的に見つつ、患者が日本でもと いう話を耳にして本当なら大変だとか少し思う • 2月上旬 – ダイヤモンドプリンセス号の話が出てきて少し身近に – 2月下旬に家族での初めての海外旅行を予約していたが、現地の知 人に今はこないほうがいいよと言われ、断念 – トイレットペーパやマスクの品不足でかなり身近になってきたこと を意識し始める • 2月中~下旬 – – – – – 卒業式、卒業旅行や謝恩会の中止などの話題が出始める 中野区でも患者が出始める 3月開催の学会が続々とオンラインに ZoomやWebexなどのツールの存在を知る オンラインでの講義実施の可能性を考慮して頭を悩ませる
ちょっと思い出してみる • 3月上~中旬 – 学会の各種オンライン化でバタバタ – 新年度の学年暦変更(4月24日から)など が確定 – 息子が緊急入院してバタバタ • 3月下旬 – 新年度をどう実施するかについてバタバタ – 息子が成育医療研究センター(日大砧キャ ンパスの近く)に入院していたので、自転 車で中野から通う日々 – リモートを前提とした講義の再設計に追わ れる
ちょっと思い出してみる • 4月上旬 – – – – 娘の入学式が青空の下実施で、変わったなぁと意識が 新入生のオンラインでの講義受講環境調査開始 学年暦再変更 4月24日開始 → GW明け開始 実施回数が14回→12回が事実上確定 • 4月中旬 – パソコン貸与のため1年生全員に連絡 – 研究室で色々なオンラインサービスをテスト – オンライン化の問題点の洗い出し • 4月下旬 – 全1年生をSlackに招待 – システム開発開始など • 6月中旬 – プログラミングの講義開始
先端メディアサイエンス学科1年 • 1Q: エンタテイメントプログラミング実習 – HSPを使ったプログラミング表現の体験 私の担当 • 2Q: プログラミング演習1 – Processingにより条件分岐・繰り返し・配列・ 関数までを習得 • 秋: プログラミング演習2 – Processingによりクラスの習得とその応用(フ ァイル入出力、ネットワーク、フィジカルコン ピューティング)
前提: プログラミング演習1 • プログラミングは学生のレベル差が激しい ため、上を飽きさせず、下も含め全体的に 底上げすることが重要
前提: プログラミング演習1 • プログラミングは学生のレベル差が激しい ため、上を飽きさせず、下も含め全体的に 底上げすることが重要 • 必修の講義で後のつながっているため、脱 落者を抑え、全体的なレベルアップが必要 – 理解できていない学生(単位を落とす)は1割以 下にとどめたい • 120人が一斉に受ける講義で、クォーター開 講であり、月・水のそれぞれ3~4限に実施
講義のデザイン 1. 課題を講義時間内に解決&提出することで習得 – 基本課題(全員向け)と発展課題(上級者向け)を用意 – 課題は世の中とつながる課題と,専門(研究室)への接 続性を考慮した課題を設計(無意味な課題は作らない) – 発展課題は加点要素 • http://nkmr.io/lecture/ 2. 講義時間を課題解決に充てるため、予習を必須に – 小テストを講義のはじめに実施することで予習を促す 3. 最終成果発表会で、プログラムを自作し発表!
予習のためのドリルシステム開発 • 予習を促すためのドリ ルシステム – スマートフォンで取り 組むことが可能 – http://drill.nkmr.io/ • 講義の最初に紙ベース の小テストを実施し、 習得度を測る
小テストのデザイン • 紙の小テストの実施 – 数年実施したが、残念 ながら効果なし – 穴埋めできてもプログ ラミングできなかった – プログラミングできる のに穴埋めできない • 凡ミスのため
小テストのデザイン • パソコンを利用した小テストの実施 – 事前に問題の候補(小テストとラベルを付与) を提示し、その問題のいずれかを小テストで出 し、時間内に解いてもらう – 記憶することで定着を促し、効果あり オンラインで小テストは無理
最終成果発表会 • 自作することで調べ、力を伸ばせる – 100人を超える聴衆の前で全員が発表! 密です!
胃が痛くなる色々な問題点 • 小テストが実施できないがどうするか? – 予習への強制力を発揮することができない • 課題の提出・チェックをどうするか? – 授業支援システムは使いにくくあてにならない • 学生TA比をどうするか? – TA8~10人で学生120人を見なければならない – 学生も質問しにくい • 発表会が実施できないがどうするか? – モチベーションを上げ、自身で取り組めない
これまでにもあった問題点 • タイピングが遅くて課題に時間がかかる – 入力速度が遅いのはそもそもの問題 • 英単語からなるプログラムへの抵抗 • 「,;()[]」などの記号の入力と、その記法 になかなか慣れない この問題を小テストができない問 題と絡めて一気に解決を目指す
プログラミング学習支援 [又吉2020] • typing.run ( https://typing.run ) – タイピングとプログラミングの写経を組み合わ せた学習システム – 写経しながら徐々にプログラムが動いていく https://dl.nkmr-lab.org/papers/276
システムデザイン • 理解を促す仕組み – コメントを上に提示して視界に入れる – プログラムが完成する前に逐次実行し、部分プ ログラムの意味を何気なく理解する • 内発的動機づけ – 入力速度を自分の過去より早く! • 外発的動機づけ – 他人とランキングを競うことでより上を目指す – タイピングを予習課題にする(強制力の活用)
評価により半強制 • 各回のタイピング予習: 33点 • 各回の課題をすべて課題の目標を達成して満点 • 予習の点数については次ページで • 基本課題: 27点 • 基本課題は必ず終わらせて提出してください • 時間内に採点します • 発展課題: 10点 • 発展課題は時間内に完成させると加点されます • 時間内には採点しません • 最終課題: 30点 • 最終試験は実施できないため,課題提出で代替します
評価により半強制 • 各回の予習点数: 予習点数 = 3*(達成課題ポイント合計/課題数) • 1ポイントとなる条件(4回~11回) – – – – – – その課題で1度は250CPM以上を達成した その課題で1度は225CPMを達成しており2回タイピングした その課題で1度は200CPMを達成しており4回タイピングした その課題で1度は175CPMを達成しており6回タイピングした その課題で1度は150CPMを達成しており8回タイピングした その課題で10回タイピングした
運用結果 2020年6月~8月上旬 • 参加した履修者数:118名 • 総タイピング回数:88,055回
運用結果 : 区間ごとの平均CPM 全体として期間後半になるほどCPM平均が上昇 後半には分散も小さくなり底上げ成功
効果があった! • タイピング速度がかなり上がっていた • タイプミスによる基礎的なミスが少なかっ た(printlnをprint1n、printInなど) • 例年に比べ、達成度が高かった ゲストで誰でも使えますのでどうぞ! 他大学で運用&導入を検討中 • タイピングできて、プログラミングできる 気になっていた学生もいた
課題の提出とチェック • Google Drive/Form/Spreadsheetの活用 – Driveに課題を提出,Formで申請,Spreadsheet でチェック状況等管理
チェック状況の可視化
むしろ良かったので次年度も採用 • チェック状況が分かってよい! – 自分の順番待ちがどの程度か – 何がダメだったのか • フィードバックを返せることがよかった – 他の学生がどういった理由で不可とされている か判断可能 – 教員・TA間の採点基準の共有化 • ちなみに失敗談も… – https://note.com/nkmr/n/na57e5612eed3
学生・TA比をどうする? • よくある質問はサポートページで対応 – Scrapboxを活用 • 簡単な質問は学生同士で解決 • 難しい問題をTAに(ハードルも下げる) – TAへの順番待ちもうまく処理する
学生・TA比をどうする? • 簡単な質問は学生同士で解決してもらう – Remo Conferenceの採用 • テーブルに4人ずつ配置し、その学生同士では画面を 共有したり、会話をしたりして解決可能に
オンラインで質問対応するために • askTAシステムを開発:typing.runの又吉君 – ステータスを把握し、順番に対応可能に
ひとの消極性を考慮 • Zoomなどオンラインコミュニケーションシ ステムは部屋の中や他者の様子が見えない • 学生 – TAさんにこんなことを質問してもよいのか? – TAさんは今何をやってるだろうか? – TAさんの邪魔にならないかな? • TA – 学生の質問に適切に回答できるだろうか?
askTA [又吉2020] • 手軽に申請 – 質問と現状のプログラムをシステムに申請 – TAのことは考慮しなくてよい • 気軽に対応 – 質問とプログラムを事前に見て対処可能 – 共同編集&音声により対話しながら対処 • 質問してもすぐに対応されず待つ必要あり – 入店音で呼び出しを可能に – 質問の取り下げも可能に
askTA
質問に対して即座に対応できた
最終成果発表会ができない問題 • 発表会用のプログラムを用意するのではな く、条件に応じた課題とそのプログラムを 作ってもらうことを課題に – 課題を作れるというのは、それなりにレベルが あるということ 正の相関(0.56)
ということで • 小テストが実施できないがどうするか? – typing.run と成績評価に組み込むことで対応 • 課題の提出・チェックをどうするか? – Google Drive/Form/Spreadsheetの活用 • 学生TA比をどうするか? – Scrapbox,小グループ制,askTAで対応 • 発表会が実施できないがどうするか? – 課題を作成するという課題で解決! 乗り切った!
他にも重要なこと • 学生の受講環境をどうするか? – Processingが動かないと問題外 • サービスが落ちたときどうするか? – ウェブ系サービスは落ちると被害甚大 • 学生の様子をどう把握するか? – 手が止まっている、悩んでいるが見えない • 学生に自身の状況をどう提示するか? – 受理されたか? また待ち行列の数はどの程度か? • いかにして手間を減らすか? – オペレーションが多数発生すると死ぬ
受講環境をどうするか? • 受講環境に関する調査と大学からパソコン の貸与を実施 – 教員による電話攻勢で4月中下旬には完了 • コミュニケーションチャネルの整備 – 4月下旬に1年生全員+再履修生(120人超)+全 教員が入るSlackを準備 – 秋学期からはDiscordを準備
サービスが落ちたときどうする? 【トラブル】200分の講義の最初の30分でRemo Conferenceが使えなくなる • 徹底した多重化により対処 – 主たる講義: Remo Conference – Remoが落ちたとき用: Zoom – テキストチャット: Slack – ポータル: Oh-o! Meiji – QAシステム: askTA – 説明・解説動画アーカイブ: YouTube
学生の様子をどう把握する? • 課題の提出・チェック状況と質問の様子を 提示して把握(とはいえ不完全だった)
学生に自身の状況をどう提示? • Google Spreadsheet – 採点状況などを可視化 • askTA – 質問待ちを可視化
いかにして手間を減らすか? • typing.runにより基礎力を向上 – 余計なミスはなくす • 課題チェックはDriveの同期で簡易化 – チェックシステムも新たに開発(高橋先生) • Remo Conferenceによるテーブルでの交流 – 学生同士である程度の問題を解決 • askTAによる質問応答 – 余計な別システムは導入しない
そんなこんなで • 色々反省点はあるが乗り切った • 成績も例年より良く学生から高評価
その他の技術 • Comment Screenによる対話的な座学講義 – 伊藤先生&村上さんが紹介されると思うので略 • Scrapboxを併用した対話的講義・ゼミ – https://scrapbox.io/nkmr-lab/ • カメラON/OFFを活用した進度チェック • Discordでの多段配信による受講 • Discordによるオンライン研究室
Scrapboxを併用 • リアルタイム共同編集 – 理解も深まる – 辛い講義も楽しく
リアクションはわかりにくい • リアクションは時間により消えてしまう • 挙手は下げ忘れが頻発する
学生の様子を見えるように • カメラON/OFFを活用した進度チェック – ZoomのカメラをOFFにすることで、できたことを 伝達してもらい、あとどれくらいできていない かを把握 • 副次的効果 – 徐々にほかの人がいなくなるので、残された人 (取り組んでいる人)は焦る – 残った人が少なくなると質問しやすい – カメラOFFな人は自由な時間ができる
Discordでの多段配信 • Zoomとかの講義を、ほかの人とワイワイ話 をしながら聞く – お互いにフォローしあう
ちなみに現在の研究室 • 学生からの声: 話したい – Slackだけでは不十分 – Zoomだけでも不十分(放置すると終了) • • • • Spatial Chatは人数制限で無理 NeWorkはチャットがない Remo Conferenceは設定が手間で時間制限有 My Digital Officeは使いにくい
ちなみに研究室 • で、最終的にたどり着いたのはDiscord
ということで • 情報学の演習・講義をオンライン環境で実 施する工夫のお話でした • 是非意見交換などもさせてください! – 中村研のウェブサイト • http://nkmr-lab.org/ – 中村のNote • https://note.com/nkmr – 中村研のデジタルライブラリ • https://dl.nkmr-lab.org/