音の長さの変化によりドラム演奏のずれを認識および誘導させるメトロノームシステムの提案

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June 01, 20

スライド概要

バンド演奏において,あらかじめ録音・打ち込みされた楽器や歌などの演奏を再生しながら行う同期演奏が盛んである.この同期演奏は,ドラム演奏者がイヤホンから流れる同期音源のテンポに合ったクリック音(メトロノーム)に合わせて演奏することによって実現している.この同期演奏において,同期音源とバンド演奏がずれてしまうというトラブルは少なくない.そこで本研究では,同期演奏においてリズムキープが求められるドラム演奏が,その同期に利用するクリック音とずれてしまったときに,クリック音を工夫することによって,クリック音からずれていることをドラム演奏者に認識させ,また正確なテンポに誘導させる手法を提案し,実験により検証する.実験では,ドラム経験者にクリック音と,ギターとベースの演奏音を聴きながらドラムを演奏してもらい,途中でギターとベースの演奏をテンポからずらすことでドラム演奏がずれてしまう環境を作り出す.その後,クリック音の高さを高く,かつ長さを変化させたものを提示する実験を行い,正確なテンポに誘導できるかを明らかにする.実験の結果,ドラム演奏がクリック音より遅くずれている場合は,音の長さが短い音をドラム演奏者に提示すると,ずれているドラム演奏を正確なテンポに誘導しやすく,また早くずれている場合は,音の長さを変えるだけでは正確なテンポへの誘導が難しいことが明らかになった.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

音の長さの変化により ドラム演奏のずれを 認識および誘導させる メトロノームシステムの提案 M1 細谷美月 佐々木美香子 小松孝徳 中村聡史 (明治大学大学院 先端数理科学研究科 先端メディアサイエンス学科)

2.

研究概要 バンド演奏での同期演奏において 同期音源とバンド演奏がずれるトラブルを ドラム演奏者が聴いているクリック音の 音の長さを変化させることによって ドラム演奏を正確なテンポに誘導し, 解決する!

3.

研究概要 バンド演奏での同期演奏において 同期音源とバンド演奏がずれるトラブルを ドラム演奏者が聴いているクリック音の 音の長さを変化させることによって ドラム演奏を正確なテンポに誘導し, 解決する!

4.

同期演奏 バンドなどの生演奏と合わせて、 あらかじめ録音・打ち込みされた楽器や歌など の演奏を再生しながら行う演奏 ● 足りないパート(楽器)を追加 ● 音色の幅を広げる 例:ボーカルは1人だが,ハモリの声が聴こえる… キーボードがいないのに,ピアノの音が聴こえる…

5.

同期演奏のしくみ ドラム演奏者 ドラム以外の演奏者 同期! 音源と同期した テンポ(速さ)の クリック音 同期音源

6.

同期演奏のしくみ ドラム演奏者 ドラム以外の演奏者 音を流します! 同期! 音源と同期した テンポ(速さ)の クリック音 同期音源

7.

同期演奏のしくみ ドラム演奏者 同期音源とバンド演奏が ドラム以外の演奏者 ずれないようにするため ドラム演奏者は 同期! 演奏をクリック音に 合わせ続ける必要がある 音源と同期した テンポ(速さ)の クリック音 同期音源

8.

同期演奏 バンドなどの生演奏と合わせて、 あらかじめ打ち込んでおいた(録音しておいた) 音源を再生すること ● 足りないパート(楽器)を追加 ● 音色の幅を広げる ● 演奏トラブルが起きやすい

9.

同期演奏におけるトラブル バンド 演奏 同期音源 ずれてしまう! プロのバンドの本番でも実例あり

10.

同期演奏におけるトラブルの調査 今まで同期演奏をしていて, 音源とバンド演奏が ずれてしまったという経験はありますか? 5人 25% 解決すべき問題! 75% 15人 ある ない

11.

同期演奏におけるトラブルの原因 • 同期演奏で使用する機材のバグ • ドラムの演奏をクリック音に合わせられない ー

12.

同期演奏におけるトラブルの原因 • 同期演奏で使用する機材のバグ • ドラムの演奏をクリック音に合わせられない ードラム演奏者自身の問題 • 練習不足,叩き間違いなどのミス • 緊張・高揚感で演奏が不安定に ードラム以外の演奏者の問題 • ドラム以外の演奏の音量が大きい・テンポがずれる

13.

同期演奏におけるトラブルの原因 • 同期演奏で使用する機材のバグ • ドラムの演奏をクリック音に合わせられない ードラム演奏者自身の問題 • 練習不足,叩き間違いなどのミス • 緊張・高揚感で演奏が不安定に ードラム以外の演奏者の問題 • ドラム以外の演奏の音量が大きい・テンポがずれる

14.

ずれてしまう状況 ずれる ずれる ドラム以外の演奏者 ドラム演奏者 音源と同期した テンポ(速さ)の クリック音 合わせづらい ずれる 同期音源 同期! 音量 大 テンポ 速

15.

本研究の目的 クリック音に合わせてドラムを演奏する際 ドラム以外の演奏に引きずられて クリック音からドラム演奏がずれた際に 正しいテンポにドラム演奏を誘導する クリック音を意識していないためずれてしまうのでは? →クリック音を意識させることが重要!

16.

関連研究 音の要素(音の長さ)によって 人は異なった知覚をする ー報知機能のサイン音の音が短い→緊張感が強く感じる [楊 2005] ー10秒間でだんだん音が短くなるような音 →待機時間を短く感じさせる [Komatsu 2020]

17.

クリック音を認識させるには? クリック音の 音の長さ に着目 同期演奏において、音の長さは一定 →ずれた際に 長さを変化させることで クリック音に意識を向けられるのでは?

18.

提案手法 クリック音とドラム演奏がずれた際に クリック音の長さを変化させて提示 演奏者に クリック音をしっかりと認識させ 正確なテンポにドラム演奏を誘導する ずれた!

19.

正確なテンポに誘導するには… • 早くずれている場合 →遅いテンポに誘導する必要がある →音の長さが長い=遅いイメージ • 遅くずれている場合 →早いテンポに誘導する必要がある →音の長さが短い=早いイメージ

20.

仮説 ドラム演奏がクリック音より • 速くずれている場合は 音の長さが長い音 (遅いイメージ) • 遅くずれている場合は 音の長さが短い音 (速いイメージ) に クリック音を変化させると ドラム演奏を,正確なテンポに誘導しやすい

21.

実験:調査する内容 演奏が 遅く・速く ずれている条件において 正確なテンポに演奏を誘導しやすいのは どのクリック音に変化させた時か? ①基準のクリック音(比較手法) ②基準より音が短いクリック音 ③基準より音が長いクリック音

22.

実験:概要 クリック音に合わせてドラムを叩き、 ドラム演奏がずれた際に クリック音の長さを変化することで 正確なテンポに誘導できるかを検証する実験 実験協力者: 同期演奏またはクリック音に合わせての ドラム演奏の経験がある大学生4名(男性,19〜24歳)

23.

実験:自然にドラム演奏をずらす実験環境(理想) ドラム以外の演奏の音量を上げ、テンポをずらすことで ドラム演奏を誘導 同期音源 クリック音 ずれる ドラム演奏者 ドラム以外の演奏者 音量 大 テンポ 速

24.

実験:自然にドラム演奏をずらす実験環境(理想) ドラム以外の演奏の音量を上げ、テンポをずらすことで ドラム演奏を誘導 • 何パターンも行う実験 • 実験者の確保が難しい 同期音源 →実際の環境で行うことは難しく 音量 実験用にずらす環境をデザインする必要あり ずれる クリック音 テンポ ドラム演奏者 ドラム以外の演奏者 大 速

25.

実験:自然にドラム演奏をずらす実験環境 • ギターとベースの演奏音とクリック音を聴きながら ドラムを叩いてもらう • ギターとベースの演奏をずらすことで、 クリック音 ド ラ ム以外の演奏音 を 聴き な がら ド ラ ム演奏 ドラム演奏をずらすことに成功! ド ラ ム演奏者は ク リ ッ ク 音に合わせて ド ラ ムを 叩く と ずれる クリック⾳ クリック音 ギタ ー ベース ドラム以外の演奏⾳ ドラム以外の演奏音 音量 大 テンポ 遅

26.

実験:手順(16小節間) ク リ ッ ク 音 と ド ラ ム以外の演奏音 を 聴き な がら ド ラ ム演奏 ド ラ ム演奏者は ク リ ッ ク 音に合わせて ド ラ ムを 叩く ギタ ー クリック⾳ テンポ ♩ =1 2 0 クリック音から ずれないように叩く ベース ドラム以外の演奏⾳ テンポ ♩ =1 2 0

27.

実験:手順(1〜4小節) ク リ ッ ク 音 と ド ラ ム以外の演奏音 を 聴き な がら ド ラ ム演奏 ド ラ ム演奏者は ク リ ッ ク 音に合わせて ド ラ ムを 叩く ギタ ー クリック⾳ テンポ ♩ =1 2 0 クリック音から ずれないように叩く ベース ドラム以外の演奏⾳ テンポ ♩ =1 2 0

28.

実験:手順 (5〜8小節) だ んだ んと ド ラ ム以外の演奏音の 音量が大き く な る ・ テ ン ポがずれる ギタ ー クリック⾳ テンポ ♩ =1 2 0 ベース ドラム以外の演奏⾳ 音量 ⼤ テンポ ♩ =1 1 5 遅

29.

実験:手順 (5〜8小節) ド ラ ム演奏が ずれた ド ラ ム以外の演奏音につら れて ずれる ずれる ギタ ー クリック⾳ テンポ ♩ =1 2 0 ベース ドラム以外の演奏⾳ 音量 ⼤ テンポ ♩ =1 1 5 遅

30.

実験:手順 (9〜12小節) ク リ ッ ク 音の 長さ が変化! ギタ ー クリック⾳ テンポ ♩ =1 2 0 ベース ドラム以外の演奏⾳ 音量 ⼤ テンポ ♩ =1 1 5 戻 ド ラ ム演奏がずれた 後 遅 戻

31.

実験:手順 (13〜16小節) ク リ ッ ク 音を 変化さ せて から 正確な テ ン ポに修正で き る かを 調査 ギタ ー クリック⾳ テンポ ♩ =1 2 0 ベース ドラム以外の演奏⾳ 音量 ⼤ テンポ ♩ =1 2 0 戻

32.

実験:ドラム演奏がずれる様子(音)

33.

実験:1セットの流れ 16小節 ✖️ 7回 ①・②・③ クリック音 3パターン × ずれる状況 速い・遅い 2パターン + 練習 1回 ドラム演奏 演奏開始 ♩=120 112小節 (約4分間) 演奏終了 休憩を間に挟みながら、4セット分行ってもらった

34.

実験:分析方法 • 実験で得られたデータ 遅くずれている状況:30件 早くずれている状況:32件 • 正確なテンポに誘導できたかの判断基準 →クリック音変化から演奏が安定するまでの拍数が 8拍以内(=2小節以内)であること

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仮説 ドラム演奏がクリック音より • 速くずれている場合は 音の長さが長い音 (遅いイメージ) • 遅くずれている場合は 音の長さが短い音 (早いイメージ) に クリック音を変化させると ドラム演奏を,正確なテンポに誘導しやすい

36.

結果:遅くずれている時について 遅くずれている場合には,短いクリック音が 正確なテンポに誘導しやすい可能性

37.

結果:速くずれている時について 速くずれている場合は 正確なテンポに戻すことが難しい

38.

結果まとめ • 遅くずれている場合には, 長い音より短いクリック音の方が 正確なテンポに誘導しやすい可能性 (仮説は成立した!) • 速くずれている場合は, 正確なテンポに戻すことが難しい

39.

今後調査すること 速くずれている際に, 正確なテンポに誘導する手法の再検討

40.

速くずれる原因について 速くずれる原因は心理的時間にあり? 運動は心理的時間を加速させ、 テンポの速い音楽が長い時間に感じるようになる [松田 2015] →ドラム演奏も運動であり心理的時間が加速する →演奏を、実際より“遅く”感じてしまう →演奏が、“速く”なってしまうのでは?

41.

速くずれる原因について 心理的時間を遅くできれば解決する? 10秒間でだんだん音が短くなるような音は 待機時間を短く感じさせる[Komatsu 2020] →今後は“だんだん音の長さが変化する”クリック音で 実験

42.

最終目標 • ドラム演奏が正確なテンポからずれた際 に,ずれを検知したタイミングで クリック音を変化させて 正確なテンポに誘導するシステムの実装 • 実際の同期演奏で使用するDTMソフトに 機能を搭載

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まとめ • 目的: 同期音源とバンド演奏がずれるトラブルの解決 • 提案手法: ずれた際にドラム演奏者が聴いている クリック音の高さ・長さを変化させて ずれを意識&正確なテンポに誘導 • 結果: 遅くずれている→正確にするには短いクリック音有用 速くずれている→正確にするのは難しい,今後の課題