画像選択肢の段階的表示速度の違いが選択に及ぼす影響

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August 25, 24

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

画像選択肢の段階的表示速度の 違いが選択に及ぼす影響 明治大学3年 金谷一輝 徳原眞彩 三山貴也 木下裕一朗 中村聡史(明治大学) 1

3.

背景 ダークパターン →Webやスマートフォンアプリなどで,ユーザが選択をする 場面において意図しない行動を引き起こすデザイン https://darkpatterns.jp/ 3

4.

背景 ダークパターンの普及 約11,000のショッピングサイトから53,000の商品ページを分析 したところ、1,818のダークパターンを発見[Mathurら, 2019] 240の人気モバイルアプリを分析したところ,そのうち約95% にダークパターンが使用されていることを発見 [Di Geronimoら,2020] Mathur, G. Acar, M. J. Friedman, E. Lucherini, J. Mayer, M. Chetty, and A. Narayanan, “Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites,” Proceedings of the ACM on Human Computer Interaction, vol.3, no.CSCW, pp.1-32, 2019 Di Geronimo, L., Braz, L., Fregnan, E., Palomba, F., and Bacchelli, A.: UI Dark Patterns and Where to Find Them: A Study on Mobile Applications and User Perception, In Proceedings of the 2020 CHI Conference onHuman Factors in Computing Systems, pp. 1-14, 2020. 4

5.

背景 視覚的なダークパターンの例 5

6.

背景 視覚的なダークパターンの例 https://www.agoda.com/ 6

7.

背景 ダークパターンの特徴 視覚的なダークパターン →見る人によってはわかりやすく気づくことが可能 一見すると公平に見えてユーザの行動を誘導するインタフェース - プログレスバーの表示位置 [横山ら, 2021] - 使用機器と選択肢の提示位置 [植木ら, 2020] - 通信遅延を偽装した表示タイミングのズレ [木下ら, 2023] 横山 幸大, 中村 聡史, 山中 祥太. 待機画面の視覚刺激が選択に及ぼす影響の調査, 情報処理学会 ヒューマンコンピュータイ ンタラクション(HCI), Vol.2021-HCI-191, No.3, pp.1-8, 2021. 植木 里帆, 横山 幸大, 野中 滉介, 中村 聡史. 三択の選択肢における要因の違いが選択行動に及ぼす影響の調査, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2020-HCI-190, No.23, pp.1-8, 2020. 7

8.

先行研究 6択の文字選択肢の中から1つだけ先行表示を行うと その先行表示を行った選択肢の選択率が高くなる [木下ら, 2023] 木下裕一朗, 関口祐豊, 植木里帆, 横山幸大, 中村聡史. “選択肢の時間差表示が選択行動に及ぼす影響, ” 信学技報 ヒューマン コミュニケー ション基礎研究会(HCS), HCS2023-39,vol.123, no.24, pp.194-199, 2023. 8

9.

背景 先行研究の改善点と本研究の注目点 文字選択肢の選択インタフェース →違和感があるように感じる 画像選択肢を用いて, 実際に見られる選択インタフェースに近い環境での実験 →通信遅延や動作遅延で見られる画像の表示方法に注目 9

10.

背景 画像の表示形式 通信遅延や画像のファイルサイズの大きいときに 以下のように画像が表示されることがある https://www.akindo-sushiro.co.jp/menu/ https://www.cmoa.jp/freecontents/title/media/ 10

11.

背景 画像の表示形式 JPEG画像 ベースライン形式 プログレッシブ形式 PNG画像 非インタレース形式 インタレース形式 11

12.

目的 画像選択肢の段階的表示速度の違いが 人の選択行動に及ぼす影響を明らかにする 12

13.

仮説 4択の画像選択肢が段階的に表示されたとき (1)1つの表示速度が速い選択肢は選ばれやすい (2)1つの表示速度が遅い選択肢は選ばれにくい 13

14.

実験 嗜好を問う質問と4つの選択肢を提示し その選択肢の中から1つを選んでもらう実験 14

15.

実験 条件設定 等速条件 →4枚すべてが同じ速度で表示される 先行条件 →4枚のうち,1枚だけ速く表示される 遅延条件 →4枚のうち,1枚だけ遅く表示される 15

16.

実験 条件設定 等速(速)条件 4枚すべて0.5秒 等速(遅)条件 4枚すべて2.0秒 16

17.

実験 条件設定 先行条件 遅延条件 1枚は0.5秒,3枚は2.0秒 1枚は2.0秒,3枚は0.5秒 17

18.

実験 ダミー質問 →不真面目な回答者を除外するための簡単な質問 問題文と選択肢に目を通せば必ず正解できる 18

19.

実験 ダミー質問含めた全20問,すべての質問で段階的表示を行う 各条件と問題数の関係 先行・遅延条件 等速(速・遅)条件 誘導効果を検証する質問 10問 5問 ダミー質問 - 5問 19

20.

実験 画像選択肢の選定 過去の研究で使用された画像より,著者らの協議で選定 20

21.

実験 実験イメージ 21

22.

実験 Yahoo!クラウドソーシング上にて実験実施 1,000名(男性500名,女性500名)に実験を依頼 Web実験用環境統制システムを用いて ウィンドウサイズと画像選択肢の大きさ を統制して実験を行った 22

23.

実験 Web実験用環境統制システム [三山ら,HCS 2024年5月研究会] カードの画像と実物のクレジットカードの大きさを一致させる操作を2回 三山貴也, 中村聡史, 山中祥太. “Webブラウジング実験環境統制システムの実装と待機画面の表現が離脱に及ぼす影響の調 査”, 信学技報 ヒューマンコミュニケー ション基礎研究会(HCS), HCS2024-17,vol.124, no.19, pp.85-90, 2024. 23

24.

実験 Web実験用環境統制システム 24

25.

実験結果 データの事前処理 下記の回答者を分析から除外 ・Web実験用環境統制システムで不適切と判断した回答者 ・ダミー質問で1問でも誤答した回答者 ・誘導効果を検証する質問で10問連続で同じ位置を選択した回答者 ・20問最後まで正常に実験を終えていない回答者 など →結果,1,000名のうち411名の回答者が分析対象 25

26.

実験結果 各質問での選択率の偏り 各質問において選択率の偏りの大きい質問を除外 →誘導が選択肢の内容により行われている可能性 等速条件における各質問の選択肢の選択率 26

27.

実験結果 各質問での選択率の偏り 残りの12個の質問を分析対象とした 等速条件における各質問の選択肢の選択率 27

28.

仮説 4択の画像選択肢が段階的に表示されたとき (1)1つの表示速度が速い選択肢は選ばれやすい (2)1つの表示速度が遅い選択肢は選ばれにくい 28

29.

実験結果 仮説に対する結果 先行条件における先行選択肢の選択率:28.73%(N=1,695) 遅延条件における遅延選択肢の選択率:23.92%(N=1,593) N回の4択の試行を1,000万回シミュレーションしたときの選択率の分布 先行条件 N=1,695 遅延条件 N=1,593 29

30.

実験結果 各位置での選択率 先行条件 遅延条件 どの位置でも期待値を超える 上段→期待値を下回る 下段→期待値程度 30

31.

実験結果 選択時間による分類 選択時間が短い回答は,より即時的に選んでいると考えた 先行・遅延条件の各データを選択時間をもとに以下の3つに分類 選択時間が4秒未満 選択時間が4秒以上6秒未満 選択時間が6秒以上 31

32.

実験結果 選択時間による分類 選択時間別の先行選択肢の選択率 選択時間 選択率(%) ~4秒 (N=537) 29.98 4秒~6秒 (N=644) 28.73 6秒~ (N=514) 27.43 どの群においても選択率が25%(期待値)以上 より即時的な回答では先行選択肢を選ぶ傾向 32

33.

実験結果 選択時間による分類 選択時間別の遅延選択肢の選択率 選択時間 選択率(%) ~4秒 (N=607) 24.88 4秒~6秒 (N=566) 22.08 6秒~ (N=420) 25.00 どの群も期待値以下であるが,ほぼ期待値程度 即時的な選択にも時間をかけた選択にも遅延表示は 特には影響を与えない傾向 33

34.

考察 仮説に対する結果 4択の画像選択肢が段階的に表示されたとき (1)1つの表示速度が速い選択肢は選ばれやすい →仮説通り (2)1つの表示速度が遅い選択肢は選ばれにくい →仮説通りとは言えない 34

35.

考察 先行表示による選択誘導の要因 先行選択肢が期待値以上となった理由 →初頭効果が表れた …最初に目についたものが強く印象に残る 35

36.

考察 遅延表示による選択誘導の要因 遅延選択肢が期待値程度となった理由 →4枚の画像が全体表示されるのを待ってから選択 36

37.

考察 先行研究との類似点 6択の文字選択肢の中から1つだけ先行表示を行うと その先行表示を行った選択肢の選択率が高くなる [木下ら , 2023] 文字選択肢の先行研究の結果と類似する結果となった →先行表示は選択の誘導を起こす可能性 木下裕一朗, 関口祐豊, 植木里帆, 横山幸大, 中村聡史. “選択肢の時間差表示が選択行動に及ぼす影響, ” 信学技報 ヒューマン コミュニケー ション基礎研究会(HCS), HCS2023-39,vol.123, no.24, pp.194-199, 2023. 37

38.

考察 先行表示と選択誘導 選択肢が複数ある選択インタフェースにおいて, 先行表示を用いるとユーザの選択を誘導し, 特定の選択肢の選択率が高くなる可能性 https://zozo.jp/ 38

39.

展望 より実際の選択インタフェースに近い環境での実験 - 段階的表示の速度をランダム - 各画像の全体表示までにかかる時間の変更 - 画像選択肢の数を増やす アイトラッカーを用いて視線計測 39

40.

展望 解像度変化による画像の表示形式での選択誘導効果 40

41.

まとめ 背景:選択を誘導するダークパターンが存在する 目的:選択肢の段階的表示速度が選択行動に与える影響を明らかにする 実験:4択の選択肢の中から1つを選んでもらう実験 結果:先行表示された選択肢は選択されやすい傾向 遅延表示された選択肢の選択率は期待値程度 考察:初頭効果が表れた一方で,先行条件も遅延条件もすべての選択肢が 表示されるまで待ってから選んだ傾向がある 展望:画像の解像度変化による表示形式での選択誘導効果の検証 41