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August 11, 25
スライド概要
某病院精神科後期研修医が運営するアカウントです。日々の勉強会の内容など情報発信をしていきますので、 よろしくお願い申し上げます。
Smartphone Psychotherapy Reduces Fear of Cancer Recurrence Among Breast Cancer Survivors: A Fully Decentralized Randomized Controlled Clinical Trial (J-SUPPORT 1703 Study) Tatsuo Akechi et al. J Clin Oncol. 2023 Feb 10;41():1069-1078. 5
目的 ・早期発見と個別化医療の進歩により、乳がん患者の生存率は向 上している(10年生存率90%) ・多くの乳がん生存者は、再発に対する不安や恐怖に苦しんでい る傾向にある ・J-SUPPORTにおける前回の研究では、外来乳がん患者が経験 する最も一般的なアンメットニーズは心理的なもの、特にがん再 発の恐怖(FCR; Fear of cancer recurrence)であり、参加患者 の半数以上がそのような問題を訴えていた ・乳がん患者の間では、FCRは非常に多く見られ 、生活の質の 低下とも関連している
目的 ・これまでの研究では、マインドフルネス、認知行動療法 (CBT)、新しい理論に基づいた心理介入(Conquer Fear)な どが乳がん生存者の FCR を改善したことが実証されている ・近年のメタ分析では、FCR に対する心理学的介入は小さいな がらも有意な効果があった ・課題として、時間および距離の問題による参加率の低さが懸念 されている(参加資格がある可能性のある参加者の60%以上が参 加を辞退する)。また、専門的なケアを提供できる治療者はきわ めて少ない
目的 ・先行研究では、問題解決療法(PST; Problem-Solving therapy)や行動活性化療法(BA; Behavioral Activation)を含 むCBTが、FCRの低減に有効と示されている ・PSTとBAは、看護師などでも実施できる簡単な介入だが、こ れらは8~12回の対面セッションで構成されるため、PSTまたは BAを受ける意思のある患者が実際に治療を受けることは難しい ・乳がんと診断される女性の数が毎年増加していることを考える と、新たな治療法の開発が望まれる
目的 ・最近の研究では、コンピューター化されたCBT (iCBT) がうつ 病治療に有効であることが実証されており、同様の長さの対面式 CBTと同等の効果が得られる可能性があるとされている ・スマートフォンを活用したCBT は、アクセスしやすさや携帯 性の観点から、よりFCRに適した治療オプションであるといえる ・今回のランダム化研究の目的は、スマートフォンを使った PSTとBA介入が乳がん生存者の FCR を低下させる有効性を調査 することである
方法-参加者 ①乳がんの診断を受けていること ②20~49歳であること(乳がんリスクの高さおよびスマート フォンの所有率の高さを鑑み年齢層を設定した) ③乳房手術から1年が経過していること ④現在乳がんに罹患していないこと ⑤iPhoneまたはiPadを用いて患者報告アウトカム評価(EPO) を電子的に完了できること
方法-参加者 除外基準: (1)重篤な身体疾患あるいは乳がん以外のがんの病歴がある (2)日本語を理解できない (3) 現在、精神科医またはその他のメンタルヘルス専門家による フォローアップと治療を受けている (4) 過去に構造化されたPST、BA療法、またはCBTを受けたこと がある (5) 研究者により不適切と判断された(例:個人情報の盗難、重 複エントリー)
方法-介入 ・スマートフォンベースのPST(Kaiketsuアプリ)とBA(Genki アプリ)を用いて介入 ・完全に分散化された個別ランダム化、並行群間多施設共同試験 では、参加者は対面での接触なしに登録された ・参加者は、スマートフォンを用いた介入および通常の治療を受 ける群と、通常の治療を受ける待機リスト対照群に無作為に割り 付けられた
方法-介入 ・iPhone および iPad用のKaiketsuアプリ(スマートフォンベー スの PSTプログラム)は、9つのセッションで構成され、各セッ ションの完了には10分を要した ・GenkiアプリはスマートフォンベースのBAプログラム(患者が 楽しい行動や有意義な行動を増やすことを奨励するプログラム) であり、6つのセッションで構成され、各セッションの完了には 10分を要した ・8週間のプログラム期間中、参加者は週に1回電子メールでリ マインドを受けた。いずれのアプリも一般使用を目的として開発 されたものであった
方法-手順 ・研究情報は、SNS、がん拠点病院に掲示されるポスター、リー フレットを通じて配布された。研究ウェブサイトでも本研究に関 する情報が提供された ・0週目に電子インフォームドコンセントを提供し、ベースライ ン調査を完了した後、参加者は、電子データ収集ウェブプログラ ムを使用して、スマートフォンベースのPSTおよびBAグループ または待機リスト対象群にランダムに割り当てられた ・アウトカム測定値の提供に応じて最大5,000円の報酬が提供さ れた。研究期間は2018年4月2日から2020年7月13日まで、追跡 調査は2021年1月15日に完了した
方法-評価尺度 ・参加者は研究期間中(0~8週目)2週間ごとに評価され、24週 目にスマートフォン経由で追跡評価が実施された ・主要評価項目は、再発に対する不安尺度(CARS-J)の日本語 版による総合的恐怖スコアで評価したFCRであった。総合的恐怖 のスコアの範囲は4~24であり、スコアが高いほど再発に対する 恐怖が大きいことを示す ・副次的評価項目には、がん再発に対する恐怖評価尺度-短縮版 (FCRI-SF)、病院不安・抑うつ尺度(HADS)、支持療法ニー ズ調査質問票(SCNS-SF34)、日本語版心的外傷後成長評価尺 度(PTGI-J)、介入に対する満足度(0~100点)が含まれた
方法-評価尺度 ・CARS-JおよびHADSは0週、2週、4週、8週、24週目に評価さ れ、FCRI-SF、SCNS-SF34、PTGI-Jは0週、8週、24週目に実施 された ・介入に対する満足度を評価し、8週目に介入の質的評価を実施 した。満足度は介入のあらゆる側面(スマートフォンアプリ、自 動励ましメール)を網羅することを目指し、質的評価では介入の 肯定的側面と否定的側面、そして介入の有害性を考慮した ・介入は複数の複雑な要素で構成されていたため、8週目に30名 の参加者を対象に、介入の有用性、メリット、有害性を評価する ための簡易な構造化電話インタビューを実施した
方法-サンプルサイズの推定 ・前回の第 II 相試験では、CARS-J の平均スコアは介入前(ベー スライン)で12.8、4週目で12.4、8週目であった ・上記を踏まえ、2週目でのCARS-Jの平均スコアは 12.6、全体 的な CARS-J スコアは変化せず、スコアの分散は常に 30、級内 相関は 0.82と仮定。P =0.05(両側)で有意差を検出するために サンプルサイズを推計したところ、444人の参加者を募集する必 要があった ・CARS-J スコアにおける臨床的に重要な最小限の差に関する データがなく、この試験を有効性試験として実施したいと考えた ため、サンプルサイズは以前の研究に基づいて設定した
方法-統計分析 ・主要解析対象集団において無作為に割り付けられた全患者の治 療効果パラメータを、intention-to-treat原則に基づき検討する ため、非構造化共分散と標準誤差を用いた一般化線形モデルを用 いて主要評価項目を解析した ・固定効果は、ベースライン時のCARS-Jスコア、治療割り当て、 時間、および治療と時間の交互作用とした ・主要評価項目は、8週目における2群間のCARS-Jスコアの差と した。効果量(ES)は、Cohenのdに基づいて算出した
結果-参加者の特徴 ・合計447名の患者が無作為に 割り付けられた。223名が介入 群、224名が対照群に割り当て られた ・8週時点の主要評価項目デー タは、無作為に割り付けられた 444名(全447名のうち99.7%) から得られた介入を受けた223 名のうち、213名(95.5%)が 24週目に追跡評価を完了した
結果-参加者の特徴 ・患者は概ねフルタイムまたは パートタイムで就業しており、 既婚であった ・患者の約半数が術後化学療法 を受け、65%は、以前の研究で 推定された高いFCR(CARS-J の一貫性に関する項目の恐怖の スコアが3以上[5段階リッカー ト尺度; 1=心配しない、5=常に 心配する])であった
結果-受けた治療 ・スマートフォンアプリでは、介入群の参加者のほとんどがPST (89.2%)とBA(82.1%)のセッションを少なくとも1回完了し た ・PSTアプリの完了セッションの平均、中央値、範囲はそれぞれ 6.7±3.3、9、0~9で、BAアプリの完了セッションの平均、中央 値、範囲はそれぞれ4.7±1.9、6、0~6だった
結果 ・介入群(n = 223)の参加者 は、対照群と比較して、8週目 にCARS-Jスコアにおいて統計 的に有意な改善を示した (P <.0001) ・介入群は8週目に、FCRI-SF スコア(P <.001)、HADSう つ病スコア(P < .05)、 SCNS-SF34心理領域スコア (P < .05)において統計的に 有意な改善を示した
結果 ・全体的な恐怖スコアのベース ラインからの変化は右図の通り ・介入群と対照群の治療に対す る全体的な満足度はそれぞれ 73.4(標準偏差=17.3)、73.9 (標準偏差=17.7)と評価され、 有意差はなかった(P =.26)
結果-追加解析 ・介入がFCRの高い参加者に対してより効果的であったかどうか を判断するため、参加者をベースラインのFCRスコアによって2 つのグループに層別化した ・両方のグループ(0週目から8週目)で有意な改善が見られた が、FCRの高い参加者の方がFCRの低い参加者と比較してより大 きな改善が見られた
結果-アドヒアランスについて ・アプリ毎に、セッションの80%以上を完了しているか否かを評 価し、参加者を2つのグループに分けた。 Kaiketsuアプリへのア ドヒアランスを8回以上: 高、7回以下: 低、Genkiアプリへのアド ヒアランスを6回以上: 高、5回以下: 低と定義した ・アドヒアランスがアウトカムに及ぼす潜在的な影響を調査する ため、研究アウトカムの変化(0週目から8週目)を分析したが、 アプリへの関与度はアウトカムと有意な関連がなかった (Kaiketsuアプリ: P = .35、Genkiアプリ: P = .54)
結果-質的評価 ・KaiketsuアプリとGenkiアプリの使いやすさについて、それぞ れ参加者の43%と50%が肯定的に回答した ・Kaiketsuアプリの利点として、問題解決への体系的かつ段階的 なアプローチ、後押しされているという感覚などが挙げられた ・Genkiアプリの強みとして、楽しいゲーム機能、小さな活動を 始めるための励ましなどが挙げられた ・アプリが複雑で使いにくいという否定的な体験を報告した参加 者もいた
結果-24週目のフォローアップ ・介入群のアウトカムは、 CARS-J、FCRI-SF、SCNSSF34心理領域スコアにおいて、 8週目と24週目に有意差は認め られなかった ・HADSうつ病スコアは、24週 目において8週目と比較して有 意に減少した(P < .05)
考察 ・本研究は、乳がんサバイバーのFCRに対するスマートフォンを 用いた心理療法の有効性を実証した初めての研究である ・介入群のESを臨床指標として算出し、8週時点での群間ESは 0.32であった。これはスマートフォン介入がFCRの低下に小~中 程度の効果を有することを示唆する ・心理介入のFCRへの効果を調べたメタ分析では、対面式CBTで 同様の効果(g: 0.24-0.42)が示されている
考察 ・介入はFCRの高いサバイバーに対してより効果的であったこと から、現在のESではFCRの高いサバイバーに対する真の介入効 果を過小評価している可能性があることを示唆している ・アプリへの関与度 (遵守) と結果の間に有意な関連性がないこ とについては議論の余地がある(改善したためにアプリをやめた のか、アプリの使用をやめたために改善しなかったのかを判断で きない)
考察 ・Wagner らは3 つの認知行動スキル (リラクゼーション、認知 制限、心配の練習) を含む標的eHealth 介入が、乳がんサバイ バーの中等度から高度のFCRに有効性を示さなかったと報告した ・参加者の年齢や介入の方法など、本研究と先の研究の間にはい くつかの違いがあった。スマートフォンベースのPSTとBAは若 年乳がんサバイバーのFCR低減に十分に寄与した ・多くの乳がんサバイバーは忙しい日常生活と並行して FCR に 対処する必要があり、世界中に多数の患者が存在するため、アク セス性、携帯性、簡潔性、費用対効果などの利点がある心理療法 アプリは、FCR に対する有望な治療介入となる可能性がある
考察 ・うつ病に対する様々な認知行動スキルの有効性を調査したコン ポーネントネットワークメタ分析では、BAが最も効果的であり、 次いで不眠症と問題解決能力に対する行動療法が効果的であるこ とが示された ・FCRに対するCBTに焦点を当てたメタ分析では、認知プロセス に焦点を当てた現代的なアプローチは、認知内容に焦点を当てた 従来のCBTよりも高い有効性を示した ・異なる認知行動スキルは、心理的苦痛に異なる影響を与える可 能性があり、がん患者のFCRを軽減するために最も適切なCBTの 組み合わせを明らかにするには、さらなる研究が必要である
考察 ・本研究では、介入が乳がんサバイバーのうつ病および心理的 ニーズにも潜在的な有効性を持つことが示された ・うつ病と満たされていない心理的ニーズは、がん患者の心理的 苦痛の一般的な原因であるため、スマートフォンを用いた心理療 法が他の種類の苦痛にも有効であるかどうかを調査するには、さ らなる研究が必要と考えられた ・スマートフォン心理療法は拡張性が高く社会実装の可能性も高 く、対象者を遠隔地在住者や対面でのカウンセリングが困難な 人々へと拡大していくことも期待される
考察-分散型臨床試験のメリット ・本研究の主眼点ではないものの、分散型臨床試験は、データ収 集において従来の研究施設や専門の仲介機関への依存度が低いと いう特徴がある ・臨床試験参加時の医師と患者の負担は少なく、登録後の追跡率 も非常に良好であった(主要評価項目の完了率が99%以上)。こ れは、分散型臨床試験が今後の臨床試験においても実行可能な方 法となる可能性を示唆している
考察-研究の限界 ・KaiketsuアプリとGenkiアプリに興味を持ち、利用を希望した 患者全員がスマートフォンを所有していたわけではなかった ・本研究の結果のFCRの高い乳がんサバイバー全員への適用性お よび一般化可能性は低い可能性がある。特に、発展途上国の患者 や情報通信技術リテラシーの低い患者には、本研究の結果は当て はまらない ・しかしながら、手術後1年経過しても再発を強く恐れる可能性 のある患者、および本サービスを必要とすると想定されるサバイ バーを対象とするように適格基準を設定したため、臨床的に重要 な患者群を対象とすることができたと考えている
考察-研究の限界 ・スマートフォンアプリが高齢患者に及ぼす影響、および心理療 法や精神科治療を受けている患者への複合的な影響を明らかにす るには、さらなる研究が必要である ・介入として2種類の心理療法(BAとPST)を用いており、どの 介入がFCRの管理に最も有益であったか判断しかねる ・CARS-Jは全体的な心配に加えて4つの因子で構成されていたが、 CARS-Jの因子構造がオリジナル版と異なるため、これらの因子 は評価しなかった。これは、介入がFCRの特定の領域に及ぼす影 響を判断できないことを意味する
考察-結論 ・本研究は、PSTおよびBAスマートフォンアプリが8週目にFCR を減らす効果があることを実証し、その効果は24週目も維持さ れている ・がん生存者の数が増える一方、適切な心理療法を実施できる治 療者の数が限られていることを考慮すると、新しいスマートフォ ン心理療法はFCRを減らす有望な方法となる可能性がある