JAMA Psy 精神症脳回路

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April 25, 25

スライド概要

JAMA Psychiatry. 2025;82(4):368-378. doi:10.1001/jamapsychiatry.2024.4534
Pubmedから抽出した153例の二次性精神症の症例を解析。精神症を引き起こす共通の脳回路を特定し、その中核は後部海馬台だった。さらに、精神症に対するTMSの新たな治療標的として右前頭前野内側部(rmPFC)が有望であることを示した。

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各ページのテキスト
1.

Mapping Lesions That Cause Psychosis to a Human Brain Circuit and Proposed Stimulation Target 精神症を引き起こす病変の脳回路の特定と刺激標的の提案 JAMA Psychiatry, February 2025

2.

Brigham and Women`s Hospital(Harvard大学の教育病院) 脳回路治療センター 精神科、脳神経外科、脳神経内科が一体となり、TMS(経頭蓋磁気 刺激)やDBS(脳深部刺激)等の手法を用いて精神神経疾患(うつ病、 強迫性障害、てんかん、パーキンソン病等)を治療

3.

研究の背景 •幻覚・妄想などのPsychosis(精神症)は抗精神病薬だけでは改善が不 十分なことがある •TMS(経頭蓋磁気刺激)などの非侵襲的脳刺激治療が注目されてい るが、有効な刺激部位は確立していない •一方、脳の器質的病変(脳卒中、腫瘍など)が二次的に精神症を引き 起こすことがある •これらの症例を手がかりに、精神症に関与する脳回路を特定できる 可能性がある

4.

研究の目的 • 精神症を引き起こす脳病変を解析し、 共通する機能的脳回路を探索 →TMSが可能な、治療標的となる脳部位を特定する

5.

研究方法 ①文献から精神症を引き起こした脳病変(153例)を収集 ②健常人の脳データをもとに、各病変の接続パターンを推定 ③病変の重なりから、精神症に共通する脳回路を特定 ④独立コホートを用いて、外的妥当性を検証 ⑤脳回路上で、TMSで刺激可能な脳部位を探索

6.

結果① 収集した症例の特徴 ・文献(PubMed)から153例の二次性精神症(器質的病変あり)を収集 ・症状の内訳 幻視:83例(54%) 幻聴:81例(53%) 妄想:67例(44%) 思考障害:25例(16%) 陰性症状:13例(8%) ・87例(57%)は複数の症状を併発 ・42例(27%)は「統合失調症」または「統合失調症様」と記載 ・全て精神症の初回発症(既往無し)

7.

結果① 症例選定基準 •病変が画像上、急性と判定された かつ •精神症発症から1年以内に病変が発見された かつ •精神症発症前1年以内に正常画像が存在した または •病変の消失と症状の消失が一致していたもの つまり、脳病変→精神症の因果関係が明白な症例のみを選定

8.

結果② 病変の接続パターン解析 • 84%(129/153)の病変が後部海馬台と機能的に接続

9.

・精神症病変群の接続パターンを重ね合わせると、後部海馬台に最大 の重なりがみとめられた(高感度) ・精神症病変群(n=153)と非精神症病変群(n=1156)の接続パターンを統 計的に比較すると、後部海馬台において最も有意差あり(高特異度) 結果②

10.

結果③ 多様な精神症症状は共通回路に収束 • 幻聴、妄想、思考障害など、症 状ごとに精神症病変群を分類 • いずれの症状群も、後部海馬 台を中心とする回路に接続 • 症状別の接続パターンも、精神 症病変群全体の接続パターン と高い相関(median r=0.84)

11.

結果③ 多様な精神症症状は共通回路に収束 • 各症状群の接続パターンを、精神症病変群(その症状除く)と 非精神症病変群(n=1156)と比較→精神症病変群と類似 • 症状の違いを超えて共通する精神症回路の存在を示唆

12.

結果③ 補足:要素性幻聴の接続パターンは精神症病変群と異なる • 精神症病変群(n=153)のうち24例は幻聴のみを呈した • 幻聴のみを呈した病変は脳幹(11例)または(側頭葉)に限定 • 脳幹病変による幻聴は皮質下の聴覚系(内側膝状体など?)に、側 頭葉病変による幻聴は上側頭回に、接続のピークあり(後部海馬台 との接続認めず) • 注目すべき点:幻聴のみを呈した患者は「統合失調症様」とは記述 されておらず、幻聴は言語性のものでは無く単純な音だった(要素 性幻聴)

13.

結果④ 外的妥当性の検証 Vietnam Head Injury Study(VHIS) 貫通性頭部外傷後に26項目の神経 行動評価尺度(NBRS)を受けた退役 軍人181名のデータセット ・ ・VHISの病変のうち、結果②で得た 精神症回路との結合が強いものは、 「疑念」および「奇異な思考内容」と いった精神症様症状との関連が有 意に高かった

14.

結果⑤ TMS治療標的の探索 •精神症回路と最も空間的相関が 高いのは後部海馬台(r=0.83)だが、 深すぎてTMS不可 •TMS刺激可能な部位の中では、 右前頭前野内側部(rmPFC)が最も 有望(r=0.82)、安全かつアクセス可 能

15.

結論 • 精神症を引き起こす共通の脳回路を特定 • 中核は後部海馬台 • 右前頭前野内側部(rmPFC)はTMSの新たな治療標的として有望

16.

考察 ・精神症への海馬NMDA受容体の関与が示唆されている(cf.抗NMDA 受容体脳炎、フェンサイクリジン)が、解剖学的局在は不明 →本研究で海馬台後部の関与を特定

17.

考察 ・統合失調症患者の海馬萎縮は脳 画像研究で一貫して示されている (海馬の抑制性ニューロン減少によ り過活動) ・統合失調症患者において海馬台 への入力部位である海馬CA1領域 の過活動も指摘 →本研究の結果と合致

18.

考察 ・本研究では、幻聴、妄想、思考障害など多様な精神症症状を呈した 病変群全てで後部海馬台を中心とする回路が特定 →精神症を単一の症候群として捉えるモデルを支持

19.

考察 ・過去の研究では、うつ病、依存症、慢性疼痛において病変由来の 回路が有効なTMS標的を導出している →本研究の精神症回路もTMS治療の新たな標的となりうる ・右前頭前野内側部(rmPFC)の近傍領域は依存症・強迫症でもTMS 刺激部位として使われていた →安全性高い

20.

本研究の限界 ・二次性精神症≠統合失調症 →本研究の精神症回路が統合失調症に当てはまるかを検証する 必要あり。rmPFCへのTMS刺激で統合失調症の臨床症状が改善す るか検証すべき ・症例報告のバイアス →選択バイアスあり(印象的な症例や重症例が報告されがち)