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May 16, 25
スライド概要
Xanomeline-trospiumの第Ⅲ相臨床試験です。
統合失調症への反応性と忍容性について、PANSSスコアやCGI-Sスコアを用いて評価しています。
某病院精神科後期研修医が運営するアカウントです。日々の勉強会の内容など情報発信をしていきますので、 よろしくお願い申し上げます。
Efficacy and Safety of Xanomeline-Trospium Chloride in Schizophrenia A Randomized Clinical Trial (THE LANCET Published : December 14, 2023) Inder Kaul, MD, MPH;Sharon Sawchak, RN; David P. Walling, PhD;CarolA. Tamminga, MD; AlanBreier, MD; Haiyuan Zhu, PhD; Andrew C. Miller, PhD; Steven M. Paul, MD; Stephen K. Brannan, MD 統合失調症におけるキサノメリン-塩化トロスピウムの 有効性と安全性のランダム化比較試験 2025年5月15日 抄読会 東京都立松沢病院 J1 福島慧
研究背景 従来の抗精神病薬について ・従来の抗精神病薬は、ドーパミンD2受容体を遮断して拮抗薬や 部分作動薬として作用している。 ・陽性症状の治療について有効性を示すが、陰性症状や認知症状に 対する有効性は限られている ・錐体外路症状、遅発性ジスキネジア、体重増加、眠気などの 副作用がアドヒアランス低下に繋がりやすい →より優れた安全性と忍容性を備えた抗精神病薬が求められる
研究背景 新薬Xanomeline-Trospiumとは ①Xanomeline M1/M4選択性ムスカリン受容体作動薬 ②Trospium 末梢限定性ムスカリン受容体拮抗薬 ①による消化器の副作用を減らすために投与されている。 ①と②の合剤
研究背景 KarXTのこれまでの臨床試験 第2相EMERGENT-1試験、第3相EMERGENT-2試験において、 ・プラセボと比較して陽性症状や陰性症状を有意に改善し、 ・現在承認されている抗精神病薬に伴う以下の副作用を伴わない 錐体外路症状、体重増加、傾眠、高プロラクチン血症など 本稿では、有効性、安全性、忍容性を評価するための 第3相EMERGENT-3試験の結果について述べる。
手法 研究デザイン EMERGENT-3は第3相臨床試験であり、以下の特徴を持つ。 ①多施設型 ②ランダム化 ③二重盲検 ④プラセボ対照試験
手法 期間と場所 期間:2021年4月1日から2022年12月7日まで 場所:アメリカの18施設、ウクライナの12施設 注意点:ウクライナでは、2022年2月にロシア・ウクライナ紛争 勃発のため、それ以降の参加者登録は中止された。
手法 被験者の年齢と診断 対象年齢:18歳から65歳までの成人 診断条件:以下の方法で統合失調症と診断された人 DSM-5に基づく精神医学的評価 Mini International Neuropsychiatric Interview(MINI)7.0.2
手法 被験者選定の基準スコア ・PANSSスコア(Positive and Negative Syndrome Scale) 合計スコア:80~120 陽性項目の条件:以下の項目のうち少なくとも2つにおいて スコアが4以上(中等度以上) P1: 妄想(Delusions) P2: 概念の混乱(Conceptual disorganization) P3: 幻覚行動(Hallucinatory behavior) P6: 疑い深さ/迫害観念(Suspiciousness/persecution) ・CGI-Sスコア(Clinical Global Improvement - Severity) スコア4以上(中等度以上)
補足 PANSSスコア 統合失調症の重症度を測る尺度 陽性症状7項目、 陰性症状7項目、 総合精神病理症状16項目 各項目1~7点で点数をつけ、 合計30点~210点
手法 除外基準 ・過去12ヶ月以内に統合失調症以外の主な精神疾患を持つ場合 ・抗精神病薬治療に対する治療抵抗性の既往歴がある場合 ・試験スクリーニングからベースラインまでの間に PANSSスコアが20%以上改善した場合
手法 無作為化と盲検化 ・適格な参加者は、1:1の比率で ザノメリン-トロスピウムまたはプラセボを1日2回 経口投与する群に無作為に割り付けられました。 ・治療群の割り当ては、参加者、試験担当者、検査スタッフ、 研究者、統計解析担当者、そして試験のスポンサーのすべて から秘匿されていました。
手法 投与方法や用量について ・治験薬の投与は、5週間の治療期間の1日目から開始されました。 xanomeline-trospium は以下のように投与されました: 1~2日目:1日2回、xanomeline 50mg と trospium 20mg 3~7日目:1日2回、xanomeline 100mg と trospium 20mg ・8日目以降は柔軟な投与量調整が可能で、 忍容性(副作用の出方など)に応じて、最大で1日2回、 xanomeline 125mg + trospium 30mgまで増量可能。 忍容性が悪い場合には、100mg/20mgの投与量に戻すことも可能。 ・治験の最後の2週間は、用量の変更は許可されませんでした。
手法 評価スケール ・CGI-SとPANSSのスコアは、 選定用のスクリーニング時とベースライン時に評価され、 その後、治療期間の5週間を通じて毎週評価されました。 ・CGI-Sは1週目から PANSSは2週目から評価されました。
手法 安全性の監視方法 ・自発的な有害事象は、訪問時に記録されました。 ・起立性血圧測定は、仰臥位と立位で、 以下のタイミングで測定されました ①スクリーニング時 ②1、3、7、8、14、21、28、32、35日目
手法 安全性の監視方法 ・副作用を見るため、以下のスケールを使用しました。 ①シンプソン・アンガス・スケール(動作遅滞などを評価) ②バーンズ・アカシジア評価スケール(静座不能などを評価) ③異常不随意運動スケール(AIMS)(不随意運動を評価) ・これらはベースライン時と毎週評価されました。
手法 評価項目 主要評価項目:PANSSスコアの変化 副次的評価項目: ①PANSS陽性サブスケールスコアの変化 ②PANSS陰性サブスケールスコアの変化 ③PANSS Marder陰性因子スコアの変化 ④CGI-Sスコアの変化 ⑤PANSSスコアが30%以上改善した参加者の割合
手法 統計解析 ・ベースラインの人口統計データは、意図的治療(ITT)集団を 使用して記述的に報告されました。 ・すべての効果分析は、修正ITT(mITT)集団を使用して 実施されました。 ・修正ITT集団は以下の通りです。 ・少なくとも1回の治験薬の投与を受けた者 ・ベースライン時にPANSS評価をうけた者 ・少なくとも1回のベースライン後のPANSS評価を受けた者
手法 統計解析 ・ベースラインから5週目までのPANSS総合スコアの変化の差は、 繰り返し測定の混合モデル(MMRM)で推定されました。 ・ベースラインからの最小二乗法平均変化、標準誤差、 5週目のxanomeline-trospium群とプラセボ群の 最小二乗法平均差(95%信頼区間)が計算され、 主要評価項目について有意差が評価されました。 ・P値≤0.05であれば、統計的に有意と見なされました。
結果 参加者 431人がスクリーニングされ、 256人がランダム化された。 安全性集団には253人 mITT集団には234人が含まれた xanomeline-trospium群では 46人が治験を途中で中止、 プラセボ群では38人が 治験を途中で中止した。
結果 参加者 治験開始時の参加者の基本的な 年齢や性別、人種などの情報は xanomeline-trospium群と プラセボ群でほぼ同じでした。
結果 主要評価項目 ・PANSSスコアにおいて xanomeline-trospium群は プラセボ群と比較して 統計的に有意な8.4ポイントの 改善が見られた。 ・Cohenの効果量は0.60でした
結果 副次的評価項目 ・PANSS陽性サブスコアでは、xanomeline-trospium群は プラセボ群に比べて有意に大きな改善を示しました Cohenの効果量 0.80
結果 副次的評価項目 ・PANSS陰性サブスコアやMarder陰性因子スコアでは、週5で は有意差がなかったものの、週4には有意な改善が見られました。 (-0.8ポイント、Cohenの効果量0.23)
結果 副次的評価項目 ・CGI-Sスコアでも、xanomeline-trospium群はプラセボ群に 比べて優れた改善を示しました(−0.5ポイント)
結果 副次的評価項目 ・PANSSレスポンダーでは xanomeline-trospium群が 有意に高い割合 (25.4%の差) で改善を示しました。
結果 副作用の発生頻度 ・xanomeline-trospium群では、88人(70.4%)が少なくとも 1つの副作用を報告しました。 ・プラセボ群では、64人(50.0%)が副作用を報告しました。 ・つまり、xanomeline-trospium群では、プラセボ群に比べて 副作用の発生率が高かったです。
結果 副作用の具体例 ・xanomeline-trospium群の副作用は、 多くは軽度から中等度の消化器系の 症状(吐き気や消化不良) ・アカシジアや遅発性ジスキネジアの 報告は、どちらの群も0であった。
研究の制限 研究機関の短さ ・試験の期間が5週間と短い。 統合失調症は生涯にわたる疾患であるため、 より長期的な試験が必要です。 現在、xanomeline-trospiumの長期的な効果を評価するため EMERGENT-4、EMERGENT-5が進行中です。
研究の制限 比較対象薬なし ・この試験には、他の抗精神病薬と直接比較するグループが 含まれていません。 そのため、xanomeline-trospiumの効果は他の治療薬と 直接比較することができず、 他の試験との間接的な比較しかできません。
研究の制限 参加者の募集地域 ・試験参加者の募集は米国とウクライナで行われましたが、 ロシア・ウクライナ戦争の影響で、 ウクライナからの追加参加者 募集が中止されました。
結語 ・xanomeline-trospiumは、統合失調症の症状に 有意な改善をもたらした。 ・xanomeline-trospiumは、従来のD2ドパミン受容体拮抗薬が 持つ錐体外路症状や眠気のような副作用が生じにくかった。 ・従来のD2ドパミン受容体拮抗薬に代わる薬として、 新しいクラスの抗精神病薬の先駆けとなる可能性がある。
補足 他薬との比較 PANSS陽性スコア クロザピン 0.64 セロクエル 0.40 KarXT(E1) 0.80 リスパダール 0.61 エビリファイ 0.38 KarXT(E3) 0.59 クロルプロマジ 0.57 ン ラツーダ 0.33 オランザピン 0.53 レキサルティ 0.17 インヴェガ 0.53 ハロペリドール 0.49 シクレスト 0.47
補足 他薬との比較 PANSS陰性スコア クロザピン 0.62 セロクエル 0.31 KarXT(E1) 0.56 オランザピン 0.45 ハロペリドール 0.29 KarXT(E3) 0.23 シクレスト 0.42 ラツーダ 0.29 リスパダール 0.37 レキサルティ 0.25 インヴェガ 0.37 クロルプロマジ 0.35 ン エビリファイ 0.33
補足 M4,M1受容体の役割 M4受容体の役割: ・M4受容体は直接経路に発現し、 この経路の活動を抑制します。 ・従来のD2受容体拮抗薬は間接 経路に作用しますが Xanomeline-trospiumはこれと異なる経路に働きかけるため、 両者が相乗的に治療効果を発揮する可能性があります。 参照:Xanomeline-Trospium Treatment of Cognitive Impairments of Schizophrenia: Hope for Some, or Hope for All?
補足 M4,M1受容体の役割 M1受容体の役割: ・認知機能の改善に関与。動物モデルではNMDA受容体拮抗薬 (例:ケタミン)の作用を逆転 させる効果が確認されています。 ・作業記憶や神経ネットワーク の処理において有効であると されています。 参照:Xanomeline-Trospium Treatment of Cognitive Impairments of Schizophrenia: Hope for Some, or Hope for All?
補足 認知機能改善効果について 認知機能への効果 ・認知機能全体では有意な改善は認められなかった (効果サイズ:d=0.13, p=0.27) ・しかし、認知障害が重度なサブグループ(ベースラインで認知 機能が標準偏差1以上低い患者)では、 中程度から大きな改善が確認された: 認知機能が1SD以上低下した患者:効果サイズd=0.54 認知機能が1.5SD以上低下した患者:効果サイズd=0.8 参照:Xanomeline-Trospium Treatment of Cognitive Impairments of Schizophrenia: Hope for Some, or Hope for All?
補足 新薬のその後 2023/11/29 2024/09/26 FDAが正式に審査開始 FDAより統合失調症の適応で承認された 開発時の名称は「KarXT」 アメリカでの商品名は「Cobenfy」 日本は2026年発売の予測が 立っているが…?
補足 プロドラッグの開発 2024/05 Terran Biosciences社のCEOであるSam Clarkが、KarXTの プロドラッグである「TerXT」がまもなく第1相臨床試験に入る とコメントした。「TerXT」はKarxTよりより長い作用時間を 持ち、内服薬は1日1回の投与で良く、LAI製剤も用意されている 参照:Terran Biosciences prepares for trials of schizophrenia drug