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July 17, 26
スライド概要
某病院精神科後期研修医が運営するアカウントです。日々の勉強会の内容など情報発信をしていきますので、 よろしくお願い申し上げます。
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J1 赤松啓太郎
背景:統合失調症と突然死 統合失調症は世界人口の約1%が罹患する重篤な精神疾 患。 ・ 平均余命は一般人口より10~25年短く、突然死の発生率 は一般人口の約3~4倍(1,2) ・ 心原性の突然死は全死亡の最大50%を占める。 ・ 主因は、冠動脈疾患、心筋症、心筋炎等の構造的異常。 ・ 約8~10%では剖検・毒物検査後も死因不明である。 ・ それらの死因は解明されていないが、致命的不整脈が推 定されている(3,4)。
SUD-SCZの概念 SUD(sudden unexplained death) 病理学的・毒物学的検査でも死因不明の突然死を指 す(5)。 SUD-SCZ 統合失調症患者で発生する死因不明の突然死をSUDSCZと呼ぶ(6)。 近年の研究では、統合失調症における心臓疾患による 突然死および早期死亡のリスクが高いことが強調されて いる(7ー9)。
近年の研究 1957–2021年の135件のコホート研究を対象としたシステマティックレビュー およびメタ解析。 ・ 全死因死亡リスク:152%増加。 ・ 心血管/脳血管障害による死亡リスク及び、あらゆる自然死のリスク:100 ~200%増加(10)。 ・ 一般人口と比較して統合失調症患者では、特定の死因あるいは全死因に よる死亡率の上昇が明らか。 ・一方で、 典型的心病変を伴わない致死性不整脈の報告は少ない(11)。 ・SUD-SCZの危険因子・発症機序も未解明。 ・このテーマに関連する剖検の研究報告も乏しい。
近年の研究 1957–2021年の135件のコホート研究を対象としたシステマティック レビューおよびメタ解析。 ・ 全死因死亡リスク:152%増加。 ・ 心血管/脳血管障害による死亡リスク及び、あらゆる自然死のリス ク:100~200%増加 ・ 一般人口と比較して統合失調症患者では、特定の死因あるいは全 死因による死亡率の上昇が明らか。 ・一方で、 典型的心病変を伴わない致死性不整脈の報告は少ない。 ・SUD-SCZの危険因子・発症機序も未解明。 ・このテーマに関連する剖検の研究報告も乏しい。
2.症例報告 2020年1月〜2024年12月の剖検例から選出。 ・統合失調症既往あり。 ・突然、予期せぬ自然死。 ・包括的な死後検査において明確な解剖学的、または中毒学的死因 が認められなかった場合に、本研究の対象に加えた。 ・死後検査は、病歴の確認、現場調査、剖検、血中抗精神病薬の分 析から構成された。 ・自殺、他殺、過量服薬、重大心疾患の症例は除外。 ↓ SUD-SCZ 3例を抽出。
症例1(44歳男性) ・統合失調症 >10年、重度飲酒・喫煙歴。 ・入院前は、クロザピン、リスペリドン、オランザピン等の抗精神病薬を内服 していたが、アドヒアランスは不良。 ・入院後、最初の4日間はオランザピン10mg/日を経口投与され、その後8日 間はリスペリドン4mg/日を経口投与され、さらにジアゼパム10mg/日が併用 された。 ・入院14日目に突然呼吸停止。 ・心重量315g、冠動脈硬化なし。 ・左室に血管周囲線維化・心筋線維化。 ・肝臓は軽度の脂肪変性を示した。 ・血中:オランザピン、リスペリドン陽性
症例2(47歳女性) ・統合失調症歴2年、糖尿病の併存。 ・クエチアピンやオランザピン等を内服していたが、 症状が改善したため投与は中止されていた。 ・入院中はリスペリドン2 mg/day。 ・投薬開始2日後に突然死。 ・心重量260g、冠動脈硬化なし。 ・軽度脂肪肝、その他著変なし。 ・血中のリスペリドン陽性。
症例3(48歳女性)+症例比較 ・慢性統合失調症(12年間)。糖尿病、高脂血症の併存。 ・リスペリドン、オランザピンを含む抗精神病薬で治療。 ・糖尿病の治療の有無については不明。 ・死亡の4ヶ月前に外来で計14日間行われた。 8日間、オランザピン15mg/日を経口投与され、その後6日間 アミスルプリド錠600mg/日を経口投与された。また、ロラゼ パム0.5mg/日も処方された。 ・心重量220g、局所的炎症の所見を認めた。 ・顕微鏡的には著名な心筋細胞の損傷は認めなかった。 ・血中オランザピン、アミスルプリド陽性。
文献レビュー PRISMA 2020ガイドライン(12)に従い、 PubMedデータベースを使用して文献検索を実 施。 検索キーワード “sudden death”, “schizophrenia” ・対象:法医学的・剖検に関連する英語論文( 2000–2025年)で全文が入手可能なもの。 ・除外:review, technical/case reports, books, 情報が不十分なもの 検索結果:SUD-SCZを含む6本の論文(13ー18) から149症例 + 自施設3症例 → SUD-SCZは計152症例集まった。
SUD-SCZ症例の背景 ・年齢:19–86歳 ・男女比:94 : 58 ・若年傾向 ・平均(死亡時)年齢が38歳(16)。 SUD群は(9.0 ± 8.4歳 )、sudden cardiac death群(49.5 ± 13.0歳)に比して、若 年で死亡。 ・対象となった論文のうち3本では、SUDの全死亡者がoverweight or even worse(BMI>25)だった(14ー16)。 ・別の論文では、SUD対象者のほぼ半数(36人中17人)がBMI>30の肥満。 死亡者の3分の1近く(36人中13人)が、死亡前に脂質異常症(n=6)、糖尿病(n=4)、 高血圧(n=3)であると診断(18)。 合計106名の患者(69.7%、106/152)が、過体重または肥満(BMI>25)。
剖検所見 剖検所見(n=77) ・心病変:36/77例(46.8%) ・肝病変:10/77例(13%) ・肺病変:5/77例(6.5%) 主な病理学的所見 ・unclassified cardiomegaly:11例(14.3%) ・focal myocardial fibrosis:8例(10.4%) ・mild coronary atherosclerosis:5例(6.5%) その他にhepatic seatosisが10例、pulmonary congestion、focal bronchopneumoniaがそれぞれ5例。
薬物所見 152例のうち、74例で死亡後の薬物データを取得。 うち、65/74例(87.8%)で抗精神病薬が陽性。 ・すべて治療域内の濃度で、 ・多剤併用は29/65例(44.6%)、 ・主な薬剤は、オランザピン(18例)とクロザピン(16例)。 ・原因は、抗精神病薬に関連する不整脈と推定する報告が存在する一方(13,14, 16ー18)、 ・説明可能な死因群と説明不可能な死因群において抗精神病薬の使用状況に差が なかったことから、証拠不十分とする報告も存在した(15)。
考察①:SUD-SCZの概念・疫学・背景 統合失調症患者では突然の心停止による死亡リスクが高い。 ・主な死因は冠動脈疾患、心筋炎、心筋症などの構造的心疾患。 ・一部症例では標準化剖検でも死因不明 =「SUDーSCZ」 ・SUD-SCZの報告頻度:2.8〜11.8%(13、16)、一部研究では29.2%(19) ・本研究は希少な包括的剖検研究に新たな知見を加えるもの。 ・症例年齢は19〜86歳、男女比94:58(今回集めた152症例)。 ・ 6件の研究のうち2件は、若年層が全体の死亡者の大多数を占める(16、17)。 →若年、男性がリスク因子の可能性。 (20) ・統合失調症患者2,700,825人を対象とした43件の研究のメタ分析では、 SCZの男性および女性ともに、一般人口と比較して全死因および特定の死因による死亡リスクが上 昇。 が、 ・男性が認知症による死亡リスクが有意に高いことを除いて、性別による死亡リスクに統計的に有意 な差は認められなかった。 ↓↓ SUD-SCZに対する性別および年齢の及ぼす影響については、さらなる調査が必要。
考察②:患者情報の分析 死亡診断書に基づく100名のSUD患者を対象とした研究(21) ・脂質異常症(p=0.012)および脂質異常症の症例と糖尿病の併存症例(p=0.008)は、精神科患者のうち、死因が究明 された突然死のグループよりも、死因不明の症例で多く見られた。 収集された論文のうちの3本(14–16) ・SUDによる死亡者の全員がoverweight or even worse(BMI>25)であった。 一方、別の研究(18) ・SUD対象者のほぼ半数(17/36)がBMI>30の肥満であり、死亡者の約3分の1(13/36)が死前に脂質異常症、糖尿病、 または高血圧のいずれかの診断を受けていた。 本報告が加えた3例 ・2例は糖尿病、1例は脂質異常症。 →SUDーSCZにおいて脂質異常症と糖尿病が一般的であったという見解を裏付けている。 これらの危険因子が、単独または共同して、精神疾患のない患者と比較して病状の急速な悪化と相関している可能 性がある(22)。 確立された心血管リスク因子に対して治療を受けていない重度の精神疾患患者の割合は、 脂質異常症で88%、高血圧で62%、糖尿病で30%であると報告されている(23, 24)。
考察②:患者情報の分析 This vulnerable populationの心血管疾患の予後を安全に改善するた めには、臨床医が糖尿病や脂質異常症の徴候や症状に対して常に 注意を払うことが強く推奨される。 本研究では、合計106名(69.7%、152名中106名)の患者が過体重ま たは肥満(BMI>25)であり、BMIによる層別化に基づいた個々への介 入の重要性が示唆された。 SUD群において、原因が特定可能な死亡群と比較して、精神疾患エ ピソードの発生率が有意に高かった(p=0.018,OR = 4.025、P = 0.040)(17) 精神病エピソードは、統合失調症におけるSUDの独立した危険因子 であり(25)、しばしば心臓に余分な負荷をかけ、急性冠症候群後の短 期的な再発リスクの増加とも関連しており、統合失調症患者における 突然死のリスクを高めている。
考察②:患者情報の分析 統合失調症における突然死の危険因子は複雑で、統合失調症およびその 他の精神疾患を有する患者は、統合失調症のない患者と比較して、過体重、 喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、または代謝異常を有する可能性が高 い(26, 27)。 抗精神病薬による長期治療は、若年患者であっても、糖尿病、高血圧、高脂 血症のリスクを高め、統合失調症患者における突然の心臓死や心血管疾患 による死亡リスクの増加につながる可能性がある(28, 29)。 心血管リスク因子に加え、薬物の影響や遺伝的背景などの他の要因も、突 然死の素因に関与している可能性がある(30)。 ↓ これらのリスク因子を認識し、積極的な管理を実施することは、SUDーSCZの 予防につながる可能性がある。
考察③:剖検所見と心病変 本研究および文献に由来する症例において、46.8%に心臓の病変を認めた。 ・主な所見:分類不能な心肥大、限局的な心筋線維化、軽度冠動脈アテローム性 動脈硬化、限局性心筋炎症、心筋ジストロフィー、心筋脂肪浸潤 ・ただし、既知の病態の診断基準を満たすには不十分であり、また、突然死の原因で あると結論付けるには不十分であった。 ・とはいえ、抗精神病薬への慢性的な曝露は、心臓の構造や機能を損ない、炎症性 病変、心線維症、および心筋症を引き起こすことが報告されている(31, 32)。 局所的な心筋炎症や局所的な心筋線維化においては、、クロザピン誘発性心筋炎 は、抗精神病薬に関連する心障害の中で最も頻繁に報告されている。 その発生率は0.7~1.2%と推定されている(32, 33)。これらの症例のほとんどは、クロ ザピン治療開始後2ヶ月以内に発生した。
考察③:剖検所見と心病変 急性心筋炎が早期に認識されない場合、心室拡張と心機能障害を特徴とする拡張 型心筋症へと進行する可能性がある。 ・多くの患者は全く無症状であり、さらに、死亡前に通常行われるべき検査も受けな かった(34, 35)。 ・ある解剖報告では、14例中6例が、抗精神病薬の長期使用後に拡張型心筋症によ り突然死したと報告されている(36)。 イタリアのEspositoらによる最近の研究では、既存の心疾患を持たない若年統合失 調症患者において、治療用量の抗精神病薬投与中に突然死した症例から、心筋線 維化および収縮帯壊死が確認され、我々の症例からの知見を裏付ける結果となった (37)。
考察③:剖検所見と心病変 ・しかし、このような心臓所見は、法医学解剖医によって、それ以外の点では健康な 個人や、一般人口における物質使用障害(SUD)患者においても散見されており、こ れらは診断的価値がない、あるいは意義が不明確な剖検所見として分類されていた (38, 39)。 ・法医学的観点からは、抗精神病薬に曝露された患者と曝露されていない集団との 間で、剖検所見の頻度および重症度を比較検討することが、死因判定において重要。 ・さらに、抗精神病薬治療の初期段階において、心毒性(心障害)を適時に検出する ために、心バイオマーカーを含む実用的で綿密な臨床モニタリングプロトコルが強く 推奨される。
考察③:剖検所見と心病変 抗精神病薬の使用と関連する可能性のある不整脈が、重要な役割を果たしている 可能性は非常に高い(40、41)。 ・抗精神病薬がカリウムイオンチャネルの遮断によるQT間隔の延長を介して、TdPな どの重篤な心室性不整脈のリスクを高める可能性があり、最悪の場合、突然の心臓 死につながる恐れがある。 ・多剤併用および高用量の抗精神病薬は、薬力学および薬物動態における薬物相 互作用に関連するSCDリスク上昇の、重要かつ最も明確な証拠であると考えられてい る(41–44)。 ・しかし、症例それぞれの抗精神病薬の服薬歴があるため、現在入手可能なデータ では、第一世代と第二世代の抗精神病薬の間、あるいは個々の抗精神病薬間で、 突然死のリスクに明確な違いがあることを立証することはできない。 ・さらに、今回のデータでは、臨床的な心電図(ECG)所見が認められないため、抗精 神病薬と致死性心不整脈との因果関係を確立することはできない。 ・本研究で対象とされた症例の死因は、文献および我々の提示した症例において、 代替となりうる他の死因を除外することで特定されている。 ・生前の心電図を抗精神病薬の服用歴および死後の心筋病変と関連づけることで、 より正確な診断が可能となるだろう(45)。
考察③:剖検所見と心病変 先行の研究において、抗精神病薬を投与されたマウスを対象としたLC-MS/MS分析 により、オランザピンおよびクロザピンの血清中濃度は概ね治療範囲内にある一方 で、心筋中のオランザピンおよびクロザピンの濃度は投与開始後14日目から有意に 上昇し、21日目にはそれぞれ平均濃度が最大3倍および22倍に増加しており、抗精 神病薬が心筋に蓄積し、心臓への特異的な毒性作用を誘発していることが示唆。 ・SUDの発症に対する抗精神病薬使用の寄与を部分的に説明し、他方では、予期せ ぬ死因の解明にあたっては、血液中だけでなく心臓内の抗精神病薬濃度も分析す べきであることが示唆されている(46)。 ・法医学的観点からは、心筋内の薬物濃度を定量化し、各領域(心内膜下、伝導系) 間の分布を比較することで、心筋への直接的な蓄積と末梢からの再分布を区別し、 突然死とのメカニズム的な関連性を裏付ける一助となるだろう(45, 47)。
限界 ・症例数が少ない ・単一のデーターベースから検索された英語文献に限られている。 ・神経病理学的な知見については十分な言及ができなかった。
結論 総じて、本研究では、当法医学センターおよび文献資料から得られた、人口統計 データ、剖検所見、および死後抗精神病薬検査結果を含む法医学的所見を体系的 に分析した。 ・これらの物質使用障害を伴う統合失調症(SUD-SCZ)患者において、被験者の大多 数は過体重または肥満であることが判明した。剖検における最も一般的な所見は心 臓病変であり、 ・オランザピンおよびクロザピンが最も頻繁に処方された抗精神病薬であった。 ・包括的な剖検および死後抗精神病薬分析を行っても、正確な死因は解明されな かった。 ・罹患前の状態(例:過体重または肥満)を抗精神病薬の服用歴および死後の心筋 病変と関連づけることは、死因のより正確な特定と解釈を容易にするだろう。 ・この点で、法医学的調査は、この脆弱な集団に対する予防戦略を策定する上で有 用である。
批判的吟味 希少なSUD-SCZ症例を整理した価値はあるが、あくまで記述的 研究であり、危険因子や病態機序を証明した研究ではない。 たとえSUDーSCZでは肥満が多い 、糖尿 病が多い 、オランザピンやクロザピン が多いという結果が出たとしても、「統 合失調症患者一般より本当に多いの か」は分からない。 ↓ 例えば、統合失調症患者全体でオラン ザピン使用率が高い のであれば、 SUDーSCZ群でオランザピンが多いこと には何ら意味がない。 著者らは異なる時代・異なる国・異なる 法医学施設の報告を統合している。 ↓ しかし、「どこまで調べたらSUDとするか」 は施設によって全く違う。 ↓ ある施設では「原因不明」だったものが、 別施設ならと診断名が付与されていた 可能性がある。したがって152例を単純 にまとめることの妥当性に疑問。
批判的吟味 もし元々、統合失調症患者 では肥満 、糖尿病 、脂質 異常症 の頻度が高いのだ とすれば? ↓ 「SUDーSCZ群で肥満が多い =肥満が危険因子」 とは言えない。 本来ならSUD症例の中で、 SUDーSCZ群vs非SUDーSCZ群 での比較が必要なので は? ・あと単純に、症例提示で 心臓の重量を提示されても 手に余ってしまう。 ・そもそもSUDの診断自体、 時代や施設間でかなりの違 いがありそう?