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July 29, 22
スライド概要
https://www.youtube.com/watch?v=rM2gbFE4Bwcのスライドです。
山形大学人文社会科学部
記憶研究から学ぶ効果的な 学習法 山形大学 小林正法 [email protected] https://mklab.info/
はじめに ✓ 「どの方法を使うとよく覚え られるんだろう?」 ‣ 繰り返し読む ‣ マーカーを引く ‣ 覚えてるかをテストする • 最近はスマホアプリでフラッシュカード を使えますね 2
目次 ✓ 記憶の基礎 ✓ 記憶の促進 ✓ まとめ 3
記憶の基礎 4
記憶とは ✓ 記憶とは ‣ 経験(情報)を「保持」し,その後「再現」する心の働き • 「覚える」過程と「思い出す」過程の2つの過程が含まれている ‣ 保存された情報そのものを指す場合もある • 例. 夏休みの家族旅行の思い出 5
心理学における記憶研究のはじまり ✓ エビングハウス(Ebbinghaus) ‣ 科学的な記憶研究をはじめて行った人物 • 1913年に「Memory: A Contribution to Experimental Psychology」と いう本を出版 ✓ エビングハウスによる実験 ‣ 自身を実験参加者とし,記憶と保持時間の関係を調べた • 無意味綴り13語からなるリストを169リストを覚えた • 無意味綴り(nonsense syllable):意味を持たない文字列(例. PAB) 6
忘却曲線(forgetting curve)① ✓ 忘却曲線 ‣ 保持期間(21分後から31日後まで)が記憶に与える影響を示し たグラフ 100 学習から時間が経つ 75 ほど,節約率が低下 節 約 50 率 25 0 0分 20分 60分 9時間 1日 2日 保持期間 6日 31日 7
忘却曲線(forgetting curve)② ✓ 忘却曲線の縦軸は正答率ではなく節約率 ‣ 各リストの全項目を思い出せるまで学習し,その後,一定の保持 期間を空けて,リストの全項目を思い出せるまで再学習する ‣ この時,最初の学習に要した時間と比べ,2回目の学習に要した 時間がどれだけ節約できたか(saving)という指標 ‣ 1回目のリストを覚えているほど,リストを再び学習する時間を節 約できると仮定していた 8
情報処理アプローチ ✓ 情報処理アプローチ (information-processing approach) ‣ ヒトの認知機能のアナロジー(代替)としてコンピュータを採用 するというアプローチ ✓ Craik(1943) ‣ 人間の記憶のモデル(アナロジー)として,コンピュータの記憶 (保存)を用いることを提案 9
記憶システムに必要な機能 ✓ どのような記憶システムにおいても(ヒトでもコン ピュータでも)以下の機能が必要となる 1. 符号化もしくはシステムへの情報入力を行う機能 2. 入力された情報を保存する機能 3. 保存した情報を見つけ検索する機能 ‣ この3段階は別々の機能を担うが相互に作用し合う 10
記憶の3段階 ✓ 記憶の3段階(Melton, 1963) ‣ 符号化(encoding) ‣ 貯蔵(storage)または固定(consolidation) ‣ 検索(retrieval) 覚える 思い出す 11
記憶の3段階 ✓ 符号化とは ‣ 感覚から入力された情報を記憶システムに取り込むこと • 視覚(visual),聴覚(sound),意味(meaning)など ✓ 貯蔵・固定とは ‣ 符号化された情報を記憶痕跡として保存する(貯蔵する)こと ‣ 近年はシナプス固定などの神経科学に基づく記憶痕跡の保存過程として 「固定」と表現されることが多い ✓ 検索とは ‣ 覚えた情報を思い出すこと 12
記憶の促進 13
記憶の促進 ✓ 記憶を促進するということはできる? ‣ つまり,意図的に特定の情報をより覚えることはできるのか? ✓ 例えば,代表的な暗記方法はどちらが有効? 1. 「覚える」を繰り返す • 「英単語帳を読んで覚える」を何回か行う 2. 「覚える→テスト」を繰り返す • 「英単語帳を1回読んで覚えて,赤シートで隠してテスト」を何回か行う 14
テスト効果(testing e ect) ✓ 学習に有効な方法の1つ ‣ 学習(覚えること)よりも, テスト(思い出すこと)が記憶成績の向上に有効 ‣ 実験室実験だけでなく,実際の授業においても効果的だと示され ている ff 15
実験室実験でのテスト効果① ✓ Roediger & Karpicke(2006)の実験 ‣ TOFELから長文問題 • ”太陽”に関する文章について30問 ‣ 実験参加者を2つのグループに分け,異なる学習法を行った • グループ1:学習→再学習 • グループ2:学習→テスト 16
実験室実験でのテスト効果② 1回目 2回目 最終テスト 学習 学習 テスト 学習 テスト テスト 17
実験室実験でのテスト効果③ 学習→学習 学習→テスト 5分後を除き, 最終テストの正答率(%) 100 テストを行った 方が記憶成績が 75 高い 50 25 0 5分後 2日後 7日後 最終テストまでの遅延時間 18
実験室実験でのテスト効果④ 1回目 2回目 3回目 4回目 最終テスト 学習 学習 学習 学習 テスト 学習 学習 学習 テスト テスト テスト テスト テスト テスト 学習 19
実験室実験でのテスト効果⑤ 学習 4 学習 3→テスト 学習→テスト 3 最終テストの正答率(%) 100 7日後はテスト を繰り返す方が 75 記憶成績が高い 50 25 0 5分後 7日後 最終テストまでの遅延時間 20
主観的な評価 ✓ 各学習法ごとに実施直後に,「どれくらい1週間後に 思い出せる」と思うかを評価してもらった 思い出せる程度 よく思い出せる気がする 7 6 5 4 学習 4 学習 3→テスト 学習→テスト 3 実際は有効な 学習方法が, 効果がないと 感じられる 3 2 1 まったく思い出せない気がする 21
授業でのテスト効果① ✓ McDanial et al. (2012)の実験 ‣ 実際の大学のオンライン授業でテスト効果を調べた 1回目 2回目 最終テスト 学習 学習 選択テスト 学習 選択テスト 選択テスト 学習 短答テスト 選択テスト 22
授業でのテスト効果② ✓ 数週間後の最終テスト結果 オンライン授業 最終テスト正答率(%) 60 でもテストが有 効だった 40 20 0 学習→学習 学習→選択テスト 学習→短答テスト 23
描画による記憶の促進 ✓ 絵を描くこと(描画)も記憶を促進する ‣ 視覚的呈示,書き写し,視覚的想像などの様々な方略と比較しても描画が 最も有効な学習方略 (Fernandes et al., 2018;Wammes et al., 2016) ✓ 実際の実験例(小林,2021) ‣ 単語を呈示し,以下のいずれかの条件を行ってもらう • 描画条件:単語の絵を描く • 筆記条件:単語を書き取る • 想像条件:単語の視覚的イメージを想像 ‣ その後,単語を思い出してもらう記憶テストを実施 24
描画条件 絵を描く + 山 先ほどの単語の絵を描いてください (40秒経つと次に移ります) 25
筆記条件 書き写す + 山 先ほどの単語を書き写してください (40秒経つと次に移ります) 山山 山山 山山 26
想像条件 想像する + 山 先ほどの単語を書き写してください (40秒経つと次に移ります) 27
回答例(実際の回答から抜粋) 描画条件 筆記条件 *想像条件は視覚的イメージを生成するため,回答なし 28
記憶テスト成績 描画条件の 正答率 Correct Recall (%) 0.8 記憶成績が 最も高い 0.6 0.4 ● ● 0.2 ● N = 24 0.0 drawing 描画 image 想像 writing 筆記 Learning Strategy Small dots = individual means; Large dots = group means Error bars = +1 SE; Violin plots = distributions 29
描画は記憶を促進 ✓ なぜ描画が記憶を促進するのか? ‣ 描画には以下の記憶の促進に働く要素の3つ(運動,精緻化,視 覚)のすべてが含まれるため(Fernandes et al., 2018) ✓ 単語以外の抽象的な知識の学習にも描画は有効 ‣ 例えば,植物の受粉に関する知識なども有効 運動 精緻化 描画 筆記 想像 観察 視覚 30
まとめ 31
まとめ ✓ 記憶の基礎 ‣ ヒトの記憶過程の3段階 • 符号化(encoding) • 貯蔵(storage)または固定(consolidation) • 検索(retrieval) 覚える 思い出す 32
まとめ② ✓ よく覚えるためには多少の困難・苦労が重要 ‣ 「読んで覚える」よりも「テスト」や「絵に描く」のは手間がか かり,少し大変だが,記憶の促進には有効な方略 ‣ 筋トレと同じように負荷がかかる方が記憶の定着率が高い 33