新たな心血管系疾患の危険因子としてのマイクロ・ナノプラスチック

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March 08, 25

スライド概要

STROKE2025,日本脳卒中学会等3学会合同シンポジウム「脳卒中医学・医療の近未来を予見する」において使用したスライドです.マイクロ・ナノプラスチックの基礎知識,認知症や心血管障害との関連,病態,今後の課題について解説しました.

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岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授

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各ページのテキスト
1.

3学会合同シンポジウム.脳卒中医学・医療の近未来を予見する 新たな心血管系疾患の危険因子としての マイクロ・ナノプラスチック 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野

2.

日本脳卒中学会 COI 開示 筆頭発表者:下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野・教授 筆頭演者は日本脳卒中学会へ過去3年間のCOI自己申告を完了しています. 本演題の発表に際して開示すべきCOIはありません.

3.

本発表の目的 • マイクロ・ナノプラスチック(micro- and nanoplastics;MNPs)は, 環境汚染のみならず,人体への直接的な健康リスクをもたらす 新たな危険因子として注目されている. • MNPsの基礎知識と,脳卒中への影響について判明していることを 提示し,問題提起を行いたい.

4.

MNPs総論 脳卒中や 心血管疾患 との関連 病態機序

5.

マイクロプラスチックは2004年に初めて概念化され, 5 mm以下のプラスチック片として定義された サイズ マイクロプラスチック ナノプラスチック 5 mm以下(1 m以上) 1 m未満 プラスチックポリマー+添加された化学物質 特徴 吸収 製造時点で5mm以下に加工されたものと, 摩耗や分解によって生成されたものがある. 吸収される. 体内動態 通常は消化管内にとどまる 毒性 消化管を物理的に詰まらせたり,吸着した有害 物質を体内に移行させる可能性 より吸収されやすい. さまざまな臓器に蓄積しうる サイズが小さく,細胞膜を通過し,より深刻な 細胞レベルの影響を及ぼす可能性

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電子顕微鏡で観察が可能な マイクロプラスチック 化粧品のマイクロビーズ 自動車タイヤからの粒子 Science. 2024 Oct 25;386(6720):eadl2746. 布地からの繊維

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ペットボトルの水から7種類のナノプラスチックが 検出される(1Lに24万個:2.4X105含まれ,90%がナノプラスチック) Proc Natl Acad Sci U S A. 2024 Jan; 121(3):e2300582121.

8.

熱湯を使用するティーバッグは ナノプラスチックの放出量が非常に多い Chemosphere. 2024 Nov;368:143736. S1. ナイロン(NY6) 8.18 × 10⁶個/mL (138.4 nm) S2. ポリプロピレン(PP)製 1.20 × 10⁹個/mL (136.7 nm) S3. セルロース(CL)製 1.35 × 10⁸個/mL (244.7 nm) ムチン産生腸細胞(HT29MTX)での吸収が多い

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プラスチックには16000種類以上の化学物質が含まれうる とくに3つの有害化学物質は注意すべき Proc Natl Acad Sci U S A. 2024 Dec 24;121(52):e2412714121. 化学物質 用途 毒性・健康影響 心血管系: 虚血性心疾患(IHD),高血圧,脳卒中 食品容器,飲料容器, ビスフェノールA 代謝系: 糖尿病,肥満 乳児用ボトル 内分泌系: 多嚢胞性卵巣症候群 フタル酸ジ(2-エ 工業用食品包装材, 内分泌系: 男性生殖器の先天異常,血清テストステロンの低下 チルヘキシル) 家庭用品,電子機器, 循環器系: 高血圧,心疾患 (DEHP) 化粧品 全身的影響: 全死亡率の増加 臭素系難燃剤 (PBDEs) 神経毒性: 母体曝露による胎児のIQ低下,神経発達障害 電子機器,合成繊維, 内分泌系: 甲状腺機能低下症 家具,カーペット その他: 不妊症,喘息,糖尿病のリスク増加

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さまざまな経路で, 多くの臓器に取り込まれる • 吸収経路として,吸入,経口摂取,経皮 吸収がある. • ヒトの体内(血液,肝,腎,大腸,胎盤, 乳汁など)でも検出され,潜在的な健康 リスクが浮上している. • この論文では脳の記載はなかった. Science. 2024 Oct 25;386(6720):eadl2746.

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苛性ソーダ(NaOH)で溶解した脳組織から 約10gのプラスチック粒子が抽出された(クレヨン1本分の重さ) Nat Med. https://doi.org/10.1038/s41591-024-03453-1 03 February 2025

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ナノプラスチックは血液脳関門を通過する ★血液脳関門 Nature. 2025; 638: 311-313

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欧州と比較して日本では対策が遅れている. 項目 欧州 日本 プラスチック削減が法的に整備. 規制の厳しさ (化粧品中のMPsの使用が禁止) 直接規制は準備中. (仏:洗濯機のフィルター義務化) 調査研究 啓発活動 食品や飲料水の汚染調査が活発. 海洋環境への影響研究が中心. 人体への影響も調査. 人体への影響調査は遅れている. 市民の意識が高い. 啓発活動は限定的. 教育プログラムや啓発活度も盛ん. 企業や自治体が中心.

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小括1 • ナノプラスチックは体内に吸収されやすく,血液脳関門を通過して,脳に 高濃度に蓄積し,認知症に関連する可能性がある • プラスチックに含まれる有害化学物質の悪影響にも着目すべきである. • 欧州と比較して日本では対策が遅れている.

15.

MNPs総論 脳卒中や 心血管疾患 との関連 病態機序

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頸動脈プラークの58%から MNPsが検出された! N Engl J Med. 2024 Mar 7;390(10):900-910. • イタリア2施設からの前方視的研究. • 頸動脈内膜切除術を受けた150/257人(58%)の切除プラークからポリエチレンを検出. 31/257人(12.1%)でポリ塩化ビニルを検出. 透過型電子顕微鏡 頸動脈プラークのマクロファージ 内外のプラスチック粒子

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頸動脈プラークにおけるMNPsの存在は 心血管イベントを増加させた!! プラークにMNPsが検出された患者では, 34ヵ月の追跡期間において一次エンド ポイントイベント(心筋梗塞,脳卒中, または何らかの原因による死亡)の複合 リスクが高かった(ハザード比4.53; P<0.001). N Engl J Med. 2024 Mar 7;390(10):900-910.

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MNPsがプラーク中の炎症反応を 著しく増加させたことが原因? N Engl J Med. 2024 Mar 7;390(10):900-910. MNPs陽性プラーク:IL-18,IL1-β,TNF-α,IL-6,CD3,CD68が高い. T cell, macrophage

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MNPsはさまざまな血栓に存在し, D-ダイマー高値をきたす. • 中国からの報告で,患者30人の脳動脈, 冠動脈,下肢深部静脈の血栓を検討した. • 虚血性脳卒中,心筋梗塞,深部静脈血栓症 患者から得た血栓の80%(24/30)でMNPsを 検出し,濃度は61.8,141.8,69.6μg/g(中央 値)であった. • MNPs検出群のD-ダイマーは高値 (8.3±1.5μg/L vs 6.6±0.5μg/L,p<0.001). eBioMedicine. 2024 May;103:105118. 血栓中に認められたMNPs.形状は不均一であった.

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MNPs濃度は血栓のサイズには影響しないが, NIHSSスコアは高値になる! eBioMedicine. 2024 May;103:105118. • 虚血性脳卒中に限定すると,MNPs濃度と血栓の 大きさに関連はなし. • 濃度が高い患者ではNIHSSスコアは有意に高値 であった(22.0±7.5 vs 12.6±3.5,p<0.05). • NIHSSスコアと血栓中濃度との間に正の相関を 認めた(調整β=7.72,p<0.05). • 後方循環の濃度は前方循環より高い傾向だった (131.1μg/g対60.68μg/g). 高濃度で重症化 後方循環で濃度高い傾向

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小括2 • 全身のさまざまな血栓からMNPsが検出されている. • 頸動脈プラークにおけるMNPsの検出は,心筋梗塞や脳卒中の危険因子である. • 虚血性脳卒中においてMNPs濃度高値は重症化の予測因子である可能性がある.

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MNPs総論 脳卒中や 心血管疾患 との関連 病態機序

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MNPsの予測される心血管系への影響 • 10 µm以下のMNPsは毛細血管を透過し, 血管系や心筋細胞を傷害する. • 病態として酸化ストレス,炎症,アポトー シス,ピロトーシスが関与する. • 血管系では溶血,血栓形成,血管内皮 障害等が,心臓では心拍異常,心機能 低下,心筋線維化等が生じる. • 結果として不整脈,動脈硬化,心筋梗塞, 脳卒中が生じる. Environ Int. 2023 Jan;171:107662.

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血管系においてMNPsは多彩な作用をする Life (Basel). 2024 Feb 16;14(2):255. MNPsによる血管透過性亢進 マクロファージの貪食 サイトカイン・ケモカインの 分泌→血管炎症 酸化ストレス→アポトーシ スやピロトーシス(細胞死) 血栓形成

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ポリスチレンNPsがブタ大動脈内皮細胞に濃度依存性に共局在し, VEGF発現と酸化ストレスをもたらす Environ Toxicol Pharmacol. 2023 Nov;104:104294. NPs濃度 (g/ml) Merge 大動脈内皮細胞 ポリスチレンNPs 5 50 m 25 75

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MNPsによる心血管イベントの マウスモデルの開発と病態 • マウス尾静脈からポリスチレン(PS), アミノ基修飾PS,カルボキシル基修飾PS の3種類のナノプラスチックを投与し, 心血管系に与える影響を調べた. • 血管内皮細胞の損傷と炎症反応が生じ た. • この結果,JAK1/STAT3/TFシグナル経路 が活性化し,さらに凝固能亢進・前血栓 状態が生じた. Sci Total Environ. 2023 Mar 20;865:161271.

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今後の課題 Front Toxicol. 2024 Oct 10;6:1479292を改訂 今後明らかにすべきこと • MNPの検出技術やヒトの暴露評価の標準化. • MNPsの曝露を避けることが心血管イベントのリスクを減らすか? • MNPsをプラークに有する患者における脳卒中リスクを減らす治療はあるのか? 治療の可能性 MNPsの除去,抗炎症,抗酸化,抗血栓 血管内皮保護,細胞膜の保護・修復,ミトコンドリア機能の改善

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個人と社会で行うべき対策 個人が行うこと • ペットボトル飲料やプラスチック製のティーバッグなどの消費を減らすこと • 合成繊維製品の使用を控えること • 電子レンジでプラスチック容器を加熱しないこと 社会が行うこと • 食品・飲料のプラスチック包装を減らすこと • MNPsの生産量を削減すること • 人体への影響の調査や治療開発を行うこと

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小括3 • MNPsによる心血管障害の病態機序を解明するためのin vitroモデル,動物モデルが 開発されている. • 酸化ストレス,炎症,血管内皮損傷,細胞死,ミトコンドリア機能障害,凝固能亢進 などが病態として関与する可能性が示唆されている. • 個人,医療,社会のレベルで,MNPsによる健康被害の対策に取り組む必要がある. ご清聴,どうもありがとうございました!