述懐

431 Views

October 03, 23

スライド概要

第26回リベラルアーツ研究会で使用したスライドです.

profile-image

岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

第26回 医学生のための リベラルアーツ研究会 「好きな詩」をひとつ選んで 朗読して紹介してみよう 岐阜大学 脳神経内科学分野 下畑 享良

2.

参考図書

3.

あとはもう,キャンプインを待つばかりです. 私は「人生意気に感ず,功名誰かまた 論ぜん」と,静かに呟きました.古代中国の 政治家・魏徴の「述懐」という詩の一節で, 人間は相手の志や思いの深さに心を動か されて仕事をするのであり,功名とか名誉 とか金銭欲などの私欲は関係ない.自分 のすべてを賭けて戦うのだと,自分に言い 聞かせました.

4.

私が選んだ詩の背景:貞観政要 • 中国・アジアで有名なリーダーのための書籍 • 中国唐代に呉兢(ごきょう)が編纂したとされる 太宗(たいそう)の言行録 • 太宗と臣下の問答集 • 「貞観」は太宗の在位の年号 「政要」は「政治の要諦」のこと

5.

太宗(598-649) • 中国史上最高の君主とも言われる唐の二代皇帝. • 太宗は混乱した隋帝国を打倒するために父親と 挙兵し,618年に唐を建国した. • 626年に対立していた兄弟を殺害し帝位につく. • 武勇に優れていただけでなく,帝国を統治し, 長く優良な時代を築き上げることができた.

6.

魏徴(580-643) • 初唐の政治家・学者 • 太宗(次男)の兄の臣下だったが,太宗が兄を殺め 実権を取った時,太宗は魏徴を見込んで皇帝に忠告 し意見を述べる諫官(かんかん)に任じた • 節を曲げぬ直言で知られ,太宗を幾度となく諫めた • トップが謙虚に部下の意見に耳を傾け,自分の襟を 正し続ける大切さ

7.

創業は易く守成は難し(創業守成) • 帝王の事業のなかで「創業と守成といずれが困難で あろうか?」と太宗は臣下に問うた. • 戦乱の世の中を戦いで乗り越えた臣下たちは 「創業」こそが難しいと言ったが,新たに臣下となった 魏徴は「手に入れた平和を維持することのほうが 難しい」と指摘した. • 過去にこだわらず,自分の役割を切り替える大切さを 示す.

8.

述懐 魏 徴 隋の末期,唐が興るときに命を受け,筆(学問)を投げて戦線に向かう 魏徴が決意を述べたもの(626年).人生は意気に感じて立つもので, 功名など論ずべきものでない. 『唐詩選』第一/五言古詩の巻頭に置かれ,漢詩の最盛である唐詩 の幕開けを告げる名作で,草創期の人々を鼓舞してきた詩句.

9.

中原還逐鹿 投筆事戎軒 縦横計不就 慷慨志猶存 杖策謁天子 駆馬出関門 請纓繫南粤 憑軾下東藩 鬱紆陟高岫 出没望平原 中原,還(ま)た鹿を逐(お)い 筆を投じて戎軒(じゅうけん)を事(こと)とす 縦横(じゅうおう)の計 就(な)らざれども 慷慨(こうがい)の志 猶(な)お存(そん)す 策に杖(つ)いて天子に謁(えつ)し 馬を駆って関門を出ず 纓(えい)を請うて南粤(なんえつ)を繋ぎ 軾(しょく)に憑(よ)って東藩を下さん 鬱紆(うつう)高岫(こうしゅう)に陟(のぼ)り 出没 平原を望む 〈中原〉は黄河の中流域 (ここでは天下の意味). 〈逐鹿〉は天下を争うこと. 〈戎軒〉は兵車,ここでは 戦争の意。 〈縦横計〉は合従連衡策. 〈慷慨〉不正などを怒り嘆 くこと 〈繫南粤〉は国の名. 〈軾〉は車の横木. 〈東藩〉は東方の国. 〈鬱紆〉は曲がりくねって いること.

10.

古木鳴寒鳥 空山啼夜猿 既傷千里目 還驚九逝魂 豈不憚艱険 深懐国士恩 季布無二諾 侯嬴重一言 人生感意気 功名誰復論 古木に寒鳥鳴き 空山に夜猿 啼(な)く 〈九逝魂〉は故郷に幾度も 思いを馳せること. 既に千里の目を傷(いた)ましめ 還(ま)た九逝(きゅうせつ)の魂を驚かす 豈(あ)に艱険(かんけん)を憚(はばか)らざらんや 深く国士(こくし)の恩を懐(おも)う 季布に二諾無く 候嬴(こうえい)は一言を重んず 人生意気に感ず 功名 誰(たれ)か復(ま)た論ぜん 〈季布〉 「季布の一諾千金 にあたる」というくらい,一度 引き受けたら必ず実行したと いう人. 〈侯嬴〉秘密を漏らさないよ うにとの言葉に,自らの命を 絶った人. 人は自分を理解してくれる者に対して,感動・感激して生命をもなげうつものであって 手柄をたて,名をあげるということは,一体誰が問題としようか,問題としない

11.

口語訳 • またもや中原に鹿を追う戦乱の世となり、私は文筆を捨て軍隊に身を投じた。弁舌をもって天下を統一する計はなら なかったものの、その志は今もなお胸の中にたぎっている。 • 馬の鞭を杖がわりにして天子に謁見し、命を受けて、今、馬を駆って関(函谷関)を出るところだ。 天子から賜った 冠の紐で南粤(なんえつ)王を縛り上げた終軍のように、あるいは車の横木に持たれたまま弁舌ひとつで東方の国 を征服した酈食其(れきいき)のように、勲功を立てる覚悟である。 • 曲がりくねった道をたどって高い峰へと登っていけば、はるかに平原が見え隠れしている。古木には冬の鳥が寂しげ に鳴き、人気のない夜の山には猿が悲しげに啼いている。 • 千里の彼方を見る目も傷み、魂は幾度も遠い故郷へと飛んでいく。私とて厳しい道を厭わぬわけではないが、国士 として遇してくださる天子の御恩を深く思う。 • 昔、季布(きふ)という侠客は、一度引き受けたことは必ず実行し、候嬴(こうえい)という人物もたったひと言の約束 に自分の命をかけた。男たるもの、意気に感じて事を成すのだ。一身の巧妙など誰が気にかけようか。 引用元 https://bonjin-ultra.com/jutukai.html

12.

次回課題図書 • 「磨く」シリーズ第4段 知性を磨く,人間を磨く,運気を磨く • 真の教養とは,本来,多くの本を読み,様々な 知識を学ぶことではなく,そうした読書と知識 を通じて,「人間としての生き方」を学び,実 践することである. • 「知能」とは「答えのある問い」に対して,い ち早く,正解にたどり着く能力のこと.「知 性」とはその全く逆の能力,「答えのない問 い」を問い続ける能力のこと.