>100 Views
March 04, 26
スライド概要
第36回リベラルアーツ研究会で使用したスライドです.
岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授
第36回 医学生のための リベラルアーツ研究会 ヒューマニズムの精神に基づいて 自分の頭で考えることの大切さを 学ぼう! 岐阜大学 脳神経内科学分野 下畑 享良
大学1年生の私が 大きな影響を受けた本 • 両親に勧められ読み,「人間分子の関係,網目の法則」がとても印象に残った. • 家庭教師のバイト帰り,高台から夜の街を見下ろしたとき,無数の明かりの一つ ひとつにそれぞれの人生があることに思い至り,深い感慨を覚えた.
吉野源三郎(1899–1981) • 幼少期に父を亡くし,母のもとで育つ. • 東京帝国大学文学部哲学科にて, 西洋哲学を学ぶ. • 1931年に治安維持法事件で逮捕. • 1935年,山本有三の「日本少国民文庫」 編集主任に就任.岩波書店に入社. • 1939年,明治大学教授に就任.戦時中 も一貫してヒューマニズム論を展開. • 1946年,雑誌『世界』初代編集長.
本書の目的は「考えさせる」こと • 1937年(昭和12年)刊行. • 吉野が関わっていた「日本少国民文庫」という シリーズの最終巻として企画された.子どもや 若者に対し「教え込む」のではなく「考えさせる」と いう先進的な教育観に基づいたシリーズ. • 当初,山本有三(真実一路,路傍の石で知られる) が執筆予定であったが,眼底出血を来したため 代筆が回ってきた. • このため吉野は,哲学や倫理をそのまま説くので はなく,読者自身が考える余地を残す形をとった. 昭和31年発刊新潮社版
新潮版は岩波版より写真が豊富で イラストも異なる 昭和31年発刊新潮社版
本書は日中戦争開戦の年に執筆された • 日中戦争(1937–1945)が 始まった年であり,日本は 急速に戦時体制へと 向かっていた. • 731部隊の本格的活動期. • 日中戦争;日本が満州国の 建設(1932年)以降,中国 大陸への関与を深めるなか で中国との戦争に本格的に 入り込み,やがて太平洋 戦争(1941年)へと拡大して いく契機となった長期戦争. https://gakuen.gifunet.ed.jp/~contents/kou_chirekikouminn/ sekaishichizu/sww/02_nichyu.html
厳しい時代背景のなかで執筆された • 言論統制の強化,国家主義・軍国主義の高まりといった個人より 「国家」や「集団」が優先される価値観が主流であった. • このような状況下で「自分の頭で考えること」「人間としての良心」 「他者への共感」を語ることは,決して容易ではなかった. • 本書は子ども向けという形式をとりながら,実は時代への静かな 抵抗を含んだ作品とも評価されている. https://www.try-it.jp/chapters-13729/lessons-13866/
吉野の目指したもの • 自分の少年時代の体験とこれまで積み 上げてきた思想を踏まえた1つの物語と して工夫したい. • 教育文化の軍国主義化が進む中,ナポ レオン的武勇が称賛され,人間らしさや 人類の進歩という視点が子どもたちに は欠けている.感受性が柔軟で価値感 情が汚れていないうちに,多様な価値 意識の必要・人間の素晴らしさ・人間ら しい価値を伝えたい,と考えた.
「叔父さん」の6つの手紙から 本書を読み解く
①自分を中心に見る人間から脱する • コペルニクスの「天動説→地動説」の大きな 見方の転換は,実は人生や世の中でも生じ うる. • 自分中心の考え方が抜けきった人は稀で, 多くの人はとくに損得を考えてしまう. • しかし自分中心の考え方をしていると世の 中の本当のことが分からなくなってしまう. → 自分中心の生き方から離れられるか (利己vs利他) Nicolaus Copernicus (1473-1543)
②自分で考えられる「立派な人」になる • 世の中には立派に見えるように振る舞っている人も多い.しかし 世間の眼が大切なのではない. • 人間として立派な人になるには,自分で見つける必要がある. つまり自分で経験すること,自分で考えることが大切.偉い人の 言葉も,本を読んだだけでは分からない. • 常に自分の体験から出発して,正直に考えてほしい • そして自分自身が心から感じたこと,じみじみと心を動かされた ことを大切にしてほしい. → 世の中の空気に迎合することなく,自分で考え行動する!
③巨人の肩の上に乗り,人と繋がる • 「網目の法則」は世界中が1つの網目となり,人々が繋がること. • お互いに好意を尽くし,それを喜びとすること.人間らしい関係を 作っていくことが大切である. • 「人間分子の関係」は学問的にはすでに「生産関係」として知られ ていること.まずこれらの先達の知の経験から学ぶ必要がある. そして学問の頂点に登りきってしまう必要がある. • そのあと人類が解くことができない問題に骨を折らねばうそだ. →みんなも「巨人の肩」に乗り,そしてまだ治せない病気に挑戦を!
ニュートンの言葉は,先人たちの 知識や業績の上に立つことで, 自分自身の理解を深め,新たな 発見や発想が可能になるという 科学の本質を示している. 現代では,Google Scholarなどを 通じて過去の研究に触れることが でき,それ自体が「巨人の肩の上 に立つ」行為であると解釈される.
④有り難さを理解し,世の中の役に 立つ人間に成長する • すべての人が人間らしく生きていけるだけの豊かな世の中に 行き着いていないという現実がある. • このような世の中でも,勉強し,才能を伸ばしていける有り難さを 理解する. • そして才能を伸ばし,世の中のために本当に役に立つ人間(生み 出す人,つくりだす人)に育ってほしい. • 貧困であっても高潔な心,立派な見識をもては尊敬に値する人 になる,人間としての値打ちに目を向ける大切さがある.
⑤偉大な人間とは 成し遂げたことで決まる • 非凡な能力を持った人間でも悪事をなす人もいる. • 大切なことは何を成し遂げたかである. • 英雄とか偉人とか言われる人の中で,尊敬ができるのは,人類 の進歩に役立った人だけである. • 戦争の中でいろいろな人間性が問われる.敵国であっても良いと ころを認め,尊敬の念を持つ人,逆に捕虜を虐待するような軍人 や医師,悪いことと分かっていても声を上げない善良な人.
⑥過ちに苦悩する人間は そこから立ち直ることもできる • 悲しさや苦しさといった苦痛から,人間は本来どうあるべきかを 学ぶことができる. • 人間は本来,憎しみあったり,敵対しあったりすべきではない. つまり,人間だけがそれらを苦痛として感じる. • 一番つらいことは自分が取り返しのつかない過ちを犯してしまっ たという意識である. • しかし過ちを認め苦しむことは人間らしい立派さであり,人間は そこから立ち直ることもできる.
補足;歴史が教える「自国が弱くなると 異なる民族や文化を否定するようになる」 • 第一次世界大戦後のナチスドイツや,MAGAを唱えるアメリカ, 日本でも同様のことが起きつつある, • 歴史から学び,自分なりの仮説を立てて考えることが大切である. • T型人間になってほいい.幅広い見識を持った人は,自分の専門 領域を掘り下げることができる.
叔父さんのことばのまとめ 自分中心から脱する 自分の体験から正直に考える どう生きるかを考える 自分で感じたことを大切に知る AIは自分で考えない ためのツール(たより すぎない) 世の中の空気に流さ れない 人間の立派さを理解する 先達とのつながりを理解し学ぶ 人間らしい人間関係を築く まだ人類が解けない課題に取り組む 過ちを犯したら認め,苦しみつつ 立ち直り,その後の自分に活かす 世の中,人類の進歩のために役に 立つ人になる (生み出す人,つくり出す人)
次回の課題図書 私が大きく影響を受けた本の3冊目は 『イシューからはじめよ』です. ビジネス書を読んでみます. 「何をどれだけ知っているか」ではなく 「何を問うべきか」を考えることの 重要性を教えてくれる一冊です.