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October 31, 26
スライド概要
第14回日本難病医療ネットワーク学会学術集会の教育講演で使用したスライドです.
岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授
すべての医療者に求められるリーダーシップ ― 基礎から学ぶその理論と実践 ― 岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野 下畑 享良
COI 開示 筆頭発表者:下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野・教授 本発表に関連し,明示すべきCOI関係にある企業などはありません.
講演で知っていただきたいこと 1. リーダーシップは医療者のバーンアウトや患者ケアの質とも関係して おり,すべての医療者に必要な基本的能力である. 2. リーダーシップは生まれつき備わっているものではなく,学んで身に つけるべきものであること. 3. 知っておくべき様々なリーダーシップの型があること.
自己紹介(なぜリーダーシップを学ぶに至ったか?) 1. 8年前に教授を拝命した.岐阜はもっとも神経内科専門医が少ない 地域,かつ小規模医局で,強力なリーダーシップが求められた. 2. 着任後,周囲の医師のバーンアウトに直面した.バーンアウトに対する 研究に取り組み,上司のリーダーシップが重要な要因であることを 理解した.→まずバーンアウトについて少し解説したい.
臨床神経,61:89-102,2021 臨床神経,61:219-227,2021
国内初の医師に対する大規模調査 回答者 1261/8407名*1 回答率 年齢 女性 既婚 子供あり 要介護者あり 15.0% 45歳(IQR 37ー55歳) 28.2%*2 77.7% 66.1% 12.1% *1. メールアドレスの登録されている会員 *2. 全学会員では23.6%で,やや女性が多い
自覚的バーンアウトを用いた解析 • 「なりそう,も含めて経験がある」は,49.7%に認められた. • 30歳代で最多で,20~40歳代で多かった. • バーンアウトの発生回数は,2回以上の経験があるが54.8% に認められた.
バーンアウトの原因は多彩である 1.業務過多 480人 ① 2.時間外労働 369 ① 3.職場の人間関係 240 ② 4.上司の無理解 213 ③ 5.睡眠時間 184 ① 6.患者・家族からのクレーム 168 ④ 7.ハラスメント パワハラ107,アカハラ38 セクハラ12,ジェンダー12 149 ①労働負荷,②職場の人間関係,③上司の影響,④クレーム ③
経験から考えるバーンアウトのタイプと支援 特徴 高負荷型 低レジリエンス型 負荷が大きい. レジリエンスが低い. 通常のレジリエンス力では,消耗 通常の負荷でも消耗してしまう. してしまう. 一部に人格障害や軽症の精神疾患等が 含まれている可能性もある. 対策 業務の量の検討 業務の量と種類の検討 組織改革 精神科へのコンサルト 上司への対応の教育 下畑享良.医学のあゆみ 283 (3) 183-187, 2022.
対策として個人だけでなく,組織全体の変革が必要 Stanford式プロフェッショナルフルフィルメント 組織がウェルネス文化 をもつ 組織が実務の効率化 を図る 例;働き方改革 日々生き生きと充実感を持って より善く生きようとする主体的・ 継続的プロセス 組織における取り組みの 重要性 → リーダーシップ教育 個人がレジリエンスを磨く
小括1 1. バーンアウトの原因は多彩だが,上司の無理解やハラスメントも重要な要因に なっている. 2. バーンアウト対策のうち,組織が取り組むべきものが3分の2を占める. → 上司および組織のリーダーシップの重要性に気づく.
リーダーシップ 総論 リーダーシップ の歴史と理論 目指すべき リーダーシップ
背景: 世界の学会はリーダーシップ教育に取り組んでいる 国際神経学会連合 米国神経学会 https://wfneurology.org/education/galp
米国神経学会の取り組み(2017年~) 医師のQOL向上セミナー Taking care of your patients Starts with taking care of you
学会場でさまざまな趣味講座 (絵画,ヨガ,ワインなど) 趣味はレジリエンス (抵抗力)を高める
そしてリーダーシップ教育 学会期間中を通して行われる 教授/部長,女性,若手・・・さまざまな立場のリーダーシップ
学会がリーダーシップ教育に取り組む理由 1. 次世代リーダーの育成 2. 若手・中堅・女性医師・管理者のキャリア形成 3. 組織の強化 4. 医療政策や社会への影響力の向上
リーダーシップについて考えてみよう! 1. リーダーが組織の風土に与える影響はどの程度(%)だろうか? 回答 2. メンバーにとって良い組織風土とはどのようなものか? 回答
リーダーが持つべき特徴は? 4つ選んでください. 1.応援する 2.公正な心を持った 9.知的 10.忠誠な 3.心が広い 4.正直な 5.成熟している 11.独立心のある 12.前向きの 13.野心的 6.想像力のある 7.大切に思ってくれる 8.頼もしい 14.勇気がある 15.有能な 16.わくわくさせてくれる
リーダーシップについて考えてみよう! 1. リーダーが組織の風土に与える影響はどの程度(%)だろうか? 回答 70% 2. メンバーにとって良い組織風土とはどのようなものか? 回答 自分の意見を言える 自分の仕事に誇りを持てる 自身の成長を実感できる
リーダーが持つべき特徴は? 4つ選んでください. 1.応援する 2.公正な心を持った 9.知的 10.忠誠な 3.心が広い 4.正直な 5.成熟している 11.独立心のある 12.前向きの 13.野心的 6.想像力のある 7.大切に思ってくれる 8.頼もしい 14.勇気がある 15.有能な 16.わくわくさせてくれる
「リーダーシップ」は誤解されている • リーダーはもともと備わった才能が求められる • リーダーは地位である • リーダーは偉く,価値が高い あくまでもリーダーは役割にすぎない. 研修医でもリーダーとしての行動が求められる場面がある. 身につけるべき「型」があり,それを参考にして行動する.
つまりリーダーシップは学問として学ぶことができる! その証拠にたくさんのリーダーシップ本が発刊されている
リーダーシップとはなにか? 組織 リーダーシップは どこに向かう?
リーダーシップは全方向性,かつ全員に必要 リーダーシップは 全方向性 上に向く リーダーシップ =フォロワーシップ 若くてもリーダーシップ を身につければ 上司を巻き込める
リーダーシップは自分にも向かう セルフ・リーダーシップ (自己理解・自己制御) 周囲に自分の 情報や知識を与え 影響を及ぼす 自律型組織 (組織も進化)
組織の進化(自律型組織への成長) 進化 特徴 組織のタイプ 個人が意思決定できるフラットな組織 生命体 メンバーが主体的・自律的に行動する組織 家族 目標達成を第一に考える合理的な組織 大企業 トップダウンの階層的構造を持つ組織 軍隊 圧倒的な支配者がトップに立つ組織 狼の群れ,狩猟民 族,マフィア 多くの組織はアンバー型~オレンジ型.グリーン型を目指す フレデリック・ラルー著「ティール組織」より作成
リーダーシップとマネジメントの違いを知る Peter Ferdinand Drucker The Practice of Management, 1954 ( A ) is doing things right, whereas ( B ) is doing the right things. Peter Drucker
リーダーシップとマネジメントの違いを知る Peter Ferdinand Drucker The Practice of Management, 1954 Management is doing things right, whereas leadership is doing the right things. Peter Drucker
リーダーとマネジャーの仕事は明確に異なり,相互に補完する リーダー マネジャー 危機→変革 安定→管理 メンバーを鼓舞する メンバーをコントロールする 組織の発展 組織の維持 長期的視野(ビジョン) 短期的視野 どちらがより重要かは状況により変わってくる.
小括2.結局,リーダーシップとは? • ある状況下で,コミュニケーションを通して示される対人的な 影響力 • ビジョンを共有し,メンバーのモチベーションを高め,組織の 目標を達成することができる能力
リーダーシップ 総論 リーダーシップ の歴史と理論 目指すべき リーダーシップ
リーダーシップ理論は進化した ① リーダーには共通する特性がある(特性理論) ② リーダーには取るべき行動がある(行動理論) ③ リーダー像は環境により変わる(条件適合理論) ④ 組織を変革するのがリーダーである ⑤ より高次の倫理観をもつ者がリーダーである
リーダーシップ理論の歴史 ①特性理論 • 傑出した人物からリーダーの適性を考える – 孫子 「将とは,智,信,仁,勇,厳なり」 – マキャベリ 「狐のごとく狡猾で,ライオンのごとく 獰猛であるべし」 • しかし個人の特性だけで,リーダーシップが生まれるわけではない ことに気づく.
リーダーシップ理論の歴史 ②行動理論 • 他人に影響力を与えている人に共通して認める行動パターンにより, リーダーシップを定義しようとする理論. • その行動パターンを習得することで,リーダーシップを身につけ, 強化できる.
③条件適合理論(Situational leadership) • リーダーの行動のすべてが効果を発揮するわけではなく,環境条件 に適合した行動が,効果を発揮する. • つまり,組織ではリーダーの行動は部下の状況で変わる. • 例:DAPSフレーム,PM理論
リーダーの行動スタイルは 部下の状況により変わる(DAPS フレーム) 環境変化 激しい 状況は 安定 部下は成長中 部下は自力で動ける
リーダーの行動スタイルは 部下の状況により変わる(DAPS フレーム) 環境変化 激しい 状況は 安定 指示型 しっかり,具体的な命令 Directive 達成志向型 高い目標,ゴールを示し, 努力を求める Achievement-oriented 参加型 仲間集団,意見を求め,活用 Participative 支援型 部下の状況に気遣い,配慮 Supportive 部下は成長中 部下は自力で動ける
みんなのリーダーシップ能力は? あてはまる◯,やや当てはまる△,当てはまらない✕ 目標達成能力(P) 集団維持機能(M) 新たに始める ひとを励ます 周囲に情報や意見を求める グループを盛り上げる 周囲に情報や意見を提供する 調停する 明確化し,混乱を解きほぐす 譲歩する 情報や意見を集約する コミュニケーションを促進する 意見が一致したか確かめる 進め方のルールなどを 決められる
PM理論;個々のリーダーシップは 目標達成能力(P)と集団維持能力(M)で決まる → 自分の強み,弱みを知り改善を図る
④変革のリーダーシップ(transformative LS) • 時代の急激な変化に対応する必要性から生じた考え方. • つまりリーダーとして変化を受け入れ,変革に挑む. • 例.コロナ対応,医師の働き方改革,医療DX,医療保険財政の持続 可能性・・・
はじめて変革のリーダーシップを学んだ Leadership Universityの講義(米国神経学会 2018) バーンアウト増加に直面した医師に向けた「変革のリーダーシップ」に関する 講義であり,学会でこのような人材育成の講義が行われていることに衝撃を 受けた.
ADKAR モデル(変革のための5つのステップ) Awareness(認識) – 変革が必要な理由を認識してもらう Desire(欲求) – 変革に参加したいという欲求を持ってもらう Knowledge(知識) – どう変革するかという知識を持ってもらう Ability(実践) – 実際に実践してもらう Jeffrey M Hiatt. ADKAR: A Model for Change in Business, Government and Community(2006) Reinforcement(強化) – 変革を定着させるために補強する この順番に行う!
4つのマスのどれを変革するか? 緊急性高い 緊急性低い 1 2 3 4 重要度 高い 重要度 低い
大事を小事の犠牲にしない 重要度 高い 重要度 低い 緊急性高い 緊急性低い 目先の仕事 (小事であることあり) 成長のための方策 長期的な計画等 (本当に大事なもの) やる必要があるか分からない 作業 目先のことばかりに時間配分し,変革のタイミングを逃さないことが大切!
変化に対する抵抗に対するリーダーの対応 ① 変化に対する抵抗は正常な反応であり,抵抗に対しリーダーは 感情的になってはいけない. ② しかし変化の意味を認知させ,適応させるまでの時間を短縮させる 工夫はできる. ③ 変化が必ずしも正解というわけではなく,抵抗のなかに真実がある 場合もある.より良い方向を探る.
⑤EQリーダーシップ Emotional Intelligence Quotient (こころの知能指数) 自己の感情をコントロールし, 他者の感情を元にニーズに奉仕し, 激励・育成・確執管理ができる ダニエル・コールマン著
「怒る」ではなく,「叱る」 • 感情的に「怒る」のは厳に慎む(アンガーコントロール). • 理性的に,相手の感情を理解し,指導的に「叱る」 叱る場合は現行犯で叱る. 人前では叱らない. 人物ではなく行為を叱る.
⑥サーヴァント・リーダーシップ • Servant =使用人,召使い • リーダーは「まず相手に奉仕し,その後,相手を導くもの である」という考え方に基づく. • 部下に対して,奉仕の気持ちを持って接し,どうすれば 組織のメンバーの持つ力を最大化することができるのか を考え,環境づくりをする
サーバントリーダーシップにより発達支援型組織ができる 安定志向型組織 発達支援型組織 • 成果 • 成果と学習 仕事の割り振り • 一番上手にやれる人 • 経験が成長につながると 考えられる人 弱さ(弱点)の捉え 方 • 他人に知られてはならない • 成長のための気付き もの • 周囲の支援のきっかけ 重視点 ロバート・キーガン著.「なぜ弱さを見せる組織が強いのか」
サーヴァント・リーダーの心得 • 自ら語るのではなく,質問せよ • マイクロマネジメント(過保護)をしない • 適切な仕事を任せる (今の知識とスキルでできる領域とできない領域の境界) • 小さな決定権を与え,小さな失敗をさせる • 手柄は部下のもの,責任は自分のもの
エンパワーメント(empowerment) • 現場の自主性を高め,パフォーマンス向上につなげるために権限を 与え,力をつけさせること.これはボトムアップの実現につながる. • チームのタスクを完遂しつつ,部下を育成をする. • 従来型の権限委譲とは異なり,部下の意欲を最大化することが目的 である.
連合艦隊司令長官 山本五十六によるエンパワーメント やってみせ,言って聞かせて,させてみせ,ほめて やらねば,人は動かじ 話し合い,耳を傾け,承認し,任せてやらねば, 人は育たず やっている,姿を感謝で見守って信頼せねば, 人は実らず (→心理的安全性,チャレンジを評価) 山本五十六(1884-1943)
エンパワーメントの5つのステップ 仕事を与えたあと 目標目的の 共有 部下の 能力,意欲 の把握 適切な仕事 の提供 コーチング* 動機づけ 環境の 整備・支援 What型:何をやるか?から考えてくれ How型:これをやろう.やり方は考えてくれ *対話を通じて相手の気づきや主体性を 引き出し,目標達成や行動変容を支援 するコミュニケーション技術
エンパワーメントはやりかたが大切(EQが必要) • 「何かあったら言ってね」では不十分に終わる. • 差し出がましい口出し(micro-management)は,やる気の 喪失や依存心の助長につながる. • 予告なく「どうなった?」と聞くと監視と感じる. 部下への声かけの時期を予め合意しておく. いつでも相談できる関係を構築する.
⑦オーセンティック・リーダーシップ Authentic=「本物の」 • 指導者として人のまねではなく,自分自身の価値観や信念に正直に,自分らしく, 誠実さや倫理観に重きを置いて人を導く. • 誠実でオープンなコミュニケーションにより信頼関係を築く. • リーダーである自分も不完全で向上を図っている姿を見せて良い. • これらは組織内の心理的安全性(組織の中で自分の意見・感情・疑問・失敗を 安心して表現できる状態)を向上させ,イノベーションにつながる.
Authentic とはどういう状態か? 1. 本当の自己(感情,考え)を知る 2. 本当の自己を積極的に,包み隠さず表現できる 3. 自分の人生の創造者として「自分の人生のリーダー」になる →自分の弱さを認めると,その弱さが強さに変容する!
小括3.リーダーシップ理論とは? • 歴史や社会の変遷とともにリーダーシップのあり方はさまざまに 変化し,発展してきた. • 先人が経験して身につけたさまざまなリーダーシップを, 現代の我々は本などで学んで実践することができる.
リーダーシップ 総論 リーダーシップ の歴史と理論 目指すべき リーダーシップ 多くのリーダーシップがあるが, 結局,どうしたら良いのか? 私が影響を受けた5冊を紹介.
1.複数のリーダーシップを身に着ける 複数のリーダーシップを身につけ,適切なときに 適切なリーダーシップを使い分ければよい! スティーヴン・マーフィ重松.著
最高のリーダー(Assertive leader)を目指し 4つのリーダーシップを身につける
2.型を探すのではなく,相手と状況を読み, 文脈に合わせて自分の振る舞いを変える リーダーシップは,「何をしたか」で決まるのではなく, その行為が相手にどのような意味として受け取られる かによって成立する. 例;仕事を部下に依頼する
「任せる」対「丸投げ」の違いはなぜ生じる? 「明確で適切な指示をする上司」と「マイクロマネジメントする上司」の違いは?
「任せる」対「丸投げ」の違いはなぜ生じる? 共有できている 意義が不明 メンバーが自律的に判断できるように,組織の目的,価値観, 優先順位を共有すること(=文脈を大切にする)
3.優れたリーダーは「成長の場」をつくる • リーダーの最大の仕事は「メンバーの成長への 意欲が高まる場を創る」ことである. • その「場」をつくる最も強力な方法は,リーダー自身 が成長することである.自身も発展途上の人間とし て,成長を求め続けることだ.
4.世の中に貢献するという正しい理念をもつ 社会の問題を解決し,人々に貢献する 企業の存在意義は社会への貢献
結論 1. リーダーシップとは,高い志に基づき魅力ある目標を設定し,そのための環境を 構築し,周囲の意欲を高め成長させながら,課題や障害を解決する行動といえる. 2. 状況や年齢,自身のキャリアに応じたリーダーシップを発揮できるよう,教科書や 経験者からリーダーシップについて学びましょう! ご清聴ありがとうございました.