MSA 10年の進歩

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November 30, 23

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第11回難病医療ネットワーク学会学術集会にて使用したスライドです.

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岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

多系統萎縮症の臨床 ー10年間の進歩を含めてー 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野 本講演に関するCOIはございません.

2.

本学会のあゆみ 2004年 日本難病医療ネットワーク研究会発足 (吉良潤一先生) 2013年 研究会の発展的解消 日本難病医療ネットワーク学会設立 第1回学術集会@大阪(望月秀樹先生) 2023年 第11回学術集会学会:社団法人化

3.

第1回難病医療ネットワーク学会学術集会(2013年11月8日~9日)

4.

第1回難病医療ネットワーク学会学術集会(2013年11月8日~9日) 教育講演 ★最後に今後の課題で締めている → 10年間の宿題報告

5.

多系統萎縮症の概念・病型 MSA-C 孤発性脊髄小脳変性症の うちもっとも多い 患者数 (平成24年度医療受給者証 保持者数) 11,733人 小脳症状 自律神経 症状 パーキン ソン症状 × MSA-P Shy-Drager 症候群

6.

共通して認められる病理所見 aシヌクレイン陽性 グリア細胞封入体 ➔ aシヌクレインを標的とした治療介入

7.

αシヌクレインを標的とする治療 機序 治療薬 ステージ デザイン 結果 ワクチン PD01A/PD03A Phase 1 RCT Safe & well-tolerated αシヌクレイン抗体 Lu AF82422 Phase 2 RCT 進行中 アンチセンス BIIB 101 Phase 1 RCT 進行中 分解促進 リファンピシン Phase 3 RCT 早期中止(無益性) 分解促進 リチウム Phase 2 RCT 早期中止(副作用)

8.

AMULET study A Study of Lu AF82422 in Participants With Multiple System Atrophy • 第2相臨床試験 • ランダム化,二重盲検,並行群間,プラセボ対照,多施設 共同試験 • 国際治験:米国・日本から60名(実薬40名,偽薬20名) • 40歳以上75歳以下,発症から5年未満 • 治療期間:48~72週間 • 国立病院機構西多賀病院,藤田医科大学,岐阜大学

9.

多系統萎縮症(MSA)の臨床 睡眠障害 突然死 倫理的 問題 大会長講演

10.

MSAの睡眠・覚醒障害の特徴 睡眠構造 • 短縮 • 断片化 レストレス レッグス 症候群 REM睡眠 行動 異常症 日中の 過眠 睡眠関連 呼吸障害

11.

①レム睡眠行動障害(RBD) • 睡眠時随伴症(パラソムニア)の一つ • 夢内容の行動化 (dream enacting behavior;DEB)

12.

①レム睡眠行動障害(RBD)

13.

RBDはMSAでは運動症状出現前に出現する 7/11(64%)で運動前症状として出現,比較的早期に消失 逆に PDでは5/27(19%)で,運動症状出現後が多い Nomura et al. Psychiatry Clin Neurosci 2011;65, 264-71

14.

RBDが先行する症例は生命予後不良 N=65 N=42 RBD先行症例は • 生命予後不良(6年対8年) RBDが後 RBD先行 • 自律神経障害発症が多い • パーキンソニズムが少ない Glanini et al. Neurology 2020;94:e1828-e1834

15.

RBDの分類 1. 特発性RBD(iRBD) 2. 症候性RBD • αシヌクレイノパチーに伴うRBDが多い パーキンソン病(PD) レビー小体型認知症(DLB) 多系統萎縮症(MSA)

16.

RBDの分類 1. 特発性RBD(iRBD) 2. 症候性RBD • αシヌクレイノパチーに伴うRBDが多い • 他の疾患にも合併する! マシャド・ジョセフ病/脊髄小脳変性症3型 進行性核上性麻痺(PSP) 自己免疫性脳炎(IgLON5抗体関連疾患)

17.

➁睡眠関連呼吸障害 一般的な睡眠時無呼吸症候群 舌根・軟口蓋 無呼吸 いびき

18.

MSAに特徴的な声帯の狭窄・奇異性運動 CPAP導入 吸気時 健常者 呼気時

19.

MSAに特徴的な声帯の狭窄・奇異性運動 CPAP導入 吸気時 健常者 MSA 呼気時 高調の いびき 睡眠中の 窒息死?

20.

声帯の狭窄・奇異性運動 CPAP導入

21.

プロポフォール鎮静下喉頭内視鏡

22.

声帯以外でも閉塞することを確認した 舌根 声帯 喉頭部 軟口蓋 ★ 披裂部 ★ 喉頭蓋 咽頭部 Shimohata et al. Arch Neurol. 64:856-861, 2007.

23.

喉頭披裂筋での閉塞 CPAP導入 Shimohata et al. Arch Neurol. 64:856-861, 2007.

24.

Floppy epiglottis(喉頭軟化症) Shimohata et al. Arch Neurol. 64:856-861, 2007.

25.

Floppy epiglottis(喉頭軟化症) 喉頭蓋の支持 (靭帯)の脆弱化?

26.

喉頭蓋の菲薄化は生じている FE(-) (1年後)FE(+)

27.

睡眠時無呼吸は一様に悪化するのか? AHI (/hr) CPAP導入までの無呼吸低呼吸指数(AHI)の変化 140 〇 CSA ● OSA 120 100 80 60 40 20 罹病期間(年) 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Ohshima et al. Sleep Med 2017;34,13-17

28.

必ずしも経時的に悪化するわけではない 約3割が改善傾向

29.

小括1.睡眠障害 1. MSAは多彩な睡眠障害を呈する 2. MSAの緩和ケアのひとつとして,睡眠関連呼吸 障害への対策が挙げられる.

30.

睡眠障害 突然死 倫理的 問題

31.

突然死 突然死の 原因 治療介入 の実際

32.

突然死の原因 中枢性呼吸障害 上気道閉塞にともなう窒息 CPAPによる上気道閉塞 心臓自律神経障害 Shimohata T, et al. Parkinsonism Relat Disord. 2016;30:1-6.

33.

❶ 中枢性呼吸障害 下げ止まらない低酸素血症 Shimohata T et al. Eur Neurol. 56:258-60 2006

34.

❶ 中枢性呼吸障害 下げ止まらない低酸素血症 (入眠期) 低呼吸 Shimohata T et al. Eur Neurol. 56:258-60 2006

35.

❶ 中枢性呼吸障害 下げ止まらない低酸素血症 (入眠期) 低呼吸 (深夜) 速くて浅い呼吸 1/sec Shimohata T et al. Eur Neurol. 56:258-60 2006

36.

❶ 中枢性呼吸障害 下げ止まらない低酸素血症 (入眠期) 低呼吸 (深夜) 速くて浅い呼吸 1/sec (明け方)Cheyne-Stokes 呼吸 Shimohata T et al. Eur Neurol. 56:258-60 2006

37.

突然死症例の病理 循環/呼吸に関連する延髄セロトニン系ニューロン nucleus raphe obscurus 不確縫線核 ventrolateral medulla 延髄腹外側野 nucleus raphe pallidus 淡蒼球縫線核 死因が突然死か否か で比較 arcuate nucleus 弓状核 Tada M et al. Brain 132:1810-1819, 2009

38.

突然死症例の病理 対 照 突然死 非突然死 突然死例での延髄セロトニン系ニューロンの減少が目立つ

39.

突然死症例の病理 ventrolateral medulla 延髄腹外側野 nucleus raphe obscurus 不確縫線核 これらの神経細胞の減少が突然死に関与する可能性

40.

❷ 睡眠中の窒息 痰づまり 食物誤嚥 感染による痰↑ CPAPによる押し込み 食道・胃内容物逆流

41.

MSAに対する嚥下造影検査(食道相) 軽症 重症 Taniguchi et al. Dysphagia 30; 669-73, 2015

42.

MSA-C の食道期 蠕動低下 当科 國枝顕二郎先生

43.

食道内の食物貯留がなぜ問題か?

44.

夜間の急激な低酸素血症を来した突然死症例 CPAPによる呑気で逆流する Taniguchi et al. Dysphagia 30; 669-73, 2015

45.

どのような対策が必要か? • 食べてすぐ横にならない • フルフェイス(口鼻),トータルフェイスマスクは避ける • 重症例はCPAPを中止する

46.

❸ CPAP 治療による上気道閉塞 CPAP導入直後,突然死した症例

47.

❸ CPAP 治療による上気道閉塞 MSA 12例に対する CPAP導入の転帰 4例 7例 3例 Ghrrayeb I et al. Sleep Med 2005

48.

❸ CPAP 治療による上気道閉塞 CPAP導入直後,突然死した症例 → 陽圧が悪影響した可能性? 喉頭内視鏡により直接確認

49.

CPAPは声帯開大不全を改善する CPAP前 CPAP 4cmH2O CPAP 6cmH2O 酸素飽和度↑ Shimohata et al. Neurology 76:1841-1842, 2011

50.

CPAPはFloppy epiglottisを増悪する! 安静時 鎮静下 CPAP 4 cmH2O 酸素飽和度↓ Shimohata et al. Neurology 76:1841-1842, 2011

51.

CPAPはFloppy epiglottisを増悪する!

52.

Floppy epiglottis へのCPAPは要注意 陽 圧 一部症例では CPAPは禁忌 対策 1. CPAP前評価 2. 導入後の酸素 飽和度モニター

53.

FEは舌骨の前方移動で解除できる Twitter @ScienceGuys_ 下顎を前方に 移動する

54.

上下顎分離型口腔内装置による治療 一体型 分離型 下顎の前方移動により 舌骨の位置を移動し, FEが解除される. Mikami T et al. Sleep Breath. 2023;27(1):213-219

55.

突然死のリスクを予測できるか? MSA患者では無呼吸による低酸素血症に対する脈拍増加が鈍く, とくに突然死した患者では顕著に低下しているかもしれない McCarter SJ et al. Ann Neurol 2023;93:205-212

56.

突然死例(3/28例)は全例PEI/ODI低値であった PEI/ODI 比 PEI: Pulse event index 平均脈拍から 6 bpm増加/hour ODI: Oxyhemoglobin desaturation index 平均酸素飽和度から 4% 低下/hour • PEI/ODI比<1は,上気道閉塞による低酸素イベントに対する 脈拍反応の鈍化を意味する • 突然死の3人:0.10,0.91,0.41 最後の検査から0.7年後,1.3年後,4.2年後に突然死 Ohshima Y. et al. Parkinsonism Relat Disord. 2023 Oct;115:105817

57.

MSAでPEI/ODIは経時的に低下する PEI/ODI比が1未満となり低下するほど 低酸素イベントに対する脈拍反応の鈍化を 反映する Ohshima Y. et al. Parkinsonism Relat Disord. 2023 Oct;115:105817

58.

小括2.突然死の原因 1. 睡眠中の突然死の原因は複数ある 1. 窒息 2. 中枢性の呼吸停止 3. CPAPによる上気道閉塞の増悪 4. 致死性不整脈(まれ) 2. 突然死の予測に低酸素に対する脈拍の 低反応性が有効かもしれない

59.

突然死 突然死の 原因 治療介入 の実際

60.

CPAP・気管切開術は有効か? Giannini et al. Eur J Neurol. 2022 イタリア 後ろ向きコホート研究 気管切開術は対照と比較し, 対照 24 CPAP 29 気切 22 生存期間を延長する. CPAPは効果なし.

61.

et al. Parkinsonism Relate Disord 2022 気管切開術は有効か? Nishida (兵庫中央病院西田勝也先生,二村直伸先生) 対照 28 気切 28 気管切開術,とくに気管切開人工呼吸療法(TIV)は 生存期間を延長する可能性がある

62.

CPAP装着の意義は? • 生存期間延長効果は証明されていないが, 低酸素血症やいびき・喉頭喘鳴を改善する ため行っている. • 上気道の開存目的 → CPAP • 呼吸不全の合併 → BPAP

63.

機器選択の注意点 • CPAP機には無呼吸アラームの装備なし • BPAP機では無呼吸アラームの設定が可能 ドリームステーション(CPAP) (アラームなし) TrilogyのCPAPモード (音量2段階;小・大) 無呼吸アラームの設定は頻回に鳴りすぎることがあり工夫が必要.

64.

CPAP療法のコツ • 低圧から開始し,いびきを減らすことを目指す. • 圧の上昇で,SpO2モニターで増悪を認めたら floppy epiglottisが存在する可能性を疑う. • 経過中,睡眠中の息苦しさを認めたら,通常の SAS治療のように圧を上げず,中止を考える.

65.

③CPAPはどれだけ継続できるか? 継続率 CPAP導入29名 中央値13.0ケ月 (1~53ケ月) 月 13.0ヶ月 Shimohata et al. Sleep Med, 15:1147-9,2014

66.

CPAP中止の原因はさまざまである • 誤嚥の反復・排痰困難 (8名) • 本人の拒否 (4名) • 日中の呼吸不全 (4名) • CPAP装着による呼吸増悪 (2名) • 頻尿による装着困難 (1名) Shimohata et al. Sleep Med, 15:1147-9,2014

67.

④CPAP中止後の方針は? • 気管切開術を行うか? –中枢性呼吸障害による突然死 • 人工呼吸器装着を行うか?

68.

気管切開後,出現したCheyne-stokes呼吸 発症15年経過した MSA-C 症例(人工呼吸器装着前) Cheyne-Stokes 様周期性呼吸 Shimohata et al. Neurology 70:980–981, 2008 下畑享良.Clin Neurosci 37;1120-23, 2019

69.

CPAP中止後の方針 • 気管切開術を行うか? –中枢性呼吸障害による突然死 • 人工呼吸器装着を行うか? –長期生存が可能となる可能性

70.

人工呼吸器装着による長期生存のもたらすもの

71.

人工呼吸器装着による長期生存のもたらすもの 全経過20年,高度の認知症状態 下畑享良.神経治療 35;464-467, 2018

72.

治療選択のジレンマ 突然死防止 ⇔ 人工呼吸器 による長期療養 認知症

73.

小括3.NPPV治療の実際 1. CPAPの継続期間は短く,その後の治療を 決定する必要がある. 2. 気管切開を行わない,気管切開のみ行う, TPPVを行うの3つの選択肢がある. 3. TPPVによる長期生存は重度の認知症を もたらす可能性がある.

74.

睡眠障害 突然死 倫理的 問題

75.

MSAをめぐる臨床倫理的問題 1. いつどのように突然死のリスクを告知するか? 2. 告知後,死の恐怖にいかに寄り添うか? 3. 治療の自己決定(autonomy)をいかに支える か?

76.

突然死の告知に関する私見 • 知る権利の尊重➔基本的に伝えるが熟考する • どういう性格か?(病前,発症後) • 認知症,精神疾患の合併は? • どれだけ Bad news を知りたがっているか? • 告知のタイミング 主治医との信頼関係はできたか? 突然死のリスクは差し迫っているか?

77.

ALSと比較して意思表示能力は低い 浅川孝司ら.神経内科84; 600-605, 2016 NPPV 導入時 100% 80% 60% 0% 43% NPPV MSA N=7 胃瘻 100 % 100 % 100 % 100 % 80% 80% 80% 60% 60% 60% 40% 40% 40% 20% 20% 20% 20% 0% 0% 0% 0% 100 % N=44 □不自由なく可能 60% 60% 61% 14% ALS ALS 80% 80% 75% 40% 20% 気管切開 MSA 気管切開術 N=7 74% 40% 40% ALS ALS N=18 不自由だが可能 42% 20% 0% 胃瘻 MSA N=12 ほぼ不可能 ALS ALS N=39

78.

意思表示能力低下は何を意味するか? • 認知機能低下と運動症状の2つが原因となる • ALSでは呼吸苦が有名なため緩和ケアの対象になるが, MSAでは患者の苦痛を理解できていないのではないか? • 意思表示能力が低いため,患者・家族より倫理的問題の 発信がなされないのではないか?

79.

事実,MSAで倫理的問題に関する論文は少ない MSA 11406 患者数 (H30特定疾患受給者数) 論文数(PubMed) 1 論文数(医中誌) 12 ALS 9805 < < 101 101 検索式 ("Ethics"[Mesh]) AND "Multiple System Atrophy"[Mesh] ("Ethics"[Mesh]) AND “Amyotrophic Lateral Sclerosis"[Mesh] 倫理 AND 多系統萎縮症,倫理 AND 筋萎縮性側索硬化症 (会議録を除く) 2020.8.16調べ

80.

ALSで議論されている問題はMSAでも重要 意思決定 15 尊厳死・安楽死 12 ALSで議論されている問題は 人工呼吸器装着 12 いずれもMSAで生じうる. 人工呼吸器取り外し 4 ➔ 患者からの発信が困難 告知 4 であれば,医療者が問題 事前指示 3 を議論すべきではないか? PEG 3

81.

加えて重大な倫理的問題が生じた スイスでの医師自殺幇助(PAS)を受けたMSA女性 → スイスへのデス・ツーリズムの増加

82.

小括4.倫理 1. 突然死が生じうるMSAにおける病名告知・真実告知は 難しい. 2. MSAでは臨床倫理的議論が十分に行われていない. 3. 難病患者の安楽死/PASの希望に対し,どのように対応 すべきか検討する必要がある.

83.

主な共同研究者 岐阜大学脳神経内科 木村暁夫,山田 恵,吉倉延亮,國枝顕二郎 東京医科大学睡眠学講座 中山秀章 新潟大学医歯学総合病院耳鼻咽喉科 篠田秀夫,富田雅彦,相澤直孝,奥村 仁 同呼吸器内科 大嶋康義 同循環器内科 古嶋博司 国際医療福祉大学市川病院 浅川孝司 新潟大学脳研究所 西澤正豊 同摂食嚥下リハビリ 谷口裕重,井上 誠