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May 13, 21
スライド概要
Amazonが2006年に登場させたAmazon Mechanical Turk(AMT:マイクロワーカー提供サービス)は既に登場以来15年位経過している。そして、この所、AI適応分野の拡大などとも連動して、類似サービスも含めて、サービス拡大が進んでいる。
その結果、極めて単純化されアトム化された多数の個別タスクを処理することを生活のコアの手段している労働者が世界中で増加している。従来から労働の賃金が安いことは問題になっていたが、それに加えて、労働者の労働のインセンティブ(モラル:生きがい)も課題になっていると思われる。そこで、これらの課題についての最近の状況をサーベイしてみた。
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
人間はコンピュータとどれほ ど共存できるだろうか? - Human as a Serviceの可能性を探る - B-frontier研究所 高橋 浩
問題意識 • プラットフォームの適応領域が増々拡大している。 • ビジネスとの関係では特にデジタル労働力プラッ トフォームが注目される。 • Uber,AirbnbなどLocationベースの労働力プラット フォームはシェアリングエコノミーとして注目され た。 • 現在、Webベースの労働力プラットフォームの適 応領域が急激に拡大している(例:AI適応分野)。 • しかし、この分野は、開拓者がAmazonという大企 業であったこともあるのか、今一つ実態が分から ない面がある。 • そこで、その実態と今後の可能性を探る。 2
目次 1. はじめに-AMTの登場 2. HaaSが拓く世界の特徴 3. 公平性の認識と課題 4. マイクロワーカーの証言より 5. 今後への提言(ILO報告ベース) 6. これからのHaaSへの取組みについて 3
1. はじめに-AMTの登場 Human as a Service • MITでのAmazon Mechanical Turk (AMT) の発表会の際、Jeff Bezosは、・・・ • 「SaaS(Software as a Service)について聞いた ことがあるでしょう。さて、これはHaaS(Human as a Service)です」 と言った。(2006年) ‘You’ve heard of software as a service — Well, this is basically people(human) as a service’, he said.
AMTの登場 • 他形態のデジタル人間労働者と同様、・・・ Amazon Mechanical Turk(AMT) も サービスプロバイダーとクライアント間の経済 活動の仕組みとしてのプラットフォーム出現を 契機に登場した。 Mechanical Turkの由来: 18世紀の偽の(トルコ人の) チェスプレイマシン Wikipediaより
AMTの本体は・・ • 技術者が望んでいた人工知能(AI)アルゴリ ズムでは無く、 • 「世界中に散らばっている人間の労働力」で あった。 • AMTは雇用主が設定した価格でマイクロ ワークをオンライン市場に公開するプラット フォームである。 • 労働者はオンライン市場にアクセスして(コン ピュータに代わって)計算能力(あるいは認知 能力)を提供する。
AMTはどのように機能するか • 雇用主はHIT(Human Intelligence Task:タスク)に 価格を設定してAMTプラットフォームに投稿する。 – 多数の人々(労働者)が対応可能な公募の形でHIT (タスク)を委託する。 • 支払いは通常のクレジットカードで可能である。 – 労働者の受け取りはデジタル出来高給になる。 • AmazonはAMTプラットフォームの使用に関して 使用料を課す。 • プラットフォームには幾つかの制約事項がある ⇒次頁図参照
典型的なAMTのワークフロー 雇用主 アカウントの作 成(アクセスが許 可された場合) 労働者 アカウントの作成 (アクセスが許可 された場合) • • プラットフォーム • の制約事項 • アクセス制限 限られたアカウン ト/個人情報 匿名性へのバイ アス 雇用主間のコミュ ニケーションはな し 受け入れ/拒否 承認HITへの支払い 労働者の評価 HIT(Human Intelligent Task)の定義 HITの受け入れ/放棄 (適格な場合) 完了したHITの送信 • • • • HITは雇用主によっ て完全に定義される (労働者の資格評価 を含む) 交渉はなし 限られた相互作用 労働者間のコミュニ ケーションはなし 承認されたHITへ の支払いの受領 • • • • 拒否された場合の償 還請求はなし 承認されたHITに対 してのみ支払いあり 雇用主の評価はなし Amazonギフト券で受 け取る支払いもあり
雇用主と労働者は非対称 • 雇用主は労働者を選別できる(基準は下記他)。 – 従来の実績(承認率)、地理的位置、合格したAMT資 格試験の種類、など – 但し、特定の労働者名は表示されない。 • 雇用主は提出結果に報酬を与えるかどうかの決 定権を有する。 – 労働者からのクレームに対して答える必要はない。 • 一方、労働者は雇用主をフィルタリングして選択 することができない。 • また、雇用主の判定(提出結果への支払い可否 など)に対する訴訟の手段は無い。
AMT開発の背景 • AmazonはEC(電子商取引)サイトの合理化のた め、多数の製品情報ページの重複問題を解決し ようとした。 • しかし、この課題をAIアプローチで解決すること ができなかった。 • そこで、Amazonの技術者の代わりに、世界中の 人々に製品情報ページの重複チェックをしてもら うことにした。 • 同時にチェックされた製品情報ページ毎に支払 いを実行できるWebサイトを開発した。 • そして、この方法で問題を解決できた。 • その後、適応分野を拡大させた。
現在のAMTを端的に言えば・・ • 「人工人工知能」 • 労働者(人間)へのアウ トソーシング • 人間API • リモートパーソナルコール (RPCのもじり) • 人間の認知をシミュレー トできるコンピュータ(中 身は人間自身)
AMTは 世界中の人々に分散タスクをより効率的に実行させられる 人間をロジックボード(コンピュータ)から辿れるモジュール化された計算 サービス(実態は人間自身)と見なすAMTの表現例
AMT型労働の特徴 • 良い面 – 遠隔地あるいは社会的に不利な場所にいる労働 者も対応可能 – 匿名性のニーズにも対応可能 – 柔軟な収入へのアクセス • 悪い面 – 制度的環境が未整備あるいは整備し難い(大規 模で動きが速く、分散、匿名、高度な仲介などの ため) – タスクが小さな単位に分解され、公募ベースなの で、出来高が一般に低価格に向かいがち
AMTの他サービスに対する差別化 • マイクロワークに割り当てられるタスクの多く は、・・・少なくとも当面は、 – コンピュータが実行するのに難しすぎるか、 – 費用が掛かりすぎるか、 – または、単に不可能なもの – など • 例:人間のきめ細かな感受性に基づく機械学 習向けデータの感性による分類、など
デジタル労働力プラットフォーム中で のAMT型マイクロワークの位置づけ デジタル労働力プラットフォームの分類 適応領域 フリーランス市場 (例:Upwork) マイクロワーカー (例:AMT,Clickworker) Webベース 商用のデジタル労働 力プラットフォーム コンテンツベースのクリエイティブクラウ ドワーク(例:99designs) 宿泊施設 (例:Airbnb) Locationベース 交通手段 (例:Uber, Lyft) 配達(例:UberEats, Deliver00) 家庭サービス (例:Taskrabbit) AI特化領域 それ以外の領域
2.HaaSが拓く世界の特徴 HaaSに求められる要件 • 精度の達成 – 最も多い回答数を最も正確と見做す機能なども 盛り込み要(労働者も受入れ承認が必要) • 速度の達成 – 適切なアルゴリズム開発に時間が充分確保でき ないような場合に人間が担当 – (人間の集団による)タスク完了時間の短縮化 • スケーラビリティの実現 – 必要なだけの人的計算容量(スケーラビリティ)を 確保し、しかもメインテナンスコスト無し(必要コス トはデータ処理への支払いのみ)
HaaS世界の労働環境 • 雇用主数と労働者数の対比は、1:1000あるい はそれ以上 – 小規模新興企業が6万人の労働者を管理することも – 従って、労働者管理は全て自動化が必須 • 労働者を個人として扱うことは不可能! – 電子メールのやり取りに費やす時間の方が支払う費 用よりも高額になる。 • 従って、仕事を提出した労働者への支払い、ま た拒否判断も全て自動 • この環境では、雇用主、労働者間にトラブルが 発生した場合の解決手法はほぼ困難に
HaaSが切り拓く世界とは • マイクロワーカー提供プロバイダー(AMTなど 一部を除いてベンチャー企業)は、自動管理 機能と労働力の信頼構造などを前提に、 – 労働力リスクが無く、コストが安いこと – 一連の自動管理機能の技術と資産(労働者数ほ か)が他企業よりも優れていること などを投資家や想定顧客(雇用主)にアピール • このことは、多数の労働者の管理機能を含め、 管理のスタイルのプログラミングによる世界 の拡張を招来させる。
HaaSによって到来する世界とは? • 一部の人間がハッカー、ビルダー、プログラ マーなど(所謂、クリエーター)であり、その一 方、他の人間は計算能力(コンピュータ)であ るような世界か? • 計算能力の側の人間は、自己実現した人間 性を何らかの形で剥奪されているのでは・・・ との疑念が発生か? – こちら側の労働者は必要な退屈な仕事を吸収する が、創造的な労働者には成りえないのか?
雇用主の視点からのイノベーション • 「“群衆の労働力”へのプログラミングによるア クセス」によって、雇用主はより速く、より大規 模に、より多くのことを成し遂げられる可能性 がある。 • また、試行錯誤を低コストと最小限の損失で 実施できる可能性がある。 – 設備投資もメインテナンスも不要 – 費用は労働者の労働に対する支払いのみ
労働者視点からのイノベーション? • 自動化によって解放されることを望んでいた あらゆる人々の下にあるタスクが、実際に実 行される手段が提供される。 • だから、自動化のメリットを享受できる人に とっては良いことなのだが、・・・ • 単純で単調な作業を負担する人のインセンティ ブはどうなるのか? ⇒ 6.に関連情報 • 創造的仕事の職場を組織化する際に残され る無意識(あるいは単調)な仕事の扱い は、・・ハイテック職場の矛盾か?
3.公平性の認識と課題 公平性の認識に関する多様な側面 • 労働者の立場から – 労働条件の形成に関わる(雇用主を含む)プラッ トフォムの役割についての労働者の認識 – 仲介プラットフォームに対する労働者の認識 • デジタル労働力プラットフォームの立場から – 労働者の公平性の認識に与える影響(制度面な ど)
プラットフォームと労働者の関係 • 特に労働者の公平性の認識は雇用主の行動 と直接関係することが多い。 – 例:不当な提出結果の拒否、フィードバックの欠 如、低賃金、など • 労働者は何かトラブルが発生した場合、プ ラットフォーム(AMTなど)の仲介を期待する。 – しかし、プラットフォームには多様な側面があり反応 は一様ではない。 ⇒次頁図参照
プラットフォームの多様な関係性 匿名的/合理的 個人的/感情的 中立的な関係 • トランザクションファ シリテーター • 雇用主と労働者仲介 • お互いに有利な関係 にある集団(win-win) ポジティブな関係 • 困ったときの友達 • 恩人(トラブル仲裁 など) • 平等 肯定的な意味合い わかりにくい関係 • 無言のエンティティ • “任意”との意思表 示 否定的または混合した関係 • 搾取者 • 必要悪 • 怠慢な親 • 信頼できないパートナー • 金儲けマシン 否定的な意味合い 個々のケース毎に反応は多岐に分かれる。
公平性の3つの種類 (1).分配の公平性 – 労働者には単なる副業者からフルタイム従事者 まで多様な労働者が存在する。 – 特に、自分の仕事が拒否され、説明がないまま 支払いなし時の反応には大差が生じる。 (2).手続きの公平性 – 労働者は、知覚された不正行為を制裁する力が 雇用主側に傾き、立場が弱い。 – 背景にプラットフォームの透明性の欠如がある・・ ⇒次頁参照
プラットフォームの制度(AMTの例) • AMTは次のような制約を課している。 – 労働者が同じタスクで他の人と通信することを禁 止している。 – 雇用主に詳細な職務記述書の要求に対して回答 しないことを要請している。 – 労働者からのフィードバックを奨励していない。 – 評判メカニズムの提供を行わない。 – など • これらの制約のためプラットフォームはあまり 透明ではない。
公平性の3つの種類(続) (3). 相互作用の公平性 – マイクロワークプラットフォームはスポット市場とし て設定されている。 – そのため、労働者の声、労働者の可視化が限定 されている。 – 個人のプロフィール、名前、写真などの欠如に よっても労働者の可視化が抑制される。 – 労働者間のネットワーキングやフォーラムの開設 も限定的になる。
公平性を高める提案例 • 国や地域の最低賃金など明確で透明性のあ る基準に従う運用にする。 – 但し、タスク実行時間のより精密な監視などは労 働者に更なる圧力を加える危険性があり、また、 労働者のプライバシー侵害の危険性も高まる。 – 相反する関係にあるか? • 同類タスクへの累積アクセス量など、年功序 列的に進歩や特典の機会を付与する。 – これも前項と同様な懸念が生じる可能性がある。 公平性を高める手段の実現は結構難しい。
4.マイクロワーカーの証言より 典型的マイクロワーカープラットフォーム ⇒ 次頁以降にマイクロワーカーの証言を記載する
マイクロワークを行う理由 • 私は病気の母親の世話をしていて、それが 私に柔軟性と家に閉じ込められている間に もいくらかのお金を稼ぐ手段を与えてくれ ます。 (米国のAMTの労働者) • 私はそれが子供たちと一緒に家にいる自由を 与えてくれるのが本当に好きで、できるとき は少し収入を稼ぎます。(米国の Microworkersの労働者) • 私はうつ病や不安障害に苦しんでおり、外に 出て他の人と交流するのが難しくなっていま す。 (ドイツのClickworkerの労働者)
マイクロワークを行っている感想 • 仕事自体は退屈で肉体的に疲れます。しかし、 フレックスタイム制は魅力的です。 (ドイ ツのClickworkerの労働者) • 仕事は柔軟で面白く、自宅で仕事をすること ができます。しかし、それはかなり低賃金で す。 (英国のFigure Eightの労働者) • 私は現在、自営業者としての主な収入源とし てMechanical Turkを使用しています。私は自 宅で仕事ができ、仕事の時間を選択でき、通 勤する必要がないことを楽しんでいます。 (米国のAMTの労働者)
賃金に関する感想 • まともな仕事のAMTの標準は時給6ドルです。し かし、私は最低賃金が10ドルの州に住んでいま す。また、オンライン作業は平均化が必要です が、賃金に圧力をかける外国人労働者がいます。 (米国のProlificの労働者) • 仕事の努力に応じて賃金を上げる必要があり ます。私たちが費やしている時間と労力に対 して、賃金は非常に低いです。(インドのAMT の労働者) • タスクの検索と選択(これらは無給労働)に 多くの時間が費やされるため、プラット フォームははるかに高い賃金率を提供すべき です。(インドのAMTの労働者)
不合理・不充分なタスク配分 • 私は過去6年間AMTで働き、98.4%の承認率を取 得していますが、仕事の量と支払いは少しも改 善されていません。 (インドのAMTの労働者) • 仕事は人種的であってはなりません。タスク は国ごとに配布するのではなく、全ての場所 に均等に配布されるべきです。 (ネパールの Microworkersの労働者) • タスクが労働者にどのように割り当てられる かのより公正なアプローチが必要です。先着 順ではなく、経験に応じて、適当量を取得で きる必要があります。 (オーストリアの Clickworkerの労働者)
労働時間と仕事のバランス • 私の子供等は学校に通う年齢でなく、私は彼ら のデイケア費用をカバーする価値のある仕事を 見つけることができませんでした。 (米国の Microworkersの労働者) • 夫が一日中仕事を休んでいて、子供や家の世 話があり、私は自宅でしか仕事ができません。 (イタリアのFigure Eightの労働者) • 私は主婦で、家の中でやるべきことがたくさ んあります。余暇には、仕事をしたいと思っ ているので、投資のないクラウドソースを好 みます。(インドのAMTの労働者)
仕事の拒否、不透明性、不払い • 私はプラットフォームに翻弄されており、不安 定な雇用状況です。彼らは私のアカウントを一 晩で無効にする可能性があり、それに対する保 護がありません。 (英国のFigure Eightの労働 者) • 一部の雇用主は、説得力のある理由なしに、 ランダムに作業を拒否します。 (インドの AMTの労働者) • タスクの作成者は、メンバーを公正に扱う必 要があります。間違った修正があった場合は 正確に修正し、十分な指示を与え、理由を言 わずにフラグを立てるべきではありません。 (ドイツのFigure Eightの労働者)
コミュニケーション、応答性、表現の欠如 • 最も難しい側面は、雇用主とのリアルタイムの コミュニケーションの欠如です。指示が不明確 なため、かなりの数のタスクを返さなければな りませんでした。 (米国のAMTの労働者) • 私は何人かの雇用主に実際の問題が何であるか メッセージしました。彼らの多くは返事しませ ん。何人かは答えましたが、私が適切に何をす べきかに言及せず、私を拒絶しました。 (イン ドのAMTの労働者) • 雇用主にはあらゆる種類の仕事に学習曲線があ ることについてもっと寛大になって欲しい。群 衆の仕事では、最初に間違いを犯したとき拒否 されることさえあります(米国のAMTの労働者)
仕事内容とスキルのミスマッチ • 英語をよく知っている以外に、多くのスキルを 必要とするタイプの仕事ではありません。 (Figure Eightの労働者) • タスクは本当に反復的で退屈なものになる可 能性があります。 (米国のClickworkerの労 働者) • それは、賃金の保証や保護のない、精神を麻 痺させるような仕事です。しかし、それは自 由なタイプの仕事でもあります。そして、仕 事の種類の選択があります。 (米国のAMTの 労働者)
5.今後への提言(ILO報告ベース) デジタル労働力プラットフォームと働き方の未来 • オンライン世界での まともな働き方の構 築に向けて • ILO発刊 (2018年) – 分量:128ページ – ILO自身の2015年と 2017年の調査結果 に基づく内容 • 前節のマイクロワーカーの 証言も本資料から抜粋
ILOの提言 • 雇用の誤分類(従業員/自営業者/独立請負業 者など)に対処する。 • 労働者が結社の自由と団体交渉権を行使できる ようにする。 • 労働者の居住場所の一般的最低賃金を適用す る。 • 雇用主によって設定される支払い額とプラット フォーム使用料の透明性を確保する。 • プラットフォーム上の独立した労働者がタスクを 拒否する柔軟性を有していることを確認する。 • タスクまたはプラットフォームに技術的問題が発 生した場合に失われた作業のコストを保証する。
ILOの提言(続) • 不払いを管理するための厳格かつ公正な規則 を確立する。 • 利用規約が明確で簡潔な形式で提示されている ことを確認する。 • 不利な評価を受ける理由を労働者に通知する。 • 全雇用主に対して明確な行動規範を確立して実 施する。 • 労働者が、不払い、否定的な評価、資格試験の 結果、行動規範違反の告発、アカウントの閉鎖 に異議を唱える能力を有することを確認する。 • 労働者評価システムと同じくらい包括的な雇用 主評価システムを確立する。
ILOの提言(続) • タスクを投稿する前に、タスクの指示が明確で検証さ れていることを確認する。 • 労働者が、完全な作業と評判の履歴をいつでも表示 および送信できるようにする。 • 労働者が、不釣り合いに高額な料金を支払うことなく、 プラットフォーム外で雇用主との仕事上の関係を継続 できるようにする。 • 雇用主とプラットフォーマーが労働者とのコミュニケー ションに迅速、丁寧、そして実質的に対応することを保 証する。 • 雇用主の身元と仕事の目的を労働者に知らせる。 • 心理的にストレスがかかり、損害を与える可能性があ るタスクは、標準的な方法でプラットフォーマーによっ て明確にマークされていることを確認する。
6.これからのHaaSへの取組みについて 適切な労働条件とは・・ • ILOの提言には労働者の立場からの適当と思わ れる労働条件が提示されている。 • しかし、現実には労働条件はAMTなどプラット フォーマーによって設定されている。 • その際、雇用主のビジネスニーズに強くアピー ルすることが求められる。 • これが適切でないと、競合プラットフォームに市 場を奪われる懸念がある。 • 結果的に労働者側にしわ寄せが起こることが多 い。 – LocationベースのUber(運転手)、Taskrabbit(作業者) などでも類似の傾向がみられる。
マイクロワークの世界の評価例 • その結果、新しいデジタルプレカリアット*の 発生を警告する論調が登場する。 *: プレカリアットとは、非常に所得が低く、人との繋がりも 薄く、文化的な付き合いもとぼしい人たちのこと • その一方、空間的制約、障害、差別化などの ため、従来は到達できなかった仕事へのアク セスの可能性を評価する意見もある。 – 特に、グローバルな視点において
マイクロワークの世界の評価例(続) • また、デジタル労働力プラットフォームは取引 コストの削減によって、以前の複雑で細か過 ぎる仕事の割り当てを容易化するとも評価さ れている。 • このような特徴は、既存の仕事の置換だけで なく、デジタル化以前の経済では存在しなかっ た新しい仕事を出現可能にするとも評価され ている。 • そこで、欠点を緩和し、期待される長所を伸 ばすため、予想される不公平を如何に改善す るかが重要になる。
公平性の認識に強く影響する3つの ポイント (1).仕事上の関係の枠組み – デジタル労働は、オンラインサービスの快楽的で 選択的な労働と見なされるのか? – それとも、企業でのフルタイムの準雇用と見なさ れるのか? (2).プロバイダーに起因する役割の概念 – プラットフォームプロバイダーは、単なるサービス ファシリテーターとして理解されるのか? – それとも、雇用主の偽物(代理人)として理解され るのか?
公平性の認識に強く影響する3つの ポイント(続) (3).オンラインサービスの位置付け – 本サービスは、(人間による)計算サービスとして 販売され、プラットフォーマーによって推進されて いるのか? – それとも、人間の仕事の仲介として推進されてい るのか? 現状はこれらの問いへの回答が自己本位に選択 されていて、複数形態が共存している状態か?
但し、3つのポイント選択の一般的傾向は・・ • プラットフォーマー自体は便利で低コストの計 算サービスとして(特に雇用主側に)売り込む 傾向がある。 • 一方、多くの労働者はプラットフォームによっ て提供されるサービスの時折のユーザーで、 プラットフォーマーを定形的サービスの推進 者とみている可能性がある。 • しかし、一定程度(AMT労働者の約1/3程 度と推定されている)存在するコアなフルタイム 労働者は作業環境の公平性について厳しい 意見を有している。
マイクロワークサービスの特徴のクローズアップ 信頼の設計の視点からAMTとAirbnbの比較により AMT (比較対象)Airbnb サービス 雇用主:労働者=1:極めて多 ホスト:顧客=1:1 価格 雇用主が決定 +プラットフォーム使用料 ホストが決定 +プラットフォーム使用料 雇用主⇒労働者(片方向) ホスト⇔顧客(双方向) 評価システム (被拒否回数→承認率に反映) 個人認証 匿名ベース(労働者はIDで認 識) Facebook,Linkedin利用が前提 (顔写真,パスポート,本名ベース) その他の評価 法 雇用主:なし 労働者:資格試験の取得など ホスト:Superhost認定 顧客:なし コミュニケーショ ン 雇用主/労働者間:なし プラットフォームベースでホスト・顧客 (第三者による取組み⇒次頁) 間のメール送受信あり クレームの処理 雇用主に労働者からのクレー ムに返答不要と指示 プラットフォームが顧客のク レーム受領、仲裁、解決へ 特徴 労働者を個別人間と見ていた ホストが顧客に提供する1:1 のでは実現できない統合サービ のおもてなしサービス ス提供が主眼か 価格設定の構造が似ている以外は全て相違している⇒異なる信頼の構造
Turkopticonのような取組みも • 外付けオンラインフォーラムが存在 している。 • これらにより労働者は雇用 主の良否をある程度知るこ とができる。 • 特に有名なのは、2008年 博士課程学生2名によって 開設されたTurkopticon – これにより、労働者は雇用主 に関し、支払い、支払い速度、 評価の公平性などを一定程 度確認することができる。 L.Irani, “From Critical Design to Critical Infrastructure: Lesson from Turkopticon” より抜粋
”労働者のインセンティブを高める“ための図式 受益内容の具体性、抽象性のレベル、および受益者が内部か外部か 抽象的 自己改善(自己啓発) • 学習 • 楽しさ • 独自のスキルを使用 • 大切な気持ち 合理化のレベル 報酬 • お金 • 自律性 • 日常生活の柔軟性 モラル(道徳的満足) • より大きな善(社会 にとって良いこと等 も) ソーシャル(社会的満足) • 雇用主を支援する • さらなる研究 具体的 内部(労働者自身が受益者) 外部(受益者が雇用主だけで なく社会一般も含めて)
労働者のインセンティブ向上に向けて • 自分の仕事に意味を与えるために利用でき る情報の手がかりのレベルは限られているに も関わらず、・・ • 労働者は(前頁図の)「報酬」だけでなく、そ れ以外(「自己改善」「モラル」「ソーシャル」) の少なくとも一つと組み合わせて労働を意識す る(あるいは想像する)ことによって、マイクロ ワークの意義を認識し深めていた*。 • ただ、個人差も大きく、意義を深められる多様 な情報提供の工夫は今後も必要である。 D., Fieseler, C., and Wong, S. I., “Finding meaning in a hopeless place? The construction of meaningfulness in digital microwork”, *: Kost, Computers in Human Behavior, 82(May), pp.101-110 ,2018.
暫定まとめ:新たな働き方の定着に向けて • AMTに代表されるマイクロサービスは労働者 を集団とみて提供する統合サービスに特徴 がある。 • そして、今後、このようなサービスは拡大が予 想されている。 • 結果、このサービスを担うコア労働者の増加 も予想される。 • 労働者が仕事に取組むインセンティブを高め る自主的およぶ(労働条件などの)環境的改 善の努力は始まっているが、・・ • 今後、更なる努力が必要な状況にある。
最後に • 本テーマはデジタル化、AI化に伴い発生してくる 次のような傾向の一環と考えられる。 – 人間の二極分化をやむを得ない傾向として受け入れ られるか? – 一部の人間は人間性を犠牲にしているかもしれない と思いながら、人間を機械と見做す枠組みもやむを 得ないことと是認できるか? – その上で、賃金の上昇や権利保護などを推進すれば 事足れりと割り切れるか? • AI化も加わった、人間とデジタルプラットフォーム “共存”のより広いテーマと関わる。 • より広い視野からの議論や探索が必要である。