生成AIからエージェントAIへの移行の課題と展望

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July 09, 25

スライド概要

生成AIに続きAIエージェントが話題になっている。これに関連して「AI導入 2番手にも勝機あり」という興味深い記事が最近掲載されていた([FT]日経7月7日)。背景に、新しい技術がどのように役に立ちそうか不透明でリスクが高い場合、先行者の動きを観察し、彼らのつまずきを頭に入れて対処すればより効果的な道筋を描ける、との認識(思惑)がある。
このような推測もされているAIエージェントが、生成AIに続いて大ブームになる気配である。そんなことから、世間に遅れずに新技術に挑戦しようとしておられる人達のために、若干参考になりはしないかと、関連情報を集めて雑な資料を作成してみた。そこで、公開する。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
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生成AIからエージェントAIへ移行 の課題と展望 B-frontier 研究所 高橋 浩

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目的 • 生成AIの普及と伴にその限界の理解も深まり、より自律的にタ スクを実行するエージェントAIへの関心が高まっている。 • しかし、エージェントAI(あるいはAIエージェント)という言 葉が独り歩きし、実態が充分に捉えられていない面がある。 • そこで、下記のようなニーズがあると推定される。 ①エージェントAIとは何かの包括的解説 ②エージェントAI利用時のガバナンスに関する包括的解説 • このようなニーズの背景に、AI時代到来は紛れもない現実で、 誰もがそれに適応して行かねばならないとの認識がある。 • 本稿は、このような認識から、① ②に該当する論文を厳選し、 これら論文の知見を紹介することで、今後への対応と展望をク ローズアップすることを目的とする。 2

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本資料のポイント(+目次) 1. エージェントAIとは何かの包括的解説が求められている 1 エージェントAIの包括的解説 生成AIとの相違について エージェントAIの構造や分類について 前半 エージェントAIのアプリケーション事例、など 1. 利用時のガバナンスの包括的解説が求められている 2 エージェントAI利用時のガバナンスの包括的解説 エージェントAIの特性や課題について エージェントAI適応に向けた論考 ガバナンスへのガイド、など 後半 3

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前半 エージェントAIの包括的解説 Generative to Agentic AI: Survey, Conceptualization, and arXiv preprint arXiv:2504.18875, 2025 Challenges by Johannes Schneider 生成型AIからエージェント型AIへ:調査、概念化、そして課題 Johannes Schneider AI Agents vs. Agentic AI: A Conceptual Taxonomy, Applications arXiv preprint arXiv:2505.10468, 2025 and Challenges by Ranjan Sapkota et al. AIエージェント vs. エージェント型AI:概念分類、応用、課題 Ranjan Sapkota AI Agent Governance: A Field Guide by Jam Kraprayoon et al. arXiv preprint arXiv:2505.21808, 2025 AIエージェントガバナンス:フィールドガイド Jam Kraprayoon 4

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5つの質問 1. 生成AIとエージェントAIの違いは何ですか? 2. エージェントAIに移行するとどんなことが改善されま すか? 3. エージェントAIの基本構造はどのようなものですか? 4. エージェントAIを自律性の程度で分類するとどのよう になりますか? 5. 代表的アプリケーションにはどのようなものがありま すか? 5

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5つの質問 質問1:生成AIとエージェントAIの違いは何か? 質問5:代表的アプリケーションは何か? 即時 vs 計画的 AIエージェントのアプリケーション 自己改善の 可否 エージェントAIのアプリケーション 代表的アプリ ケーション 質問4:エージントAIはどのように分類 されるか? 補助的 自律性 部分的 自律性 高度/完全 自律性 ユーザーとの交流 vs ツール他との交流 エージェントAIで 改善される事項 エージェント AIの分類 質問2:エージェントAIでは何 が改善されるか? エージェントAI の基本構造 情報の保管 質問3:エージェントAIの基本構造は何か? + メモリー + ツール ツールとの 対話 計画的 目標設定 LLM 自律性の 可否 生成AIとエージェ ントAIの違い エージェントAI シングル vs マルチ エラーの 抑止

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質問1:生成AIとエージェントAIの違いは何か? 生成AIを超えて • 生成AI利用では人間が完全に制御権を握っている。 • AIシステムはあくまでツールとして機能する。 • 一方、エージェントAIは単なるツールではなくアク ターとして機能する。 • エージェントAIは人間に代わって複雑な目標を自律的に達 成するように機能する。 • 旅行計画立案の場合は次のように機能する。 • エージェントAIは候補となる旅行先を調査し、個人の好み や予算を考慮してどの旅行先が適切かを判断し、旅程を計 画し、航空券や宿泊施設を予約し、ビザまたは旅行許可証 を手配し、休暇中に必要なその他の処置も行う。 7

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生成AIとエージェントAIの特性比較 • 上述のような状況を踏まえ、エージェントAIへの期待と狙いが際立つよ うに両者を比較する。 比較項目 生成AI エージェントAI 推論 ✗ 即時対応のみ ✓ 反復的な計画と反省に基づいて対応 相互作用 ✗ ユーザーとのみ交流 ✓ユーザーだけでなく、ツール、現実世界、 他のAIエージェントとも交流 実行能力 ✗ シングルステップタスクの み ✓ 多様な専門知識を必要とする一連のアク ションとして捉えたマルチステップタスク 適応性 ✗ トレーニングデータに縛ら れており自己改善がない ✓ 経験の収集と活用に基づいて自己改善を おこなって適応できる 自律性 ✗ ユーザー駆動のみ ✓ システムが自律的に駆動 ✗:もう少し改善すべき余地があるとの視点から ✓:可能な改善の方向性を示す視点から 8

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質問2:エージェントAIでは何が改善されるか? 生成AIの限界のうち、エージェントAIによって克服される可能性がある項目を示す。 比較項目 生成AIの制約事項 エージェントAIの利点と可能性 実行能力 限られたツールの使用によるデジタルコン テンツの生成に限定される。 ✓計画、任意の環境およびツールとの対話を使用して、 タスクを解決するため複数のステップを実行できる。 ユーザビリティ ✗詳細なタスク実行指示を必要とする。 ✓目標設定だけでも十分対応できる。 トレーニングデー タ ✗包括的なタスク固有のトレーニング データに依存する。 ✓ロジックと外部ツールを活用して、より少ないデー タで動作できる。 メモリ ✗小さなコンテキストウィンドウしかない。 ✓データベースへの保存と取得を行うことで、より大 きなコンテキストのメモリ保管を伴う学習ができる。 即時学習 ✗コンテキストウィンドウが小さいために 制限される。 ✓無制限のメモリを前提に、試行錯誤でシミュレー ションと現実世界間のやり取りを通じて学習できる。 エラー ✗ハルシネーションのような誤りがよくあ る。 ✓ステップバイステップの推論と検証によりエラーの 減少が期待できる。 透明性と解釈可能 性 ✗ 解釈が難しい。 ✓中間的な推論を示し、説明可能性実現に挑戦できる が、解釈は依然として難しいかもしれない。 運用中リソースの 動的柔軟割り当て ✗タスクごとの計算リソースをほとんど制 御できない。 ✓高度な制御により、ソリューションの品質とコスト に影響を与える推論の実行と削減が可能になる。 AI製品の費用対効 果と償却 ✗頻繁に使用する大規模モデルの初期ト レーニングコストが高い。 ✓推論機能を備えた小型モデルにより初期コストが低 く抑えられる。 9

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質問3:エージェントAIの基本構造は何か? エージェントAIシステムの特徴 • 目標と環境が複雑: • より複雑で、長期的かつ具体的でない目標を追求できるシステムは、 よりエージェントAI的 • エージェントが効果的に活動できる環境がオープンで複雑であればあ るほど、よりエージェントAI的 • 影響がより直接的: • 人間の介在や介入なしに環境に影響を与える行動をとることができれ ば、よりエージェントAI的 • エージェントAI性の低いシステムは、ユーザーが行動するための情報のみを提供 • 高度の適応性: • 新しい状況や予期せぬ状況に適応し対応できるシステムは、よりエー ジェントAI的 10

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エージェントAIシステムの構造 LLM、メモリー、ツールの3要素から成る。 他の世界 OS インターネット APIサーバー ハードウェア 物理世界 エージェントAI ツール API Doc/ フィードバック メモリー ウェブAPI アプリケーション シェル データベース 生成 実行 更新 内臓RAMデータ SQL ベクトルDB 行動 • タスクを動的に分解し、コンテキストを共有し、長期に渡って高レベルの目標を追求できる。 • 複雑性と自律性の質的な飛躍を達成できる。 11

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エージェントAIを構成する基本コンポーネント 機能 記述 推論と計画 エージェントが複雑な環境とインタラクションし、自律的な意思決定を行うには、新しい情報に基づいて 計画を調整するなど、確固たる推論能力が必要である。計画により、エージェントは時間経過に応じて行 動の順序と優先順位を決定し、複雑なタスクを達成する。 • サブゴール(目標)とタスクの分解:エージェントは、複雑なタスクをより小さく、より管理しやすい サブゴールに分解する。 • 反省と改良:エージェントは自己反省を行い、過去の行動と計画を批判し改良することで、最終的な結 果の質を向上させる。 メモリー メモリーは、エージェントが過去の情報を保存、取得、活用することを可能にする。これにより、エー ジェントは過去の行動に関するデータを用いて将来の行動を調整し、学習と適応を可能にする。また、メ モリーはエージェントが以前のインタラクションのコンテキストを保持することも可能にする。 • 短期記憶:エージェントが現在認識している情報を保存。モデルは有限なコンテキストウィンドウの長 さによって制限されるため、短期かつ有限。コンテキスト学習は、モデルの短期記憶によって可能。 • 長期記憶:エージェントに、長期間にわたって情報を保持および想起する能力を提供。多くの場合、外 部データベースを活用。 行動とツール の使用 エージェントは自分自身や環境に影響を与えるアクションを直接実行できる。 • ツールの使用:基盤モデルはツールを呼び出してモデルの機能を拡張できる。(例:APIや外部モデルを 使用してWeb検索やプログラミングなどを行う) コラボレー ション エージェントは人間とのインタラクションに加え、他のエージェントとのインタラクションもできる。 エージェントは互いに通信し、協力して計画を実行する。 • マルチエージェントアーキテクチャ:エージェントのチームを作成し、インテリジェントな分業と フィードバックを活用することで、タスクをより効率的に遂行する。 • サブエージェントへの委任:Web検索やプログラミング用のAPIなど、外部ツールを使用してモデルの機 能を拡張できる。 12

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質問4:エージントAIはどのように分類されるか? 生成AIおよびエージェントAIの自律性のレベル 概略、次のように分類できる。 自律性のレベル 0 - 自律性なし パラダイム 古典的な機械学習 1 - 補助的な自律性 生成AI 記述 明示的にトレーニングされた狭い範囲 のタスクに取り組む。 直接の指示に従って簡単なタスクを処 理する。 エージェント指向 ワークフロー 人間の監視と介入によって複数ステッ プのタスクを処理する。 3 - 高度な自律性 エージェ 目標指向のコラボ ントAI レーション 時々の指導によって複雑なタスクを処 理する。 4 - 完全な自律性 自律的な意思決定 与えられた目標に従って、タスクのあ らゆる側面を独立して処理する。 2 - 部分的な自律性 13

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エージントAIの分類 自律レベル:1 生成AI 定義: 特定のユーザー指示に基 づいてコンテンツを生成 あるいは変換するAI 例 : ChatGPT, Gemini, Claude 自律レベル:2~4 エージェントAI* 定義: 高度な推論と反復的な計 画を用いて、複雑で多段 階的な問題を自律的に処 理するAI 例 : OperatorやAutoGPT 自律レベル:2 AIエージェント(AI Agent) 定義: 外部ツール利用、逐次推論適用、リアルタ イム情報統合によって目標指向タスクを定 義された機能実行で推進する単一エンティ ティAIシステム 例 : Operator, Copilot 自律レベル:3~4 エージェントAI(Agentic AI:エージェント型AI) or エージェントAIシステム(Agentic AI system) 定義: 目標を達成するため、より広範なワークフ ロー内でサブタスクを調整、通信、動的に 割り当てる複数エージェントで構成される マルチエンティティAIシステム 例 : AutoGPT, ChatDev, BabyAGI *:AIエージェントとエージェントAIを区別せずに使用されている場合も含む。 14

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AIエージェントとエージェントAI(システム)の違い 特徴 AIエージェント エージェントAI(システム) 定義 特定のタスクを実行する自律ソ フトウェア プログラム 複雑な目標を達成するために協力する 複数の AI エージェントのシステム 自律性レベル 特定のタスク内での高い自律性 (自律レベル:2) 複数のステップから成る複雑なタスク やシステムを管理する能力を備えた、 幅広いレベルの自律性(自律レベル:3~4) 複雑性 通常、単一の種類の特定タスク を処理 調整を必要とする複雑な複数ステップ のタスクを処理 コラボレーシン 独立して操作 マルチエージェントの情報共有、コラ ボレーション、協力を伴う。 学習と適応 特定の分野内で学習し適応 より幅広いタスクと環境を学習し適応 アプリケーション カスタマー サービス チャット ボット、仮想アシスタント、自 動化されたワークフロー、など サプライ チェーン管理、ビジネスプロ セスの最適化、仮想プロジェクトの管 理、など 15

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AIエージェントからエージェントAI(システム)へ 感知 アーキテク チャの進化 専門エージェ ント群 高度な推論と 計画 マルチエージェン トコラボレーショ ン タスク分解 推論 持続メモリ 行動 オーケストレーション システム調整 共有コンテキスト シングル(あるいは特定種)タスクを 実行するAIエージェント マルチエージェント協調型のエージェ ントAI(システム) 16

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質問5:代表的アプリケーションは何か? AIエージェントとエージェントAIの典型的アプリケーション それぞれ4個づつの事例を示す。 (a) (b) (c) 顧客サポートの 自動化と社内エ ンタープライズ 検索 メールのフィルタ リングと優先順位 付け パーソナライズされ たコンテンツの推奨、 基本的なデータ分析 とレポート (d) 自律スケジュー リングアシスタ ント (a) マルチエージェント 研究アシスタント (b) AIエー ジェント インテリジェント ロボットコーディ ネーション エージェ (c) ントAI (d) 共同医療意思 決定支援 マルチエージェ ントゲームAIと 適応型ワークフ ロー自動化 17

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AIエージェントのアプリケーション例 (a) 顧客サポートの自動化と社内エ (b) メールのフィルタリングと優先 順位付け ンタープライズの検索 優先度が高い 注文品はど こですか? タスク検出 福利厚生政策 の変化を探索 返信推奨 顧客サポートの 自動化 従業員 • AIエージェントが企業のCRMシステ ムやフルフィルメントAPIと統合され て問合せに自動的に回答する。 • 社内エンタープライズ検索では各種 問合せに対応して、専門情報が格納 されているベクトルストアなどにア クセスして回答する。 • Outlookシステムなどと統合されたAI エージェントが分析アルゴリズムを 通じて緊急性検知や返信推奨などで 大量のコミュニケーション管理を支 援する。 • AI エージェントは仲介者としても機 能し、状況に応じた要約や返信の下 書きを提供する。 18

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AIエージェントのアプリケーション例(続) (c) パーソナライズされたコンテン ツの推奨と基本データレポート パーソナライズされたコンテ ンツの推奨 (d) 自律スケジューリングアシスタント 会議をスケ ジュールする 基本データレポート 時間枠 を検索 スケジュール を調整する 自律スケジューリングアシスタント データ解析 • • • ユーザーの行動を分析して自動的に 洞察を提供する。 Amazon、YouTube、Spotifyなどで は、このようなAIエージェントを導入 してユーザーの嗜好を推測している。 また、TableauなどのAIエージェント は、プロンプトを変換して自然言語 によるデータクエリと自動レポート 生成を可能にしている。 • カレンダーシステムに統合されたAI エージェントが会議の調整、スケ ジュール変更、競合解決を自律的に 管理する。 • x.aiやReclaim AIなどのツールは、曖 昧なスケジュール設定コマンドを解 釈し、カレンダーAPIにアクセスして、 ユーザーの好みに基づいた最適な時 間帯を特定する。 19

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エージェントAIのアプリケーション例 (a) 科学コンテンツを共同で取得、統合、作成 するマルチエージェント研究アシスタント (b) ドローンやマルチロボットシステムを含むイン テリジェントロボティクスコーディネーション エージェントAIを使用し てロボット収穫を調整 実例 - 助成金申請書の作成 アラインメントエージェント オーケストレーター 輸送 ロボット アラインメントエージェント • 構造化文献分析、コンプライアンス調整、 文書フォーマットのためのマルチエージェ ント・オーケストレーションを用いて助成 金申請を自動化する。 • 1)過去の助成金申請を検索して構造パター ンを抽出する、2)最近の文献をスキャンし て関連研究を要約する、3)申請の目的を募 集要項に合わせてフォーマッティングする 各エージェントが、ガイドラインに従って 文書を作成し全体を構造化して統合する。 採取 ロボット • 各ロボットは、採取、運搬、マッピングな どのタスク特化型エージェントとして動作 し、オーケストレーターがワークフローを 監視してリンゴ園における協調的収穫を支 援する。 • 同様の方法で、①倉庫の自動化、②ドロー ンによる果樹園検査、③農業用ドローンの 群れが機械的介入を実施する、などができ る。 20

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エージェントAIのアプリケーション例(続) (c) 診断、治療、モニタリングサブシステ (d) マルチエージェントゲームAIと適応型 ワークフロー自動化 ムを含む協調的医療意思決定サポート • • エージェントAIは、診断、バイタルモ ニタリング、治療計画などのタスクを 専門エージェントに割り当てることで、 分散型医療推進を可能にする。 例えば、1)患者の病歴を取得する、2) 診断ガイドラインに照らして所見を検 証する、3)治療オプションを提案する ような各エージェントの連携によって 実現する。 • 現代のエンタープライズIT環境では、エー ジェントAIシステムがサイバーセキュリ ティインシデント対応のワークフローを自 律的に管理できる。 • 潜在的脅威が検出されると、1)過去の侵害 データから脅威を分類、2)ネットワーク ノードからログデータを照会しパターンを 相関、3)コンプライアンスフレームワーク を解釈して規制上の重大性の評価などがで きる。 21

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エージェントAIの包括的解説(まとめ) • 自律性レベルの定義は確定しているものではない。 • このこともあって用語(AIエージェント、エージェントAI、エー ジェント型AI、エージェントAIシステム、他)の用語の定義と用法 はある程度曖昧に使用されている。 • とは言え、生成AIとエージェントAIを区別する概念はかなり明確に なって来ている。 • 技術的には極めて急速に進化しているので、基盤となるLLMの推論 能力の強化、適用アプリケーション品揃えの拡大などによって、概 念化や用語、用語の用法などは並行して変化して行く。 • 前半では、生成AIの適応形態が急激に拡張され変化してきている流 れの理解のための一定の枠組みを提示した。 • 後半で述べるエージェントAIガバナンスの具体化やエージェントAI へ取組み時の課題対応を考えるのが当面の重要事項と思われる。 22

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後半 エージェントAI利用時のガバナンスの包括的解説 Governing AI Agents by Noam Kolt AIエージェントのガバナンス arXiv preprint arXiv:2501.07913, 2025 AI Agent Governance: A Field Guide by Jam Kraprayoon et al. AIエージェントガバナンス:フィールドガイド arXiv preprint arXiv:2505.21808, 2025 Trism for Agentic AI: A Review of Trust, Risk, and Security Management in LLM-Based Agentic Multi-Agent Systems by Shaina Raza et al. Noam Kolt Jam Kraprayoon arXiv preprint arXiv:2506.04133, 2025 エージェントAIのためのTrism:LLMベースのエージェント型マルチエー ジェントシステムにおける信頼、リスク、セキュリティ管理のレビュー Shaina Raza AI Agents and Agentic Systems: Redefining Human Contribution, Autonomy, Industry Structures, and Governance by Laurie Hughes et al. Journal of Computer Information Systems, 1-29, 2025 AIエージェントとエージェントシステム:人間の貢献、自律性、産業構造、 ガバナンスの再定義 Laurie Hughes 23

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エージェントAIのトレンドについての見解例 • IT企業リーダー達の意見例: 「SalesforceのCEO マーク・ベニオフ氏は、AIエージェント を「AI革命の第三の波」と位置付け、2026年度末までに10億 台のAIエージェントが稼働すると予測している。」 Sozzi, Brian. 2024. “Salesforce Co-Founder and CEO Marc Benioff : Autonomous AI Agents Will Beat Copilots.” Yahoo Finance, September 18, 2024. https://fi nance.yahoo.com/news/salesforce-co-founder-and-ceo-marcbenioff -autonomous-ai-agents-will-beat-copilots-155044728.html. 「MetaのCEO マーク・ザッカーバーグ氏は、「最終的には、 何億、何十億もの異なるAIエージェントが存在する世界に私た ちは住むことになるでしょう」と予測している。」 Zuckerberg, Mark. 2024. “Exclusive Interview with Mark Zuckerberg.” The Rundown AI. July 23, 2024. https://www.therundown.ai/p/meta-releases-llama-405b. 24

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5つの質問 1. 現在のエージェントAIはどの程度の能力を持っていま すか? 2. 本質的課題はクローズアップされていますか? 3. どのようなリスクが考えられますか? 4. 各方面への適応に向けた論考はありますか? 5. エージェントAIのガバナンスに関する実用的ガイダン スはありますか? 25

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5つの質問 質問5:エージェントAIをガバナンスする実用 的ガイダンスは? エージェン トへの介入 質問1:現在のエージェントAIの能力は? GAIAなど各種ベンチマークが存在 介入技術の 開発 測定結果公表は 2024年末まで 実装 おしなべて低水準 エージェント AIをガバナン スする手段 エージェントAI 質問4:適応に向けた各方面への論考は? 産業構造とビジ ネスプロセス 持続可能性 と環境 組織の意思決定 と職場文化 現在のエージェン トAIの能力 適応に向けた 論考 質問2:本質的課題は何か? 本質的課題 情報の非対称性 考えられるリス ク 社会的信頼と 情報完全性 忠誠心 質問3:どのようなリスクが考えられるか? 脅威とリスク 信頼と説明 可能性 セキュリティと プライバシー 権限 委託

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質問1:現在のエージェントAIの能力は? 様々なベンチマークによりエージェントAIのパフォーマンスが測定されている(2024年12月現在) ベンチマーク ベンチマークの内容 性能 汎用AIアシスタント (GAIA)(Mialon et al. 2023) 日常的なタスク、科学、一般知識な ど、現実世界のアシスタントのユー スケースをカバーする質問が含まれ ている。 人間の精度は92%で、GPT-4でのパフォーマンス(15%)をは るかに上回り、エージェントAIは複雑な複数ステップのタスクで は全く機能しなかった。 METR自律性能力評 価(2024) サイバーセキュリティ、ソフトウェ アエンジニアリング、機械学習のス キルを評価する。 エージェントは、約30分かかるタスクでは人間と同等のパ フォーマンスを発揮した。しかし、1時間以上の作業時間を要す るタスクの完了率は20%未満であった。 REベンチ (Wijk et al. 2024) エージェントが経験豊富なAI研究開発 研究者の作業を自動化する能力があ るかを評価する。 エージェントは、2時間のタスクでは人間を上回った。他方、人 間はより長い時間枠で優れたパフォーマンスを発揮し、8時間で は人間がわずかに上回り、32時間では人間はエージェントのパ フォーマンスの2倍になった。 Cyベンチ(Zhang et al. 2024) プロフェッショナルレベルのサイ バーセキュリティ能力を評価する。 エージェントは、人間が解決するのにかかる時間が短いタスクで は成功したが、人間のチームが完了するのに11分以上かかるタ スクには苦戦した。 SWEベンチ検証済み (Yang et al. 2024) GitHubの課題から抽出して、実際の ソフトウェアエンジニアリングの問 題対応能力を評価する。 人間が解決するのに1時間以上かかる問題では、エージェントの パフォーマンスは劇的に低下した(タスクの複雑さが増すにつれ て、20.8% → 4.8%(人間が1~4時間かかるタスク) → 0%(人間が 4時間以上かかるタスク))。 Webアリーナ (S. Zhou et al. 2024) エージェントがウェブサイトをナビ ゲートして情報を抽出してくる方法 を評価する。 GPT-4ベースのエージェントでも成功率はわずか14.41%であっ た。一方、人間のパフォーマンスは78.24%であった。 27

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表の解説 • エージェントAI向けベンチマークによる測定結果(2024年12月 時点)からは、GPT-4レベルを使用しても、エージェントAI が 有利な領域はかなり限定される印象である。 • 特に、長時間を要する作業、複雑で精密な作業が弱い。 • これは、GPT-4を含む現在のLLMが、複雑なタスクを成功させ るために必要な、能動的探索や障害回復といった機能が欠けて いる(あるいは不充分である)からである。 • 但し、最近のLLMは、エージェントAI向けを意識して推論機能 などキーになる機能が急激に拡充されている。 • 従って、従来のエージェントAI向けベンチマークによる測定結 果に拘るのはあまり適切ではないかもしれない。 • このような判断の元に、エージェントAIの活用を急ぐ場合には、 相対的にエージェントAI向きの形態から着手する必要がある。 28

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質問2:本質的課題は何か? エージェントAIにおける目標設定の例からの考察 • 本質的課題を探るため、やや荒唐無稽な下記目標を考える。 • 設定目標:「わずか10万ドルの投資で、数か月で小売ウェブプラット フォームで100万ドルを稼ぐようにして下さい」 • このような目標が指示された場合エージェントが悩む項目は多数ある。 • 自分は利益を上げるために任意のウェブプラットフォームを利用する 権限が与えられているのだろうか? • 自分の行動は暗黙の制約が課されているのだろうか? • 活動に関する情報をユーザーに提供したり、定期的にユーザーの同意 を求めたりする必要があるのか? • 特定の活動の他エージェント(人間またはAI)への委任ができるのか? • エージェントが倫理的かつ安全に動作していることをユーザーはどの ようにして監視するのだろうか? • 被害が発生した場合、誰が責任を負うのだろうか? 29

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本質的と思われる課題の例 • 先の文脈から、ここでは代表的課題を次の4点に絞る。 項目 情報の非対 称性 権限 忠誠心 委託 内容 • エージェントAIは人間(ユーザー)がアクセスでき ない情報にアクセスできる場合があり、人間(ユー ザー)を脆弱な立場に置く可能性はないか? • エージェントAIは与えられた指示をどのように解 釈し行動するか? • エージェントAIはユーザーにとって最善の利益の ために行動し、適切な場合にはユーザーの同意を 求めると保証できるか? • エージェントAIが他エージェント(人間またはAI) に活動を委託する状況と、その状況において適用 される規則はどのようなものか? 30

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表の解説 情報の非対称性 • エージェントAIの利用を検討している個人や組織にとって、導入 前にその能力や限界に関する取得情報は限られており、特に導入 が新しい環境やアプリケーションである場合はなおさらである。 • また、汎用的AIパーソナルアシスタントが顧客向けの個別ビジネ スタスクに対応できるかどうかを事前に判断するのは難しい。 権限 • 事例に上げた例では、エージェントAIがどのように利益を上げる べきかについての指示がほとんどない。このような場合、エー ジェントAIは、定められた目標を達成するために裁量権を行使し なければならない。 • 裁量権の必要性が認められ、一定の規則は制定されると思われる が、その場合でも本人が何を望んでいるのかを合理的に推論する ための本人の表明の解釈が必要になる。これはかなり難しい。 31

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表の解説(続) 忠誠心 • エージェントAIは、人間の場合のようには、自己利益を追求した りしないが、ユーザーを欺いたり誠実に行動しないことはある。 • 例えば、エージェントAIは(ユーザーが要求していない)トレーニ ングを受けたり、目的とは無関係にユーザー情報の利用を行う可 能性がある。 委託 • AutoGPTはタスクの実行を支援する追加AIエージェントを作成し、 それにタスクの一部を委託することができる。今後のエージェン トAIシステムでも同様の機能を保有する可能性が高い。 • こうして登場した追加AIエージェントも含めて、各エージェント 間で相互に複雑な関係性が発生する。これらの間でも情報の非対 称性、権限、忠義心のような問題が発生する。 32

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これらの課題への対応策に関する考察 • 次のような考慮事項も考えられる。 インセンティブ設計 • エージェントAIは人間と異なり利己心もないし、成果報酬も効かない。 • エージェントAI自身のリソースを気にするようにプログラムすることは できるだろうが、そうすると他者のために働く際利益相反を生み出す。 • 問題は動機付けではなく能力である場合も多い。そもそも課題が学習 データの範囲外の場合、損害が発生する可能性がある。 モニタリング • 監視するにはコストがかかり、且つ、依頼側がそのための専門スキルを 持たないことが多い(だから、エージェントに頼んでいる)。 • 高度なエージェントAIは超人的速度と規模で動作するので、監視コスト は一層高くなる。一つの案はエージェントAIの監視のために追加のAI エージェントを配置することである。 33

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質問3:どのようなリスクが考えられるか? エージェントAIシステムのリスク • エージェントAIシステムは質問2で検討した本質的課題とは別 に、技術面でも様々な課題をもたらす。 • 非線形で不透明な意思決定を行う可能性があり、失敗、バイアス、 意図しない結果が発生するリスクがある。 • 従来の評価や安全性フレームワークでは充分でなく、信頼、リス ク、セキュリティを統合した新たなパラダイムが必要になる。 • それには、説明可能性、安全なオーケストレーション、ライフサ イクルレベルのプライバシー管理のような側面も包含が必要であ る。 • 以下に2点を述べる。 エージェントAIシステムのリスクに関するケーススタディ エージェントAIシステムの新たなパラダイム構築に向けた枠組み 34

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エージェントAIシステムにおけるリスク関連のケーススタディ 実際に研究レベルで発生した具体的例を述べる。 ケース タイトル プロンプトの漏洩 1 内容 再帰的なプロンプトの拡張と不十分なメモリ制御により、機 密情報が意図せず漏洩し、機密トークンが永続メモリに保存 された結果、その内容が外部ログに表示された。 2 ChatDevでの共謀によ 共有プランニングのエラーが原因で誤った設計情報が伝播し、 る失敗 客観的フィードバックループが存在しなかったため、全エー ジェントで誤った確認のフィードバックが発生した。 3 シミュレーション攻撃 エージェントに誤った環境情報が与えられた結果、空間的な 混雑とタスクの未完了を特徴とする調整の失敗が発生した。 4 チャットボットにおけ 顧客対応エージェントが皮肉なフィードバックを永続フィー るメモリポイズニング ドバックバッファに挿入した結果、これが対話戦略の調整に 利用され、不適切なトーンを生成した。 5 自律記憶エージェント 適切にバージョン管理されていなかったコンテキストメモリ 起因でシステムプロン が原因で、時間の経過とともに、システムプロンプトがドリ プトがドリフト(漂流) フトし始め、目標や意図と一致しない行動が出現した。 35

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表の解説 • 研究者達はエージェントAIがリソースの獲得や自身の複製と いった自律的行為でどう振る舞うかテストし続けてきた。 • エージェントAIシステムはまだ少ないので、研究は初期の顕著 な例であるAutoGPTやChatDevを使った実験が多い。 • ケーススタディ事例からは、エージェントAIシステムの実用化 にはまだ距離があるように感じられる。 • 今後、エージェントAIの信頼性が高まり、より広く利用される ようになれば、新たな社会的、経済的ダイナミクスが生まれる と考えられる。 • このような視点からエージェントAIに特有なリスクを撲滅する 作業を充分に設計する必要性および検討の枠組みが必要である。 • 次頁に新たなパラダイム構築に向けた枠組み例を述べる。 36

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エージェントAIシステムの新たなパラダイム構築に向けた枠組み例 信頼, リスク, セキュリティ管理 脅威とリスク エージェントAIシ ステムの基礎 エージェントAIシス テムと従来型AIエー ジェントの比較 エージェントAIのた めのガバナンス マルチエージェン ト意思決定におけ る説明可能性 LLMベースのエー ジェントAIシステム アーキテクチャ エージェントAIベース のマルチエージェント 固有の脅威ベクトル システムにおける脅威 とリスク 信頼と説明可能性 リスクの分類 ModelOps: LLM エージェントのラ イフサイクル管理 ケーススタディ LLM向けアプリケー ションセキュリティ モデルのプライバ シーとデータ保護 セキュリティとプライバシー 自律エージェン トへの信頼の構 築 指標(メトリクス) 評価指標 プライバシーメカニ ズム 説明可能性技術 プライバシー保護 人間中心の 評価指標 信頼性指標 解釈可能性と説 明可能性の指標 新たな複合 ベンチマークと データセット 指標 コンプライアンスとガバナンス 37

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質問4:適応に向けた各方面での論考 特定方面へのエージェントAI適応に向けた論考を4件、以下に述べる。 ① 産業構造とビジネスプロセスの再定義 (Hughes論文内の寄稿2) • 企業内の各プロセスの自動化は人的資源の必要性を低下させる。 • これは管理者によるインプットの機会も減少させ、様々な階層にお ける監督も減少して階層構造は縮小する。 • 階層構造が縮小すれば組織構造はよりフラット化され、組織内のプ リンシパル・エージェンシー問題も軽減する可能性がある。 • プリンシパル・エージェンシー問題:依頼人(プリンシパル)と代理人(エージェン ト)の関係において、エージェントがプリンシパルの利益に反して自己の利益を優先す る行動をとってしまう問題 • そして、俊敏性を高めた構造に移行できれば、組織構造は機能別サ イロを超えて流動化が進む。 • 即ち、組織のニーズ、個々の貢献者(人あるいはAI)のプロジェクト 負荷、成果を達成するために必要なスキルに基づいて動的チーム編 成が可能になり、産業構造やビジネスプロセスは大きく変化する。 38

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② 組織内の意思決定および職場文化への影響 (Hughes論文内の寄稿4) • エージェントAIは組織の意思決定に革命をもたらし、管理者は戦 略的意思決定に集中できる可能性がある。 • 各種ERPシステムと統合されたエージェントAIは、財務、人事、 営業、その他全体に渡るデータ主導型の意思決定を強化できる。 • エージェントAIを組織環境に統合することで、共通の価値観、規 範、基準に影響を与え、職場文化の再構築が可能になる。 • しかし、エージェントAIシステムの導入が既存組織文化や慣行と 整合しない場合、経営陣による拒否、ワークフローの中断、従業 員間の対立、最終的には導入の失敗につながる。 • エージェントAIシステムは各種の利点があるものの、逆に対人的 関係性や文化的認知に悪影響を及ぼし、人間主導の文化的結束を 弱める危険性がある。 39

40.

③ 持続可能性と環境への影響 (Hughes論文内の寄稿6) • エージェントAIの最も有望な側面は持続可能性をプログラム化し実 行できる能力にある。 • 複雑な動機、相互作用によって行動が左右される人間とは異なり、 エージェントAIは意思決定プロセスにおける環境への配慮を優先す るように明示的に設計できる。 • その一方、エージェントAI活用が環境への影響を甚大にする可能性 もある。 • 最大の懸念事項は複雑なモデルの学習と運用に莫大なエネルギーが かかることである。 • エージェントAIの利点と環境への配慮を両立させるには、1) 意思決 定プロセスでの環境への配慮を明示的にプログラム、2) エージェン トを連携させることなどでリソースの利用を最適化(極小化)、3) 実 行タスクに小型でシンプルなモデルの活用、などが考えられる。 40

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④ 社会的信頼と情報の完全性 (Hughes論文内の寄稿9) • エージェントAIシステムは責任ある利用が確保できるように、多様 性と包摂性に悪影響を及ぼすバイアスを軽減するよう設計されなけ ればならない。 • 直接的監督を限定し、複雑な目標を追求できるAIシステムは倫理的 かつ責任ある方法で社会に統合できれば効果的で使い易い。 • しかし、エージェントAIシステムが社会、文化、経済にますます深 く根付くに連れて、社会の信頼と情報の完全性を守り維持するため の扱い易いモデルとの共創が重要になる。 • 懸念事項の一つは不透明な意思決定プロセス、独立した説明責任と 監査可能性の欠如によって社会の信頼が損なわれることである。 • オープン性と透明性が信頼と効果的ガバナンスに不可欠である。 • 多くのエージェントAIシステムはブラックボックスとして機能して おり、エンドユーザーにとってアクセスは殆ど不可能な状態にある。 41

42.

質問5:エージェントAIをガバナンスする実用的ガイダンスは? エージェントAIのガバナンス • エージェントAIガバナンスにおける喫緊の課題は、エージェン ト介入、すなわち、「エージェントに関連するリスクの防止、 軽減、あるいは管理のために設計された対策、実践やその実施 メカニズム」を開発することである。 • 次のような課題が背景にある: • ますます自律的かつ複雑化するエージェントのパフォーマンスと関連 リスクを、どのように効果的に監視・評価できるか? • エージェントが説明責任を維持しながら安全かつ透明性のある運用を 確保できるようにするには、どのような技術的、法的、および政策に 基づく介入を実施すべきか? • 介入によって達成できるガバナンス成果の概要と分類表を次頁 に示す。 42

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エージェント介入の分類 カテゴリー 定義 介入の例 整合 エージェントAIシステムが特定の主体の価値観、 • マルチエージェントの強化学習 意図、および利益と一致する方法で動作するこ • エージェントのリスク対応の整合 とを保証し、これらのシステムが実際に十分に • 整合評価 整合しているという信頼を確立する。 制御 エージェントAIシステムの行動を制限し、事前 に定義された境界内で動作するようにする。こ れには、エージェントが有害な行動を実行する ことを防ぐ措置も含まれる。 可視性 エージェントAI システムの動作、機能、アク • アクティビティログ ションを人間が理解し、観察できるようにする。 • 協力に関連する能力評価 セキュリ ティと堅牢 性 エージェントAIシステムをさまざまな外部脅威 • アクセス制御 から保護し、データの整合性と機密性を保護し、 • 敵対的攻撃に対する堅牢性テスト 悪条件下でも信頼性の高いパフォーマンスを確 • 適応型防御のための迅速な対応 保する。 社会統合 不平等、権力の集中、説明責任構造の確立など • エージェントAIの責任制度 の問題に対処しながら、既存の社会的、政治的、 • 公平なエージェントアクセススキーム 経済的システムへの主体の長期的な統合を支援 • 法を遵守するエージェントAIの開発 する。 • シャットダウンおよび中断メカニズム • 特定のエージェントアクションとツールの使 用の制限 • 制御プロトコルと評価 43

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ガバナンスのための介入の開発と実施方法 • エージェントAIガバナンスに関する問題の探求と関連する介入 策の開発は初期段階にある。 • これらの課題に積極的に取り組んでいるのは、主にNPO、公的 研究機関、最先端のAI企業の少数の研究者が中心である。 • 現在提案されている介入策の多くは、実証済みの解決策という よりは理論的な概念として存在している段階にある。 • 但し、介入がなければ、エージェントAIは不正なトランザク ションの実行、想定外の行動などにより意図しない結果を引き 起こす可能性がある。 • また、エージェントAIの開発と利用に伴う利害関係を考慮する と、技術的介入と政策的介入の両方が必要になる。 44

45.

エージェントAI利用時のガバナンスの包括的解説(まとめ) • エージェントAIの能力は不充分であり種々のリスクも指摘されている。 • 但し、当面の課題を克服し、急速な普及を予想する意見は多い。 • 従って、懸念される本質的課題や本格的普及途上でのエージェントAIガバナン スの手段等の検討を同時並行で進めるのが望ましい。 • しかし、これらの課題はエージェントAIの普及に合わせて具体的課題が詳細化 されてくる側面もある。 • 現実的には、おそらく、技術進歩の速度と、それに伴って発生する課題への対 応策間にはギャップが発生し、そのギャップはなかなか埋まらず、場合によっ ては拡大することが想定される。 • 例えば、①エージェントAI実現のための技術進歩と、②それを実社会に導入し て問題無いことを保証する技術開発や運用法と、③新たなサービスが普及した 場合の社会的課題(失業など)への対応は一体であり、全ての側面にバランス の取れた解決策を示すのは難しい。 • このような状況に対し真摯に検討する体制に世の中はまだなっていない。当面 は今後の趨勢に注意を払い、今後の処置を温める必要がある。 45

46.

最終まとめ 1. エージェントAIの幅広い普及については様々な課題の存在が予想される が、それらは必ずしも詳らかにされていない。 2. それにも関わらず、大手テック企業が提供するアプリケーションなどを 中心にかなりのAIエージェントが既に大規模に活用されている。 3. 従って、一般企業のビジネスニーズに関わる分野でも、今後エージェン トAIの活用は順次進展して行くと思われる。 4. その際、生成AI登場当初は、ハルシネーションや倫理問題が大きな話題 になったが、今回は(雇用への影響なども含め)これとは比較にならな い位、社会に与えるインパクトは大きいことが予想される。 5. しかし、問題が複雑なだけに、そのような場合の課題や展望に向けた論 考は少ない(後半の質問4で若干の例を取り上げた)。 6. 結局、技術の進歩が早すぎ、社会的影響等への分析と対応は遅延が発生 することが予想される。 46

47.

最終まとめ(続) i. まずは、市場でやや混乱しているAIエージェントとエージェントAIに ついて正確に理解し、達成したいシステムをイメージする。 ii. また、実証研究などで公開されているAIエージェント、エージェント AIのベンチマークによる能力評価、信頼性の水準も理解する。 iii. それにも関わらず、関連技術の進歩は極めて急速なことが予想される ので、大きなトレンドを把握するための努力がいる。 iv. そして、進歩のプロセスが今後10数年(あるいは数十年)続くことを 予想した取組み姿勢を構築することが望ましい。 v. ポイントは結局自ら関心のある目標設定と成果を評価するメトリック スは何かということになるかと思われる。 vi. 今後、関連サービスが順次提供されて来るので、それらを活用しなが ら、理想とする目標達成に向けて、如何に発展途上のエージェントAI システムをガバナンスするスキルを身につけ、適切なフィードバック ループを構築する設計を行うかが有用と思われる。 47

48.

編集後記 • 今回はテーマがテーマなので、arXiv.orgが運営する論文掲載サイト(オープンアクセス、 査読無し)に掲載されたAI、システム科学、経営学関連の論文が中心になった。 • 全て2025年公開論文なのでいずれも論文引用回数は少ない。 • そこで、論文選択は主として論文タイトルと各論文間の引用関係がそれなりに有り、類似 テーマを扱っているかどうかを基準に選んだ。 Johannes • 先頭著者の所属国はリヒテンシュタイン、米国、英国、イスラエル、オーストラリア、カ Schneider リヒテンシュタイン大学 ナダと全て違っていた。 • 役職は教授、準教授、助教が各1名で、全体として若手が多かった。 • 研究論文の著者達なので、大学所属者が多く、生成AI開発の中心地である米国シリコンバ レーなどとの特別なコネクションはなさそうに感じた。 Noam Kolt • 生成AI関連やAI関係の論文はオープンアクセスできることが多いので、arXiv.orgに掲載さ ヘブライ大学 れた公開論文などを中心にして、世界中で同時並行的に研究が推進されていることが感じ (イスラエル) られた。 • 6件の論文中、3件の論文の先頭著者(写真掲載)について若干補足情報を記してみる。J. Schneider教授は既にAI分野で経営学的視点から多数の論文を著している。N. Kolt助教は 所属が法学部&コンピュータサイエンスエンジニアリング学部の両方に所属している。R. Sapkotaはコーネル大学所属だが、学部はインド本国の大学卒でその後米国に来た。 Sapkota • 今後、この分野はarXiv.orgなどをプラットフォームにして世界中の研究者が相互連携で進 Ranjan コーネル大学 展する可能性が高い。地理的条件は関係なさそうだが、英語力が重要になる。 (米国) • arXiv.orgは技術的著名論文が掲載される場という印象が強いが、本稿で紹介したように、 エージェントAIの普及と進化プロセスに関わる経営学的論文もそれなりに掲載されている。 影響範囲が広いテーマなので日本からの参加も期待したい。 48