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January 19, 25
スライド概要
科学研究費補助金(17H00912)による第9回「海外における平安文学」研究会での発表資料です。
「海外源氏情報」 とは、2014年から2017年3月までの約3年半にわたり、科学研究費補助金による研究において運営されていたHPのことで、情報発信と研究成果の公開を行っていました。当該HPは、新規科研の開始にともない、名称の変更が検討されているものの、情報発信と研究成果の公開の場として引き続き運用される予定です。本発表は、当該HPに掲載されていた内容を整理し、特に海外で翻訳・出版された平安文学の情報について紹介したものです。
Presentation materials at the 9th ''Heian literature abroad'' study group funded by Grants-in-Aid for Scientific Research(17H00912).
‘Overseas Genji Information’ refers to the website operated as part of a research project funded by the Scientific Research Grant from 2014 to March 2017, which focused on disseminating information and making research outcomes public. Although the website is currently under consideration for a name change due to the start of a new research project, it is expected to continue functioning as a platform for information dissemination and the publication of research results. This presentation organizes and introduces the content that was posted on the website, with a particular focus on information related to the translation and publication of Heian literature overseas.
第 9 回「海外における平安文学」研究会 発表資料 日時:2017 年 6 月 30 日(金)13:30〜17:00 場所:大阪観光大学 明浄 1 号館 4 階 141 セミナー室 「海外源氏情報」にみる海外で翻訳・出版された平安文学情報 淺川 槙子 1.HP「海外源氏情報」 「海外源氏情報」1とは、2014 年から 2017 年 3 月までの約 3 年半にわたり、科学研究費補助金による研究2 において運営されていた HP のことであり、情報発信と研究成果の公開を行っていた。研究成果には、論文集 『海外平安文学研究ジャーナル』と『日本古典文学翻訳事典』はともに、当該 HP から一般公開された。なお、 下記にあげる(図 1)は当該 HP のトップ画面であり、大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究 資料館が所蔵し、オープンデータとして公開している『源氏物語団扇画帖』「若紫」3を加工したものである。 また、(表 1)には、HP に掲載していた主な項目と内容の概要を挙げている。 当該 HP は、新規科研の開始にともない、名称の変更が検討されているものの、情報発信と研究成果の公開 の場として引き続き運用される予定である。本発表では、当該 HP に掲載されていた内容を整理し、特に海外 で翻訳・出版された平安文学の情報について紹介していく。 (図 1)HP「海外源氏情報」のトップ画面 (表 1)「海外源氏情報」の主な項目と内容の概要 主な項目と内容の概要 1.研究と成果・報告 研究代表者のあいさつ、目的/意義/概要、 本科研による研究の背景、目的、今後の計画、研究組織、本科研 計画のあらまし、研究組織・海外協力者、 の背景となった過去実施された研究についての説明等、当該研究 過去の実績 における全般的な内容が掲載されている。 『海外平安文学ジャーナル 1~6/インド編』 PDF 形式のファイルをダウンロードできるが、2017 年 6 月 29 日現 (2014 年度~2016 年度) 在はダウンロードを停止中である。 研究会報告 全 8 回の研究会とカナダで開催された国際集会、中古文学会での フリースペースについての報告を掲載した。 『日本古典文学翻訳辞典 1/2』 PDF 形式のファイルをダウンロードできるが、2017 年 6 月 29 日現 (2013 年度/2016 年度の報告書) 在はダウンロードを停止中である。 海外源氏情報. http://genjiito.org/.[参照:2019-05-15] 日本学術振興会.科学研究費補助金(基盤研究 A)海外における源氏物語を中心とした平安文学及び各国語翻訳に関する総合 的調査研究(研究代表者伊藤鉄也、課題番号 25244012).https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25244012/[ 参照:2017-05-15] 3『源氏物語団扇画帖』 (請求記号 99-121)[参照:2014-01-10] 1 2 1
2.『源氏物語』情報 翻訳版『源氏物語』 翻訳された『源氏物語』のうち、現在 Web で閲覧できるものの情 報をリンクして紹介をおこなっている。 『源氏物語』翻訳史 『源氏物語』の翻訳書籍の情報を年表形式で掲載している。 『源氏物語』原本データベース 『源氏物語』の写本や版本の画像を確認できるサイトのリストで ある。 現代語訳『源氏物語』年表 明治時代から戦前に出版された『源氏物語』に関する書籍のうち、 現代語訳を掲載している書籍のリストである。 3. 平安文学情報 平安文学翻訳史 各国語に翻訳された『源氏物語』以外の平安文学作品について年 表形式でまとめたものである。 平安文学関連 Web サイト 平安文学・平安時代の文化に関する多彩な情報を掲載している。 4.十帖源氏(『源氏物語』のダイジェスト版) 論文リスト 『十帖源氏』に関する論文のリストを掲載している。 「桐壺」対訳 現代語訳と 10 カ国語での対訳をめざすという計画についての説明 をしている。 各国語版『十帖源氏』 『十帖源氏』 「桐壺」巻を現代語に訳したデータが掲載されている。 2016 年の 11 月にインドで開催された国際集会では、『十帖源氏』 「桐壺」巻の現代語訳をインドで話されている 5 つの言語に翻訳 し、それを題材にシンポジウムを行った。 『十帖源氏』原本データベース 底本である国文学研究資料館蔵『十帖源氏』 (万治 4 年本)の画像 等を確認することができる。 5. 海外・平安文学資料 対訳データベース(グロッサリー) 英訳した『十帖源氏』 「桐壺」のデータを利用したデータベースで ある。母語話者と非母語話者による 2 種類の訳である。 グロッサリー関連リンク グロッサリーに関連したサイトのリンク集である。 6.翻訳参考情報 翻訳参考情報 翻訳に関係した論文、文献、ドキュメント、エッセイ等を広く紹 介している。 海外タイトル一覧表 2. 海外で発行された平安文学作品のタイトル一覧表である。 「海外源氏情報」にみる平安文学情報 (1)『源氏物語』翻訳史年表と「平安文学翻訳史年表」の作成 当該 HP における主な平安文学情報とは、海外で翻訳・出版された平安文学作品に関するものである。その 中には『源氏物語』も含まれるが、翻訳・出版された書籍の数が多いことから、当該作品情報は、 『源氏物語』 翻訳史年表に掲載し、それ以外の作品情報は「平安文学翻訳史年表」4に情報を掲載してきた。現在は当該年 表に 581 件のデータが掲載されている。これらのデータには、過去の科学研究費補助金による研究成果から引 4 海外源氏情報.平安文学翻訳史年表.https://genjiito.org/heian_ltrt/heian_history/[参照:2019-05-15] 2
き継いできたデータ5も含むが、その場合は掲載項目を変更したうえで HP に改めて掲載している。 翻訳された平安文学作品の情報は、書籍化されている「日本文学翻訳史年表(1904~2000 年) 」6、そのほか インターネット上の情報では、CiNii 7 、国立国会図書館 OPAC 8 、日本文学翻訳作品データベース 9 、Index Translationum: UNESCO Culture Sector10 等のサイトで、平安文学作品を検索して該当する作品のデータを 収集して掲載を行った。なお、書籍の現物が確認できる場合は、扉や前書きに出版情報が掲載されていること が多いため、そちらも参照した。しかし、書籍の再版および重版に関する情報は、主にインターネット上の情 報をもとに調査することが多かった。そのような調査結果は、『源氏物語』翻訳史年表および平安文学翻訳史 年表の掲載項目にあわせて掲載し、修正・追加を行っている。 以下、HP 上で公開されている年表の掲載項目について記載する。 (2)翻訳された言語と作品からわかること ①『源氏物語』の翻訳状況と合致しない場合 このように翻訳された平安文学作品には、どのような作品が存在するのだろうか。たいていの場合、 『源氏物語』の翻訳状況と合致する。例えば、今回の研究会で発表テーマの一つである『とりかへばや物語』 は、英語・ドイツ・フランス・ロシア語に翻訳されており、この 4 言語で翻訳された『源氏物語』も存在する。 しかしその一方で、『源氏物語』が翻訳されておらず、平安文学作品のみが翻訳されている国(言語)も存在 する。ラトビア語訳およびブルガリア語訳『枕草子』、ブルガリア語訳『伊勢物語』がこの場合に該当する。 以下、(表 2)に『源氏物語』の翻訳が存在せず、それ以外の平安文学作品の翻訳が存在する場合の言語 と作品を整理する。なお、各言語の冒頭に記載されている数字は、(図 2)(図 3)の地図に記載した番号と対 応させたものである。最右列には『日本古典文学翻訳事典』における掲載ページ情報を掲載している。 (表 2)『源氏物語』の翻訳が存在しない言語による翻訳書籍 言語 ①ウクライナ 作品名 古今和歌集 翻訳書籍のタイトル З б і р к а старих і нових 刊行年 翻訳事典 1998 年 ナシ 1990 年 p.215 японських пісень : поетична антологія (905-913 рр.) (Zbіrka starix і novix japonskix p іsjen : pojetichna antologіja (905-913 rr.)) ②カタルーニャ 紫式部日記 Diari (出版はスペイ ン) 5 日本学術振興会.科学研究費補助金(基盤研究 B)外国語による日本文学研究文献のデータベース化に関する調査研究 (研究代表者伊藤鉄也、課題番号 15320034).https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15320034/[参照: 2017-05-15]当該研究で成果報告書として刊行された、(1)『海外における源氏物語』(2003 年 12 月)(2)『スペイン語圈にお ける日本文学』(2004 年 9 月)(3)『海外における平安文学』(2015 年 2 月)の 3 冊の報告書に掲載された内容もデータとして集 約している。 6 日本比較文学会編『越境する言の葉 日本比較文学会学会創立六〇周年記念論集』(彩流社、2011 年) 7 国立情報学研究所.Cinii. https://cir.nii.ac.jp/[参照:2017-05-15] 国立国会図書館.https://www.ndl.go.jp/[参照:2017-05-15] 9 独立行政法人国際交流基金.日本文学翻訳作品データベース.https://jltrans-opac.jpf.go.jp/[参照:2017-05-15] 10 UNESCO.Index Translationum: UNESCO Culture Sector .http://www.unesco.org/xtrans/[参照:2017-05-20] 8 3
③スロバキア 古今和歌集 Kokinšú : piesne z Cisárskeho úradu pre poéziu 1998 年 ナシ ④チベット 竹取物語 表記不可(日本語訳はかぐや姫 2002 年 ナシ 1981 年 p.219 2015 年 ナシ 1985 年 p.221 日本の昔話) (出版は中国の チベット自治区) ⑤デンマーク 浜松中納言物語 Evigt elskes kun det tabte: Hamamatsu chunagon monogatari, en japansk roman fra 1000-tallet oversat til dansk af ⑥ブルガリア 伊勢物語 Исе моногатари : любовни етюди : избрано (Ise monogatari : li︠u︡bovni eti︠u︡di : izbrano) 枕草子 Записки под възглавката (Zapiski pod vŭzglavkata) ⑦ベンガル 竹取物語 不明 2010 年 ナシ ⑧ラトビア 枕草子 Priegalvio knyga 2007 年 ナシ ⑨ルーマニア 落窪物語 Frumoasa Otikubo 1986 年 ナシ (出版はインド) 竹取物語 4
(図 2)(表 2)の結果をヨーロッパの地図にあてはめたもの11 (図3) (表 2)の結果をアジアの地図にあてはめたもの12 (表 2)を見ると、圧倒的にヨーロッパの言語による翻訳が多い。なお、ベンガル語については、昨年 11 月にインドで開催された国際集会において、『十帖源氏』 「桐壺」巻が公開され、『海外平安文学研究ジャーナ ルインド編』に本文が掲載されているものの、『源氏物語』の翻訳が存在しないため、このリストに加えたこ とを述べておく。 そもそも、古典文学作品の中では「世界文学」と呼ばれる『源氏物語』が翻訳されていない言語で、『源氏 物語』より知名度が低いと思われる平安文学作品が翻訳されているのはなぜだろうか。これらの作品は、物語、 随筆、日記、和歌と作品のジャンルは異なる。その中でも比較的長い分量を持つ作品は『浜松中納言物語』で あるが、いずれも作品の長さが『源氏物語』よりもはるかに短い。『枕草子』のように比較的短い章段で構成 されている作品や、日記のように執筆年月や内容で区切りやすい作品もある。これらは、一つの物語のように、 前後の内容につながりがなく独立した内容になっている場合も多いため、翻訳者にとっては、全訳にこだわら ず翻訳に取りかかりやすいと推測できる。 ②1 種類の言語により翻訳されている作品 一方、翻訳書籍の側から考えると、複数の言語による翻訳が存在せず、1 種類の言語により翻訳された作品 が存在する。例えば『新撰和歌集』はロシア語訳、 『春記』はフランス語のみ存在する。以下、 (表 3)に 1 種 11 ヨーロッパ.MMG クリエイティブネット無料地図素材.https://www.mmgjapan.jp/images/freemap/mfrab001.jpg[参照: 2017-06-28] 12 アジア. MMG クリエイティブネット無料地図素材.https://www.mmgjapan.jp/images/freemap/mfrae001.jpg[同] 5
類の言語により翻訳された作品を整理する。ただし、英語のみで翻訳されている作品は非常に多いため割愛す る。 (表 3)1 種類の言語により翻訳されている作品(英語訳をのぞく) 言語 作品名 ドイツ 空海僧都伝 翻訳書籍のタイトル 刊行年 翻訳事典 Kôbô Daishi 1943 年 ナシ Jôgû-Kwôtaishi-Bosatsu-Den 2003 年 ナシ 白箸翁伝 ドイツ 上宮太子菩薩伝 ドイツ 増基法師集 タイトルはナシ 1986 年 p.102 ドイツ 本朝無題詩 Japans Kurtisanen: 1997 年 ナシ eine Kulturgeschichte der japanischen Meisterinnen der Unterhaltungskunst und Erotik aus zwölf Jahrhunderten フランス 春記 Notes de l'hiver 1039 Fujiwara no Sukefusa 1994 年 p.58 フランス 春記 Notes journalières de Fujiwara no Sukefusa : 2001 年 ナシ Un malheur absolu 2003 年 ナシ Notes journalières de Fujiwara no Michinaga, 1987 年 p.46 traduction du Shunki フランス 成尋阿闍梨母集 フランス 御堂関白記 ministre à la cour de ※誤植 Heian (995-1018) : traduction du Midô kanpakuki フランス 御堂関白記 Notes journalières de Fujiwara no Michinaga, 1993 年 ナシ 2002 年 p.127 2007 年 ナシ 2001 年 p.124 ministre à la cour de Heian (995-1018) : traduction du Midô kanpakuki ロシア 寛平御時后宮歌合 Диалоги японских поэтов о временах года и любви. Поэтический турнир, проведенный в годы Кампе (889-898) во дворце императрицы ( Dialogi i︠a︡ponskikh poėtov o vremenakh goda i li︠u︡bvi : poeticheskiĭ turnir provedënnyĭ v gody Kampë (889-898) vo dvort︠s︡e imperatrit︠s︡y) ロシア 狭衣物語 Повесть o Сагоромо ; 篁物語 Повесть о Такамура (Povestʹ o Sagoromo ; Povestʹ o Takamura) ロシア 新撰和歌集 Синсэн вакасю составленное японских песен 6 : вновь собрание
(Sinsėn vakasi︠u︡ : vnovʹ sostavlennoe sobranie i︠a︡ponskikh pesen) 翻訳された言語はドイツ語・フランス語・ロシア語の 3 カ国語である。いずれもヨーロッパの言語であり、 これらの言語による『源氏物語』の翻訳も存在する。まず、これらの書籍の刊行年を見てみると、ドイツ語訳 の『空海僧都伝』 、 『白箸翁伝』をのぞくと、1980 年代以降に翻訳されており、極端に古い翻訳が存在しない。 また、各言語に焦点をあてると、ドイツ語に翻訳された作品には、空海や聖徳太子のような特定の人物に関す る伝説等を翻訳したものが目立つ。フランス語に翻訳された作品は、再版を含めて日記が多い。ロシア語に翻 訳された作品は、特に突出した特徴は見られない。当該国に類似した内容の作品や存在する等、文化の比較を するために翻訳が行われたのかもしれない。しかし、今回は、各翻訳書籍の翻訳経緯を確認できなかったため、 明確な分析には至らなかった。 3 まとめ~現状と今後の課題 (表 2)および(表 3)にあるように、翻訳事典のページの欄が「ナシ」となっている作品が多い。翻訳事 典の作成時期に、解題を執筆する作業が間に合わなかった作品もあるものの、現物を確認することが難しく、 解題を作成すること自体が困難な書籍が多々あった。論文と比較すると、デジタルアーカイブ化が進んでおら ず、現物またはそのコピーを入手しないと内容の確認が困難である。そういった現状を解決するために、本科 研では『源氏物語』を含め、平安文学作品の翻訳書籍の収集にもさらに力を入れたいと考えている。 翻訳書籍を収集し、書誌情報から解題を作成することは、翻訳書籍の概要を把握することにつながる。理想 では、翻訳書籍の全ページを日本語による訳し戻しをすることで、その全容が把握できるかもしれないが、現 実には困難である。翻訳に至る経緯は、本文よりも前書きや後書きに書かれていることが多いため、まず、そ ういった箇所を丹念に調査していけば、やがて、その言語や国による翻訳書籍の作品選択に傾向について判明 するかもしれない。そして反対に、翻訳書籍側から翻訳をした言語やその言語が話されている国を考えること で、より研究が広がると考えている。 本科研では、 「海外源氏情報」の内容をさらに充実させた HP の運用に向けて動いている。新たな翻訳書籍の 情報収集も含め、さらに調査・研究を進めていきたい。 謝辞 本発表は、JSPS 科研費 17H00912 の助成を受けたものである。 7