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July 31, 23
スライド概要
2017年度 日本地理学会で使用したスライドです
東京都にある学校の教員です
地方創生に対する高校生の認識 〜システム思考に基づいた授業実践〜 日本地理学会 @筑波大学 2017.03.28 品川女子学院 河合 豊明
1. はじめに 次期学習指導要領に向けた審議まとめ 「地理総合(仮称)」:「地理的な見方・考え方」の習得 「地理探求(仮称)」:「地理的な見方・考え方」を基に, 世界の諸事情の規則性や傾向性などを 系統的に考察することが求められている。
1. はじめに 2016年度 高等部2年地理Bでは 「地方創生」をテーマとした学びを展開 2016年7月 縁あって、前 地方創生担当大臣の石破 茂 氏が講演に。 以後、地域経済分析システム(RESAS)や CARTOを用いて地方の実態を探る授業を 複数回に渡って実践 (2016年秋季大会にて発表@東北大学)
1. はじめに 「地理的な見方・考え方」… 生徒の居住環境・地域によってどの程度異なるか
前任校:広島文教女子大学附属高等学校 きっかけは スプロール と言えば…
現任校:品川女子学院 きっかけは スプロール がピンと来ない
1. はじめに 「地理的な見方・考え方」… 生徒の居住環境・地域によっても異なるのでは? ・都市の居住環境に関する問題 ・地方における人口減少に関する問題 課題解決型学習として取り上げた。
2. 授業の実践 導入:「都市問題」についてのおさらい →小学校・中学校で学習する 「ドーナツ化」と即答。 「ドーナツ化」は、都市化が進行する過程で 郊外の開発が進み、中心市街地と住宅地が離れること。 つまり、都市化に伴って起こる現象であり、 都市で発生している問題ではない。
2. 授業の実践 展開1:インナーシティ問題・スプロール 都市と郊外に分けた上で、居住問題の説明を試みる スプロールの説明をしてもピンと来る生徒が少数 小テスト:用語の意味は理解しているが、 接続性のある問題として説明はできない。
2. 授業の実践 2010年DID(人口集中地区)
2. 授業の実践 2010年DID(人口集中地区) 広島の高校生 (広島文教女子大学附属) 東京の高校生 (品川女子学院) 都心出身 郊外の住宅団地出身 中山間地域出身 ほとんどがDID出身 のバランスが取れている →都市・郊外・中山間地域に対する認識が異なるはず
2. 授業の実践 ということで…改めて 展開1:「都市」の認識を確認 アンケートを実施
2. 授業の実践 ①人口規模 何人以上なら都市? 500万人 :14名 300万人(横浜市):16名 100万人(千葉市):27名 50万人 :1名 35万人(品川区) :3名 20万人(調布市) :1名 10万人(青梅市) :0名 5万人 :1名 1万人 :0名 1万人未満 :0名 500万人 :0名 300万人(横浜市) :0名 100万人(広島市) :15名 50万人 :8名 35万人(安佐両区):13名 20万人(東広島市):23名 10万人(廿日市市):8名 5万人 :1名 1万人 :1名 一万人未満 :0名 品女生(東京) 文教生(広島)
2. 授業の実践 ②公共施設 何があれば都市? 役所 大学 公園 県庁 市議会 図書館 公民館 病院 プール 警察署 福祉施設 公衆トイレ 遊園地 大きな駅 消防署 地下鉄 銀行本店 新幹線が止まる駅 ドーム・アリーナ 区(政令指定都市) 博物館 美術館 自習室 市民プール 総合病院 城 電車 コインパーキング(路肩) 遊園地 図書館 地下鉄 銀行本店 品女生(東京) 文教生(広島)
2. 授業の実践 ③商業施設 何があれば都市? マイバスケット スターバックス 駅ビル デパート ブランド店 宝石店 質屋 有名シェフのレストラン 高級ホテル(品プリとか) 多国籍企業 IT企業 大手企業の本社 ゲームセンター イオンモール デパート コストコ 東急ハンズ 宝石店 カバン屋・靴屋(専門店) 駅前にビジネスホテル 銀行の窓口 アーケード・繁華街 品女生(東京) 文教生(広島)
2. 授業の実践 ④インフラ 何が完備されていれば都市? LEDの街灯 自動改札 都市ガス ガソリンスタンド 公共Wi-fi インターネット光回線 首都高 光ケーブル 4GLTE 有料道路 総合体育館 ライブハウス バスターミナル 緑地/公園 砂防ダム 品女生(東京) 文教生(広島)
2. 授業の実践 展開1:「都市」の認識を確認 →その上で、問題として取り上げる内容を考えさせる。
2. 授業の実践 ⑤都市環境 都市ならではの問題とは? 渋滞 通勤ラッシュ 痴漢 ひったくり ドーナツ化 過密 光化学スモッグ 大気汚染 水質汚濁 帰宅難民 騒音問題 少子化 スプロール現象 通勤ラッシュ ドーナツ化 土地の高騰 大気汚染 水質汚濁 水道水の異臭 騒音問題 インナーシティ問題 品女生(東京) 文教生(広島)
2. 授業の実践 展開2:「農村」の認識を確認 アンケートを実施
2. 授業の実践 ①人口規模 何人以下なら農村? 10万人(伊勢崎市) :4名 10万人 :0名 5万人(富岡市) :18名 5万人(府中町) :0名 3万人(伊豆市) :14名 3万人(海田町) :0名 1万人 :17名 1万人(千代田町) :6名 5000人(奥多摩町) :3名 5000人(高田町) :17名 3000人 :0名 3000人(戸河内町) :11名 1000人 :4名 1000人 :23名 500人 :0名 500人 :3名 100人 :1名 100人 :5名 100人以下 :2名 100人以下 :4名 品女生(東京) 文教生(広島)
2. 授業の実践 ②公共施設 何があれば農村? 道の駅 日曜市場 井戸 自動改札がない駅 コイン精米機 農業用水 無人販売所(野菜・花) 診療所 公民館 農協の朝市 道の駅 ドライブイン 無人駅 墓地 観光農園 無人販売所(野菜・花) 林道・農道 農業用水 品女生(東京) 文教生(広島)
2. 授業の実践 ③景観 どんな景観なら農村? 田畑がある 山と川 軽トラが走っている 視界に高層ビルがない 3階以上の建物がない 虫が多い 人がいない コンビニがない 棚田 見渡す限りの水田 公道をトラクターが走る 家族で田植えをしている 畑で草を燃やしている レトロな看板がある とんどをやっている 日本家屋がある 簡単に川に降りられる 品女生(東京) 文教生(広島)
2. 授業の実践 ④「農村」のインフラ事情は? ATMがない 公共のWi-fiがない 公衆の水洗トイレがない 下水道がない 水道水が井戸水 都市ガスがない 高速道路がない コンビニがない スタバがない 品女生(東京) 信号機がない バスの本数が少ない 公立にスクールバスがある 学校が複式学級 電車でなくて汽車 都市ガスがない 文教生(広島)
2. 授業の実践 展開2:「農村」の認識を確認 →その上で、問題として取り上げる内容を考えさせる。
2. 授業の実践 ⑤居住問題 農村ならではの問題は? 害虫の発生 虫が多い カエルの鳴き声が騒音 車への依存 駅がない 買い物に行くお店がない 深刻な高齢化 除雪 後継者不足 空き巣 空き家が多い 家の老朽化 街灯がない 車がないと生活できない 高齢化 後継者不足 イノシシによる被害 荒れた田畑が多い 仕事の選択肢がない 祭が続けられない 地元に高校がない 中高生が遊ぶ場所がない 品女生(東京) 文教生(広島)
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 授業を通して… 当然ながら、 東京の高校生は「都市」について詳しく、 広島の高校生は「農村」について詳しい。 それだけではなく
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 アンケート結果より…広島の高校生は 都心 郊外 中山間地域 広島の高校生にとってのイメージ: ・生徒自身が郊外に住んでいることが多く、 郊外はより都心に近い存在というイメージが強い。 ・中山間地域・農村を身近に感じられる環境にある。
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 アンケート結果より…東京の高校生は 都心 郊外 中山間地域 東京の高校生にとってのイメージ: ・郊外はより農村に近い存在というイメージが強い。 ・中山間地域・農村を身近に感じられないためか、 中山間地域・農村へのイメージが曖昧。
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 都市問題 都心 農村問題 郊外 中山間地域 インナーシティ問題 ドーナツ化 通勤ラッシュ 大気汚染 騒音問題 スプロール現象 獣害の発生 深刻な高齢化 待機児童 買い物に行くお店がない 働く場所がない 空き家が多い 街灯がない 1つ1つの問題は、どの地域で起こっていることか。 その他の地域と、その問題はどのように関わっているか。
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 Aクラス(33名)には、アンケート結果を公表する前に考察 Bクラス(40名)には、アンケート結果を公表してから考察
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 Aクラス:アンケート結果を公表する前に考察 都心 郊外 中山間地域 インナーシティ スプロール現象 深刻な高齢化 ドーナツ化 獣害の発生 大気汚染 空き家が多い 騒音問題 買い物のお店がない 待機児童 街灯がない 通勤ラッシュ 働く場所がない 各々の問題は、地域内で完結するものと捉えがち
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 Aクラス:アンケート結果を公表する前に考察 各々の問題は、地域内で完結するものと捉えがち RESASのデータを使って、 どこで問題が発生しているかを推測させる。 →どのデータを用いれば、どの問題の説明が できるかが分からない。
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 Bクラス:アンケート結果を公表した後に考察 都心 郊外 中山間地域 インナーシティ スプロール ドーナツ化 通勤ラッシュ ・大気汚染・騒音問題 買い物のお店がない・働く場所がない 深刻な高齢化・獣害の発生 ・空き家が多い 待機児童・街頭がない
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 Bクラス:アンケート結果を公表した後に考察 都心 郊外 中山間地域 インナーシティ スプロール ドーナツ化 各々の問題について、 通勤ラッシュ 地域の枠を超えた”つながり”が考慮できる ・大気汚染・騒音問題 買い物のお店がない・働く場所がない 「地域」を認識したことで、一般化できた 深刻な高齢化・獣害の発生 ・空き家が多い 規則性・傾向性を考慮できる能力の獲得 待機児童・街頭がない
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 RESASのデータを使って、 どこで問題が発生しているかを推測させる。 都心 郊外 中山間地域 インナーシティ スプロール ドーナツ化 通勤ラッシュ ・大気汚染・騒音問題 →地域間のつながりが明確に理解できているので、 「人の流動に関するデータを提示すると、 これらの問題について説明できる」ことが分かる
3. 「地理的な見方・考え方」への居住環境による影響 1つの問題を論理的に説明できる力=論理的思考力 複数の絡み合った問題を図示して説明できる力 =システム思考 「世界の諸事情の規則性や傾向性」
4. まとめ アンケート結果より…生徒の居住環境・地域によって 都心 郊外 中山間地域 ●都市・郊外・農村のイメージが大きく異なる。 ●地域をいかに身近に感じられる環境にあるかが、 地域の諸問題解決につながるかに影響を及ぼす。
4. まとめ ●他地域に暮らす人が持つ「地域のイメージ」と 対比させ、イメージをより一般化することで… →地域の枠を超えた問題解決につながる →説明にどのデータを用いることが適切か RESASをデータ探索に用いる授業が可能 →論理的思考力を超えた、 システム思考の獲得につながる