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October 18, 26
スライド概要
第31回日本薬剤疫学会学術総会
チュートリアル1 薬剤疫学研究のhot topic
2026年10月16日
https://doi.org/10.3820/jjpe.30.e3
https://doi.org/10.3820/jjpe.30.e4
https://doi.org/10.3820/jjpe.31.e3
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻薬剤疫学分野 講師
第31 回日本薬剤疫学会学術総会 2026 年10 月16 日 チュートリアル 1 薬剤疫学研究のhot topic Target Trial Emulation 深澤 俊貴 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 薬剤疫学分野 1
利益相反 過去1年間の開示(日本薬剤疫学会の規程に基づく) • 研究費:アストラゼネカ株式会社 • コンサルティング料:旭化成セラピューティクス株式会社、 株式会社JMDC MSD 株式会社、 2
経歴 学位 2017 年 学士(薬科学) 慶應義塾大学薬学部薬科学科 2019 年 修士(薬科学) 慶應義塾大学大学院薬学研究科 2024 年 博士(医学) 京都大学大学院医学研究科 職歴 2019 年 – 2020 年 東北大学病院臨床研究推進センター 助手 2020 年 – 2024 年 京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野・デジタルヘルス学講座 (エーザイ株式会社・協和キリン株式会社との産学共同講座) 特定助教 2024 年 – 2025 年 京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野 特定講師 (アストラゼネカ株式会社との共同研究) 2025 年 – 現在 京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野 講師 兼業(アドバイザー) 旭化成セラピューティクス株式会社、 MSD 株式会社、株式会社 JMDC 3
はじめに(結論を先取りすると) 標的試験エミュレーション( target trial emulation : TTE )は、因果的な問いを明確にし、観察研 究による因果推論の妥当性を高めるためのフレームワーク • 仮想的なランダム化比較試験( RCT)を標的試験として、そのプロトコルを明示し、利用可能な 観察データを用いた設計・解析によって模倣(エミュレート)する • 最大の貢献は、推定する効果を明確にし、結果の解釈と意思決定につなげること • デザインバイアスの回避に役立つが、 • デザインバイアス:不死時間( それ自体でデータバイアスを排除するものではない immortal time )を生じる選択バイアスや誤分類バイアスなど • データバイアス:未測定交絡や測定誤差など • 標的試験エミュレーションは、因果的な問いに向き合う疫学者をより妥当な推論へと導く 4
RCTの実施上の制約と観察データによる TTE の意義 • 介入の有効性・安全性に関する因果的な問いに答えるには、適切に設計・実施された RCTが理想 • ただし、倫理・費用・実施体制の制約や長期追跡の必要性から、実施が難しい場合も多い • RCTだけでは答えきれない臨床疑問や、迅速な判断を要する公衆衛生上の課題に対して、観察研 究が重要な役割を担う • 一方、観察研究による効果推定には、次のバイアスが生じうる • 治療割付がランダム化されていないことによる交絡 • 不適切な研究デザインによる選択バイアスや誤分類バイアス(不死時間を生じうる) • 因果的な問いを明確にし、適切な設計・解析を支える枠組みとして、 TTE が注目されている 5
TTE の起源と発展 • 20 世紀半ば:統計学・計量経済学で、標的試験につながる考え方が登場 • 1986 年: Robins が、持続的治療戦略を扱う反事実理論を定式化し、 g-methods の基盤を提示 • 2016 年: Hernán と Robins が、標的試験のプロトコルを特定し、観察データでエミュレートする フレームワークを体系的に提示 Am J Epidemiol . 2016;183(8):758 -764. Hernán MA, et al. Ann Intern Med . 2025;178(3):402 -407. Hernán MA, Robins JM. 6
TTE の手順( 2ステップ) ステップ 1:標的試験の特定( point at the target ) • 因果的な問いに答える 仮想的なプラグマティック RCT(標的試験)のプロトコルを 明示する 1. 適格基準 2. 治療戦略 3. 治療割付 4. アウトカム 因果的な推定対象( causal estimand ) 5. 追跡 6. 因果的な対比 7. 識別仮定 8. 解析方法 ステップ 2:観察データでの エミュレーション ( shoot the target ) • プロトコルの各構成要素を観察データに対応づけ、それに沿って解析する 7
標的試験 • 標的試験は、利用可能な観察データで合理的にエミュレートできる仮想的な RCT • ステップ 1のプロトコルの特定とステップ 2のエミュレーションを反復し、研究目的に照らし て、当初の因果的な問いとデータの制約との間で許容できる妥協点を探る • この過程を通じて、観察研究でも因果的な問いを明確に定義したうえで、それに対応する効果 を推定する枠組みを保つ • エミュレートできる試験は、データによって制約される • 観察データでは、プラセボ対照や治療割付の盲検化のエミュレーションは一般に困難 • モニタリングの頻度やアウトカムの評価方法もデータに即して設定する 8
テセウスの船 一つひとつ置き換えた先で、 答えたい問いは保たれているか 船の部材を少しずつ置き換えても、 それは同じ船といえるだろうか 標的試験を観察データで模倣する際も、 何を変え、何を保ったのかを振り返る その違いを踏まえても、 当初の問いに答えられるだろうか 図:演者作成( ChatGPT 使用) 9
TTE の普及 Desai RJ, et al. BMJ . 2024;384:e076460. Cashin AG, et al. JAMA. 2025;334(12):1084 -1093. 10
TTE の日本語解説 • 鍵村 達夫先生から機会をいただき、日本薬剤疫学会の編集委員として 『 標的試験エミュレーショ ン:観察研究における因果推論の新たなパラダイム 』 を企画( DOI : 10.3820/jjpe.30.e3 ) • 標的試験エミュレーションの理論と実践を、日本語で体系的かつ詳しく解説 • 第1弾:標的試験エミュレーション:観察研究における因果推論を強化するためのフレームワー ク( DOI : 10.3820/jjpe.30.e4 ) • 第2弾:標的試験エミュレーションによる不死時間への対処:逐次試験エミュレーションと Clone -Censor -Weight 法( DOI : 10.3820/jjpe.31.e3 ) 11
TTE の日本語解説 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2025;30(2):53 -73. 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2026;31(1):31 -45. 12
TTE の適用事例:デノスマブ研究 • 骨粗鬆症を併存する維持透析患者 を対象に、 デノスマブと経口ビスホスホネート と骨折予防効果を比較した観察研究 の心血管安全性 • DeSCヘルスケア株式会社が提供する 2014 年4月1日~2022 年10 月31 日のレセプトデータを使用 • 組合管掌健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度の保険者から収集されたデータ • 本論文のMethods Editor は、 TTEの提唱者である Miguel Hernán 教授 Masuda S , et al . Ann Intern Med . 2025;178(2):167 -176. 13
デノスマブ研究への社会的反響 14
デノスマブ研究の背景 • 桝田 崇一郎先生(整形外科医、当時は医師 12 年目の大学院生)が立案 • 透析患者では、骨粗鬆症治療薬の選択に課題がある • ビスホスホネート:腎排泄性で、高度腎機能低下では使用に制約 • デノスマブ:腎排泄に依存しないが、重度の低 Ca血症に注意 • 透析患者における骨折予防効果・心血管安全性のエビデンスは限られていた • 小規模なRCTはあるが、システマティックレビューでも骨折予防効果は不確実 Iseri K, et al. J Bone Miner Res . 2019;34(6):1014 -1024. Hara T , et al. Cochrane Database Syst Rev . 2021;7(7):CD013424. • 米国の65 歳以上の女性透析患者では、重度の低 Ca血症の12 週間累積発生率は、デノスマブ群 41.1% 、経口ビスホスホネート群 2.0 % Bird ST, et al. JAMA. 2024;331(6):491 -499. • 日本は人口当たりの透析患者数が多く、複数の公的医療保険制度をカバーする が利用可能であった DeSCデータベース 15
標的試験のプロトコルの構成要素 1. 適格基準 2. 治療戦略 3. 治療割付 因果的な推定対象( causal estimand ) 4. アウトカム 5. 追跡 6. 因果的な対比 7. 識別仮定 8. 解析方法 16
デノスマブ研究の適格基準 標的試験の特定 標的試験のエミュレーション 選択基準: (1) 2015 年4月1日–2021 年10 月31 日の間に、日本国内 で骨粗鬆症と診断された 50 歳以上の患者 (2) 90 日以上の維持透析歴 選択基準: (1) –(2) 標的試験と同じ 除外基準: (1) 追跡開始以前に悪性腫瘍、骨巨細胞腫、または骨パ ジェット病の既往 (2) 追跡開始以前に腎移植の既往 (3) 追跡開始の前日までにデノスマブまたは経口・静注 ビスホスホネートの使用歴 (4) 追跡開始日にデノスマブと経口ビスホスホネートを 併用 (5) 追跡開始以前の90 日間に急性心筋梗塞、脳卒中、 または心不全で入院 除外基準: (1) –(3) 標的試験と同じ( データベース内で遡及可能な 限りの期間において判定 ) (4) –(5) 標的試験と同じ (6) 追跡開始以前のデータベースへの登録期間が 365 日 未満の患者 17
適格基準のエミュレーション • 標的試験の適格基準(選択基準・除外基準)を観察データに対応づけ、適用する • データの構造・収集方法・限界を踏まえ、各基準をどこまで正確に判定できるかを確認する • 標的試験と同じ基準で対象者を選べるか、相違があればその影響を検討する • 適格基準の設定・適用は、内的妥当性と外的妥当性に関わる • 内的妥当性:適格性を適切な時点で判定し、対象者選択に伴うバイアスを避ける • 外的妥当性:対象集団の特性を踏まえ、結果をどの集団に適用できるかを検討する 18
一般化可能性( generalizability )と移送可能性( • 研究標本( study sample target population )から標的集団( transportability ) )への結果の適用 • 一般化可能性:研究標本全体が標的集団に含まれる場合 • 移送可能性:研究標本と標的集団が部分的に重なる、または重ならない場合 • 効果修飾因子の分布が異なると、集団間で効果も異なりうる • データベースや適格基準の選択では、この分布の違いを考慮する • 必要に応じて、両集団の情報を用いた標準化・重み付けを検討する 一般化可能性 研究標本を含む より大きな集団への 一般化 研究標本 移送可能性 別の集団への 移送 井上 浩輔, 他. 医学研究のための因果推論レクチャー . 医学書院. 2024. 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2025;30(2):53 -73. 19
標的試験のプロトコルの構成要素 1. 適格基準 2. 治療戦略 3. 治療割付 因果的な推定対象( causal estimand ) 4. アウトカム 5. 追跡 6. 因果的な対比 7. 識別仮定 8. 解析方法 20
デノスマブ研究の治療戦略 標的試験の特定 (1) デノスマブ 60 mg の皮下投与の開始 (2) 経口ビスホスホネートの開始 開始後の治療期間の決定は、臨床医の裁量に委ねる 標的試験のエミュレーション 標的試験と同じ(調剤記録に基づいて治療開始を定 義) • 本研究では、 ベースラインでの治療開始を比較し、その後の治療は規定しない時間固定治療 ( time -fixed treatments ) を扱った • 時間依存性治療( time -varying treatments )の per -protocol 効果の推定では、静的・動的戦略と も、アドヒアランスの把握と時間依存性交絡への対処が一般に必要 • 過去の治療がその後の交絡変数に影響する場合(治療・交絡変数フィードバック: confounder feedback )、一般に g -methods による調整が必要 treatment - • 例:ビスホスホネート治療が骨密度に影響し、その骨密度が以後の治療継続・中止と骨折リス クに影響する • 必要な交絡変数が十分に測定されていなければ、 g -methods でも妥当な効果推定は困難 21
治療戦略の種類 • 時間固定治療( time -fixed treatments )/単一時点の介入( point interventions ) :単一時点 の治療を定め、その後の治療は規定しない。単回のワクチン接種、外科的処置、治療開始の比較 など • 時間依存性治療( time -varying treatments ) :時間とともに変わりうる治療。複数の時点にわ たる治療を定めた持続的治療戦略( sustained treatment strategies )を比較する • 静的治療戦略( static treatment strategies ) :個人の特性や臨床経過によらず、各時点の治 療を定める(例:継続、非実施、一定期間のみ実施)。副作用が生じても継続するなど、非現 実的な設定になりうる • 動的治療戦略( dynamic treatment strategies ) :個人の特性や臨床経過に応じて、各時点の 治療を決めるルールを定める(例:副作用が生じたら中止し、それ以外は継続)。ルールに 沿った中止は、戦略からの逸脱ではない 22
時間依存性治療のエミュレーション • Per-protocol 効果の推定には、ベースラインの交絡に加え、アドヒアランスに関連する時間依存 性交絡への対処が一般に必要 • 対処法の例:戦略逸脱時の人工的な打ち切りと、打ち切りの逆確率重み付け( probability of censoring weighting : IPCW )による 2ステップ inverse 1. 治療戦略から初めて逸脱した時点で、解析上の追跡を打ち切る • ただし、動的戦略のルールに沿う中止(例:副作用発現時の中止)は逸脱とせず、追跡を 継続する 2. 打ち切りに伴う選択バイアスに、 IPCW で対処する • アドヒアランスに関連するベースラインおよび追跡中の予後因子の履歴を用いて、各時点 の重みを算出する 23
IPCW による不完全なアドヒアランスへの対処 時点2で治療戦略から逸脱した人を 人工的に打ち切る 逸脱が予後因子Lに依存すると、選 択バイアスが生じうる L= 0 L:治療戦略からの逸脱とアウトカム L= 1 発生に関連する予後因子 時点1 時点2 必要な仮定の下で、全員が治療戦略を遵守した場合の アウトカム分布を推定できるよう重み付け( IPCW ) :打ち切られない確率 1/2 → 逆数の 2 で重み付け :打ち切られない確率 2/3 → 逆数の 3/2 で重み付け 時点2 24
標的試験のプロトコルの構成要素 1. 適格基準 2. 治療戦略 3. 治療割付 因果的な推定対象( causal estimand ) 4. アウトカム 5. 追跡 6. 因果的な対比 7. 識別仮定 8. 解析方法 25
デノスマブ研究の治療割付 標的試験の特定 患者は非盲検下でベースライン時にいずれかの治療戦 略にランダムに割り付けられる 標的試験のエミュレーション 観察された治療開始に基づいて患者を各戦略に分類 し、測定したベースライン共変量で条件付けた交換可 能性を仮定した • 条件付き交換可能性( conditional exchangeability し、 逆確率重み付け( inverse probability weighting エミュレートした ) と 治療確率モデルの正しい特定 を仮定 : IPW )による交絡調整 でランダム割付を • 既報と専門的知見に基づき、 modified disjunctive cause criterion 共変量を選択した に沿って、以下のベースライン • 人口統計学的特性、追跡開始年、維持透析の種類 • データベース上の初回維持透析からの期間、骨粗鬆症の初回診断からの期間、維持透析と骨粗 鬆症の両条件を初めて満たしてからの期間 • 骨折歴・骨折手術歴、併存疾患、骨粗鬆症治療薬・他の薬剤の使用歴、医療利用 26
治療割付のエミュレーション • ランダム割付のエミュレーションでは、 RCTと観察研究の次の 2点の違いに着目する 1. ベースラインの交絡 • RCT:ランダム化により、比較群間にベースライン交絡がないことが期待される • 観察研究:測定した共変量に条件付けると、治療選択と潜在アウトカムが独立になるとい う、条件付き交換可能性( conditional exchangeability )を仮定する 2. 治療割付確率 • RCT:割付確率は既知(例: 1:1 の単純ランダム化では各群 50 %) • 観察研究: IPW を用いる場合、共変量に基づく治療確率モデルを推定し、その正しい特定を 仮定する 27
共変量の選択:因果 DAG( causal directed acyclic graph ) • 十分な共変量セットの特定には、専門的知見が不可欠 • 因果DAGは、仮定する因果関係を矢印で示し、調整すべき変数・避けるべき変数の検討に用いる • 矢印の向きにたどって同じ変数に戻る経路(例: A→Y→A)は含まない • バックドア基準( backdoor criterion ) :治療 Aの影響を受ける変数を含めず、 Aとアウトカム Y の間のすべてのバックドア経路 を遮断する共変量セットを選ぶ • バックドア経路: Aに入る矢印から始まる、 Aと Yを結ぶ経路 • 仮定した因果構造が正しければ、この基準を満たすセットで条件付き交換可能性が成り立つ。 ただし、実際の因果構造の特定は難しい L A Y 年齢Lがスタチン治療 Aと急性心筋梗塞 Yの共通原因 となるため、 Lを調整する 28
共変量の選択: modified disjunctive cause criterion • 因果DAGの構築が難しい場合にも、専門的知見から調整変数を選ぶ実用的な基準 • 治療前の変数のうち、治療またはアウトカムの原因となる変数を含める • 操作変数( instrumental variables イアスが増幅しうる )と判断できる変数は除く。 調整により未測定交絡によるバ • 例:特定の治療を行う病院までの距離。ただし、治療選択に影響し、治療を介する以外にはア ウトカムと関連しない場合 • 未測定の共通原因を反映する代理変数( proxy variables )は含める • 例:収入が未測定の共通原因なら、職業や居住地域を代理変数の候補とする • この基準を用いても、選択した共変量セットが交絡調整に十分とは限らない 29
交絡調整手法 • 観察研究の交絡調整には、以下のような手法がある • 層別 • 回帰モデリング • 共変量マッチング • 傾向スコアを用いた層別、回帰調整、マッチング、逆確率重み付け( IPW ) • G-methods : parametric g -formula 、 IPW 、構造ネストモデルの g-estimation • 識別には、条件付き交換可能性、因果一致性、条件付き正値性が基本。 法・モデルによって異なる モデリング仮定は、手 • 推定対象を先に定め、データの性質と必要な仮定に応じて手法を選ぶ • 対象集団と、比較する治療戦略を明確にする • マッチングによる対象者の除外や重みの設定で、対象集団が変わりうる • 必要に応じて、同じ推定対象に複数の手法・モデルを用い、モデリング仮定に対する頑健性を検 討する 30
ランダム割付のエミュレーションの評価:ネガティブコントロール • ネガティブコントロールアウトカム( negative control outcome ): 比較する治療戦略の違いによる影響を受けず、本来のアウトカムと類似した交絡構造をもつと考 えられるアウトカム • 想定に反する関連は、未測定交絡などの残存バイアスを示唆する • 関連がなくても、交絡がないことは証明できない • ネガティブコントロールアウトカムの例 • BNT162b2 vs mRNA -1273 : 初回接種後10 日間の症候性COVID -19 (両ワクチン間でリスクの差がないと想定) • 乳がん検診の乳がん死亡への効果: 大腸がん死亡 (検診の影響を受けず、受診行動などの交絡を共有すると想定) • ネガティブコントロール治療( negative control treatment 関心のあるアウトカムに因果的な影響を与えず、 本来の治療と類似した交絡構造をもつと考えられる治療 Lipsitch M, et al. Epidemiology Dickerman BA, et al. ): . 2010;21(3):383 -388. N Engl J Med . 2022;386(2):105 -115. 31
標的試験のプロトコルの構成要素 1. 適格基準 2. 治療戦略 3. 治療割付 因果的な推定対象( causal estimand ) 4. アウトカム 5. 追跡 6. 因果的な対比 7. 識別仮定 8. 解析方法 32
デノスマブ研究のアウトカム 標的試験の特定 標的試験のエミュレーション 安全性のアウトカム: 主要心血管イベント( MACE:急性心筋梗塞、脳卒 中、入院を伴う心不全、または心血管死) 安全性のアウトカム: 標的試験と同じ(診断・医薬品・診療行為コードを用 いたアルゴリズムで操作的に定義) 有効性のアウトカム: 骨折(椎体、股関節、骨盤、大腿、下腿、足首、肩、 上腕、前腕、手首の骨折) 有効性のアウトカム: 標的試験と同じ(診断コード・診療行為コードの組み 合わせで操作的に定義) • MACE : 循環器専門医の知見に基づいて定義 • 国内のバリデーション研究に基づき、心血管死を除く各イベントの陽性的中度はほぼ 想定。心血管死の定義は未検証 100 %と • 骨折: 米国のバリデーション研究と整形外科専門医の知見を踏まえ、日本の診療実態に合わせて 部位別診断コードと特異的な診療行為コードで定義 • 既報に基づき、陽性的中度は 90 %超と想定 33
アウトカムを特定するためのアルゴリズム • レセプトデータや電子カルテデータでは、 アルゴリズムでアウトカムの発生を判定する • 臨床ワークフローと利用可能なデータを踏まえ、診断、診療行為、医薬品処方、検査結果、医 療提供環境などの情報を組み合わせる • アルゴリズムの妥当性は、受診行動、医療アクセス、医療の質、鑑別診断の複雑さ、暫定的な診 断コードの付与などに左右される • バリデーション研究により、感度、特異度、陽性的中度、陰性的中度などを評価することが重要 34
バリデーション研究の一般原則 • 国際薬剤疫学会( International Society for Pharmacoepidemiology デーション研究の一般原則を示した論文 : ISPE)が支持する、バリ • アルゴリズムのバリデーションに関する用語、方法、実務上の留意点を体系化 • 妥当性の評価指標、ゴールドスタンダード、リファレンススタンダード(参照基準)、 模、指標の優先順位、他の集団・データソースへの適用可能性を整理 Ehrenstein V, et al. Am J Epidemiol . 2024;193(11):1612 -1624. 研究規 35
標的試験のプロトコルの構成要素 1. 適格基準 2. 治療戦略 3. 治療割付 因果的な推定対象( causal estimand ) 4. アウトカム 5. 追跡 6. 因果的な対比 7. 識別仮定 8. 解析方法 36
デノスマブ研究の追跡 標的試験の特定 標的試験のエミュレーション 治療割付時点で追跡を開始し、関心のあるアウトカム 調剤記録に基づく治療開始時点で追跡を開始。終了条 の発生、追跡不能、管理的終了(追跡開始から 3年時点 件は標的試験と同じ(追跡不能はデータベースからの または 2022 年10 月31 日)のうち最も早い日に終了 脱落として定義) • 追跡開始( T 0 )は、適格性判定( T elig )および治療割付( T assign )と一致 • 総合効果( total effect )を推定するため、競合イベントが発生した場合、その後は管理的終了ま で、関心のあるアウトカムを解析上「発生なし」として扱った 37
追跡開始と終了 • 追跡開始( T0 )を、適格性判定( Telig )・治療割付( Tassign )とそろえる • 追跡終了と各事象の扱いは、推定対象に応じて定める • 関心のあるアウトカムの発生 • 競合イベント( competing events ): 以後のアウトカム発生を不可能にするイベント(例: 心血管死に対する他の原因による死亡) • 総合効果では、競合イベント後のアウトカムを「発生なし」として扱う • 追跡不能( loss to follow -up ): アウトカムを追跡できなくなること • 追跡の管理的終了( administrative end of follow -up ): 規定の追跡期間の終了日(例: T0 か ら 1年後)と、データソースの観察可能期間の終了日のうち、早い時点 • 観察可能期間は、レセプトデータベースでは保険者・審査支払機関ごと、医療機関データ ベースでは施設ごとの提供データに基づく • 治療戦略からの逸脱の扱い • ITT効果:逸脱を理由に追跡を打ち切らない • Per-protocol 効果:逸脱にも対処(例:人工的に打ち切り、 IPCW で選択バイアスに対処) 38
追跡開始: 3時点を同期させる( T elig = T assign = T 0 ) • 適格性判定( T elig :図の E)、治療割付( とが重要 T assign :図の A)、追跡開始( T 0 )の 3時点をそろえるこ • 3時点のずれにより、選択バイアスや誤分類バイアスが生じうる 選択バイアス Left truncation bias Prevalent user bias 不死時間( immortal time ) 選択により生じる 治療戦略の事後的分類 により生じる Hernán MA, et al. J Clin Epidemiol . 2016;79:70 -75. 39
標的試験のプロトコルの構成要素 1. 適格基準 2. 治療戦略 3. 治療割付 因果的な推定対象( causal estimand ) 4. アウトカム 5. 追跡 6. 因果的な対比 7. 識別仮定 8. 解析方法 40
デノスマブ研究の因果的な対比 標的試験の特定 Intention -to -treat ( ITT )効果 死亡を競合イベントとする総合効果 * 各戦略の3年リスクと、戦略間のリスク差・リスク比を 評価 標的試験のエミュレーション ITT 効果の観察研究におけるアナロジー( analog ) と して、治療開始の効果を評価 競合イベントの扱いとリスク・効果指標は標的試験と 同じ *MACEの解析では心血管死以外の死亡、骨折の解析では全死亡を競合イベントとする • TTEでよく用いられる 2つの因果的な対比 • ITT 効果: 治療戦略への割付効果 • Per -protocol 効果: 全員が割り付けられた治療戦略を遵守した場合の効果 • 観察データでは通常、割付を把握できず、 ITT効果そのものを推定できる状況は限定的 • 本研究では、 ITT 効果の観察研究におけるアナロジーとして、治療開始の効果を推定 • 開始後の治療継続・中止・変更にかかわらず、開始時の治療に基づいて比較 • 総合効果を推定するため、競合イベントが発生した場合、その後は管理的終了まで、関心のある アウトカムを解析上「発生なし」として扱った 41
因果的な対比: RCTにおける ITT 効果 • ITT 効果は、治療戦略への割付効果。 アドヒアランスにかかわらず、割付に基づいて比較する • 解釈上の3つの論点 • 割付に伴う行動変容 :二重盲検などにより、割付が治療以外の経路でアウトカムに影響しなけ れば、全員で治療効果がないとき ITT効果もない。非盲検では、治療自体に効果がなくても行動 変容を通じて ITT効果が生じうる • 必ずしも保守的ではない :効果の個人差やアドヒアランスによっては、 帰無値から離れたり、逆方向になったりしうる per -protocol 効果より • 実臨床の治療効果を反映するとは限らない :その RCTのアドヒアランスパターンに依存し、他 のRCTや臨床現場では異なりうる • 安全性試験や非劣性試験では、 ITT効果のみに依拠することは正当化しにくい。 ランスにより、治療の有害性や臨床的に重要な治療間差を過小評価しうる 不完全なアドヒア 42
因果的な対比: RCTにおける per -protocol 効果 • Per -protocol 効果は、全員が割り付けられた治療戦略を遵守した場合の効果。 受けた場合の効果を知りたい医師・患者に重要 治療を指示どおり • 推定には、治療アドヒアランスと、それに関連するベースライン・追跡中の予後因子の測定・調 整が一般に必要 • 治療・交絡変数フィードバックがある場合、 RCTでも一般に g -methods による調整が必要 • 必要なデータや調整が不十分だと、推定値にバイアスが生じうる 43
因果的な対比:観察研究における ITT 効果と per -protocol 効果 • ITT 効果の観察研究におけるアナロジー:治療開始の効果 • 通常、割付を把握できず、 ITT効果そのものを推定できる状況は限定的 • 治療開始時の交絡を調整し、開始後の継続・中止・変更にかかわらず、開始時の治療に基づい て比較する • Per -protocol 効果の観察研究におけるアナロジー:全員が各治療戦略を遵守した場合の効果 • 治療開始時の交絡に加え、持続的治療戦略では、 RCTと同様にアドヒアランスに関連する追跡 中の予後因子の測定・調整も一般に必要 44
因果的な対比:競合イベントの扱い • 競合イベントとは、関心のあるアウトカムの発生を不可能にするイベント • 例:心血管死をアウトカムとする場合、他の原因による死亡が該当 • 競合イベントの存在下における主な推定対象は、次の 3つ • 複合アウトカムに対する効果 • 総合効果( total effect ) • 制御された直接効果( controlled direct effect ) Young JG, et al. Stat Med . 2020;39(8):1199 -1236. 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2025;30(2):53 -73. 45
因果的な対比:複合アウトカムに対する効果 • 競合イベントをアウトカムの構成要素に含め 、複合アウトカムへの効果を推定する • データの扱いは単純だが、 アウトカムの変更に伴い、推定対象となる因果効果も変わる • 推定値が、関心のあるアウトカムへの効果よりも、競合イベントの発生頻度や、競合イベント に対する治療効果に強く左右される場合がある Young JG, et al. Stat Med . 2020;39(8):1199 -1236. 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2025;30(2):53 -73. 46
因果的な対比:総合効果( total effect ) • 治療戦略からアウトカムへのすべての因果経路を捉える • 競合イベントを介してアウトカム発生を「予防」する経路も含む • 競合イベント後には関心のあるアウトカムが発生しないという情報を、累積発生率の推定に反映 する • 同じ集団全体が各治療戦略を受けた場合のアウトカム分布を比較する • 治療戦略が明確に定義されていれば、因果効果も明確に定義できる( well -defined ) • 臨床的な解釈には注意が必要なこともある • 治療戦略が競合イベントを増やすことで、関心のあるアウトカムの発生リスクが低下し、総合 効果が保護的となる場合もある Young JG, et al. Stat Med . 2020;39(8):1199 -1236. 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2025;30(2):53 -73. 47
因果的な対比:制御された直接効果( • 治療戦略からアウトカムへの、 controlled direct effect 競合イベントを介さない直接効果 • すべての競合イベントが発生しない状態に制御する仮想的介入 ) を捉える の下で比較する • 競合イベントは、競合イベントを防いだ場合のアウトカムの観察を妨げる「打ち切り」として解 析上扱う • 推定には、治療割付に加え、競合イベントによる打ち切りについても、条件付き交換可能性など の仮定が必要 • すべての競合イベントを防ぐという、現実には達成困難な介入に依存する場合がある • その介入を具体的に定義できなければ、因果効果も明確に定義されない( ill -defined ) Young JG, et al. Stat Med . 2020;39(8):1199 -1236. 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2025;30(2):53 -73. 48
標的試験のプロトコルの構成要素 1. 適格基準 2. 治療戦略 3. 治療割付 因果的な推定対象( causal estimand ) 4. アウトカム 5. 追跡 6. 因果的な対比 7. 識別仮定 8. 解析方法 49
デノスマブ研究の識別仮定 標的試験の特定 標的試験のエミュレーション ITT効果: (1) 交換可能性: ランダム割付により、割付と潜在アウ トカムが独立 (2) 因果一致性: 観察されたアウトカムが、実際の割付 下の潜在アウトカムと一致 (3) 正値性: 各適格者の各治療戦略への割付確率が正 ITT効果の観察研究におけるアナロジー: (1) 条件付き交換可能性: ベースライン共変量に条件付 ければ、治療開始と潜在アウトカムが独立 (2) 因果一致性: 観察されたアウトカムが、実際に開始 した治療下の潜在アウトカムと一致 (3) 条件付き正値性: 調整する共変量の各層で、各治療 を開始する確率が正 • 因果効果を識別する( = 観察データの確率分布で反事実的な量を表現する)ために必要な仮定を 整理し、 その妥当性をデータと専門的知見から検討する • 本研究の基本的な識別仮定:条件付き交換可能性、因果一致性、条件付き正値性 • 追跡不能がある場合は、その扱いに応じた仮定も必要 50
観察研究における因果効果の識別仮定 ITT 効果のアナロジー (治療開始の効果) Per -protocol 効果のアナロジー (持続的治療戦略) 条件付き交換可能性 ( conditional exchangeability ) ベースライン共変量に条件付ければ、治療 開始と潜在アウトカムが独立 逐次交換可能性:各戦略に整合する治療履 歴の下で、それまでの治療・共変量履歴に 条件付ければ、各時点の治療と、その戦略 下の潜在アウトカムが独立 因果一致性 ( causal consistency ) 観察されたアウトカムが、実際に開始した 治療下の潜在アウトカムと一致 ある治療戦略を遵守した場合、観察された アウトカムが、その戦略下の潜在アウトカ ムと一致 条件付き正値性 ( conditional positivity ) 調整するベースライン共変量の各層で、各 治療を開始する確率が正 各戦略下で生じうる履歴の各層で、その戦 略が定める治療を受ける確率が正 仮定 • 治療戦略を明確に定義し、識別仮定の妥当性をデータと専門的知見から検討する • 治療・共変量履歴には、当該時点の治療決定前の共変量も含む • 追跡不能がある場合は、その扱いに応じた仮定も必要 51
標的試験のプロトコルの構成要素 1. 適格基準 2. 治療戦略 3. 治療割付 因果的な推定対象( causal estimand ) 4. アウトカム 5. 追跡 6. 因果的な対比 7. 識別仮定 8. 解析方法 52
デノスマブ研究の解析方法 標的試験の特定 割付群ごとの累積発生率曲線から、 3年リスク、リスク 差、リスク比を推定 標的試験のエミュレーション 開始時の治療群を比較し、 IPW でベースライン交絡を 調整した累積発生率曲線から、 3年リスク、リスク差、 リスク比を推定 • アウトカム発生までの時間を扱うため、追跡期間 や打ち切りを考慮した生存時間解析を用いる • 広く用いられる Coxモデルの ハザード比は、一般に そのまま治療の因果効果とは解釈できない • 必要な識別仮定と適切な解析の下では、 特定の時 点までの累積発生率(絶対リスク)の差・比 を因 果効果として解釈できる 53
Cox モデルによるハザード比の因果的解釈 • ハザード比は一般に、そのまま治療の因果効果とは解釈できない • 比例ハザード仮定( proportional hazards assumption )の限界 • 通常のCoxモデルは、ハザード比が時間によらず一定と仮定する。成立しない場合、単一の推 定値は時間変化を要約し、追跡期間や打ち切りの分布にも依存しうる • 時点ごとのハザード比にも、選択バイアスが内在しうる( built -in selection bias ) • 比較対象は、その時点までのアウトカム未発生者。治療によりイベントを起こしやすい人の減 り方が異なると、群間の集団構成も変わりうる( depletion of susceptibles ) • 因果効果の評価には、 特定の時点までの累積発生率(絶対リスク)の差・比 を用いる • 比例ハザードを仮定しない方法で推定でき、必要な識別仮定と適切な解析の下で因果的解釈が 可能 54
絶対リスクの推定: Kaplan –Meier 推定量と Aalen –Johansen 推定量 • 絶対リスク(累積発生率):特定の時点までにアウトカムが発生する確率。治療戦略間のリスク 差・リスク比で効果を比較する • アウトカムの回帰モデルを用いない推定 • 競合イベントがない場合: 求める Kaplan –Meier 推定量を用い、累積発生率を「 • 競合イベントがある場合: Aalen –Johansen 推定量で累積発生率を求める 1-生存確率」として • 必要な仮定の下で逆確率重み付けを組み合わせ、交絡や打ち切りによる選択バイアスに対処する 55
絶対リスクの推定: pooled logistic 回帰モデル • 各区間の条件付きアウトカム発生確率をモデル化し、累積発生率を求める • 交絡調整への主な利用方法 • 標準化( parametric g -formula ): 各治療戦略下のリスクを予測し、対象集団で平均する • 時間依存性交絡を扱う場合は、共変量の経時変化もモデル化する • 逆確率重み付け: 治療・打ち切りに応じた重みを用いてモデルを当てはめ、各治療戦略下の累 積発生率を求める • 時間固定治療・持続的治療戦略のいずれにも適用可能 • 競合イベントがある場合、総合効果の推定には、その発生を考慮した累積発生率を用いる • 原因別ハザードを用いる方法では、関心のあるアウトカムと競合イベントの双方のハザードを モデル化する 56
デノスマブ研究の結果 MACE • デノスマブの開始は、経口ビスホスホネートの開始と比べ、 クを低下 させる可能性 骨折 MACEリスクを増加 させ、 骨折リス • MACE: 3年リスク差: 8.2 %( 95 %CI: −0.2 to 16.7 )、 3年リスク比: 1.36 ( 95 %CI: 0.99 to 1.87 ) • 骨折: 3年リスク差: −5.3 %( 95 %CI: −11.3 to −0.6 )、 3年リスク比: 0.55 ( 95 %CI: 0.28 to 0.93 ) 57
標的試験の構造分類 58
「適格性の成立頻度」 構造 分類 ×「 T 0 での治療戦略の区別可否」による標的試験の構造分類 適格性の T0 での治療戦略 因果的な問いの例 成立頻度 の区別可否 対応するエミュレーション 第1型 単回 区別可能 一度だけ成立する適格時点で 治療戦略Aの開始 vs 非開始 • 通常のエミュレーション 第2型 複数回 区別可能 適格期間内の任意の時点で 治療戦略Aの開始 vs 非開始 • 通常のエミュレーション • 逐次試験エミュレーション 第3型 単回 区別不能(複数 一度だけ成立する適格時点から猶予期間内に の治療戦略に整 治療戦略Aの開始 vs 非開始 合しうる) • 通常のエミュレーション • Clone -censor -weight 法 第4型 複数回 区別不能(複数 適格期間内の任意の時点から猶予期間内に の治療戦略に整 治療戦略Aの開始 vs 非開始 合しうる) • 通常のエミュレーション • Clone -censor -weight 法 • 逐次clone -censor -weight 法 * *治療戦略Aの開始 vs 治療戦略Bの開始の観察研究では、個人の適格性が複数回成立しうる一方で、治療割付は Aまたは Bのいずれかを開始した時点で一意に定まるため、通常、逐次試験エミュレーションは不要 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2026;31(1):31 -45. 59
観察研究で3時点の同期が難しい状況 • 複数の時点で適格基準を満たし、 T 0 が一意に定まらない(第 2型) • 例:「過去 3か月以内に脂質異常症と診断され、スタチン未使用であること」を適格基準とす る場合、条件を満たす各受診時点で繰り返し適格となる • 対処法1:個人ごとに適格時点からランダムに一つを選び、 • 対処法2:すべての適格時点を T0 として活用する( trial emulation ) → 統計的効率が高い • T 0 で治療戦略への分類が一意に定まらない(第 T0 とする 逐次試験エミュレーション: sequential 3型) • 例:脂質異常症の診断時を唯一の適格時点とする。「 3か月以内にスタチン開始」と「 は非開始」の比較では、 T0 で未開始の患者のデータは両戦略に整合する • 対処法1:個人ごとに、 3か月間 T0 で比較する治療戦略のいずれかに、ランダムに割り付ける • 対処法2:個人ごとに、 T0 で比較する治療戦略数だけクローンを作製し、各戦略に一人ずつ割り 付ける( clone -censor -weight 法) → 統計的効率が高い 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2026;31(1):31 -45. 60
逐次試験エミュレーション • 各適格時点( T elig )を試験開始時点( T 0 )とし 、その時点の適格者を対象に、入れ子状試験 ( nested trials )を逐次エミュレートする • この例では、適格な各時点で、スタチン未開始なら「非開始戦略群」に繰り返し組み入れ、スタ チン開始時には「開始戦略群」に 1回だけ組み入れる • 各試験の個票データをプールし、個票データのメタアナリシス( meta -analysis )と同様に統合解析 する individual participant data • 分散は、個人単位のブートストラップ法や、個人をクラスターとするロバスト分散で推定する 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2026;31(1):31 -45. 61
Clone -censor -weight 法 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2026;31(1):31 -45. 62
Clone -censor -weight 法 • ステップ 1:クローン作製・割付( cloning ) • T0 で、個人ごとに治療戦略数だけクローンを作製し、各戦略に一人ずつ割り付けて追跡を開始 • 打ち切り前の各群のベースライン特性は同一 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2026;31(1):31 -45. 63
Clone -censor -weight 法 • ステップ 2:戦略からの逸脱時に人工的な打ち切り( censoring ) • 開始戦略:猶予期間終了時まで追跡中で、未開始なら、その終了時点で打ち切る • 非開始戦略:規定の非開始期間内に治療を開始したら、その開始時点で打ち切る • 逸脱前に発生したアウトカムは、その戦略のイベントとして数える。 生は、両群に含める 両戦略に整合する間の発 • 打ち切りが予後因子に依存すると、選択バイアスが生じうる 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2026;31(1):31 -45. 64
Clone -censor -weight 法 • ステップ 3: IPCW で選択バイアスに対処( weighting ) • 打ち切られていないクローンを、必要な共変量履歴に条件付けた「その時点まで打ち切られな い確率」の逆数で重み付けする • 必要なベースライン・時間依存性共変量の測定、打ち切りに関する交換可能性・正値性、打ち 切り確率モデルの正しい特定などが前提 • 推定対象は、各治療戦略を遵守した場合の per -protocol 効果 • 分散は、元の個人単位のブートストラップ法や、 元の個人をクラスターとするロバスト分散で推定 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2026;31(1):31 -45. 65
「適格性の成立頻度」 構造 分類 ×「 T 0 での治療戦略の区別可否」による標的試験の構造分類 適格性の T0 での治療戦略の 因果的な問い 成立頻度 区別可否 第1型 単回 第2型 複数回 区別可能 区別可能 一度だけ成立する適格時点で治療戦略を比較 例:骨粗鬆症の新規診断時点で、デノスマブ開始 スホネート開始 対応するエミュレーション • 通常のエミュレーション vs 経口ビスホ 適格期間内の任意の時点で治療戦略を比較 例:過去 Xか月以内に骨粗鬆症と診断された患者を適格とし( X か月間は適格性が複数回成立)、デノスマブ開始 vs 経口ビスホ スホネート開始 • 通常のエミュレーション • 逐次試験エミュレーション * 第3型 単回 区別不能(複数の 治療戦略に整合し うる) 一度だけ成立する適格時点から猶予期間内に治療戦略を比較 例:骨粗鬆症の診断後 Yか月以内に、デノスマブ開始 vs 経口ビ スホスホネート開始 • 通常のエミュレーション • Clone -censor -weight 法 第4型 複数回 区別不能(複数の 治療戦略に整合し うる) 適格期間内の任意の時点から猶予期間内に治療戦略を比較 例:過去 Xか月以内に骨粗鬆症と診断された患者を適格とし( X か月間は適格性が複数回成立)、各適格時点から Yか月以内に、 デノスマブ開始 vs 経口ビスホスホネート開始 • 通常のエミュレーション • Clone -censor -weight 法 • 逐次clone -censor -weight 法 *治療戦略Aの開始 vs 治療戦略Bの開始の観察研究では、個人の適格性が複数回成立しうる一方で、治療割付は ずれかを開始した時点で一意に定まるため、 通常、逐次試験エミュレーションは不要 深澤 俊貴, 篠崎 智大. 薬剤疫学. 2026;31(1):31 -45. Aまたは Bのい 66
まとめ 標的試験エミュレーション( target trial emulation : TTE )は、因果的な問いを明確にし、観察研 究による因果推論の妥当性を高めるためのフレームワーク • 仮想的なランダム化比較試験( RCT)を標的試験として、そのプロトコルを明示し、利用可能な 観察データを用いた設計・解析によって模倣(エミュレート)する • 最大の貢献は、推定する効果を明確にし、結果の解釈と意思決定につなげること • デザインバイアスの回避に役立つが、 • デザインバイアス:不死時間( それ自体でデータバイアスを排除するものではない immortal time )を生じる選択バイアスや誤分類バイアスなど • データバイアス:未測定交絡や測定誤差など • 標的試験エミュレーションは、因果的な問いに向き合う疫学者をより妥当な推論へと導く 67
謝辞 企画担当の原 梓先生と岡田 佑輔先生、座長の石黒 智恵子先生、およびスタッフの 皆様に、心より御礼申し上げます 68