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August 22, 24
スライド概要
JMDC Education Festival 2024 夏 “一緒に学ぼう! 医療データの世界”
2024年8月7日
https://www.jmdc.co.jp/seminar/seminar2024/seminar20240724/
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻薬剤疫学分野 特定助教
JMDC Education Festival 2024 夏 “一緒に学ぼう! 医療データの世界” 2024年8月7日 リアルワールドデータを活用した研究のプロトコル作成 深澤 俊貴 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 薬剤疫学分野/デジタルヘルス学講座 [email protected] 1
経歴・資格 学歴 2013年 – 2017年 慶應義塾大学薬学部薬科学科 2017年 – 2019年 慶應義塾大学大学院薬学研究科薬科学専攻修士課程 職歴 2019年 – 2020年 2020年 – 現在 2020年 – 2024年 2024年 – 現在 東北大学病院臨床研究推進センター 助手 京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野/デジタルヘルス学講座 特定助教 リアルワールドデータ株式会社 シニアコンサルタント 株式会社JMDC アドバイザー 委員歴 2023年 – 現在 日本薬剤疫学会 評議員 資格 2024年 – 現在 日本疫学会認定疫学専門家 2
はじめに:本セミナーの目的と内容 <本セミナーの目的> 「リアルワールドデータを活用した研究のプロトコル」を作成する際の足掛かりになるような情 報のご提供が目的 対象範囲は「医薬品の安全性、有効性 (、使用実態) を評価する観察研究」 産官学によって開発された「再現性を高めるための調和プロトコルテンプレート (HARPER)」 の開発経緯、概要、活用方法をメインにご紹介 <本セミナーで言及する内容> ISPE/ISPORの再現性を高めるための調和プロトコルテンプレート (HARPER) デザインダイアグラム Target Trial Emulation FDA Sentinel Innovation CenterのPRINCIPLEDフレームワーク HMA-EMAのRWD Catalogues 3
アウトライン 1 再現性を高めるための調和プロトコルテンプレート (HARPER):15分 2 HARPERの活用事例:40分 3 プロトコル作成において参考となる資料:5分 4
アウトライン 1 再現性を高めるための調和プロトコルテンプレート (HARPER):15分 2 HARPERの活用事例:40分 3 プロトコル作成において参考となる資料:5分 5
計画 (施行)・報告・評価の主要なガイドライン・テンプレート 医学研究は 2000年 適切に計画 (施行) され、適切に報告され、適切に評価されるべき Guidelines for GPP (2004) Guidelines for GPP (2007) STROBE (2007) PRISMA (2009) 2010年 ENCePP Guide (2011) CONSORT (2010) Cochrane Collaboration’s tool (2011) GRACE principles (2014) Guidelines for GPP (2015) RECORD (2015) ROBINS-I (2016) 2020年 RECORD-PE (2018) STaRT-RWE (2021) HARPER (2022) 薬剤疫学. 2023;28(1):13–16. 6
再現性を高めるための調和プロトコルテンプレート (HARPER) Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2023;32(1):44–55. Value Health. 2022;25(10):1663–1672. 7
HARPERとは • HARmonized Protocol Template to Enhance Reproducibility of hypothesis evaluating real-world evidence studies on treatment effects ⇒ 治療効果に関する仮説を評価するリアルワールドエビデンス研究の 再現性向上に向けた調和プロトコルテンプレート • ISPE/ISPOR合同タスクフォースが開発 • RWE研究に利用されている既存の4つのプロトコルテンプレートを統合 Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2023;32(1):44–55. Value Health. 2022;25(10):1663–1672. 8
HARPERの文脈での再現性とは 再現性を高めるための調和プロトコルテンプレート HARmonized Protocol Template to Enhance Reproducibility データ 同じ 再現性 (Reproducibility) は 信頼性の高いエビデンスの基礎 方 同 Reproducibility Replicablity じ 再現可能性 複製可能性 Robustness Generalizability 頑健性 一般化可能性 法 異 薬剤疫学. 2023;28(2):39–55. Turing Way: A Handbook for Reproducible Data Science. doi:10.5281/ZENODO.3233986 異なる な る 9
RWE研究の再現性 (Reproducibility) 査読付きジャーナルに掲載された150件の研究結果を、同じデータベースを用いて再解析した結 果、大半の結果は忠実に再現されたが、一部は再現されない 複雑なデザイン、解析、データ処理に関する選択とその実施について高い透明性を求める声 Nat Commun. 2022;13(1):5126. 10
RWE研究のベストプラクティスに関する数多くの勧告 断片的な勧告から包括的なガイダンスへ 41個もの勧告が特定された J Comp Eff Res. 2021;10(9):711–731. 11
RWE研究のベストプラクティスに関する数多くの勧告 断片的な勧告から包括的なガイダンスへ ISPOR Real-World Evidence Summit 2023. “Transparency in RWE: Ensuring Credibility and Confidence”の公開スライドを もとに作成 12
HARPERの誕生 Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2023;32(1):44–55. Value Health. 2022;25(10):1663–1672. 13
HARPER邦訳の経緯 ICPE 2022にて、漆原 尚巳教授がHARPER筆頭著者のShirley V. Wang先生から邦 訳許可を得る (出版社からも版権取得) 14
HARPER翻訳ワーキンググループ 深澤 俊貴 (京都大学大学院医学研究科) 岩上 将夫 (筑波大学) 原 梓 (慶應義塾大学) 野中 孝浩 (大阪公立大学大学院医学研究科、PMDAからご出向) 漆原 尚巳 (慶應義塾大学) 15
HARPER邦訳とその「利活用に関する見解」の学会承認 1. 邦訳 HARPER論文本体の邦訳:深澤 プロトコルテンプレートの邦訳:漆原教授 日本版ユースケースの作成:岩上教授、原教授 複数ターンにわたる相互チェック:ワーキンググループ全員 2. 「HARPER成果物」と「HARPER利活用に関する見解」に対して、日本薬剤疫学 会の理事全員からの同意取得 (定款第36条) 3. 日本薬剤疫学会会員からのパブリックコメントの募集 4. 「HARPER成果物」の出版と「HARPER利活用に関する見解」の承認 16
HARPER日本語版 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpe/28/1/28_28.17/_article/-char/ja 17
日本語版プロトコルテンプレート 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpe/28/1/28_28.17/_article/-char/ja 18
日本版ユースケース 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpe/28/1/28_28.17/_article/-char/ja 19
HARPERの利活用に関する日本薬剤疫学会の見解 1. 日本においても、医薬品の治療効果や安全性に関する仮説を評価するために、リアルワールドエ ビデンス研究を実施する場合には、HARPERに準拠することを推奨する。 2. 学術研究目的のみならず、リアルワールドデータを用いた調査、例えば製薬企業がリスク管理計 画に基づき仮説検証を目的とする製造販売後データベース調査を計画する際にも、HARPERを参 考とすることを推奨する。また、その他の目的の調査においても活用しうる。 3. ただし、HARPER原著論文に「今後2年間で主要な国際的ステークホルダーと共にテンプレート を導入し、試験的に使用する」と記載されているとおり、HARPERは2年程度の試行後に見直し が行われる可能性がある。その際には、日本薬剤疫学会として、HARPER原著論文および翻訳版 の利活用に伴って生じた疑問点や改善点などについての意見を取りまとめ、HARPERのタスク フォースに対して表明する。 薬剤疫学. 2023;28(1):13–16. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpe/28/1/28_28.13/_article/-char/ja/ 20
HARPERの3つの目標 目標1:因果的な問い (エスティマンド) を定義するために重要な、研究の各種設 定項目の選択とその根拠を、研究者が十分に議論し、かつ説明できるよう支援する こと 目標2:レビュアーがこれらの選択に関連するバイアスの可能性を容易に評価でき るようにし、意思決定を促進すること 目標3:再現性を向上させること 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 21
開発ステップ1:ISPE/ISPOR合同タスクフォース招集 規制当局、医療技術評価機関、製薬企業、CRO、アカデミアを含む 国際的なステークホルダーの代表からなるタスクフォース ICPE 2022 “HARmonized Protocol to Enhance Reproducibility (HARPER): An ISPE-ISPOR Joint Task Force of the RWE Initiative” の公開スライドをもとに作成 22
開発ステップ2:プロトコルテンプレートの同定 23
開発ステップ3:プロトコルテンプレートの比較 EMA GVP セクション MOD VIII PASS NESTcc ISPE GPP STaRT-RWE HARPER 見出し 表題ページ 1 A, C, M 目次 2 略語 3 用語の解説 責任者 4 研究要旨 5 改訂履歴 6 マイルストーン 7 B D L E … … … 2, 10 表1 1, 表 目次 表9 表8 表1 表 表2 … … HARPER日本語版 および Sebastian Schneeweiss教授のLinkedInの投稿をもとに作成 1, 表 2, 自由記載欄 3, 表 4, 表 … 24
開発ステップ4:HARPERの使いやすさの検討 異なるデザイン、データソース、データ要素の種類を含むさまざまな研究で HARPERのドラフトを試験的に使用し、改善していった ユースケース 問い デザイン 3P–MACEにおける コホート研究 (active comparator new user 有効性 エンパグリフロジン vs. DPP–4阻害薬 design) 新しいがん治療 vs. 標準治療 有効性 研究計画/デザイン段階にあるコホート研究 ピオグリタゾンと膀胱癌のリスク 安全性 ネステッド・ケース・コントロール研究 トピラマートと口裂 安全性 パリビズマブとRSV 有効性 自己対照研究 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. デザインの各種設定項目がより複雑な妊娠コホー ト研究 25
開発ステップ5:HARPER完成 特徴1:自由記載欄と視覚に訴える図表 (STaRT-RWE由来) を用いている 科学的な選択の 背景と根拠 RWE研究における 運用上の定義 特徴2:研究プロトコルの作成から登録、実施と実施手法の決定に関する報告に至 るまで、研究プロセス全体を支える枠組みとして利用できる プロトコル 作成 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 登録 実施 報告 26
HARPERの普及状況 ICHのリフレクション・ペーパーは、RWEの用語と原則の国際的調和についてHARPERを引用 CIOMS作業部会報告書は、規制上の意思決定においてHARPERを引用 CADTHのRWE報告ガイダンスがHARPERを引用 FDAセンチネルイノベーションセンターのPRINCIPLED報告書はHARPERを引用 DARWIN EUの最初の4つの実証プロジェクトは、プロトコル開発にHARPERを使用 日本薬剤疫学会はHARPERを翻訳し、その利活用を推奨 ZINは、オランダでがん治療のHTA評価のためにHARPERを試験的に使用 OSFに事前登録された複数国の分散型データベース研究のマスタープロトコールにHARPERを使用 HARPERをワークフロープロセスに統合するため、他の複数の関係者と協議中 ENCePP Guide on Methodological Standards in Pharmacoepidemiology (Revision 11) はHARPERを 引用 ICH M14 ガイドライン案「医薬品の安全性評価においてリアルワールドデータを活用する薬剤疫学調査の 計画、デザイン、解析に関する一般原則」はHARPERを引用 Shirley V Wang先生のLinkedInの投稿を引用、深澤が最新情報を加筆 27
アウトライン 1 再現性を高めるための調和プロトコルテンプレート (HARPER):15分 2 HARPERの活用事例:40分 3 プロトコル作成において参考となる資料:5分 28
HARPERの活用事例 「インフルエンザウイルス感染症外来患者におけるバ ロキサビル マルボキシルと他の抗インフルエンザウイ ルス薬の出血発生率の比較研究」 Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2022;31(6):623-631. 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. PRINCIPLEDの「2型糖尿病患者におけるSGLT-2阻害 薬とDPP-4阻害薬の性器感染症リスクの比較研究」 BMJ. 2024:384:e076460. Web appendix 2: Study protocol of case example study PRINCIPLEDは、観察研究で医薬品の治療効果を因果 推論する際に、その研究デザインやデータ解析を体系 的に検討する上での実践的なガイド 29
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 30
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 31
1 表題ページ (記載例) 健康保険組合由来の医療情報データベースを用いたインフルエンザウイルス感染 研究課題名 症外来患者における治療状況別の出血イベント発生状況の比較調査 外来にてインフルエンザウイルス感染症と診断された集団における出血イベント リサーチクエスチョンと目的 の発生割合をインフルエンザの治療状況別に比較することを目的とする。 版番号 Ver. 2.0 最終更新日 2020年12月25日 研究者 研究登録 資金提供元組織 利益相反 研究責任者連絡先 (e-mail等):[email protected] 研究者氏名 (研究組織名称):漆原尚巳 研究登録サイト:UMIN-CTR 研究識別子:UMIN000041568 組織名:〇〇株式会社 連絡先:[email protected] 〇〇は、〇〇株式会社の社員である。また、本研究の調査対象となるバロキサビ ル マルボキシルは、〇〇株式会社が製造販売を行っている。漆原尚巳は、〇〇 株式会社のコンサルタントを務めており、〇〇株式会社から共同研究費を、〇〇 株式会社より奨学寄付金を受領している。原梓は、開示すべき利益相反はない。 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 32
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 33
2 研究要旨 (記載例) 研究の背景、リサーチクエスチョンと目的、研究デザイン、およびデータソースの説明を簡潔に記述する: 出血は、バロキサビル マルボキシルおよびオセルタミビルを含む抗インフルエンザ薬の副作用として国内 の添付文書上で注意喚起されている。しかし、抗インフルエンザ薬投与による出血リスクについて定量的 に評価した報告はない。そこで我々は大規模レセプトデータベースを利用し、バロキサビル マルボキシル およびオセルタミビルを含む抗インフルエンザ薬治療患者、および無治療インフルエンザ患者の出血イベ ント発生リスク増加の有無を検討する。 本研究は、株式会社JMDCが保有する健康保険組合由来の大規模レセプトデータベースを利用したコホー ト研究である。2018年10月1日から2019年4月11日を診療開始日とするインフルエンザ診断をインフルエ ンザエピソードとして抽出する。各抗インフルエンザ薬治療群および無治療群に群別し、ICD-10により特 定した出血イベント発生を比較する。 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 34
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 35
3 改訂履歴、 4 マイルストーン (記載例) PRINCIPLEDの「2型糖尿病患者におけるSGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬の性器感染症リスクの比較研究」 マイルストーン 日付 第1版プロトコル 2022年6月15日 期待される精度の評価と診断評価 2022年9月1日 プロトコルの改訂 2022年9月8日 解析完了 2022年11月1日 査読者コメントに対応し、原稿修正をするための追加解析 2023年9月1日 追加解析完了 2023年10月18日 プロトコル作成段階で、マイルストーンとして「期待される精度の評価と診断評価 (フィージビリティ チェックやサンプルサイズ設計に関連)」と「プロトコルの改訂」を実施することを予定している BMJ. 2024:384:e076460. Web appendix 2: Study protocol of case example study 36
3 改訂履歴、 4 マイルストーン (記載例) 改訂日 版番号 改訂箇所 改訂内容 2022年6月15日 1 コホート作成、 ― アウトカム、追 跡調査、共変量、 解析計画 2022年9月8日 コホート作成 2 改訂理由 ― ベースライン期間の ステップ3a (期待される精度の評価) では、 HbA1c検査結果を組入 「研究対象薬の開始前 (ベースライン期間) れ選択基準に課さない。にHbA1c検査結果があること」を選択基準 としたことにより、サンプルサイズの大幅 な減少が観察された。そこで、ステップ2に 戻り、主要解析の解析対象集団に課してい た「ベースライン期間にHbA1c検査結果を 有する」という選択基準を緩和した。 BMJ. 2024:384:e076460. Web appendix 2: Study protocol of case example study 37
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 38
5 背景と根拠 (記載例) 研究のカギとなる重要な背景情報を記述 対象疾患に関するこれまでの知見:出血は、インフルエンザ罹患時に発現する一般的な事象では ないが、インフルエンザ罹患後に出血関連事象の発現割合が上昇することを示唆する報告があり、 インフルエンザウイルスによる血液凝固系の活性化が発現機序として考えられている。 対象となる曝露に関するこれまでの知見:バロキサビル マルボキシル (BXM) およびオセルタミ ビル (OTV) を含む抗インフルエンザ薬の副作用として国内の添付文書上で出血が注意喚起され ている。 これまで得られていない情報:抗インフルエンザ薬投与による出血リスクについて定量的に評価 した報告はなく、抗インフルエンザウイルス剤による影響は不明である。 この研究に期待される成果は何か?:抗インフルエンザ薬投与による出血リスクについて定量的 な評価を行うことにより、抗インフルエンザ薬の安全性に関するエビデンスを創出できる。 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 39
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 40
6 リサーチクエスチョンと目的 リサーチクエスチョンに答えるような理想の標的試験 (target trial) を設定し、それを模倣 (emulate) するように観察研究を実施することによって、その質を高めようとするアプローチ (target trial emulation) を取り入れる 目的 <テキスト> 仮説 <テキスト> 主要目的と副次目的とで別々に 表に示す 対象集団 (主な選択/除外基準を示すこと) <テキスト> 曝露 <テキスト> 比較対照 <テキスト> アウトカム <テキスト> 追跡期間 (開始時および終了時) <テキスト> セッティング <テキスト> 主な効果の指標 <テキスト> 41
6 リサーチクエスチョンと目的 (記載例) 目的 外来にてインフルエンザウイルス感染症と診断された集団における出血イ ベントの発生をインフルエンザの治療状況別に比較する 仮説 インフルエンザの治療状況にかかわらず、出血リスクに差はない 対象集団 (主な選択/除外基準を示すこと) インフルエンザの診断を受けた日 (指標日とする) が2018年10月1日–2019 年4月11日に存在する外来患者 曝露 指標日にバロキサビル マルボキシル (BXM) を外来で調剤されたこと 比較対照 指標日にオセルタミビルリン酸塩 (OTV)、ザナミビル水和物 (ZNV)、ペラ ミビル水和物 (PRV)、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 (LNV) を外 来で調剤されたこと、およびいずれも調剤されていないこと (無治療) アウトカム 出血イベント 追跡期間 (開始時および終了時) 指標日から20日間 セッティング 外来 主な効果の指標 発生割合 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 42
6 リサーチクエスチョンと目的 仮想の標的試験 (target trial) と比較する際に必要とされる情報が、HARPERとMiguel Hernán教授 らの論文とで若干異なる <HARPERが必要と考える情報> <Hernán教授らが必要と考える情報> 目的 適格基準 仮説 治療戦略 (→ 治療レジメン、治療方針) 対象集団 (主な選択/除外基準を示すこと) 割り付け 曝露 追跡と追跡開始時点 (→ Time 0の設定) 比較対照 アウトカム アウトカム 関心のある因果的な対比 追跡期間 (開始時および終了時) 解析方法 セッティング Am J Epidemiol. 2016;183(8):758–64. 主な効果の指標 43
6 リサーチクエスチョンと目的 Step 1: Formulate a causal question via specification of the target trial protocol → 仮想的な標的試験のプロ トコルを設定し、因果的な問いを形成する Step 2: Describe the emulation of each component of the target trial protocol and identify a fit-for-purpose data source → Step 1で設定した標的試験のプロトコルの各要素のエミュレーションを記述し、目的に合った データソースを特定する BMJ. 2024:384:e076460. 44
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 45
7 研究方法 7.1 研究デザイン 7.7 データマネジメント 7.2 研究デザインダイアグラム 7.8 品質管理 7.3 セッティング 7.9 研究規模と実施可能性 7.4 変数 7.5 データ解析 7.6 データソース 46
7.1 研究デザイン (記載例) • 研究デザイン:コホート研究 • 研究デザイン選択の根拠:レセプトデータを利用し、インフルエンザ外来患者における出血イベ ントに関して、発生割合を含む実態を調査し、インフルエンザの治療状況別に比較するため、コ ホート研究を選択する。 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 47
7.2 研究デザインダイアグラム • データベース研究では、多くのデザインを考慮する必要あり • 各デザイン特有の用語もあり、論文ごとに用語の使われ方に バラツキあり • 研究デザインを図によって可視化、標準化された用語を提案 し、データベース研究の再現性を高める Ann Intern Med. 2019;170(6):398–406. 48
7.2 研究デザインダイアグラム 薬剤疫学の 必読論文30編の1つ Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2022;31(2):257–259. 49
7.2 研究デザインダイアグラム デザインダイアグラムに関する日本語の解説論文 薬剤疫学. 2023;28(2):39–55. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpe/28/2/28_28.39/_article/-char/ja 50
7.2 研究デザインダイアグラム Ann Intern Med. 2019;170(6):398–406. 51
7.2 研究デザインダイアグラム (作成のためのPowerPointテンプレート) https://www.repeatinitiative.org/projects.html 52
7.2 研究デザインダイアグラム (作成のためのウェブツール) https://presc.sdu.dk/repeat-diagrams/ 53
7.3 セッティング (記載例:研究対象集団への組入れに対するtime 0) 研究対象集団への組入れに対するtime 0 (および他の主要な時点アンカー) の定義に関する背景と根拠 ※ Time 0はコホート組入れ日 (cohort entry date)、指標日 (index date) などと呼ばれることもある Time 0 (指標日) の定義は、インフルエンザの診断日である。ICD-10コード (J09–J11) によりインフルエン ザ診断を有する患者を特定する。各指標日を1つのインフルエンザエピソードとし、同一患者で複数のイン フルエンザエピソードを有する場合、いずれのエピソードも研究の対象とする。 インフルエンザ患者をインフルエンザに伴う傷病名を用いて定義しているが、その診断名の正確性を確認す るバリデーション研究は実施していない。しかし、他の研究を参考として定義しており、また、インフルエ ンザは臨床症状だけでなく、診断キットにより迅速・簡便に診断が可能な疾患であり、正確に診断されてい ることが期待できる。 対象者集 団名 インフル エンザエ ピソード 時点アン カーの記 述 インフル エンザ診 断日 組入れ回 数 組入れの 種類 複数回組 入れ 新規 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. ウォッ シュアウ ト期間 n/a 診療現場 コード種 別 傷病欄種 別 外来 ICD-10 n/a 何に関し て新規例 なのか インフル エンザ診 断 測定性能/ バリデー ション 無 アルゴリ ズムの出 典 Shibata, et al. 2019. 54
7.3 セッティング (記載例:選択基準) 研究の選択基準の背景と根拠 (1) 2018年10月1日–2019年4月11日を診断日とするインフルエンザエピソードが存在する外来患者、(2) 指 標日に外来での診療 (診療行為または薬剤処方) が実施されている、(3) 観察開始年月が指標日を含む月の 6ヵ月以上前の月である。 2018年10月1日以降のインフルエンザエピソードとする理由は、2018年3月14日にBXMが上市された後の、 2018/2019のインフルエンザシーズンを対象とするためである。 基準 詳細 適用順序 評価期間 2018年10月1日–2019 n/a 年4月11日に指標日 事前 指標日での外来診療 n/a 観察開始年月が、指 n/a 標日を含む月の6カ月 以上前の月である コード種別 傷病欄種別 対象集団へ の適用 測定性能/ バリデー ション アルゴリ ズムの出 典 2018年10月 外来 1日–2019年 4月11日 n/a n/a 曝露群、 比較対照群 n/a n/a 事後 [0, 0] 外来 レセプト電 算処理シス テムコード n/a 曝露群、 比較対照群 無 n/a 事後 [-180, 0] 外来 n/a n/a 曝露群、 比較対照群 n/a n/a 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 診療現場 55
7.4 変数 (記載例:曝露) 研究対象となる曝露に関する背景と根拠 本研究では、外来にてインフルエンザと診断された集団における出血イベントの発生割合をインフルエンザ の治療状況別に比較することを目的とする。2018年2月に日本で初めて承認されたBXMによる治療が行われ たインフルエンザエピソードを曝露群とし、その他の各抗インフルエンザウイルス剤 (OTV、ZNV、PRV、 LNV) による治療が行われたエピソード群、および無治療のインフルエンザエピソード群と比較する。 曝露効果の期間を定義するアルゴリズム:指標日における抗インフルエンザ薬の調剤記録から特定する。 曝露グルー 詳細 プ名称 BXM群 n/a ウォッシュ 評価 アウト期間 期間 [-20, -1] [0, 0] 診療 現場 外来 OTV群、 ZNV群、 PRV 群、 LNV群 無治療群 n/a [-20, -1] [0, 0] 外来 n/a [-20, -1] [0, 0] 外来 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. コード種別 傷病欄 対象集団へ 何に関して新 種別 の適用 規例なのか 薬価基準収載 n/a 曝露群 抗インフルエ 医薬品コード ンザウイルス (付録1) 剤 薬価基準収載 n/a 比較対照群 抗インフルエ 医薬品コード ンザウイルス (付録1) 剤 測定性能/バ リデーション n/a アルゴリズム の出典元 本研究者独自 の定義 n/a 本研究者独自 の定義 薬価基準収載 n/a 医薬品コード (付録1) 無 本研究者独自 の定義 比較対照群 抗インフルエ ンザウイルス 剤 56
7.5 データ解析 (記載例) 解析計画の背景と根拠 本主要評価項目や副次評価項目の比較において、曝露群 (BXM群) と各対照群 (OTV群、ZNV群、PRV群、 LNV群、無治療群) との間の比較で患者背景が異なっていることが考えられるため、群間で患者背景の分布 のインバランスが生じ、比較の可能性が確保されていないおそれがある。そのため、比較可能性を確保する ために、患者背景の情報に基づいてマッチングを行う。 マッチング方法としては、当初傾向スコアを算出し、BXM群に各対照群をマッチングし、各アウトカムの 発生割合を算出する傾向スコアマッチングを行う予定であったが (プロトコル Ver. 1.0)、群間の大きな例数 差により適切なマッチングがなされていないことが確認されたため、BXM群と各対照群との間で、患者背 景の分布のインバランスを解消するために完全一致マッチングを行う (プロトコル Ver. 2.0)。 マッチングを行ったBXM群と各対照群の対比較ごとに各出血イベントの発生例数と発生割合を算出する。 研究では、JMDC Claims Databaseを用いてインフルエンザによる入院を検討している報告及び厚生労働省 の出血に関する実態調査を参考に、インフルエンザ重症化及び出血に影響すると考えられる因子を調整する 共変量の候補とした。 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 57
7.5 データ解析 (記載例:主要解析) 仮説 インフルエンザの治療状況にかかわらず、出血の発生割合に差はない 曝露の比較 BXM群と各対照群 (OTV群、ZNV群、PRV群、LNV群、無治療群) の対比較 アウトカム 出血(全出血、頭蓋内出血、消化管出血、その他の出血) 解析ソフトウェア SAS version 9.4 解析モデル 発生割合を推定する 交絡調整法 「表9.共変量の運用上の定義」に示す共変量を用いて、BXM群と各対照群との間で置 換なしの完全一致マッチングを行う 欠測データへの対処方法 欠測の補完は行わない サブグループ解析 1. ウイルス型判定可能な集団における解析:ウイルス型「不明」を除いた集団 2. 出血の既往がない集団における解析:出血既往症が「無」である集団 3. 予防投与が疑われる集団を除外した解析:OTV群において、指標日を調剤日とす るOTVの1処方あたりの投与日数が7以上であった集団を除外した集団 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 58
7.5 番号 データ解析 (記載例:感度解析) 変更される項目と内容 根拠 (何を得ることを期待 主要解析に対する感度解析 主要解析に対する するのか?) の強み 感度解析の限界 感度解析1 対象者選択における選択 インフルエンザ発症の定 指標日にインフルエンザ サ ン プ ル サ イ ズ 基準 義はバリデーション研究 ウイルス感染症診断検査 の減少 インフルエンザエピソー が行われていない。また、の実施を条件に含めるこ ド定義:指標日にインフ 無治療者は、インフルエ とで、インフルエンザ発 ルエンザウイルス感染症 ンザを発症していない患 症の可能性が高くなる。 診断検査 (付録5) が実施 者が含まれる可能性が高 されているという条件を い。そこで条件を変えた 追加 感度解析を行い、結果の 頑健性を示すことを期待 する。 感度解析2 … … … … 感度解析3 … … … … 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 59
7.5 データ解析 (感度解析) Step 4: Develop a plan for robustness assessments including deterministic sensitivity analyses, probabilistic sensitivity analyses, and net bias evaluation → 定量的バイアス解析 (quantitative bias analysis: QBA) を含む感度解析の方針が示されている (例:より特異度の高いアウトカム定義を変え、アウト カムの誤分類によるバイアスの可能性を評価する。ネガティブコントロールを用いた解析を行う。…) BMJ. 2024:384:e076460. 60
7.5 データ解析 (感度解析) 製薬協医薬品評価委員会データサイエンス部会の感度解析に関する日本語の解説資料 (入門編と実践編がある) 入門編. https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/sensitivity_analysis.html 実践編. https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/sensitivity_analysis_practice.html 61
7.6 データソース (記載例) データソースについての背景と根拠 選択理由:JMDC Claims Databaseには、抗インフルエンザウイルス剤の処方患者数が1つの流行シーズン において約30–60万人 (直近5シーズン) 程度存在する。また、本データベースは、健康保険組合のレセプト データゆえに、加入者が当該保険から脱退しない限り、複数の医療機関にまたがる保険診療の情報を個人単 位で追跡することが可能である。日本の一般人口と比較して高齢者層のデータは著しく限られるものの、出 血イベントに関する実態調査を評価する上で、患者追跡性は重要であることから、当該データベースを選択 した。 データソースの強み:健康保険組合のレセプトデータゆえに、加入者が当該保険から脱退しない限り、複数 の医療機関にまたがる保険診療の情報を個人単位で追跡することが可能である。 データソースの限界:加入者は定年退職に伴い健康保険組合から脱退するため、JMDC Claims Databaseに 含まれる65歳以上の高齢者の割合 (3%) が、日本の一般人口における高齢者の割合 (28.4%、令和元年10月 の総務省人口推計確定値) と比較して著しく少ないことは利用に際し考慮すべき点である。 データソースの起源と集約方法:JMDCデータベースは、健康保険組合のレセプトをデータソースとしてお り、2005年1月から2018年6月までに蓄積された累積母集団として約560万人分の医科レセプト (入院・入院 外)、DPCレセプト、調剤レセプトが含まれる。 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 62
7.6 データソース (記載例) データ1 データ2 データソース JMDC Claims Database n/a 研究期間 2017年10月1日–2019年4月30日 n/a コホートへの組入れ可能期間 2018年10月1日–2019年4月11日 n/a データバージョン Version. X.X n/a データサンプリング/抽出条件 インフルエンザエピソード (ICD-10コード:J09–J11) n/a データ種別 商用レセプトデータ n/a データリンケージ なし n/a 共通データモデルへの変換 なし n/a データマネジメントのソフトウェア SAS version 9.4 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. n/a 63
7.6 データソース データベース選択で特に重要なポイント 1. 対象集団:データベースの規模、対象範囲、代表性は適切か? 2. 研究の各種設定項目:曝露、アウトカム、共変量が詳細に、偏りなく、利用可能な形で収集されているか? 3. 継続的かつ一貫したデータ収集:研究対象期間中、データ収集に中断や経時的な変化がないか? 4. データが記録されている期間とデータが更新されるまでの時間:患者の平均追跡期間、曝露からアウトカム 発生を補足するまでのデータ収集期間は十分か? Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2012;21(1):1-10. 64
7.6 データソース JMDC保険者データベース J Gen Fam Med. 2021;22(3):118–127. JMDC医療機関データベース J Gen Fam Med. 2020;21(6):211-218. RWDデータベース Ann Clin Epidemiol. 2024;6(3):58-64. https://www.jspe.jp/committee/kenkou-iryou/ 65
7.7 データマネジメント (記載例) 研究で使用されるデータマネジメント手順を記述する。データ保管、転送とバックアップ、情報セキュリティ についての手順および方針、ならびにインフラ基盤を含める: 株式会社JMDCから受領したデータを加工した解析用データセット、解析用プログラム、解析資料、解析結 果、およびこれらの質を担保するためのバリデーション結果等はすべて電子媒体で管理する。 保管責任者〇〇が管理するアクセス権を絞ったサーバー上で、研究結果公表後最低5年間は保管する。 保管期間終了後、サーバーから削除することで廃棄する。 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 66
7.8 品質管理 (記載例) データ品質確保のための手段について述べる。品質保証と品質チェックの手順、ダブルプログラミング、原資 料との照合、エンドポイントのバリデーション、データの変換と連結、データ信頼性 (例えばデータ欠測、 コード化の誤りや、データ入手までのラグタイム) の評価を含める: 医療情報データベース取扱事業者は、研究実施責任者と合意したデータ抽出定義に基づき、データベースか ら解析に必要なデータを抽出する。 研究実施責任者は、抽出データとデータ提出定義を照合し、矛盾のないことを確認する。 『これからの薬剤疫学』の3章に実践的な手段が紹介されている。 佐藤俊哉, 山口拓洋, 石黒智恵子 (編). これからの薬剤疫学:リアルワールドデータか らエビデンスを創る. 朝倉書店; 2021. 67
7.9 研究規模と実施可能性 想定される研究の規模、研究での推定値に求める精度や、予め規定した統計上の精度で予め設定したリスクを 最小限で検出できるサンプルサイズ計算について示す: データベース研究では、研究計画時点でおおよその対象者数は決まっていることが多い サンプルサイズは従来のような検定偏重ではなく、精度ベースの設計により効果指標をどのくらいの精度で 推定できるか、研究計画段階で検討することがPRINCIPLEDの“Step 3a: Assess expected precision”で推奨 されている。 Kenneth J Rothman教授、Sander Greenland教授が、精度ベース (= 信頼区間の幅に基づく) サンプルサイ ズサイズの設計のための式を提案している (リスク差、リスク比、発生率差、発生率比、オッズ比) BMJ. 2024:384:e076460. Epidemiology. 2018;29(5):599–603. 68
7.9 研究規模と実施可能性 (事例) PRINCIPLEDの「2型糖尿病患者におけるSGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬の性器感染症リスクの比較研究」 “Step 3a: Assess expected precision”での検討 プロトコル改訂前 (研究対象薬の開始前にHbA1c検査結果があることを適格基準にした場合): 性器感染症リスクに対するSGLT-2阻害薬の相対リスクについて、null effect (1.0) を仮定した場合の95%信 頼区間は0.35–1.65であり、不正確 (解析対象集団が1,498人、アウトカムが40件) プロトコル改定後 (研究対象薬の開始前にHbA1c検査結果があることを適格基準にしない場合): 95%信頼区間は0.73–1.27であることが期待 (解析対象集団が9,339人、アウトカムが293件) ここでの精度ベースの検討を踏まえ、 プロトコル改訂へ BMJ. 2024:384:e076460. 69
7.9 研究規模と実施可能性 データベース研究ではサンプルサイズの検討は不要? 測定誤差、選択バイアス、交絡の調整が必要な場合、正確なサンプルサイズ計算は不可能 (Hernán教授の意見) 推定値が不正確であっても、他の観察研究の結果と併せてメタ解析すればよい (Hernán教授の意見) どのくらいの精度で推定値が得られるのかを、研究計画段階である程度把握するうえで、精度ベースのサンプ ルサイズ設計を実施するのがベターでは? (深澤の意見) J Clin Epidemiol. 2022:141:212. J Clin Epidemiol. 2022:142:261-263. J Clin Epidemiol. 2022:144:193. J Clin Epidemiol. 2022:144:203–205. 70
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 71
8 方法の限界 (記載例) 「 7 研究方法」で説明した方法とデータに関して予想される限界とともに、これらの影響を減少させるために 取られる手段を記述する (交絡要因、バイアス、一般化可能性、ランダムエラーに関する問題を含める): • インフルエンザ発症日の情報はレセプト情報には含まれないため、インフルエンザ発症から治療開始までの 期間は不明である。 • 体温やインフルエンザ症状の所見データはレセプト情報には含まれないため、治療開始時点でのインフルエ ンザ症状の重症度は不明である。 • 経口剤、吸入製剤、注射剤等剤型の異なる薬剤間での比較においては、本研究で調整ができない、薬剤選択 理由による交絡が存在する可能性がある。また、無治療群と治療群の比較においても治療選択による未調整 の交絡が存在する可能性がある。 • その他、インフルエンザの型は傷病名から推察できるが、検査結果そのものは把握できない。また、調整し きれない交絡やバイアスが影響する可能性は否定できない。 • レセプトデータを用いたデータベース研究では、一般的に治療目的の薬剤投与と定義した中に、一部予防目 的の投与が含まれている可能性がある。ただし、抗インフルエンザウイルス剤の予防投与は自由診療となる ため、本来、レセプトデータには含まれない。 • インフルエンザの流行状況はシーズンにより異なるが、BXMとしては1シーズンのデータしかないため、解 釈には限界がある。 72
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 73
9 研究対象者の保護 (記載例) リアルワールドデータの二次利用を伴う非介入研究にて、データが使用される患者のリスクを最小化し、プラ イバシーを守るための要件への適合のために取られる、プライバシー保護、倫理、もしくは人対象の倫理委員 会で該当する手続きがあれば、議論する。研究が該当する倫理委員会から免除対象と見做される場合には、そ のことを免除の理由とともに述べる: • 本研究は、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守して実施する。 • 本研究の実施計画書は、研究実施前に慶應義塾大学薬学部の人を対象とする研究倫理審査を受け、承認され た後に開始する。研究開始後、必要が生じた場合は研究計画書の見直しおよび改訂を行い、再度倫理審査を 受ける。 • 個人情報の取扱いについては、本調査で用いるデータセットは、研究者が個人を特定できる情報は含まれて おらず、また患者特定のための対応表を所持しない。このため「人を対象とする生命科学・医学系研究に関 する倫理指針」に基づき、調査対象となる患者からの同意は要しない。 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 74
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 75
10 有害事象報告 (記載例) 該当する場合に、研究が実施されている期間における、有害事象/副作用個別症例、および製品のベネフィッ トリスクバランスの評価に影響するかもしれない新たな情報についての収集、管理、報告の手順を示す。報告 が不要な研究についてはその旨を述べる: • 研究の評価項目または変数に設定されている安全性に関する事象については解析報告書内に要約するが、そ れ以外にこれらの事象の抽出は行わない。 • 元の医療情報との照合を可能にする対応表が存在しない医療情報データベースから得られた安全性に関する 事象については、規制当局への個別の症例ごとの副作用・感染症を報告する必要はないが、必要に応じて研 究報告を行う。 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 76
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 77
11 参考文献 (記載例) プロトコルに引用されたいずれの著作物についても参考文献に番号を付して一覧で示すこと。引用された著作 物を検索できるように十分な情報を示さなければならない: 1. Yang Y and Tang H. Aberrant coagulation causes a hyper-inflammatory response in severe influenza pneumonia. Cell Mol Immunol. 2016 Jul;13(4):432-42. 2. Bitzan M and Zieg J. Influenza-associated thrombotic microangiopathies. Pediatr Nephrol. 2018; 33: 2009-2025. 3. Backes D, Rinkel G, Algre A, et al. Increased incidence of subarachnoid hemorrhage guring cold temperatures and influenza epidemics. J Neurosurg. 2016; Volume 125. 4. Okayama S, Arakawa S, Ogawa K, Makino T. A case of hemorrhagic colitis after influenza A infection. Journal of Microbiology, Immunology and Infection. 2011; 44: 480-483. 5. Yu H, Huang J, Huai Y, et al. The substantial hospitalization burden of influenza in central China: surveillance for severe, acute respiratory infection, and influenza viruses, 2010-2012. Influenza Other Respir Viruses. 2014 Jan;8(1):53-65. 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 78
HARPERの目次 1 表題ページ 7 研究方法 2 研究要旨 8 方法の限界 3 改訂履歴 9 研究対象者の保護 4 マイルストーン 10 有害事象報告 5 背景と根拠 11 参考文献 6 リサーチクエスチョンと目的 12 付録 79
12 付録 (記載例) 別文書で提供される付録の一覧を示す: 研究の各種設定項目 (適格基準、曝露、アウトカム、共変量) を定義するために用いる実際の臨床コードの アルゴリズムの一覧 ソースデータを共通データモデルに変換する際になされた決定や、データリンケージとその実行についての 詳細事項 付録1:曝露・対照の定義に用いる薬価基準収載コード 一般名 商品名 投与経路 薬価基準収載医薬品コード 組入れ群 バロキサビル マルボキシル ゾフルーザ錠10mg 内用 6250047F1022 BXM バロキサビル マルボキシル ゾフルーザ錠20mg 内用 6250047F2029 BXM オセルタミビルリン酸塩 タミフルカプセル75 内用 6250021M1027 OTV … … … … … 薬剤疫学. 2023;28(1):17–35. 電子付録2. 80
HARPERを使用する上での留意点 研究デザイン、解析、実施について伝えるための共通基準を設定することと、研究者が選択した 方法でこれらを完全に自由に記述することには、トレードオフの関係がある → 共通基準を満たしたうえで、自由記載欄を使う選択肢は常にある HARPERのセクションの順序は、既存のすべてのテンプレートや、さまざまな学問分野の潜在的 なユーザーの順序に合わせることはできない → HARPERは柔軟であり、必要に応じてセクションを並べ替えてよいし、研究デザインによっ ては記載しないセクションがあってもよい (例えば、記述疫学研究) HARPERは記載事項が多く、細かい? → 記載事項はやや多く、細かいかもしれないが、研究を実施する中で遅かれ早かれ必ず検討が 必要になる事項ばかりであるため、それをプロトコル作成段階で検討しているに過ぎない 今後、必要に応じてレビューと更新が行われる可能性がある → 日本薬剤疫学会から、HARPERタスクフォースに意見表明する 81
アウトライン 1 再現性を高めるための調和プロトコルテンプレート (HARPER):15分 2 HARPERの活用事例:40分 3 プロトコル作成において参考となる資料:5分 82
記述疫学研究 「記述疫学研究を実施するためのフレームワーク」と「記述疫学研究の報告に含めるべき項目リスト」が提示 されている Am J Epidemiol. 2022;191(12):2063-2070. 83
HMA-EMAのRWD Catalogues RWD Cataloguesは、承認後安全性研究 (post-authorisation safety study: PASS) のプロトコルや研究結果 の登録ポータルであったEU PAS Register®に代わるもの (2024年7月22日時点で2,884件の研究が登録) 製薬企業の実施する薬剤疫学研究のプロトコルを入手可能 https://catalogues.ema.europa.eu/ 84
まとめ HARPERは「リアルワールドエビデンス研究の再現性向上に向けた調和プロトコルテンプレー ト」である HARPERは、治療効果に関する仮説を評価する比較研究のみならず、記述疫学研究など他の研 究デザインのプロトコルとしても活用できる柔軟性を持つ ICHや各地域の規制当局によるHARPER使用の推奨を背景に、世界各国の産官学で利活用が進ん でおり、グローバル・スタンダードになりつつある リアルワールドデータを用いた縦断研究では、デザインダイアグラムを作成するのが望ましい 比較研究を計画する際は、PRINCIPLEDフレームワークを参照する RWD Cataloguesに登録されている豊富なプロトコルの事例から、どのくらいの記載粒度を求 められるかを勉強しつつ、実践に活かす 85