型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった

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October 04, 25

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株式会社テクノプロジェクト ( https://www.tpj.co.jp )

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スクラム祭り 2025 島根トラック 2025年10月4日 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 松本 俊

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まつもと すぐる 松本 俊 本社:島根県松江市 設立:1984年3月1日 https://www.tpj.co.jp/ 株式会社テクノプロジェクト 2010年にアジャイル開発と出会い、以来、受託開発の 現場を中心にアジャイルプラクティスやスクラムを実 践してきた。ここ数年は社内のチームを支援し、組織 全体へアジャイルの考え方を広げる活動にも注力。 2025年度からはプロダクトと組織の両軸で価値を探索 する部署に所属し、実践を重ねながらその両軸の成長 を目指している。 スクラム祭り 2025 島根トラックオーナー。 Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 事業内容 • システムインテグレーション事業 • 特定業種ソリューション開発 • クラウドサービス提供 • ICTに関するコンサルティング、計画および実行支援 • デジタル人材育成 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった てぷにゃん (企業キャラクター) 2

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やり方を真似るだけでは、意味は育たない ——問いがあるから実践になる Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 3

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2010年にアジャイルと出会う 島根県内で「Ruby × Agile」を推し進めるための事業 ——島根県の「Rubyビジネスモデル研究実証事業」に参画 出典:杉原健司『アジャイル開発との出会いで始まった地方の変化、そして未来 〜島根編〜』 https://2020.agilejapan.jp/pdf/DAY1_CH2_1330.pdf Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 4

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非日常の日常があった アジャイルコーチに「アジャイル開発」をゼロから学び、体験する • よりよいものを一緒に考える仕掛け • よりよいものを一緒につくろうとする姿勢 Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 5

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非日常が終わり、 受託開発や SIer という環境、限られた裁量の日常 スクラムとは程遠い現実 ロールに頼らず、 自分がいるチームの中ではじめる Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 6

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自分にできることを重ねてきた 当時は模造紙やプラスチック段ボール(プラダン)に付箋を貼る“アナログ”な やり方を含めて、さまざまな小さな実践を試していた。 その中の一部を挙げると—— • タスクボード:タスクを付箋で可視化。Done に移す瞬間を チームで共有し、自然な声かけが生まれた。 • ふりかえり(KPT):スプリントごとに付箋で実施。自分た ちで決めたことを次に試し、「変えていいんだ」という感 覚が芽生えた。 • ユーザーストーリーマッピング:付箋で全体像と進捗を可 視化。「済」の付箋が増える達成感を共有し、機能だけで はなく“ユーザー”を語れるようになった。 どの実践も理想や本来の形からは外れていた 与えられた環境でできることには限りがあった それでも小さく始め、問い続けることで、 仲間と変化を感じながら、一歩ずつ進んでいけた Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 7

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影響が少しずつ広がり 周囲にアジャイル開発のプロジェクトが増えていく 2020年から 他チームのチーム改善やアジャイル開発の支援に関わる Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 8

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はじめは“やること”が先行する それは自然なこと 新しいチームが誕生し、 既存チームのやり方を真似ることからはじまった Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 9

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“問いの空白” 「なぜやるのか?」が 語られないまま継続 「やることをやっている」 という安心感と満足感 問いや学びが 失われていく危うさ Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 10

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ただの感覚ではなく、チームのセルフチェックの結果に表れていた チームのセルフチェック 吉羽龍太郎(@ryuzee)さんが作った「スクラムチーム用セルフチェック リスト」を参考に、チーム内で対話するために活用している。 スクラムに関する10の観点があり、それぞれに10の質問がある。 (合計100問のセルフチェックリスト) 私たちの集計方法 チームメンバー全員が各質問に Yes/No で回答し、Yes の割合をチームの値 としている。 例:5人中4人が Yes → 80% スプリントごとにセルフチェックし、チームの結果を可視化している。 ちなみに、 スクラムチームのセルフチェックも最初に取り組んだチームから広がった 一例である。 吉羽龍太郎(@ryuzee)『スクラムチーム用セルフチェックリスト』 https://www.ryuzee.com/contents/blog/14561 Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 11

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セルフチェックの結果でチーム間を比較して優劣をつけてはならない。 チームの特徴を知った上で結果からわかることがある。 3チーム(チームA, B, C)を対象に1スプリントの結果を選定し、考察する。 なお、各チームは他のスプリントの結果でも同様の傾向があることを確認済み。 特徴 セルフ チェック 回答数 セルフチェック 結果の傾向と考察 チームA Sprint#153 メンバーの入れ替わりはあるが、6年以上スクラム を実践しているチーム。 5 凹凸がある。 成熟して自己評価が厳しい。 チームB Sprint#13 1年未満のチームであり、スクラム初心者のメン バーがチームAの取り組みを真似て活動している。 5 Yes割合が高い。 型を真似てYesが多い。 チームC Sprint#8 立ち上げて約半年が経過したチーム。 チームの規模が大きく、チームの3分の1はスクラム 経験者(チームAを離任したメンバー)。 12 Yes割合は中間。 意図を理解しつつ実施。 チーム 選定スプリント* * 3チームとも1スプリントを2週間としている 数値は高ければよいというものではない。型や真似でYesが増えることもあり、そのとき問いが見え なくなる危うさがある。 セルフチェックの10の観点のうち、特に「プロダクトオーナー」「デイリースクラム」「スクラム マスター」の3つに注目して見ていく。 Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 12

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プロダクトオーナー 5-1 プロダクトオーナーが明示的に1人いる 5-2 プロダクトオーナーの意思決定はステークホルダーから十分尊重されてい る 5-3 プロダクトゴールやプロダクトビジョンを明確にしている 5-4 プロダクトゴールやプロダクトビジョンを繰り返しスクラムチームに説明 している 5-5 プロダクトゴールやプロダクトビジョンを繰り返しステークホルダーに説 明している 5-6 プロダクトバックログの管理を行っている 5-7 プロダクトバックログアイテムの並び順の最終判断をしている 5-8 開発したものが完成しているかどうかを判断している 5-9 プロダクトに関する情報をステークホルダーやスクラムチームに公開して いる 5-10 WHATとWHYに注力し、HOWは開発者を信頼して任せている 出典:吉羽龍太郎(@ryuzee)『スクラムチーム用セルフチェックリスト』 https://www.ryuzee.com/contents/blog/14561 チームAとチームCはYes割合に凸凹がある。一方 で、チームBは満点。 型や真似でYesが積み上がると、意図や価値への問いが薄れ、実態以上に“できてい る”かのような安心感を生み、対話が深まらない危うさを含んでいるように見える。 Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 13

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デイリースクラム 2-1 デイリースクラムを毎日実施している 2-2 15分のタイムボックスを守っている 2-3 開発者が中心となって自律的に運営している 2-4 必要に応じて参加者は最新の状況を話せるように準備している 2-5 スプリントゴール達成の可能性を検査している 2-6 次の1日分の計画を最新化している 2-7 デイリースクラム以外でも必要に応じて頻繁に話し合っている 2-8 スクラムマスターや特定の誰かに向けて報告していない 2-9 再計画や詳細な調整が必要な場合、速やかに別の会議等を用意している 2-10 進め方を適宜改善している 出典:吉羽龍太郎(@ryuzee)『スクラムチーム用セルフチェックリスト』 https://www.ryuzee.com/contents/blog/14561 チームAとチームBはいずれも高得点。ただし、 チームBの得点の高さが「問いや学びの深さ」を 示すとは限らない。また、チームCはYes割合に ばらつきがある。 Yesが多くても、ゴール検査や改善の問いが置き去りになり、『やっているから大 丈夫』という満足にとどまり、学びが止まる危うさが潜んでいる可能性がある。 Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 14

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スクラムマスター 7-1 スクラムマスターとしてふるまう人が1人いる 7-2 スクラムチームがタイムボックスを守れるようにしている 7-3 スクラムチームやステークホルダーにスクラムの教育を行っている 7-4 必要に応じてイベントのファシリテーションを行っている 7-5 スクラムチームが権限を持てるよう組織への働きかけを行っている 7-6 プロダクトオーナーを支援している 7-7 開発者を支援している 7-8 スクラムチームの進捗を妨げる障害物を排除するように働きかける 7-9 タスクをアサインしたり進ちょくを管理したりしていない 7-10 スクラムチームを観察し、意図的に何もしない 出典:吉羽龍太郎(@ryuzee)『スクラムチーム用セルフチェックリスト』 https://www.ryuzee.com/contents/blog/14561 チームAとチームCは、スクラムマスターと他の 観点(例:「プロダクトオーナー」や「デイ リースクラム」)の結果の傾向がそろっている。 一方で、チームBはスクラムマスターの結果が目 立って低いのに、他の観点では高得点。 スクラムマスターが低い一方で他の観点が高いという結果は、『やっているから Yes』と形式的に答えている可能性を示している。問いが生まれていないまま型や 真似に従い、やり方の形だけが残る危うさが表れているように見える。 Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 15

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Yesの数では測れないこと • Yes割合が高いこと自体は悪いことではない • しかし、型に従い真似るだけでもYes割合は高くなる • 問いがなければ、その結果に疑問を持てず、安心や満足に とどまり、改善の機会を見失う危うさにもなる 問いが実践を育てる • 大切なのは、Yes割合の結果をどう受け止めるか • 「なぜやるのか?」「どうすれば良くなるのか?」という 問いを持つことで、チームの考え方が変わり、それが日々 の行動や活動の変化につながり、さらにセルフチェックリ ストの答え方やチームのあり方にまで影響していく • 複数のチームの数値を比較して優劣をつけてはならない 3チームの比較は、その無意味さと危うさを物語っている Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 16

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日常の外で問いに出会う 外の実践や学びに触れることで視野が広がる 自分の現場に違和感を覚え、問いに気づくきっかけになる 外に触れ、広がりを得て、自分の現場を見直す Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 17

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問いを手放さず、歩み続ける 問いを問いとして生かすには 現場に根ざした実践を続けることが必要 日々の実践に宿る情熱や想いがあるとき、問いは生き続ける それらを失えば、やること自体が目的となってしまう 日常を離れることで、視野が広がり、新しい気づきに出会えることもある Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 18

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やり方を真似るだけでは、意味は育たない 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった ——問いがあるから実践になる Copyright 2025 Techno Project Japan Co. 型が広がったその先で、問いが聞こえなくなった 19