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November 27, 25
スライド概要
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
筆記のブレを利用した デジタルペンの重心の違いによる書き心地推定手法 明治大学 総合数理学部3年 伊藤奈々美 能宗巧 瀬崎夕陽 関口祐豊 中村聡史(明治大学) 近藤葉乃香 梅澤侑己 橋本忠樹(株式会社パイロットコーポレーション)
背景 デジタル端末上での手書き入力が普及している アナログペン デジタルペン • 多様な素材・構造のものが存在 • 店頭での試し書きが可能 • 素材や構造の変更が困難 • 試し書きの機会が少ない ▼ ▼ 個人の嗜好や用途に応じた 書き心地の選択が可能 書き心地が限定的で 個人に適したものを見つけるのが困難 1
背景 ペンの物理的特性 … 全長 / 形状 / 摩擦 / 重心 などさまざま → これらが「書き心地」を大きく左右すると考えられる 適切なペンを効率的に見つけるためには ユーザの主観評価だけでなく,書き心地の客観的な評価が必要 2
背景 ペンの物理的特性 … 全長 / 形状 / 摩擦 / 重心 先行研究 書き心地の改善に向けたペン先の摩擦が筆記のブレに及ぼす影響 [能宗ら 2025] • 特定の参加者や文字において,書き心地と筆記のブレに相関が見られた 摩擦特性が書き心地と手書きのブレに影響を与える可能性を示唆 能宗巧,瀬崎夕陽,小林沙利,関口祐豊,中村聡史,近藤葉乃香,梅澤侑己,橋本忠樹:書き心地の改善に向けたペン先の摩擦が筆記のブレに及ぼす影響, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI),vol. 2025-HCI-211, No. 15, pp. 1–8 (2025). 3
背景 ペンの物理的特性 … 全長 / 形状 / 摩擦 / 重心 重心の役割 把持点を支点とするモーメントを変化 → 筆圧の安定性/線の精度/操作性に影響 例) 把持点と重心位置が遠い → 筆圧が安定するが,素早い方向転換がしにくい 把持点と重心位置が近い → 軽快な操作ができるが,線が滑りやすい こうしたブレが書き心地に反映されると考えられる → 重心に着目 4
目的 ペンの重心の違いによる筆記のブレを用いて 書き心地を客観的に評価する 5
関連研究① ひらがなの平均手書き文字は綺麗 [中村ら 2016] 理想文字と実際の文字との差異 : 手書き文字に生じる「ブレ」 ユーザの平均文字は,実際の筆記文字よりも理想に近い ブレを用いることでペンを客観的に評価できる可能性 H1 筆記時のブレが小さい重心設計のペンは, ユーザにとって満足度の高い書き心地を提供する 中村聡史,鈴木正明,小松孝徳:ひらがなの平均手書き文字は綺麗,情報処理学会論文誌,vol. 57, pp. 2599–2609(2016). 6
関連研究② 横方向のストローク 手と指の運動方向が異なり,動作制御が困難 → ストロークが短くなりやすい [Meulenbroekら 1991] ブレが筆記文字の縦横比への影響を及ぼす可能性 H2 筆記時のブレが大きいペンで筆記した文字は, ブレが小さいペンで筆記したものより字のバランスが縦長になる Meulenbroek, R. G. and Thomassen, A. J.: Stroke-direction preferences in drawing and handwriting, Human Movement Science, vol. 10, No. 2, pp. 247–270 (1991). 7
仮説 H1 筆記時のブレが小さい重心設計のペンは,ユーザにとって満足度の 高い書き心地を提供する H2 筆記時のブレが大きいペンで筆記した文字は,ブレが小さいペンで 筆記したものより字のバランスが縦長になる 8
実験概要 重心位置の異なるスタイラスペンを用いた筆記実験 書き心地について 筆記データを用いた客観的評価 アンケートを用いた主観的評価 → 2つの評価の相関について分析 筆記文字の縦横比について → ブレやペンの重心の違いなどによる影響について定量的に分析 9
ペンの重心設計 重心位置を変更可能なペンを開発(4種類) 同一軸を使用し,おもりの位置と数を変更することで重心位置を変更 ペンA→ペンDにつれて低重心 種類 重量 [g] 重心 [mm] 比率 (重心/全長) 高 A 14.5 70.3 49% B 16.9 68.0 48% C 16.9 65.0 46% 低 D 19.3 63.0 44% 重 心 A B C D 10
実験 参加者 大学生および大学院生,計30名(右利き:26名/左利き:4名) 条件 文字:4種類 「四」 / 「永」 / 「む」 / 「ふ」 キャンバスサイズ:2種類 小/大 → 各条件において5回ずつ筆記(順序はランダム) 11
主観的評価アンケート 実験終了後にペンの書き心地に関するアンケートを実施 項目 各ペンの全体的な書き心地:5段階評価(-2〜+2) キャンバスサイズ条件ごとの書き心地:順位付け(1位:最も良い/4位:最も悪い) 一番購入したいと感じたペン 一番長時間使用に向いていると感じたペン 13
結果 H1 筆記時のブレが小さい重心設計のペンは,ユーザにとって満足度の 高い書き心地を提供する 参加者全体におけるブレと書き心地:相関なし H2 筆記時のブレが大きいペンで筆記した文字は,ブレが小さいペンで 筆記したものより字のバランスが縦長になる ブレによる文字の縦横比への影響:有意差なし 14
結果(主観的評価アンケート) 書き心地,長時間使用 → 低重心のペンほど高評価の傾向 購入したい → ペンBが最多 高 重心 低 16
結果(筆記時のブレ) ブレ(平均文字と筆記文字との差分)の算出方法 [新納ら 2019] 対応する特徴点同士のユークリッド距離を算出 距離の総和をストローク長で割る 単位距離あたりのユークリッド距離 = ブレ 筆記文字 平均文字 ブレを算出 新納真次郎,中村聡史,鈴木正明,小松孝徳:ひとの評価にあった手書き文字の類似度評価手法の提案, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI),vol. 2019-HCI-181, No. 24, pp. 1–8 (2019). 17
結果(筆記時のブレ) ブレと書き心地の主観評価の相関 スピアマンの順位相関係数を用いて分析 アンケートで得られた書き心地が良い順 ブレの値が小さい順 参加者全体では両キャンバスサイズで相関なし → 参加者の属性(利き手・ペンの持ち方)ごとに分析 18
結果(筆記時のブレ) 属性ごとの相関 属性 N 利き手 全体 30 -0.03 0.37 0.20 0.26 右利き 26 -0.14 0.32 0.27 0.24 ペンの持ち方 : 4つの型に分類 左利き 4 0.70 0.09 -0.25 0.15 DT型 DQ型 平均「小」 分散「小」 平均「大」 分散「大」 DT型 21 -0.03 0.42 0.24 0.24 LT型 6 0.20 0.36 0.60 0.16 DQ型 2 0.07 0.24 -0.03 0.27 属性ごとの順位相関係数 「小」条件:左利きで強い正の相関 LT型 LQ型 「大」条件:LT型で中程度の正の相関 Schwellnus H, Carnahan H, Kushki A, Polatajko H, Missiuna C, Chau T. Effect of pencil grasp on the speed and legibility of handwriting after A 10-minute copy task in Grade 4 children. Aust Occup Therapy Journal. vol. 59, No. 3, pp. 180-187 (2012). 19
結果(筆記文字の縦横比) キャンバスサイズによる縦横比への影響 縦横比:文字を囲う最小の長方形 → 高さ ÷ 幅 で算出 高 さ 比率: 「小」条件の縦横比 ÷ 「大」条件の縦横比 で算出 幅 → 1に近いほどキャンバスサイズの影響が小さい 高 文字による影響が見られた 「四」:「小」条件の方が縦長 重心 低 文字 ペンA ペンB ペンC ペンD 四 1.044 1.038 1.043 1.032 永 0.950 0.953 0.971 0.940 む 0.994 0.991 0.971 0.979 ふ 0.996 1.000 0.994 0.991 平均 0.996 0.996 0.995 0.986 22
考察(主観的評価アンケート) 長時間使用に向いていると感じたペン:低重心ほど高評価 → ペンの回転モーメントの影響 低重心のペン 回転モーメント(重力がペンを回転させる力) 小 重心 高 把持点 → ペンを支えるために必要な力 小 疲労が蓄積しにくい 低 23
考察(筆記時のブレ) ブレと主観評価の相関 左利き:強い正の相関 ペン先の摩擦 大 → 動作が不安定 LT型:中程度の正の相関 重心の影響を 受けやすい可能性 ペンを支える指 少 → 動作が不安定 各属性のサンプル数に偏りあり → さらなる検証が必要 24
考察(筆記文字の縦横比) キャンバスサイズの影響 「四」:「小」条件においてより縦長 → 特有の筆運びが要因 2 限られたキャンバス内で1画目を長く書いてしまうと, 窮屈さから2画目が相対的に短くなる(縦長になる) 1 多様な文字の検討が必要 25
展望 書き心地に影響を与えるさまざまな要因の検証 参加者の属性 多様なストローク 多様な重心特性 ユーザの嗜好に合わせた,より実用的な評価指標の実現 26
まとめ 背景 デジタルペンは書き心地が限定的で適切なものを見つけにくい 目的 重心の違いによるブレを用いた書き心地の客観的な評価 実験 重心設計の異なるペンを用いた筆記実験の実施 結果 特定の実験条件や参加者の属性で客観的評価に影響 展望 ユーザの嗜好に合わせた,より実用的な評価の実現 27