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January 28, 21
スライド概要
多くのウェブサイトやアプリケーションにおいて,メディアファイルの読み込みや,その配置デザインを読み込むことは必要不可欠であり,その際にユーザが待機する時間が発生する.ここで待機中に表示する視覚的フィードバックのデザインが,ユーザの知覚する待機時間やシステムの満足度などに影響を及ぼすことが報告されている.しかし,このようなフィードバックのデザインがその後のユーザの行動に及ぼす影響はまだ明らかになっていない.そこで我々は,視覚的フィードバックのデザインがその後のユーザの選択行動に及ぼす影響に注目した.視覚的フィードバックはユーザがタスクの完了時間を推定するために視線を集中させるものであり,アニメーションをともなうものではユーザの視線を誘導し,その後の選択画面では視線が誘導された領域付近の選択肢が選ばれやすくなるという仮説を立てた.本研究では,表示位置とアニメーションの向きを変えたプログレスバーを用いて実験を行い,仮説の検証を試みた.その結果,左から右にアニメーションをするプログレスバーを提示すると選択が偏る傾向や,右から左にアニメーションをさせ上側に表示することで選択を公平化できる傾向が明らかになった.
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
待機画面の視覚刺激が選択に及ぼす影響の調査 横山幸大 中村聡史(明治大学) 山中祥太(ヤフー株式会社)
背景 • 日常生活において、選択をする場面が多く存在する 2
背景 • 日常生活において、選択をする場面が多く存在する • 選択をさせる側は様々な需要がある - ECサイトでおすすめする商品に興味を持ってもらうために、 選択を誘導したい - アンケート調査の結果になるべく影響が出ないために、 選択を公平にしたい • 人間の習性や心理効果に注目した選択行動に関する研究が 多くされている 3
選択の誘導に関する研究[細谷ら 2019] • ポップアウトという視覚特性に着目して、実際に稼働している 自動販売機で選択の傾向を調査し、選択を誘導できることを 明らかにした 4
選択の公平化に関する研究[植木ら 2020] • 三択の質問において、選択肢を同じフォントで提示する 場合よりも、違うフォントで提示した場合に選択位置がばらける 5
背景 • 選択画面に提示する刺激が選択に及ぼす影響に関する研究は、 様々行われている 選択画面以外で提示する刺激によって選択に影響を及ぼす ことができれば、応用できる範囲が広がる 待機画面の視覚刺激(プログレスバー)に注目 6
背景 • 多くのWebサイトにおいてファイルやデザインの読み込みは 必要不可欠であり,その際にユーザが待機する時間が発生する • プログレスバーなどの視覚的フィードバックのデザインが ユーザに様々な影響を及ぼすことが知られている - 情報量の違い [Carineら 2012] - アニメーションの加減速 [黒木ら 2015] - フィードバックの形状 [大坪ら 2014] 7
背景 視覚的フィードバックのデザインが,待機後のユーザの行動に 及ぼす影響に関しては明らかになっていないことが多い - 待機後のユーザの選択行動に注目 - 人は動くものに視線をとられ,注意が向く - 選好判断において注視時間を偏らせた対象が選ばれやすくなる [下條ら 2003] 8
仮説 フィードバックのアニメーションにより視線が誘導され,誘導 された領域付近に配置された選択肢が選ばれやすくなる 9
仮説 フィードバックのアニメーションにより視線が誘導され,誘導 された領域付近に配置された選択肢が選ばれやすくなる - 女性よりも男性の方が動きや変化に敏感 [Abramovら 2012] - 男性の方が影響が出やすい 10
研究目的 待機画面の視覚的フィードバックが 後の選択行動に及ぼす影響の調査 • プログレスバーのアニメーションの終着地点付近にある選択肢が その後に選ばれやすくなるのか • 男性の方が女性に比べてプログレスバーが選択行動に及ぼす 影響が大きくなるのか 11
予備実験概要 予備実験の目的 • 視覚的フィードバックの仕様、選択肢数、その他留意 すべき条件を明らかにする 12
予備実験概要 • プログレスバーを提示した後に気になる商品を選ばせる実験 • Yahoo!クラウドソーシングを用いて実験実施 • 実験協力者606名(男性300名、女性306名) • PCからの参加に限定して行った 13
予備実験:実験設計 待機条件10種類(被験者間要因) • (バー型2種 ×上中下3種) + (円型1種 × 大中小3種) + 白画面1種 14
予備実験:実験設計 待機条件10種類(被験者間要因) • (バー型2種 ×上中下3種) + (円型1種 × 大中小3種) + 白画面1種 15
予備実験:実験設計 待機条件10種類(被験者間要因) • (バー型2種 ×上中下3種) + (円型1種 × 大中小3種) + 白画面1種 待機時間条件10種類(被験者内要因) • 1~10秒で1秒おきの10種類をランダムな順番で実施 商品カテゴリ10種類 • 掃除機、ダンベル、デスクチェア、Webカメラ、箱ティッシュ、 マウス、ティーカップ、乾電池、水、PCケース 16
予備実験:実験設計 各カテゴリで商品画像16種類(例:水カテゴリ) 17
予備実験:実験設計 各カテゴリで商品画像16種類(例:水カテゴリ) 選択肢の 配置はランダム 18
予備実験:手順 実験説明画面 待機画面 10回 繰り返す 商品選択画面 実験後アンケート 19
予備実験:手順(実験説明) ① 実験手順の説明、画面サイズを最大にするなどの指示 ② 性別年代を選択し、実験開始 20
予備実験:手順(実験説明) ① 実験手順の説明、画面サイズを最大にするなどの指示 ② 性別年代を選択し、実験開始 21
予備実験:手順(実験説明) ① 実験手順の説明、画面サイズを最大にするなどの指示 ② 性別年代を選択し、実験開始 条件に満たない 場合は開始しない 22
予備実験:手順(待機→商品選択) ① これから選択する商品カテゴリとシナリオの説明 ② いずれかの待機時間条件で待機した後、気になる商品を選択 23
予備実験:手順(待機→商品選択) ① これから選択する商品カテゴリとシナリオの説明 ② いずれかの待機時間条件で待機した後、気になる商品を選択 24
予備実験:結果 • 仮説のようにアニメーションの終着地点に選択が集中するという 傾向はとくにみられなかった - バー状においては左から2列目に選択が集中する傾向 • 水と乾電池において極端に選ばれている選択肢があった 25
予備実験:改善すべき点 • 選択肢の多さが選択行動の負荷を増やし、結果に影響を 与えた可能性 • 特定の環境では下表示のプログレスバーが見えなかった 可能性 26
予備実験:改善すべき点 • 白画面条件のデータ数がとても少なかった • エラーと誤認され、離脱率が高くなってしまった可能性 • 各条件のデータをより多く集めるために条件数を絞る 27
本実験概要 • 予備実験の改善点を踏まえ、実験を再設計して調査 • Yahoo!クラウドソーシングを用いて実験実施 • 共有ブロックリストから事前に901名を依頼対象から外した • 実験協力者1000名(男性500名、女性500名) • PCからの参加に限定して行った 28
本実験:実験設計 待機条件5種類(被験者間要因) • (上下2種 × 左右2種) 上表示(⇦) 上表示(⇨) 下表示(⇦) 下表示(⇨) + 背景色変化1種 29
本実験:実験設計 待機条件5種類(被験者間要因) • (上下2種 ×左右2種) + 背景色変化1種 待機時間条件3種類(被験者内要因) • 2秒、5秒、10秒をランダムな順番で3回ずつ実施 商品カテゴリ9種類 • 掃除機、ダンベル、デスクチェア、Webカメラ、箱ティッシュ、 マウス、ティーカップ、乾電池、水 30
本実験:設計 各カテゴリで商品画像8種類(例:水カテゴリ) - 予備実験の選択回数の結果をもとに選定 31
本実験:結果 • 不適切な回答を除外した結果、831名(男性436名、女性395名) の結果が得られた • 多少偏りはあるが、予備実験よりも偏りを小さくできた 32
本実験:結果 上表示(右→左) 上表示(左→右) 背景色変化 SD = .012 下表示(右→左) SD = .017 下表示(左→右) SD = .012 SD = .021 SD = .026 33
本実験:結果 上表示(右→左) 上表示(左→右) 背景色変化 SD = .012 下表示(右→左) SD = .017 下表示(左→右) SD = .012 SD = .021 SD = .026 34
本実験:結果 上表示(右→左) 上表示(左→右) 背景色変化 SD = .012 下表示(右→左) SD = .017 下表示(左→右) SD = .012 SD = .021 SD = .026 35
本実験:結果 上表示(右→左) 上表示(左→右) 背景色変化 SD = .012 下表示(右→左) SD = .017 下表示(左→右) SD = .012 SD = .021 SD = .026 36
本実験:男女別結果(アニメーションの 向き) 男性 SD = .020 SD = .024 SD = .014 SD = .021 女性 37
本実験:男女別結果(表示位置) 上表示 下表示 SD = .014 SD = .026 上表示 下表示 SD = .014 SD = .021 男性 女性 38
本実験:考察 • アニメーションの終着地点に選択が集まるという仮説と異なった - 等速度でアニメーションさせたことで待機時間の終了直前に 視線が集中しなくなった可能性 アニメーションの進む速度を加減速させることで影響が 変わる可能性 39
本実験:考察 • 左から右にアニメーションした場合、中央2列に選択が集中した - ユーザの意識が集中せず、水平中心性などが強くはたらいた • 右から左にアニメーションした場合、選択が分散された - 見慣れないためユーザの視線を惹き、公平化された 40
本実験:考察 • 男性の方が女性よりも影響が大きいという仮説 - 男性は表示位置による選択率の偏りに差が大きく、女性は アニメーションの向きによる選択率の偏りに差が大きかった 41
本実験:考察 • 男性の方が女性よりも影響が大きいという仮説 - 男性は表示位置による選択率の偏りに差が大きく、女性は アニメーションの向きによる選択率の偏りに差が大きかった 男性と女性で影響を及ぼす条件が違う可能性 42
本実験:まとめ • ユーザの選択を誘導したい場合は、画面水平方向中央に対象を 配置し、下表示(左→右)のプログレスバーを採用する • ユーザの選択を公平にしたい場合は、上表示(右→左)の プログレスバーを採用する • 男女で、選択に影響を及ぼすプログレスバーの条件が違うため、 Webサイト/アプリのターゲットに合わせて条件を変える 43
課題 • 遠隔で実験を行ったため、視線計測を行うことができなかった 視線計測のできる環境で実験を行い、詳細な分析をする 44
展望 • Yahoo!クラウドソーシングのユーザ人口から30~50代を 対象とした調査にとどまっている 10~20代の分析も行うことで年代別の影響の違いを調査する 45
まとめ 背景:待機画面中の視覚刺激でユーザの選択を操作したい 目的:フィードバックの条件によって、その後の選択行動の傾向の 違いを明らかにする 実験:選択を誘導したい場合は下表示(左→右)のプログレスバー 選択を分散したい場合は上表示(右→左)のプログレスバー 男女で影響が出やすい条件が異なった 課題:視線計測を行えなかった 展望:10~20代の実験協力者を増やし,年代別の傾向を調査 46