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November 22, 23
スライド概要
我々が実施した過去の研究において,複数の選択肢の中から選択肢をクリックして選ぶ場合と音声入力で声に出して選ぶ場合とで,選択に偏りが生じた.この原因として我々は,選択肢を選ぶ際の音声入力のしやすさが選択に影響を与えているのではないかと考えた.そこで本研究では「選択肢の表現において,クリック選択に比べ音声選択で選択が誘導されてしまうような副詞的表現が存在する」という仮説を立てた.この仮説を検証するために,ポインティングタスクにおいて自身が選択した項目に注意しながら取り組んでもらう実験を設計した.ここでは選択対象となる注意事項を5つ用意し,またその注意事項への副詞的表現として「できるだけ」,「可能な限り」,「やれる範囲で最大限に」の3つを用意して組み合わせることで,表現と選択率の関係をクリック選択と音声入力とで比較実験した.実験の結果,クリック選択では3つの副詞的表現に選択の大きな偏りは見られなかったが,音声選択では「やれる範囲で最大限に」という選択肢が選ばれにくくなり,仮説が支持された.また音声選択では右の選択肢が選ばれにくくなることがわかった.さらにパフォーマンスに関しては,クリック選択より音声選択の方が効果的であり,さらに音声選択で「やれる範囲で最大限に」という表現がパフォーマンス向上に効果的である傾向が示唆された.
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
選択肢の表現が⾳声⼊⼒での選択に及ぼす影響 明治⼤学3年 重松⿓之介 ⼤⽯琉翔,中川由貴,中村聡史 ⿃居武史,澄川瑠⼀,⾼尾英⾏ 2023.11.21-22 |HCI205 |淡路夢舞台国際会議場 1
背景|過去の経験 テスト勉強 国語 英語 どの科⽬を勉強するか 地理 化学 数学 他⼈に⾔われるとやる気がなくなる 2
背景 パフォーマンスにおいて 他者が決める 外発的動機付け < ⾃分で選択する 内発的動機付け 3
背景 パフォーマンスにおいて 他者が決める 外発的動機付け < ⾃分で選択する 内発的動機付け ⾃ら選択することが⼤事 4
背景 パフォーマンスにおいて 他者が決める < ⾃分で選択する 得意不得意や様々な要因により選択が偏る可能性がある 外発的動機付け 内発的動機付け ⾃ら選択することが⼤事 5
関連研究|選択の偏りに関する研究 フォントが商品選択に影響を及ぼす [川島ら 2019] ディスプレイの両脇より中央にある選択肢が選ばれやすい [Valenzuelaら 2009] 川島拓也, 築舘多藍, 細谷美月, 山浦祐明, 中村聡史. 商品選択においてフォントがユーザの選択行動に及ぼす影響の調査. 電子情報通信学会 ヒューマンコ ミュニケーション基礎研究会(HCS), 2019, vol. 119, no. 38, p. 113-118. A. Valenzuela, and P. Raghubir, “Position-based beliefs: The center-stage effect,” Journal of Consumer Psychology, vol.19, no.2, pp.185-196, 2009. 6
先⾏研究 内発的動機付けが運転に及ぼす影響の調査[⼤⽯ら 2023] クリック選択 ⾳声選択 クリックして選択する 声に出して選択する 大石琉翔, 中川由貴, 渡邉健斗, 松田さゆり, 中村聡史, 鳥居武史, 澄川瑠一, 高尾英行. 内発的動機付けが運転に及ぼす影響の調査: ク リック選択と音声選択の比較, 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol. 2023-HCI-201, No.18, pp.1-8, 2023. 7
先⾏研究 ⾳声選択 1つ⽬に選択するものについて選択が偏った. 8
先⾏研究 ⾳声選択でのみ偏りが起こる要因 選択肢の読み上げにくさ 読み上げにくさは漢字が多かったり,⽂字数が多いなどの 表現の違いに左右されると考えられる. 9
⽬的 ⾳声選択において 選択肢の表現が選択に与える影響を明らかにする 10
選択肢の表現 選択肢の内容を変えずに表現を変えるために 副詞的表現に着⽬した できるだけ速く 可能な限り速く 11
仮説 ⾳声選択では選択肢の副詞的表現の⼯夫により 選択の誘導が起こる 読み上げにくい選択肢を避ける傾向があるのではないか 12
実験|ポインティングタスク • ランダムな位置にランダムな ⼤きさのターゲットが表⽰さ れ,それを必要個数クリック していく. • 1試⾏あたり20個 13
実験|ポインティングタスク 速く 正確に 14
実験|ポインティングタスク 同じリズムで 1 円の中⼼を 1 1秒 1秒 2 移動を短く 1 3 3 2 3 2 15
実験|選択肢 副詞的表現 注意事項 最善を尽くすことを強調する表現 できるだけ(⼝語的) 可能な限り(⽂語的) やれる範囲で最⼤限に(説明的) 速く 正確に 同じリズムで 円の中⼼を 移動を短く 選択肢の例 できるだけ速く 16
実験|選択肢の選定⽅法 ① 副詞的表現の組み合わせ (1)できるだけ・可能な限り・やれる範囲で最⼤限に (2)できるだけ・可能な限り・可能な限り (3)できるだけ・やれる範囲で最⼤限に・やれる範囲で最⼤限に ② 5つの注意事項から3つを選定 ③ 選定された3つの副詞的表現と3つの注意事項をシャッフルし 組み合わせて3択として配置 ⽂語的な表現や説明的な表現を避け,⼝語的な表現が選択される傾向があると考えた (読み上げやすい) 17
実験|選択画⾯ クリック選択 • 実験協⼒者 20名 ⾳声選択 • 試⾏回数 1⼈当たり20回 18
結果|パフォーマンス 速く 経過時間(s) 正確に エラー率(%) 同じリズムで 時間の標準偏差 円の中⼼を 距離の和(px) 移動を短く 距離の⽐ 1.10 ⾮選択 16.46 5.54 148.5 404.6 1.19 < 145.6 < 99.3 < 2.80 < 12.28 < 選択 全ての注意事項におけるパフォーマンスにおいて ⾮選択 <選択 19
結果|副詞的表現ごとの選択率 (%) 45 クリック選択 40 35 • 表現における⼤きな差は少ない 33.3 30 25 ⾳声選択 20 15 30.9 38.4 33.3 37.4 35.8 24.2 10 5 • 「できるだけ」,「可能な限り」 と「やれる範囲で最⼤限に」の間 に⼤きな差がある. • 多くの⽂字を声に出すという負担 0 できるだけ 可能な限り やれる範囲で最⼤限に できるだけ 可能な限り やれる範囲で最⼤限に クリック選択 ⾳声選択 期待値 20
結果|副詞的表現ごとの選択率 (%) 45 クリック選択 40 35 • 表現における⼤きな差は少ない 33.3 30 25 ⾳声選択 20 15 30.9 33.3 35.8 10 5 • 「できるだけ」,「可能な限り」 と「やれる範囲で最⼤限に」の間 に⼤きな差がある. • 多くの⽂字を声に出すという負担 0 できるだけ 可能な限り できるだけ 可能な限り クリック選択 やれる範囲で最⼤限に やれる範囲で最⼤限に 期待値 21
結果|副詞的表現ごとの選択率 (%) 45 クリック選択 40 35 • 表現における⼤きな差は少ない 33.3 30 25 ⾳声選択 20 15 38.4 37.4 24.2 10 5 • 「できるだけ」,「可能な限り」 と「やれる範囲で最⼤限に」の間 に⼤きな差がある. • 多くの⽂字を声に出すという負担 0 できるだけ できるだけ 可能な限り やれる範囲で最⼤限に 可能な限り やれる範囲で最⼤限に ⾳声選択 期待値 22
結果|「できるだけ」の選択率 選択肢の 表現の組み合わせ できるだけ 可能な限り やれる範囲で最⼤限に クリック選択 ⾳声選択 30.9 38.4 できるだけ 可能な限り 可能な限り 40.4 36.5 できるだけ やれる範囲で最⼤限に やれる範囲で最⼤限に 44.3 37.8 クリック選択 ⾳声選択 • 3つの表現があるときは期待値通り • 「できるだけ」と残り2つが同じ時 選択率が上がる • ポップアウトした? • どの組み合わせにおいても期待値 以上であり,組み合わせによる⼤きな 差は⾒られない 23
結果|「できるだけ」の選択率 選択肢の 表現の組み合わせ できるだけ 可能な限り やれる範囲で最⼤限に クリック選択 ⾳声選択 30.9 38.4 できるだけ 可能な限り 可能な限り 40.4 36.5 できるだけ やれる範囲で最⼤限に やれる範囲で最⼤限に 44.3 37.8 クリック選択 ⾳声選択 • 3つの表現があるときは期待値通り • 「できるだけ」と残り2つが同じ時 選択率が上がる • ポップアウトした? • どの組み合わせにおいても期待値 以上であり,組み合わせによる⼤きな 差は⾒られない 24
結果|「できるだけ」の選択率 選択肢の 表現の組み合わせ できるだけ 可能な限り やれる範囲で最⼤限に クリック選択 ⾳声選択 30.9 38.4 できるだけ 可能な限り 可能な限り 40.4 36.5 できるだけ やれる範囲で最⼤限に やれる範囲で最⼤限に 44.3 37.8 クリック選択 ⾳声選択 • 3つの表現があるときは期待値通り • 「できるだけ」と残り2つが同じ時 選択率が上がる • ポップアウトした? • どの組み合わせにおいても期待値 以上であり,組み合わせによる⼤きな 差は⾒られない 25
結果|表⽰位置ごとの選択率 (%) 40 クリック選択 35 33.3 30 • 選択率の差はない 25 20 15 33.3 36.0 33.3 34.3 33.4 29.8 ⾳声選択 • 左から順に選択されやすい 10 • 左から順に選択肢を読むことが原因 5 0 左 左 クリック選択 中 中 ⾳声選択 右 右 期待値 26
結果|表⽰位置ごとの選択率 (%) 40 クリック選択 35 33.3 30 • 選択率の差はない 25 20 15 33.3 33.3 33.4 ⾳声選択 • 左から順に選択されやすい 10 • 左から順に選択肢を読むことが原因 5 0 左 左 クリック選択 中 中 右 右 期待値 27
結果|表⽰位置ごとの選択率 (%) 40 クリック選択 35 33.3 30 • 選択率の差はない 25 20 15 36.0 34.3 29.8 ⾳声選択 • 左から順に選択されやすい 10 • 左から順に選択肢を読むことが原因 5 0 左 左 中 中 ⾳声選択 右 右 期待値 28
結論 副詞的表現ごとの選択率 • ⾳声選択において,表現による選択の偏りがあった 「できるだけ」の選択率 • クリック選択では選択肢の表現が「できるだけ」と残り2つが同じ 時,ポップアウトにより「できるだけ」が選ばれやすかった? 表⽰位置ごとの選択率 • ⾳声選択では左から順に選択率が⾼かった 29
結論 ⾳声選択では選択肢の副詞的表現の⼯夫により 副詞的表現と注意事項ごとの選択率 選択の誘導が起こり,仮説が⽀持された • ⾳声選択において,表現による選択の偏りがあった 「できるだけ」の選択率 クリック選択ではポップアウト,⾳声選択では選択肢の位置を • 組み合わせることで選択の誘導を⾏うことができる可能性がある クリック選択では選択肢の表現が「できるだけ」と残り⼆つが同 じ時,ポップアウトにより「できるだけ」が選ばれやすかった 表⽰位置ごとの選択率 • ⾳声選択では左から順に選択率が⾼かった 30
展望 • 表現の種類を増やして分析を⾏うことで表現ごとのさらに 細かい選択傾向を明らかにする • 運転練習に応⽤することで,ユーザが無意識に避けている 選択肢に誘導し技能向上をサポートすることができるのか を検証する 31
まとめ 背景|得意不得意などの様々な要因が選択に影響を与える ⽬的|選択肢の表現による選択への影響の調査 ⼿法|クリック選択と⾳声選択における表現ごとの選択率の⽐較 結果|選択肢の表現が⾳声選択に影響を与える 展望|避けている選択肢に誘導する 32