処理遅延のあるシステムにおける待機時間とプログレスバーの進行速度変化がユーザの離脱行動および感情状態に及ぼす影響

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May 31, 25

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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1.

処理遅延のあるシステムにおける 待機時間とプログレスバーの進行速度変化が ユーザの離脱行動および感情状態に及ぼす影響 明治大学 宮本快士 三山貴也 中村聡史(明治大学) 山中祥太(LINE ヤフー株式会社) 1

2.

読み込みに時間がかかる例 2

3.

背景 Webシステムを利用するとき,処理遅延による待機時間が発生 ストレス モチベーションの低下 ページからの離脱 プログレスバーのような視覚的フィードバックが有効 プログレスバーによる時間提示は,テキストによる時間提示や 時間提示無しの場合に比べ,体感時間を短縮する [Gronierら 2008] G. Gronier, and S. Gomri, “Etude des métaphors temporelles sur la perception du temps d'attente,” Proceedings of the 20th International Conference of the Association Francophone d'Interaction Homme-Machine, pp.205-208, Metz, France, Sept.2008. 3

4.

プログレスバーのシステム設計 1. 問い合わせ内容の処理 2. DBへの問い合わせ 3. DBからの出力結果の処理 4. 問い合わせ結果の送信 1 1 2 3 2 4 3 4 4

5.

関連研究 • ビデオコンテンツでは,開始に2秒以上かかると視聴者は離脱を始め, 遅延が1秒増加することで離脱率が5.8%増加する [Krishnanら 2012] • 通信遅延の際にキャラクタと文章をスマートフォンの画面に表示することで 通信の遅延による体感の品質の低下を緩和できる [白井ら 2017] • プログレスバーに進行速度変化をつけることで体感時間が変化し,途中で 停止があると時間が長く感じられ,進行が加速するものが好まれる [Harrisonら 2007] S. S. Krishnan and R. K. Sitaraman: “Video stream quality impacts viewer behavior: inferring causality using quasi-experimental designs”, Proc. of IMC’12, pp. 211–224 (2012). 白井丈晴, 藤田真浩, 荒井大輔, 大岸智彦, 西垣正勝: “スマートフォンの通信遅延におけるユーザのアウェアネスとQoEの関係に関する基礎検討”, 情報処理学会論文誌, 58, 12, pp. 1901–1911 (2017). C. Harrison, B. Amento, S. Kuznetsov and R. Bell: “Rethinking the progress bar”, Proc. of UIST ’07, pp.115–118 (2007). 5

6.

関連研究との違い • 待機時間の長さによるユーザの離脱行動 • プログレスバーの進行速度変化による体感時間 実際のWebサイトに近い状況での,プログレスバーの 進行速度変化によるユーザの離脱行動を調査 6

7.

前回の研究 Webページの読み込み中に表示するプログレスバーの 進行速度変化がユーザの離脱に及ぼす影響の調査 [HCS 2024 8月研究会] Linear 7.35% Ease In 20.85% Ease Out 4.47% 宮本快士,三山貴也, 中村聡史, 山中祥太: “待機画面におけるプログレスバーの進行速度変化が離脱に及ぼす影響”, 電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーション 基礎研究会(HCS), 124, 161, pp. 102–107 (2024). 7

8.

目的 同一システム内で ランダムな待機時間を設定 離脱行動の指標に 限定した分析 システム固有の処理遅延による待機時間が発生する状況で プログレスバーの進行速度変化が ユーザの離脱行動と感情状態に与える影響を調査 8

9.

実験 実験概要 • 4分間ページ遷移しながら情報探索を行い問題に回答 • 実験タスク終了後に感情状態に関するアンケートと システムの評価を調査するためのSUSを実施 9

10.

実験 実験中のページ遷移 10

11.

実験 回答画面 11

12.

実験 プログレスバーの速度変化条件 • Linear:進行速度が一定 • Ease In:進行速度が遅い→加速 • Ease Out:進行速度が速い→減速 12

13.

実験 待機時間の条件 • 4秒平均条件:3,4,5秒をランダムに割り当て • 9秒平均条件:8,9,10秒をランダムに割り当て 13

14.

実験 待機画面からの離脱の判定 ブラウザバック リロード 14

15.

実験 仮説 H1:Ease In条件の場合に否定的な感情の評価が低く, 肯定的な感情の評価が高くなる H2:平均の待機時間が短い場合は待機時間が長い場合よりも システムの評価が高くなる 15

16.

実験 多面的感情尺度と信頼性アンケートの内容 1. 疲れた 2. 退屈な 3. むっとした 否定的 4. 気分を害した 4段階 5. 気持ちの良い 6. 快適な 7. 注意深い 肯定的 [寺崎ら 1992] 8. 真剣な 9. このシステムを信頼できる 5段階 16

17.

実験 SUSの内容 [Brookeら 1996] 1. このシステムを頻繁に使用したい 2. このシステムは必要以上に複雑だと思う 3. このシステムはシンプルで使いやすい 4. このシステムを使うにはテクニカルサポートが必要 5. このシステムはスムーズに機能し,連携が取れていると思う 6. このシステムには不規則な点が多いと思う 7. ほとんどの人がこのシステムをすぐに習得できると思う 8. このシステムは扱いづらいと思う 9. このシステムを使いこなせると確信している 10.このシステムを使い始める前に学ぶべきことはたくさんあると思う 17

18.

結果 実験参加者 • Yahoo!クラウドソーシングにおいて,800名が実験を完了 • 以下の参加者を除外 • 不適切なユーザIDを入力 • 実験前のキャリブレーションで適正外 • 実験中のアクセス数が5回以下 • 離脱数が10回以上 →分析対象:503名 18

19.

結果と考察 1.待機画面および実験からの離脱 進行速度により離脱行動がどのように変化するか? 2.多面的感情尺度による評価 進行速度によりシステムの使用後にどのような感情になるのか? 3.システムへの信頼性 進行速度によりシステムへの信頼性にどのような差があるか? 4.SUS 進行速度によりシステムへの評価にどのような差があるか? 19

20.

結果 待機画面からの離脱 • 4秒平均では進行速度条件による離脱率の差は小さい • 9秒平均ではEase In条件での離脱率が高い Linear Ease In Ease Out 4秒平均 0.25% 0.28% 0.06% 9秒平均 0.63% 4.99% 1.13% 20

21.

結果 実験からの離脱 • 待機時間条件に関わらず,Ease In条件の離脱率が高い • Ease In条件の離脱率が有意に高い Linear Ease In Ease Out 全体 4秒平均 9.6% 13.5% 12.8% 12.0% 9秒平均 12.2% 30.6% 11.8% 18.3% 平均 10.9% 22.6% 12.3% 15.1% 21

22.

結果と考察 1.待機画面および実験からの離脱 進行速度により離脱行動がどのように変化するか? 2.多面的感情尺度による評価 進行速度によりシステムの使用後にどのような感情になるのか? 3.システムへの信頼性 進行速度によりシステムへの信頼性にどのような差があるか? 4.SUS 進行速度によりシステムへの評価にどのような差があるか? 22

23.

結果 多面的感情尺度による評価 ・全ての項目で進行速度条件における主効果は有意でない → 仮説1「Ease In条件の否定的な感情が低く,肯定的な感情の評価が高くなる」 ・倦怠・敵意・活動的快において待機時間条件の主効果が有意 倦怠 Linear Ease In 敵意 Ease Out Linear Ease In 活動的快 Ease Out Linear Ease In 集中 Ease Out Linear Ease In Ease Out 4秒平均 2.48 2.34 2.41 2.11 2.04 1.96 1.78 1.89 1.96 3.07 3.00 2.97 9秒平均 2.55 2.66 2.56 2.34 2.66 2.48 1.71 1.72 1.71 2.93 2.95 3.10 平均 2.52 2.5 2.49 2.23 2.35 2.22 1.75 1.81 1.84 3.00 2.98 3.04 23

24.

結果と考察 多面的感情尺度による評価 ・9秒平均条件では有意に倦怠・敵意のスコアが高い →待機時間の長さがユーザの否定的な感情を増加させる傾向 ・Ease In条件では9秒平均において否定的な感情のスコアが 高くなる 倦怠 Linear 敵意 Ease In Ease Out Linear Ease In Ease Out 4秒平均 2.48 2.34 2.41 2.11 2.04 1.96 9秒平均 2.55 2.66 2.56 2.34 2.66 2.48 平均 2.52 2.5 2.49 2.23 2.35 2.22 24

25.

結果と考察 1.待機画面および実験からの離脱 進行速度により離脱行動がどのように変化するか? 2.多面的感情尺度による評価 進行速度によりシステムの使用後にどのような感情になるのか? 3.システムへの信頼性 進行速度によりシステムへの信頼性にどのような差があるか? 4.SUS 進行速度によりシステムへの評価にどのような差があるか? 25

26.

結果と考察 システムの信頼性 ・9秒平均の方がスコアが低い ・Ease In条件は4秒平均で最もスコアが高いが, 9秒平均で最もスコア低い ・待機時間の主効果,進行速度と待機時間の交互作用は有意 4秒平均 9秒平均 平均スコア Linear 3.02 2.84 2.93 Ease In Ease Out 3.24 3.11 2.66 3.01 2.95 3.06 26

27.

結果と考察 システムの信頼性 ・全ての進行速度条件において,9秒平均の方がスコアが低い ・Ease In条件は4秒平均で最もスコア高いが,9秒平均で最もスコア低い ・Ease Out条件は待機時間の条件による差が最も小さい 待機時間が9秒程度の場合,アニメーション 開始時の進行速度が過度に遅いことは ・待機時間の主効果,進行速度と待機時間の交互作用は有意 ユーザに不信感を抱かせる 4秒平均 9秒平均 平均スコア Linear 3.02 2.84 2.93 Ease In Ease Out 3.24 3.11 2.66 3.01 2.95 3.06 27

28.

結果と考察 1.待機画面および実験からの離脱 進行速度により離脱行動がどのように変化するか? 2.多面的感情尺度による評価 進行速度によりシステムの使用後にどのような感情になるのか? 3.システムへの信頼性 進行速度によりシステムへの信頼性にどのような差があるか? 4.SUS 進行速度によりシステムへの評価にどのような差があるか? 28

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結果 SUS ・9秒平均の方がスコアが有意に低い → 仮説2「ユーザの待機時間が短い方が満足度が高くなる」 4秒平均 9秒平均 平均スコア Linear 56.69 50.88 53.79 Ease In 54.32 44.21 49.27 Ease Out 57.71 50.71 54.21 29

30.

結果と考察 SUS ・Ease In条件は待機時間が長くなることによるスコアの低下が顕著 4秒平均 9秒平均 平均スコア Linear 56.69 50.88 53.79 Ease In 54.32 44.21 49.27 Ease Out 57.71 50.71 54.21 処理遅延の長いシステムにおいて,プログレスバーの進行の 初期段階での進行速度が遅いことがシステムの評価を下げる 30

31.

結果と考察 まとめ アニメーション開始時の進行速度が遅い場合, ユーザの予測する読み込み時間が長くなりストレスになる 処理遅延が長いシステムにおいて進行の初期段階で 速度が遅くなりすぎない工夫がユーザの離脱を防ぐ 31

32.

プログレスバーのシステム設計 1. 問い合わせ内容の処理 2. DBへの問い合わせ 3. DBからの出力結果の処理 4. 問い合わせ結果の送信 1 1 2 3 2 4 3 4 32

33.

今後の展望 • より複雑な進行速度変化の場合での検証 • PCとスマートフォンによる離脱行動や感情状態の差 33

34.

まとめ 背景:Webページの読み込み中に離脱が発生 目的:待機時間とプログレスバーの進行速度変化がユーザの 離脱行動と感情状態に与える影響を調査 実験:待機画面に表示するプログレスバーの速度変化条件を 3種類,待機時間条件2種類で離脱率と感情状態を比較 結果:プログレスバーの進行速度変化が離脱行動と感情状態に 影響している 考察:処理の遅延の長さに応じて待機中のフィードバックを工夫 する必要あり 34