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January 13, 25
スライド概要
デジタル端末上での手書きで用いるタブレットPCやスタイラスペンなどの電子機器は,その素材を容易に変更できないため,アナログの手書きに比べ書き心地が限定的であり,ユーザの嗜好や用途に適した機器に出会えないことが多い.その中でも,タブレットとペン先の摩擦は書き心地に大きく影響するが,従来のペーパーライクフィルムによるタブレット側での摩擦付与による書き心地改善には,視認性や操作性の問題が残る.そこで本研究では,ペン先の摩擦が手書き時に得られる感覚に及ぼす影響を調査し,その客観的評価手法として手書きのブレの妥当性を検討した.実験では,摩擦の異なるペン先を用いて,文字の筆記や図形の削除を行うタスクを実施し,主観評価と手書きのブレの相関を比較した.その結果,両タスクにおいて全体では強い相関がみられなかった一方で,個別の参加者や特定の文字においては摩擦特性が書き心地と手書きのブレに影響を与える可能性が示唆された.
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
書き心地の改善に向けた ペン先の摩擦が筆記のブレに及ぼす影響 明治大学 総合数理学部3年 能宗 巧 瀬崎 夕陽 小林 沙利 関口 祐豊 中村 聡史(明治大学) 近藤 葉乃香 梅澤 侑己 橋本 忠樹(株式会社パイロットコーポレーション)
はじめに 筆記具にこだわりはありますか? https://www.pilot.co.jp/products/ 2
背景 アナログ筆記具 ・多様な素材や構造を有する筆記具が存在 ・店頭で試し書きできる環境が広く普及している デジタル筆記具 ・素材や構造を大きく変更することが難しい ・試し書きの機会や環境が限られている 3
背景 タブレット画面とペン先の間の摩擦が書き心地に影響する [Camporroら,2020][Gerthら,2016] →摩擦を改善するアプローチが行われている 例:ペーパーライクフィルム ・表面に特殊な加工を施して紙の質感を再現 ・問題:視認性や操作感度の低下 Fernandez Camporro, M. and Marquardt, N.: LiveSketchnoting Across Platforms: Exploring the Potentialand Limitations of Analogue and Digital Tools,Proceedings of the 2020 CHI Conference on HumanFactors in Computing Systems, CHI ’20, New York,NY, USA, Association for Computing Machinery, p. 1–12(2020). Gerth, S., Klassert, A., Dolk, T., Fliesser, M.,Fischer, M. H., Nottbusch, G. and Festman, J.:Is Handwriting Performance Affected by the WritingSurface? Comparing Preschoolers’, Second Graders’,and Adults’ Writing Performance on a Tablet vs. Paper,Frontiers in Psychology, Vol. 7 (2016). https://www.bellemond.jp/post/blog-2405-illustplk 4
背景 スタイラスペンのペン先に着目 利点 ・ディスプレイを邪魔しない 適切なペン先を効率的に見つけるためには ・交換が容易 欠点 書き心地を客観的に評価することが一つの手段 ・摩擦特性のバリエーションが限定的でユーザの選択肢が少ない ・適した書き心地のペン先を探すことが難しい 5
関連研究 ひらがなの平均手書き文字は綺麗 ・理想文字と実際の文字との差異 [中村ら 2016] 手書き文字に生じる「ブレ」 ・ブレを小さくするため,点列データを用いて平均化 →平均文字は理想文字に近似 ・ペンが滑りやすく意図した通りの文字を書けなかった →筆記時の摩擦がブレを生じさせる要因の可能性 中村聡史,鈴木正明,小松孝徳: ひらがなの平均手書き文字は綺麗,情報処理学会論文誌, Vol. 57, No. 12, pp.2599–2609 (2016). 6
オンラインでのペン先購入支援システムの構想 ブレのデータを活用して,試用不要でペン先を推薦するシステム システム利用時の流れ 1. ユーザが手持ちのペンで文字を筆記する 2. 得たデータからブレを算出する 3. 事前に収集したデータを用いて最適なペン先を提案 →ブレを用いて書き心地を客観的に評価することが重要 7
目的 ペン先の摩擦特性によるブレを用いて 書き心地を客観的に評価する手法の有効性の調査 8
仮説 手書きを行った際にブレが小さい 筆記具のペン先の摩擦特性は 使用者にとって満足度の高い書き心地を提供する 9
実験概要 摩擦特性の異なるペン先を用いた筆記実験 書き心地について ・筆記時に取得したデータから客観的に評価 ・アンケートを通じて主観的に評価 →2つの評価の関連性について分析 10
ペン先の選定 素材や構造の異なる8種類のペン先を用意 (市販のペン先 / 3Dプリンタで制作したペン先) →選定中に破損したペン先を除外した7種類を対象 動筆記抵抗と動筆圧を測定し,動摩擦係数を導出 緑→赤につれて 摩擦係数大 11
実験タスク デジタル手書きの用途に応じて適切な摩擦特性が変化する可能性 [西村ら 2013][Gerthら 2016][Heintzら 2018] →文字の筆記だけでなく,削除を行うタスクを実施 各ペン先について 筆記タスク:「あ」「永」を10回ずつ筆記 削除タスク:円を10回ずつ削除 西村崇宏,土井幸輝,藤本浩志: タッチパネルタブレット端末におけるディスプレイの表面特性が操作性に及ぼす影響,日本感性工学会論文誌, Vol. 12, No. 3, pp. 431–439(2013). Gerth, S., Klassert, A., Dolk, T., Fliesser, M., Fischer, M. H., Nottbusch, G. and Festman, J.: Is Handwriting Performance Affected by the Writing Surface? Comparing Preschoolers’, Second Graders’, and Adults’ Writing Performance on a Tablet vs. Paper, Frontiers in Psychology, Vol. 7 (2016). Heintz, B. D. and Keenan, K. G.: Spiral tracing on a touchscreen is influenced by age, hand, implement, and friction, PLOS ONE, Vol. 13, No. 2, pp. 1–14 (2018). 12
ブレの算出方法 筆記タスク →平均文字と筆記された文字との差分:筆記のブレ [佐藤ら 2018] ・距離に基づき各ストロークを100等分(右図N=100) ・対応する特徴点のユークリッド距離を算出し平均 平均文字 筆記された文字 佐藤大輔,新納真次郎,中村聡史,鈴木正明: 利き手・非利き手の平均手書き文字における類似性の検証,情報処理学会 研究報告 ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol. 2018-HCI-176, No. 20, pp. 1–8 (2018). 13
ブレの算出方法 削除タスク →削除対象からはみ出したストローク量:削除のブレ ・取得した画像からはみ出したピクセル数(赤)を算出 ⇒これらのブレが書き心地(消しやすさ)を 客観的に評価できるか検証 14
主観的評価アンケート 各ペン先の使用直後にペンの使用感について 主観評価を問うアンケートを実施 筆記タスク:「書き心地」「滑りやすさ」 削除タスク:「消しやすさ」「滑りやすさ」 それぞれ5段階で評価 15
実験参加者 大学生・院生の男女それぞれ右利き5名,左利き5名の計20名 →多様な筆記特性を持つ集団を確保するため ・性 別:男性は女性に比べ筆圧が高い傾向がある ・利き手:ストローク方向によって筆圧が低下する傾向が異なる [大西ら 2015] 各属性を同数募集し,これらの影響を均等に比較できる条件を整えた 大西愛,押木秀樹: 書字等の動作における利き手の差に関する基礎的研究: ストロークの向き・傾きと空筆部の選択を中心に,上越教育大学国語研究, Vol. 29, pp. 48–34(2015). 16
結果(アンケートの評価値平均) 書き心地,消しやすさ ・エラストマー試作品のみ低評価で,ほか6本はおおむね高評価 ・書き心地では中程度の,消しやすさでは小さい動摩擦係数のペン先が高評価傾向 滑りやすさ ・動摩擦係数と傾向が類似していてタスク差も小さい 17
結果(筆記タスク) 書き心地の主観評価と筆記のブレについて スピアマンの順位相関係数を用いて分析 参加者全体の相関 →「あ」「永」のどちらもほとんど無相関であった 利き手などの群ごとの相関 →「永」において一部で中程度の正の相関がみられた 18
結果(筆記タスク) 「右利き」「筆圧下位群」で中程度の正の相関 ※筆圧下位(上位)群:平均筆圧が下位(上位)5名 「永」における順位相関係数 19
結果(筆記タスク) 実験参加者ごとの順位相関係数(下図は相関係数の値で降順) ・「あ」では左利きが,「永」では右利きが高い値をとる傾向 「あ」 「永」 20
結果(削除タスク) 消しやすさの主観評価と削除のブレについて 筆記タスクと同様に順位相関係数を算出 ・全体では相関なし ・右利き,筆圧上位群で弱い正の相関 ・ばらつきが大きく相関がみられにくい 21
考察(ペン先の素材による特異性) 市販チタン合金チップ ・本実験で唯一の金属製のペン先 ・筆記音が強く,高速での筆記時はより顕著 ・滑りやすさについて,動摩擦係数とアンケートで異なる結果 ・動摩擦係数:0.211 ・アンケート:市販フェルトチップ(0.388)と同程度の評価 →ペン先の素材自体が主観評価に及ぼす影響が存在する可能性 22
考察(筆記タスク) ・「永」において一部の群で中程度の正の相関 →多画・多様な筆画が摩擦特性の影響を顕在化させた可能性 ・文字に対する相関傾向が利き手や平均筆圧値によって異なる →書き心地とブレが対応付くための適切な文字が 利き手や筆圧ごとに存在する可能性 →サンプル数が少ないため,さらなる検証が必要 23
展望 ・より多様で複雑なストロークを含む文字や文章の選定 ・より多くの属性を考慮した参加者の募集 ・用いるペン先の素材や構造の多様化 →ブレを用いたペン先購入支援システムで用いるデータセット構築 24
まとめ 背景 デジタルの筆記具は書き心地が限定的かつ試し書きも難しい 目的 適した書き心地についてブレを用いた客観的評価の有効性の調査 実験 摩擦特性の異なるペン先を用いて筆記および削除タスクを実施 結果 文字の種類や参加者属性がブレを用いた客観的評価に影響 展望 ブレを用いたペン先購入支援システムの構築 25