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May 31, 25
スライド概要
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
画像選択肢の漸次的表示における 表示形式とその速度が選択に 及ぼす影響 徳原眞彩 金谷一輝(明治大学) 三山貴也 木下裕一朗 中村聡史(明治大学)
貢献 他より速く表示される画像選択肢が選択されやすい 画像の表示という公平に見えるインタフェースが選択誘導を起こす 2
背景 ダークパターンとは ダークパターン →Web上やスマホアプリなどで,企業の利益となるように ユーザの行動を無意識に誘導するデザイン • 約11,000のショッピングサイト→1,818のダークパターンを発見 [Mathurら 2019] • 240の人気モバイルアプリ→約95%にダークパターンを発見 [Di Geronimoら 2020] Mathur, G. Acar, M. J. Friedman, E. Lucherini, J. Mayer, M. Chetty, and A. Narayanan, “Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites,” Proceedings of the ACM on Human Computer Interaction, vol.3, no.CSCW, pp.1-32, 2019 Di Geronimo, L., Braz, L., Fregnan, E., Palomba, F., and Bacchelli, A.: UI Dark Patterns and Where to Find Them: A Study on Mobile Applications and User Perception, In Proceedings of the 2020 CHI Conference onHuman Factors in Computing Systems, pp. 1-14, 2020. 3
背景 視覚的なダークパターンの例 https://jal-wifi.com https://paypay.ne.jp/ 4
背景 ダークパターンの特徴 視覚的なダークパターン →見る人によってはわかりやすく,検出することが可能 [Chenら 2023] 一見すると公平に見えてユーザの行動を誘導するインタフェース • プログレスバーの表示位置 [横山ら 2021] • 使用デバイスと選択肢の提示位置 [植木ら 2020] • 通信遅延を偽装した表示タイミングのズレ [木下ら 2025] ユーザは気付きづらく,検出も困難 J. Chen, et al.: “Unveiling the Tricks: Automated Detection of Dark Patterns in Mobile Applications”, Proc. of UIST ’23, pp. 1–20 (2023). 横山 幸大, 中村 聡史, 山中 祥太. 待機画面の視覚刺激が選択に及ぼす影響の調査, 情報処理学会 ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2021-HCI-191, No.3, pp.1-8, 2021. 植木 里帆, 横山 幸大, 野中 滉介, 中村 聡史. 三択の選択肢における要因の違いが選択行動に及ぼす影響の調査, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2020-HCI-190, No.23, pp.1-8, 2020. 木下裕一朗, 関口祐豊, 中村聡史. 選択肢表示のズレが選択行動に及ぼす影響, 情報処理学会論文誌, 66, pp. 334–342 (2025). 5
先行研究 通信遅延を偽装した表示タイミングのズレ 6択の文字選択肢の中から1つだけ先行表示を行うと その先行表示を行った選択肢の選択率が高くなる [木下ら 2025] 木下裕一朗, 関口祐豊, 中村聡史. 選択肢表示のズレが選択行動に及ぼす影響, 情報処理学会論文誌, 66, pp. 334–342 (2025). 6
背景 先行研究との立ち位置 文字選択肢の選択インタフェース →現実ではあまり見ることがなく,違和感を抱く 画像選択肢を用いて, 実際に見られる選択インタフェースに近い環境での実験 →通信遅延やファイルサイズの大きさによる 画像の表示形式に注目 7
背景 画像の表示形式 通信遅延や画像のファイルサイズが大きいときに 以下のように画像が表示されることがある https://www.akindo-sushiro.co.jp/menu/ https://www.cmoa.jp/freecontents/title/media/ 8
背景 画像の表示形式 JPEG画像 ベースライン形式 プログレッシブ形式 PNG画像 非インタレース形式 インタレース形式 9
背景 画像の表示形式 JPEG画像 ベースライン形式 プログレッシブ形式 PNG画像 非インタレース形式 インタレース形式 10
前回の研究 [HCS2024 8月] ショッピングサイトやキャラクタ投票などにおいて 段階的表示の速度の差がユーザの選択を誘導してしまう可能性 11
前回の研究 [HCS2024 8月] 画像選択肢の段階的表示速度の違いが人の選択行動に及ぼす影響 12 金谷一輝, 徳原眞彩, 三山貴也, 木下裕一朗 , 中村聡史. 画像選択肢の段階的表示速度の違いが選択に及ぼす影響”, 電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーション基礎研究会(HCS), 124, 161, pp. 90–95 (2024).
前回の研究 [HCS2024 8月] 実験結果 先に表示される選択肢は選ばれやすい 13
背景 画像の表示形式 JPEG画像 ベースライン形式 プログレッシブ形式 PNG画像 非インタレース形式 インタレース形式 14
背景 先行表示と選択誘導 ショッピングサイトやキャラクタ投票などで 漸次的表示の速度の違いがユーザの選択を誘導してしまう可能性 15
目的 画像選択肢の漸次的表示における表示形式と表示速度が 選択に及ぼす影響を明らかにする 16
実験 画像の解像度変化 2つの手法 pixel手法とblur手法 を用意 Web上でユーザが見る表示形式に近い表示を設計 ユーザに違和感を抱かれにくいよう著者らで協議 17
実験 条件設定 条件は前回の実験と統一 等速条件 →4枚すべてが同じ速度で表示される 先行条件 →4枚のうち,1枚だけ速く表示される 遅延条件 →4枚のうち,1枚だけ遅く表示される 18
実験 条件設定 先行条件 遅延条件 1枚は0.5秒,3枚は2.0秒 1枚は2.0秒,3枚は0.5秒 19
実験 条件設定 等速・速 等速・遅 4枚すべて0.5秒 4枚すべて2.0秒 20
仮説 H1: 画像選択肢の表示速度が速い選択肢は,手法問わず選ばれやすい H2: blur手法はpixel手法よりも選択時間が短い H3: blur手法の方がpixel手法に比べ選択時間が短い場合, 先行表示した選択肢の選択率はpixel手法よりblur手法の方が高い 21
実験 嗜好を問う質問と4つの選択肢を提示し その選択肢の中から1つを選んでもらう実験 22
実験 Yahoo! クラウドソーシング上にて募集 1,000名(男性500名,女性500名)に依頼 不真面目な回答者を判別するために Attention Checkを用意 • 実験前のキャリブレーション • 正解が決まっている簡単なダミー質問 23
実験 実験参加者はblur手法・pixel手法のどちらかにランダムで割り振る 先行条件:5問,遅延条件:5問 等速条件:10問(うち,5問はタスク中のAttention Check用) 画像選択肢と質問文 基本的には前回の実験から流用 前回の結果を踏まえて,偏りが見られないよう設計 24
実験結果 データの事前処理 下記の回答者を分析から除外 • • • Attention Checkを通過しなかった 20問最後まで正常に実験を終えていない 20問の平均選択時間が極端に長い or 短い →結果,1,000名中 525名 の回答者が分析対象 25
実験結果 選択率について H1:「画像選択肢の表示速度が速い選択肢は,手法問わず選ばれやすい」 pixel手法とblur手法の全データ(N=2,625) 先行表示した選択肢の選択率は28.15% 期待値 25% 28.15% 2,625回の4択の試行を1,000万回 シミュレーションしたときの選択率の分布 28.15%が起きる確率は1%未満 →偶然によるものとは考えにくい →仮説が支持された 濃い赤と青:両側1% 薄い赤と青:両側5% 26
実験結果 選択時間について H2:「blur手法はpixel手法よりも選択時間が短い」 先行条件 遅延条件 等速・速 等速・遅 全体 blur手法 6.19s 5.51s 5.19s 6.60s 5.86s pixel手法 6.78s 5.99s 5.27s 7.09s 6.32s 統計分析※より,有意な差が認められた → 仮説が支持された ※blur 手法と pixel 手法における平均選択時間の差について,正規性が棄却されたため,ノンパラメトリック検定 であるMann–Whitney の U 検定を 行った結果,𝑈 = 30158,𝑝 = .016 と,有意な差が認められた 27
実験結果 手法別の選択率について H3:「blur手法の方がpixel手法に比べ選択時間が短い場合, 先行表示した選択肢の選択率はpixel手法よりblur手法の方が高い」 28.34% pixel手法における先行表示した選択肢の選択率 27.99% blur手法における先行表示した選択肢の選択率 統計分析※の結果,有意な差は見られなかった →仮説は支持されなかった ※2つの独立した比率の z 検定を行った結果,𝑧 = .202,𝑝 = .840 となり,統計的に有意な差は認められなかった 28
考察 仮説に対する結果 先行表示した選択肢が選ばれた理由 →前回の研究同様,初頭効果が表れた …最初に目についたものが強く印象に残る 29
考察 仮説に対する結果 blur手法のほうがpixel手法より選択時間が短い理由 →blur手法のほうが概形を捉えやすい 30
考察 先行表示と選択誘導 選択肢が複数ある選択インタフェースにおいて 解像度変化を用いた先行表示を用いると ユーザの選択を誘導し,特定の選択肢の選択率が高くなる可能性 31
考察 表示速度による誘導への対策 画像の表示速度の差 →サイト作成者が意図せずともユーザの選択を誘導してしまう可能性 <対策> • 画像のファイルサイズを統制 • 画像の読み込みがすべて完了してから表示する →表示タイミング自体のズレも選択誘導を起こす可能性 32
展望 漸次的表示による誘導効果のさらなる検証 • 段階的表示や表示タイミング自体のズレとのミックス • 各画像の全体表示までにかかる時間の変更 • ユーザが真剣に選択するようなタスクの検討 33
貢献 他より速く表示される画像選択肢が選択されやすい 画像の表示という公平に見えるインタフェースが選択誘導を起こす 34
まとめ 背景:選択を誘導するダークパターンが存在する 目的:画像選択肢の漸次的表示における表示形式と表示速度が 選択に及ぼす影響を明らかにする 実験:4択の選択肢の中から1つを選んでもらう実験 結果:先行表示された選択肢は誘導されやすい傾向,手法間に差は無し 考察:初頭効果が表れた 展望:より近い状況での選択誘導効果の検証 35