認知心理学への実践:データ生成メカニズムのベイズモデリング

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June 30, 18

スライド概要

広島ベイズ塾第三回ワークショップ「心理学者のためのベイズ統計学:モデリングの実際と,モデル選択・評価」(2018年6月30日,専修大学)で発表した資料です。一部のスライドは非公開にしています。

※このスライドは,もともとSlidshareに公開していたものを2022/3/14にドクセルに移行したものです。

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大学で研究と教育をしている小さな生き物です。心理学の科学的方法(数理&統計モデリング・実験法・心理測定論・仮説検定・ベイズ統計学・再現性と信用性の向上・科学哲学)とその実践(特に知覚・認知・数理心理学)に関心があります。

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

2018年6月30日 広島ベイズ塾第三回ワークショップ 「心理学者のためのベイズ統計学:モデリングの実際と,モデル選択・評価」 認知心理学への実践: データ生成メカニズムのベイズモデリング 武藤 拓之 (Hiroyuki Muto) 大阪大学大学院人間科学研究科・日本学術振興会 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 1/31

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自己紹介  武藤 拓之 (むとう ひろゆき) • 大阪大学大学院人間科学研究科D3  研究分野 • 認知心理学 (空間認知の身体性など)  Twitter : @mutopsy  Webサイト: http://mutopsy.net/  統計ブログ:http://bayesmax.sblo.jp/  論文 • Muto, H., Matsushita, S., & Morikawa, K. (2018). Spatial perspective taking mediated by whole-body motor simulation. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 44, 337-355. • Muto, H. (2015). The effects of linearity on sentence comprehension in oral and silent reading. Japanese Psychological Research, 57, 194-205. はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 2/31

3.

発表の流れ 1. はじめに:データ生成メカニズムとは? 2. 認知心理学におけるベイズモデリングの適用例 2.1. 系列位置曲線のモデリング このスライドでは 2.2. 心的回転関数のモデリング 非公開 2.3. 選択のpostdictive illusionのモデリング 3. まとめ はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 3/31

4.

1. はじめに:データ生成メカニズムとは? 2. 認知心理学におけるベイズモデリングの適用例 2.1. 系列位置曲線のモデリング 2.2. 心的回転関数のモデリング 2.3. 選択のpostdictive illusionのモデリング 3. まとめ はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 4/31

5.

認知心理学の図式 ここが知りたい 生活体 刺激 系統的に操作 直接観察できない「心」 反応 客観的に観察可能 認知心理学の考え方: 操作可能な刺激と観察可能な反応の関係から, 観察できない心の中身を推測する (S-O-R心理学) はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 5/31

6.

認知心理学の図式 ここが知りたい 生活体 刺激 系統的に操作 反応 直接観察できない「心」 客観的に観察可能 より良いモデルを目指す 独立変数 はじめに 適用例1 モデル 適用例2 従属変数 適用例3 まとめ 6/31

7.

よくある研究の流れ データの世界 独立変数 質的な作業仮説の演繹 例)t検定モデル 従属変数 質的な仮説検証 (有意か否か) モデルの世界 モデル 1. モデル (理論仮説) から作業仮説を立てる 例)条件Aでは条件Bよりも反応時間が長くなるだろう。 2. データを分析し,仮説が支持されたか否かを検証する 例)条件Aの反応時間は条件Bよりも有意に短かった。 データの世界とモデルの世界の間に隔たりがある。 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 7/31

8.

データ生成メカニズム 独立変数 従属変数 モデル データとモデルの世界 =データ生成メカニズム 独立変数を従属変数に変換 (量的・質的どちらも可能) モデルの当てはまりの良さやパラメータの推定結果から, 量的な予測や仮説検証が可能。 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 8/31

9.

1. はじめに:データ生成メカニズムとは? 2. 認知心理学におけるベイズモデリングの適用例 2.1. 系列位置曲線のモデリング 2.2. 心的回転関数のモデリング 2.3. 選択のpostdictive illusionのモデリング 3. まとめ はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 9/31

10.

適用例1: 系列位置曲線のモデリング はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 10/31

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系列位置曲線 記銘 ひよこ ダイア ・・・ 再生 あくび サラダ *** 正再生率 100% 50% 0% 0 5 10 15 20 25 30 系列位置 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 11/31

12.

記憶のSIMPLEモデル SIMPLEモデル (Brown, Neath, & Chater, 2007) Scale-Independent Memory, Perception, and Learning (スケールに依存しない記憶・知覚・学習) 記憶に関する様々な現象を統一的に説明できる。 ここでは自由再生実験で得られる系列位置曲線に 関するモデルを紹介する。 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 12/31

13.

物理的時間の対数圧縮=心理的時間 検索までの物理的時間 = 𝑻 検索までの心理的時間 = 𝐥𝐨𝐠 𝑻 Adapted from Figure 1 in Brown et al. (2007) はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 13/31

14.

同定課題における項目の粗密と正答率 心理的時間において項目が密 = 項目間の類似度が高い (弁別性が低い) → 互いに干渉する → 正答率が低下 Adapted from Figure 2 in Brown et al. (2007) はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 14/31

15.

モデル式 自由再生実験で項目𝑖が再生される確率θ𝑖 のモデル η𝑖𝑗 = exp(−𝒄 log 𝑇𝑖 − log 𝑇𝑗 ) //項目対の類似度 𝑑𝑖𝑗 = η𝑖𝑗 Τσ𝑘 𝜂𝑖𝑘 //項目対の弁別可能性 𝑟𝑖𝑗 = 1Τ(1 + exp(−𝒔(𝑑𝑖𝑗 − 𝒕)) //項目対の検索確率 θ𝑖 = 1 − ς𝑘(1 − 𝑟𝑖𝑘 ) //項目𝑖の正再生率 (注1) (注2) 推定されるパラメータ: 𝒄: 弁別力 ─ 心理的距離が近い項目の弁別のしやすさ 𝒕: 閾値 ─ 検索確率が50%になるときの弁別性の値 𝒔: 閾値ノイズ ─ 閾値付近におけるロジスティック関数の傾き 1系列再生課題において項目iがj番目に再生される確率を表す。 2Lee & Pooley (2013) によって修正された部分。 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 15/31

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グラフィカルモデル Adapted from Fig. 15.1 in Lee & Wagenmakers (2013/2017) はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 16/31

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事後予測分布のベイズ推定結果 既知の条件の 予測分布 未知の条件の 予測分布 Adapted from Fig. 15.5 in Lee & Wagenmakers (2013/2017) はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 17/31

18.

このセクションのまとめ ベイズ統計モデリングを使うと, •先行研究の知見を活かして 量的なモデルを構築できる。 •将来のデータに関する予測を含む, 一般性の高いモデルを構築できる。 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 18/31

19.

適用例2: 心的回転関数のモデリング はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 19/31

20.

• このセクションは非公開です。 • 詳細は「たのしいベイズモデリング」(北大路書房) の8章をご覧ください。(2018年9月発売予定) はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 20/31

21.

このセクションのまとめ ベイズ統計モデリングを使うと, •既存のモデルを柔軟に拡張できる。 •集計データだけではなく ローデータも説明できる。 •データの取り方の自由度が増す。 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 21/31

22.

適用例3: 選択のpostdictive illusionのモデリング はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 22/31

23.

• このセクションは非公開です。 • 何らかの形で公開されるのをお待ちください。 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 23/31

24.

このセクションのまとめ ベイズ統計モデリングを使うと, •概念モデルを確率モデルに翻訳し, その妥当性を検証できる。 •伝統的な分析手法に縛られない。 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 24/31

25.

1. はじめに:データ生成メカニズムとは? 2. 認知心理学におけるベイズモデリングの適用例 2.1. 系列位置曲線のモデリング 2.2. 心的回転関数のモデリング 2.3. 選択のpostdictive illusionのモデリング 3. まとめ はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 25/31

26.

紹介した3つの事例から見えたこと ベイズ統計モデリングを使うと, • 先行研究の知見を活かして量的なモデルを構築できる。 • 将来のデータに関する予測を含む,一般性の高いモデルを 構築できる。 • 既存のモデルを柔軟に拡張できる。 • 集計データだけではなくローデータも説明できる。 • データの取り方の自由度が増す。 • 概念モデルを確率モデルに翻訳し,その妥当性を検証できる。 • 伝統的な分析手法に縛られない。 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 26/31

27.

紹介した3つの事例から見えたこと ベイズ統計モデリングを使うと, • 先行研究の知見を活かして量的なモデルを構築できる。 • 将来のデータに関する予測を含む,一般性の高いモデルを 構築できる。 • 既存のモデルを柔軟に拡張できる。 • 集計データだけではなくローデータも説明できる。 • データの取り方の自由度が増す。 • 概念モデルを確率モデルに翻訳し,その妥当性を検証できる。 • 伝統的な分析手法に縛られない。 つまり自由! はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 27/31

28.

もっと知りたい人は…… 28/31

29.

モデルを可視化する意義 データ 統計パッケージ 分析結果 ここを可視化 http://bayesmax.sblo.jp/article/181823149.html 心だけでなく統計パッケージのブラックボックスも可視化しよう 29/31

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結論 ベイズ統計モデリングを使うと, • 先行研究の知見を活かして量的なモデルを構築できる。 • 将来のデータに関する予測を含む,一般性の高いモデルを 構築できる。 • 既存のモデルを柔軟に拡張できる。 • 集計データだけではなくローデータも説明できる。 • データの取り方の自由度が増す。 • 概念モデルを確率モデルに翻訳し,その妥当性を検証できる。 • 伝統的な分析手法に縛られない。 Thank you! はじめに 適用例1 発表者:武藤拓之 (@mutopsy) 適用例2 適用例3 まとめ 30/31

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引用文献 Bear, A., & Bloom, P. (2016). A simple task uncovers a postdictive illusion of choice. Psychological Science, 27, 914–922. Brown, G. D. A., Neath, I., & Chater, N. (2007). A temporal ratio model of memory. Psychological Review, 114, 539–576. Kung, E., & Hamm, J. P. (2010). A model of rotated mirror/normal letter discriminations. Memory & Cognition, 38, 206–220. Lee, M. D., & Pooley, J. P. (2013). Correcting the SIMPLE model of free recall. Psychological Review, 120, 293–296. Lee, M. D., & Wagenmakers, E. -J., (2013). Bayesian cognitive modeling: A practical course. Cambridge University Press. (リー, M. D.・ワーゲンメイカーズ, E. –J. 井関 龍太(訳) (2017). ベイズ統計で実践モデリング──認知モデルのトレーニング── 北大路書房) 水原 啓太・武藤 拓之・入戸野 宏 (準備中). 自由選択課題における意思決定タイミングの知覚. 武藤 拓之 (印刷中). 傾いた文字は正しい文字か?鏡文字か?──心的回転課題の反応時間を説明する 混合プロセスモデル── 豊田 秀樹 (編著) たのしいベイズモデリング (第8章) 北大路書房 Searle, J. A., & Hamm, J. P. (2012). Individual differences in the mixture ratio of rotation and nonrotation trials during rotated mirror/normal letter discriminations. Memory & Cognition, 40, 594–613. ※灰色の文献は非公開部分で引用された文献 はじめに 適用例1 適用例2 適用例3 まとめ 31/31