現代制御論のすゝめ

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June 06, 25

スライド概要

古典制御を学んだ学生向けに現代制御論を紹介するスライドです。少しずつ加筆修正していきたいと思いますので,なんでもフィードバック頂けると幸いです。

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制御工学の研究者です。

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各ページのテキスト
1.

現代制御論のすゝめ 教養数学でわかった気になる制御理論 井上 正樹 制御工学同演習 2025.6.2

2.

制御工学とは? ➢何でも対象を思い通り操るための方法を研究する学問 コントローラ プラント ➢制御システムの主な設計手順 1. 制御仕様・制御目的の決定 2. 制御対象(プラント)のモデリング 3. 制御ロジック(コントローラ)のデザイン 本資料:モデルから再考

3.

伝達関数:動的システムのモデリング ➢対象:線形時不変システム • 例:運動方程式など物理法則 など プラント ➢伝達関数表現 • 入力から出力までの周波数領域でのモデリング • ボード線図によるシステム解析から制御仕様設計まで有用☺ • 多入出力システムではモデルが煩雑 • (非線形システム/時変システムなどへの拡張が困難) 複素関数論むずい しかも行列…

4.

状態方程式:動的システムの別のモデリング ➢対象:線形時不変システム • 例:運動方程式など物理法則 システム など 内部状態の導入 ➢状態方程式表現 • 入力から内部状態までの時間領域でのモデリング • 1階の多次元の微分方程式 • 多入出力,非線形,時変でも見通し良し☺ 線形代数が使えそう 一般系

5.

状態方程式(離散時間版) ➢対象:線形時不変システム(差分方程式,漸化式) など 内部状態の導入 ➢状態方程式表現 一般系 • 秋学期の物情実験CDでつかう 本資料ではこちらの離散時間 状態方程式をもとに理論展開

6.

本日の内容 ✓ 状態方程式表現 ➢ 可到達性 • 動的システムだからこそ出来ること ➢ 最適レギュレータ理論 ➢ リアプノフ安定論 7

7.

可到達性 そもそも制御の目的は「所望の状態を実現すること」 システム ➢可到達性 適切な入力操作で所望の状態に到達できること* うまく入力を 選ぶと… どんな姿勢も 取れる? 状態空間 *平衡状態にできることまでは要求しない

8.

可到達性:静的システムの場合 ➢静的システム システム • 現在の入力だけで直ぐに状態が決まる • 状態の次元 > 入力の次元のとき,可到達ではない ₋ 少ないアクチュエータでは自由に状態を動かせない ₋ 線形代数「 がランク落ちすると は実現不可」 当然???

9.

可到達性:動的システムの場合 ➢動的システム(状態方程式) 過去の状態由来 • 現在の入力と過去の状態に依存して現在の状態が決まる ₋ メモリ機能を搭載したシステム • 状態の次元 > 入力の次元でも可到達にできる? システム

10.

可到達性:動的システムの場合 ➢動的システムの時間発展 動的システムなら ではの性質 この行列がフルランク なら可到達! (入力系列を作れる*) *どこまで可到達領域を広げられるかは ケーリー・ハミルトンの定理で説明可能

11.

雑談:古典制御から現代制御へ ➢古典制御(1868~) • 「J. C. Maxwell, On Governors, 1868」より ₋ 2次の運動方程式の安定性解析 ₋ ガバナの不安定化現象について初めての数理的な解析 • ブラック, ボード, ナイキストなどでフィードバック系の理論が完成 ➢現代制御(1960~) • 「R. E. Kalman, On the general theory of control systems, 1960」より ₋ 動的システムの状態方程式表現, 可制御性・可観測性の導入 • その他,最適レギュレータ理論や最適フィルタリング理論 (カルマンフィルタ)の開発,リアプノフ安定論の制御への導入など J. C. Maxwell R. E. Kalman

12.

雑談:1960年の論文 • 状態方程式表現 • 可到達性(と可観測性) Kalman, On the general theory of control systems, 1960 • 最適レギュレータ理論 Kalman, Contributions to the theory of optimal control, 1960 • リアプノフ安定論 Kalman, Control system analysis and design via the “second method” of Lyapunov I & II, 1960 • カルマンフィルタ(省略) Kalman, A new approach to linear filtering and prediction problems, 1960 13

13.

本日の内容 ✓ 状態方程式表現 ✓ 可到達性 ➢ 最適レギュレータ理論 • 解きたい問題をいかに定式化するか ➢ リアプノフ安定論 14

14.

準備:トラッキング制御とレギュレーション制御 ➢トラッキング制御 ほんとは離散時間信号です • 対象: • 目的: ただし 座標変換 ➢レギュレーション制御 • 対象: • 目的: • レギュレーション制御のロジック トラッキング制御のロジックも実現可能 本資料ではレギュレーション 制御のみ扱う から

15.

目的関数 そもそも最適,最適,って何が最適? 制御目的は人それぞれ; 早く収束させたい/省エネで制御したい/… ➢目的関数 • 評価関数や損失関数(loss)ともいう • 多様な目的を統一的に表現 • 状態の早い収束を重視するなら Q を大きく • 入力を小さくしたいなら R を大きく ほんとは離散時間信号

16.

最適レギュレータ問題 ➢問題1 • 状態方程式の制約のもと入力系列 を探索する問題 • 事実:フィードバック制御を前提としても保守性なく探索可能 フィードバックゲイン K を探索する問題に等価変換

17.

最適レギュレータ問題の解に向けて ➢最適解の存在のもと,目的関数を計算 とおく

18.

最適レギュレータ問題の別表現 ➢問題2 • 無限次元の最適化 (問題1)から 有限次元の最適化(問題2)に帰着 • 目的関数は行列 について2次 問題1

19.

停留条件と最適解 ➢整理して平方完成 正定! ➢最適フィードバックゲイン

20.

最適レギュレータ問題の解 ➢問題3 (リッカチ方程式) • リッカチ方程式は非線形の行列方程式 • 効率的な求解アルゴリズムも開発済み(MatLab”dare”など) • (あらためて)所望の目的関数に対する最適制御ロジック

21.

本日の内容 ✓ 状態方程式表現 ✓ 可到達性 ✓ 最適レギュレータ理論 ➢ リアプノフ安定論 • システムの“低次元化” 22

22.

制御システムの安定性 ➢プラント コントローラ ➢コントローラ 最適レギュレータなど 制御システム全体 ➢制御システム 以降は一般系で議論 ➢安定性 任意の初期状態 のもとでの収束性: • 安定性の判別方法は?固有値計算? プラント

23.

ヒント:1次元の漸化式・漸化不等式 ➢1次の漸化式 • 解軌道は指数関数 • 係数 の値で安定性がわかる ➢1次の漸化不等式 正の範囲に限定 • 解軌道は指数オーダー • 詳細な軌道は未知でも安定性だけはわかる このアイデアを一般化できないか?

24.

リアプノフ安定論:安定性を保存した低次元化 ➢対象の制御システム n次元 • 状態の詳細な振る舞いを表現 あるエネルギーの 増減にのみ着目 ➢“低次元化”システム • 状態の詳細な振る舞いは表現不可 • ただし,もとの制御システムの安定性は保存 • 安定性判別=適切なエネルギー関数を探索する問題

25.

リアプノフ安定論 ➢対象システム ➢リアプノフの定理(第2の方法,間接法) つぎの条件を満たすとき, 1. 行列 が正定( 2. 正数 が成立 と書く) が存在して, • 1はエネルギー関数 2は漸化不等式 • フィードバックゲイン K の設計にも活用可能 が成立 の正値性, の成立を意味

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まとめと展望 ➢ 現代制御論の概要紹介 • 内部状態の導入と時間領域での理論 • 複素関数論で制御に苦手意識をもっていた方へ, 線形代数など別のアプローチを紹介 ➢ 制御論の展望 まだまだ理論あります カルマンフィルタ,ロバスト制御,制御バリア関数… • 他分野での発展 Neural ODE や S4:状態方程式 ✕ ニューラルネットワーク • 新たな対象の開拓へ 人を対象とした制御:運転支援,行動経済学,ウェルビーイング… • 27