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February 04, 25
スライド概要
ヘルシンキ宣言2024年改訂の解説です。
ヘルシンキ宣言2024年改訂では、「被験者」という用語を「研究参加者」に変更し、研究の構造的不平等に対する認識を強調しています。原則は医師だけでなく、研究チームや機関にも適用されるべきであり、研究参加者とのコミュニティ関与が重要視されています。また、研究倫理委員会の機能強化や、研究参加者の自主性の尊重が求められています。この改訂は医療研究の進化に寄与し、全ての人々が公平な利益を得ることを目指しています。
SMO-CRCを経て病院CRCへ転職し、CRC歴20年 新人時代にGCP全文読んだ後、改訂の度に全文読み直すので、CRCの中ではGCPフリークス? 個人的な活動のため、プロフィール「では」名を伏せ、「スライド上」のみ公開 世のCRCに還元したい思いで、自身が作成した資料を、引用文献などから公開許可が得られる範囲内で無料公開
ヘルシンキ宣言 2024年改訂について 2025/02/04 2025/03/02改訂 聖路加国際病院 治験管理課 三宅絢野 2013年版 | 日本医師会訳を使用 2024年版 | 日本医師会訳を使用が未公開のためAI翻訳による仮訳 Helsinki, Finland Harrison Fitts (@harrisonfitts) Unsplashライセンス 本発表は、演者の個人的見解に基づくものであり、 演者が所属する聖路加国際病院の見解を示すものではありません。 本演題発表に関連して、開示すべき COI 関係にある企業等はありません
ヘルシンキ宣言とは ➢ 世界医師会 ( WMA | World Medical Association ) • 102の各国医師会が参加する連合体で、第二次世界大戦中の医師らによる人道に対する罪への強い反省に 基づき1947年設立 ➢ ヘルシンキ宣言 | 人間を対象とする医学研究の倫理的原則 • ナチス医師らによる人体実験の罪を裁く判決文に示された「ニュルンベルク綱領」 (1947年) に基づき、 世界医師会が医師自らの専門職規範 (professional code) として作成 • 国際的な法的拘束力を持たない自主的規律であるが、多くの国際機関やガイドラインによって参照される 重要なハイレベルな原則 • WHO 世界保健機関 Guidance for best practices for clinical trials • CIOMS 国際医学団体協議会 人間を対象とする健康関連研究の国際的倫理指針 • ICH 医薬品規制調和国際会議 GCPガイドライン (医薬品の臨床試験の実施の基準) • UNESCO 国際連合教育科学文化機関 ⽣命倫理と人権に関する世界宣言 • 欧州 臨床試験規則 (Regulation (EU) No 536/2014 ) • 米国 ベルモント・レポート (1979年の研究対象者の保護に関する倫理原則とガイドライン) HHS (保健福祉省) 45 CFR 46 Subpart A (共通規則) | 言及はないが概念として • 日本 臨床研究法や人を対象とする⽣命科学・医学系研究に関する倫理指針 栗原千絵子. ヘルシンキ宣言2013年改訂-来る半世紀への挑戦. 臨床薬理Jpn J Clin Pharmaco Ther 2014; 45 (4) :41-51 位田隆一. ヘルシンキ宣言国内法規範. 臨床薬理Jpn J Clin Pharmaco Ther 2012; 43 (4) :247-248 2
ヘルシンキ宣言の3本柱と改訂歴 ➢ 3本柱 ① 科学的・倫理的に適正な配慮を記載した試験実施計画書を作成すること ② 試験審査委員会で試験計画の科学的・倫理的な適正さが承認されること ③ 参加者に、事前に説明文書を用いて試験計画について十分に説明し、 治験への参加について 自由意思による同意を文書に得ること ➢ 改訂歴 1964/06 フィンランド ヘルシンキ 第18回WMA総会 採択 1975/10 日本 東京 第29回WMA総会 改訂 1983/10 イタリア ベニス 第35回WMA総会 改訂 1989/09 香港 九龍 第41回WMA総会 改訂 1996/10 南アフリカ サマーセットウェスト 第48回WMA総会 改訂 2000/10 スコットランド エジンバラ 第52回WMA総会 改訂 大幅改訂 2002/10 米国 ワシントンDC 第53回WMA総会 改訂 第29項目明確化のため注釈追加 2004/10 日本 東京 第55回WMA総会 改訂 第30項目明確化のため注釈追加 2008/10 韓国 ソウル 第59回WMA総会 改訂 2013/10 ブラジル フォルタレザ 第64回WMA総会 改訂 2024/10 フィンランド ヘルシンキ 第75回WMA総会 改訂 60周年 3 公益社団法人日本薬学会-薬学用語解説-ヘルシンキ宣言, https://www.pharm.or.jp/words/word00173.html, (2024-11-28閲覧)
ヘルシンキ宣言2024年改訂の重要な点 (Helsinki Statementより) 1. 宣言全体を通じて、「被験者」 (research subjects) という言葉が「研究参加者」 (research participants) に修正された。 2. 原則の推奨は医師に向けたものだが、医師以外の人々、研究チーム、機関にも適用されることが望ましい。 (§2 ) 3. 研究が構造的不平等の中で行われるとの認識に基づき、ベネフィット、リスク、負担の配分の注意深い検討 が求められる。 (§6 ) 4. 研究のあらゆる段階において研究参加者とそのコミュニティの意義ある参画を基盤とする必要がある。 (§6 ) 5. 公衆衛⽣上の危機においても宣言の原則を守らなければならない。 (§8 ) 6. 脆弱性の性質は文脈的・動的に認識する必要があり、弱者を除外することは格差を悪化させうることを認識 することが重要である。このため、適切な保護のもと、弱者のベネフィットを目的としてその研究参加を 促進する必要がある。 (§19, 20 ) 7. 研究倫理委員会の機能は強化された。委員会は地域の事情に精通していなければならず、少なくとも一人の 一般市民の委員を含まなければならない (§23 ) 8. 同意能力を欠く者の研究参加の過程では、その好みや価値観について考慮しなければならない。 (§28, 29 ) 9. 研究から得られるデータや試料はヘルスデータベースとバイオバンクに関する『台北宣言』に従って取り 扱われなければならない。 (§32 ) 10. 未実証の介入の臨床使用は、『ヘルシンキ宣言』の研究参加者保護の原則を回避するために行われてはならず、 安全性と有効性を評価する研究の目的とされなければならない。 (§37 ) Helsinki Statement from an lndependent Stakeholders‘ Group to Expand the Impact 2024 Revision of the WMA Declaration of Helsinki. Rinsho Hyoka (Clinical Evaluation) .2025;52 (3) :483-98, http://cont.o.oo7.jp/52_3/p483-98.pdf, (2025-03-02閲覧) 4
1. 宣言を通じて、「被験者」 (subjects) という言葉が 「研究参加者」 (participants) に修正された (全体) 「被験者」(subjects) 「参加者」(participants) 健康なボランティアを含む •「被験者」という用語は受動性を意味 している • 歴史的なパターナリズムにより、 患者は受動的な者と見なされてきた • 被験者の暗黙の依存性や受動性 • このため、インフォームド・コン セントや参加者の自主性の原則と 矛盾していた • 個人の権利、自律性、主体性、重要性を認めるもの • 参加者は研究への参加を強く望む意思を持つ主体で あることを示唆している • 研究のパートナーとして積極的な関与 • 参加者には患者に加え健康なボランティアを含み、 研究における重要な役割を認めた (§2 ) • 単なる表現上の変更にとどまらず、視点の転換、 パラダイムの変化である • 性別にとらわれない表現が採用 ( he/she → they ) 5
2. 原則の推奨は医師に向けたものだが、医師以外の人々、 研究チーム、機関にも適用されることが望ましい (§2 ) 本宣言は主に医師に対して表明されたもので 本宣言は医師によって採択されたものであるが、 ある WMA は、これらの原則が患者と健康なボラン ティアの両方を含むすべての研究参加者を尊重し、 保護するための基本的なものであるため、 •「本宣言は主に医師に対して表明された もの」とされ、宣言の原則を採用するよう 医学研究に関わるすべての個人、チーム、組織に よって支持されるべきであると考えている 他の人々に促すにとどまっていた • これは、世界医師会は医師を代表する 国際組織であるためである • 研究者は倫理的責任を唯一の担い手ではなく、 参加者との関わりにおいて、参加者の権利、 尊厳、福祉を積極的に守るよう、研究プロセス に関わるすべての個人、チーム、組織に求める • 研究結果の刊行と普及に倫理的責務は 旧版でも「すべての研究者、著者、スポンサー、 編集者、発行者」に対して規定 (§36 ) 6
3. 研究が構造的不平等の中で行われるとの認識に基づき、 ベネフィット、リスク、負担の配分の注意深い検討が 求められる (§6 ) • 現代の状況が、ヘルシンキ宣言が最初に策定された当初よりも幅広い範囲に拡大している • 様々な構造的不平等 (structural inequities) を強調している • 低・中所得国を含む、資源に制約のある環境下で現在行なわれている研究を認識するもの • 研究者は、研究の利益、リスク、負担がどのように配分されるかを注意深く考慮することが 求められ、世界的な規模での公平性と正義の問題に取り組む • COVID-19ワクチンの高所得国の企業と政府間の二国間交渉により、COVAXが掲げる 公平なワクチン配分の理想は実現されなかった 7
4. 研究のあらゆる段階において研究参加者とそのコミュニティ の意義ある参画を基盤とする必要がある (§6 ) • コミュニティ (地域社会) の関与が新たに強調されている • 参加者を研究プロセスやの共同創造のパートナーとして認めた • 患者の生活体験を研究プロセスへ組み込むことを求める文言が盛り込まれたこと自体が画期的 • 患者の経験が持つ価値を認めるという、根本的な転換 • 研究の優先順位の設定に患者が関与することを明確に求めている • 意義ある参画は、医学研究の前、研究中、研究後に行われるべきである • 参加者とそのコミュニティ ‒ 優先事項や価値観を共有する ‒ 研究デザイン、実施、その他の関連活動に参加する ‒ 結果の理解と普及に関与できるようにする 8
5. 公衆衛生上の危機においても宣言の原則を守らなければ ならない (§8 ) • 公衆衛⽣上の緊急事態においても倫理原則を完全に順守しなければならない • 緊急事態であるからといって倫理基準を妥協してはならないことを強調している • 当局等による例外の要請には屈しないことの最重要性を強調している • 2016年のジカ熱緊急事態以来、米州地域で強く主張されている 9
6. 脆弱性の性質は文脈的・動的に認識する必要があり、弱者を除外 することは格差を悪化させうることを認識することが重要である。 このため、適切な保護のもと、弱者のベネフィットを目的として その研究参加を促進する必要がある (§19, 20 ) • 弱者は保護されるべきであるとされてきた • CIOMS 2016 | 概念を覆す最初の国際合意 [例 | 子供、体の不自由な成人、女性 (社会的 除外を正当とする十分な科学的理由がある /肉体的に弱い立場にある人々、出産適齢期の のでない限り,健康関連研究の対象者に 女性、妊娠中および授乳中の母親を含む) 、 含まれなければならない. 囚人、階層構造の底辺にいる人々、経済的に • • • 排除は格差を悪化させる可能性があり、 恵まれない人々、社会的烙印を押された人々] 参加による潜在的な危険と排除による危険を 結果、これらのグループは臨床試験から完全に 比較検討しながら、適切な支援を提供した上で、 排除されることが多かった 脆弱な人々の公平かつ責任ある参加を推進する 脆弱な人々すべてをデフォルトで排除すること • 排除されてきた集団にも研究機会を拡大する で、特定の集団 (特に女性、子供および人種・ • 脆弱性は固定された状態ではなく (特定の集団 民族的マイノリティ集団) に対する最善の治療 を恒久的に脆弱な存在と見なすのではなく) 、 法に関するエビデンスの欠如が生じ、健康格差 時間、状況、特定の研究課題に応じて変化する が拡大していた 可能性がある (多様かつ動的な背景を考慮する) • 様々な背景を持つ人々が研究に参加する重要性 10
特に脆弱な状況の保護規定 (§20,28 ) 特に脆弱な状況にある個人、集団、 コミュニティを対象とした医学研究 自由意思でのインフォームド・コンセント が難しい者の保護規定 ✓ 健康ニーズと優先すべき状況に対応するも の 相応の保護を受ける権利がある ✓ 結果として得られる知識、実践または介入 から恩恵を受ける立場にある 左記に加え ✓ より脆弱性の低いグループまたはコミュニ ティでは実施できない場合 (補完性の原則) または ✓ 除外するとそうした人々の格差が永続化ま たは悪化する可能性がある場合 • 逆転の論理 ✓ 研究がそうした人々に個人的な利益をもた らす可能性がある場合 または ✓ 最小限のリスクと最小限の負担しか伴わな い場合 | CIOMS 2016 (除外するには正当な理由が必要) ⇔ヘルシンキ宣言 (理由がある場合にのみ正当化) • 参考 (CIOMS 2016) | 特別な保護が必要な集団を研究対象から除外する場合には, それを正当化できる理由がなければならない 11 CIOMS指針 (人間を対象とする健康関連研究の国際的倫理指針) 指針3:研究参加者個人及び集団の選定におけるベネフィットと負担の公平な配分 P.763
7. 研究倫理委員会の機能は強化された。委員会は地域の 事情に精通していなければならず、少なくとも一人の 一般市民の委員を含まなければならない (§23 ) ✓ 現地の状況や背景に十分精通している 委員会全体として適切な多様性を持つ ✓ 少なくとも 1 名の一般市民を含む ✓ メンバーとスタッフは、集団として、審査する各種の研究を効率的に 評価するために十分な教育、訓練、資格および多様性を備えている 十分なリソースを確保 ✓ 任務を遂行するために十分な資源を持たなければならない (世界の委員会は、十分な資金、スタッフ、組織的な責任を欠くことが多い状況) ✓ 国際的に共同研究が行われる場合、研究計画書は資金提供国と実施 地域の倫理審査 受入国の両方の研究倫理委員会によって承認されなければならない ✓ 研究が実施される国または国々の倫理的、法的、規制上の規範や基準、 および適用される国際的な規範や基準を考慮する ✓ 透明性を持ち、研究者、スポンサー、またはその他からの不適切な 独立性の強化と権限 影響に抵抗する独立性と権限を有する ✓ 進行中の研究を監視し、変更を勧告し、承認を撤回し、中断する権利 を有する 12
8. 参加者の好み / 希望同意能力を欠く者の研究参加の過程 では、その好みや価値観について考慮しなければならない (§28, 29 ) • 法的代理人が参加者に代わって同意しなければならない場合、 参加候補者が事前に表明した好み・希望や価値観を考慮するよう求めている 13
9. 研究から得られるデータや試料はヘルスデータベースと バイオバンクに関する『台北宣言』に従って取り扱われ なければならない (§32 ) ✓ ⽣物試料および特定/再特定可能なデー タの収集、処理、保管、および予測可能な二次利用は、 参加者から自由意思によるインフォームド・コンセントを得ること ✓ 二次利用はWMA台北宣言で定められた要件に準拠すべきとし、複数かつ無期限の使用を目的とし た健康データおよび⽣体試料の収集・保存に対処する (WMA台北宣言を相互参照) ✓ 研究倫理委員会は、データベースやバイオバンクの設立を承認し、継続的な利用を監視する ✓ 保存されたデータに関する予期せぬ二次利用は、同意を得ることが不可能/非現実的な場合がある ため、その場合には研究倫理委員会の検討および承認を必要とすること • 新しい重大な問題に対応 | 臨床試験後に保管された個人データの利用拡大と関連リスク ‒ 遺伝子データや組織バイオバンクを含む参加者データの保管や、ビッグデータを用いた AI利用の影響、匿名化された大規模データセットからデータの再識別のリスクが存在 14
参考 ➢ 台北宣言 • 正式名称 | ヘルスデータベースとバイオバンクにおける倫理的考察に関するWMA台北宣言 • ガバナンスの項 | 日本医師会の定期記者会見資料を部分抜粋 20. 信頼性を高めるため、ヘルスデータベースとバイオバンクは、以下の原則に基づいて内外の機構 により管理されねばならない 21. ガバナンスの取り決めには以下の項目が含まれねばならない 22. ヘルスデータベースやバイオバンクに貢献あるいは協力している専門家は、適切なガバナンスの 取り決めを遵守しなければならない 23. ヘルスデータベースやバイオバンクは、この宣言を確実に遵守する適切な資格を有する専門家の 責任の下で運営されなければならない • 台北宣言はすでに時代遅れであり、WMAは改訂に着手している 永嶋哲也, 学術資料 (翻訳) ヘルスデータベースとバイオバンクについての倫理的考察に関するWMA台北宣言_人間と医療_九州医学哲学・倫理学会_2017年7巻 p.65-68, DOI: https://doi.org/10.51031/itetsuq.7.0_65 _ J-STAGE公開日: 2022/07/06, https://www.jstage.jst.go.jp/article/itetsuq/7/0/7_65/_article/-char/ja/ , (2025-01-12閲覧) 日医on-line | 日本医師会_定例記者会見_平成29年4月12日 (水) _定例記者会見_世界医師会 (WMA) リビングストン理事会出席 (報告) について_各国におけるヘルスデータベースの現状と 課題に関する国際会議の開催について_関連資料, https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20170412_3.pdf , (2025-01-12閲覧) 15
10. 未実証の介入の臨床使用は、『ヘルシンキ宣言』の研究参加者 保護の原則を回避するために行われてはならず、安全性と有効性 を評価する研究の目的とされなければならない (§37 ) ✓ すでに承認されている選択肢が不適切または効果がない 対象者 ✓ 臨床試験への登録が不可能である ✓ 個々の患者の健康を回復させたり苦痛を和らげたりする試みとして行われる場合 ✓ その後に安全性と有効性を評価するために設計された研究の対象とされるべき ✓ 専門家の助言を求める ✓ 起こりうるリスク、負担、利益を衡量する 未承認の治療を行う場合 ✓ インフォームド・コンセントを得る ✓ 適切な場合にはデータを記録し共有する ✓ 臨床試験に支障をきたさないようにしなければならない ✓ これらの介入は、決して本宣言に定められた研究参加者の保護を回避するために行われる ことがあってはならない ➢ 他に手段がない場合、苦痛を和らげるために未承認の治療法が利用される状況を認めている ➢ 臨床試験を経ずに未検証の介入の臨床使用が頻繁に行われた問題、既に効果がないと分かっている治療法の問題に対応 ✓ 2014年のエボラ出血熱の流行や2020年からのCOVID-19パンデミック ✓ 悪用する研究者は正当化するため、旧版の「証明されていない介入を実施することができる」の表現を、前後の文脈を無視して、 該当箇所を切り取って無制限の自由を意味するものとして悪用。また宣言そのものを引用され、宣伝に利用された 16
その他 改訂点 a. 科学的誠実性は、人間の参加者を含む医学研究の実施において不可欠である。研究に関わる個人、チーム、組織は、 研究の不正行為に決して関与してはならない(§12 ) b. 「インフォームド・コンセント」 (informed consent) という言葉は 「自由意思によるインフォームド・コンセント」 (free and informed consent) に修正 (§25, 28-30, 32 ) c. 同意を与える能力がない参加者が同意を与える能力が回復した場合、研究に参加し続けることに対して、参加者本人 から同意取得することを追加 (§30 ) d. 医学研究の目的に「個人の健康と公衆衛⽣を向上」に繋がるべきであるという文言が追加 (§7 ) e. 試験終了後アクセスの強化 (§34) f. 環境への害を回避または最小限に抑え、環境の持続可能性に努める方法で設計され実施されるべき(§11 ) g. 信頼性が高く、有効で価値ある知識を⽣み出す可能性が高く、研究の無駄を回避するような、科学的に健全で厳密な 設計と実施がなされなければならない (§21 ) h. 質に関する研究を通じて、継続的に評価されるべきである (§5 ) i. プロトコル記載事項の更新 (§22 ) j. ICF記載事項の更新 (§26 ) k. ウェルビーイング (well-being) の追加 (§3 ) l. その他 17
a. 科学的誠実性は、人間の参加者を含む医学研究の実施にお いて不可欠である。研究に関わる個人、チーム、組織は、 研究の不正行為に決して関与してはならない (§12 ) • 科学的誠実性と研究不正行為の禁止に関して言及された • 旧版まで、科学的・研究的な不正行為について言及されていなかった • 医学研究は倫理的に行うだけでなく、誠実さと正直さをもって行うべきことは明白であるため、 科学的な不正行為が重大な問題であるか見落とされがちになっていた 18
b. 「インフォームド・コンセント」 (informed consent) と いう言葉は「自由意思に基づくインフォームド・コンセント」 (free and informed consent) に修正 (§25, 28-30, 32 ) インフォームド・コンセント 自由意思に基づくインフォームド・コンセント informed consent free and informed consent 自由意思に基づくインフォームド・コンセントは、 個人の自律性を尊重するための不可欠な要素で ある • 提案された研究を理解することだけでなく、参加または参加の取りやめをどのように選択するか について、影響を受けない自由の重要性を強調した • ここでいう「自由」とは、影響や強制を受けずに選択を行う個人の権利を意味し、真の同意には 理解と自発的な選択の両方が含まれることを強調している 19
c. 同意を与える能力がない参加者が同意を与える能力が回復 した場合、研究に参加し続けることに対して、参加者本人 から同意取得することを追加 (§30 ) 研究に引き続き留まる同意はできるかぎり 研究に参加し続けることに対する自由意思に 早く被験者または法定代理人から取得しな 基づくインフォームド・コンセントは、法的に ければならない 権限を与えられた代理人から、または同意を 与える能力が回復した場合は参加者から、 できる限り早く取得しなければならない 20
d. 医学研究の目的に「個人の健康と公衆衛生を向上」に 繋がるべきであるという文言が追加 (§7 ) 疾病の原因、発症および影響を理解し、 疾病の原因、発症および影響を理解するための 予防、診断ならびに治療(手法、手順、 知識を生み出し、予防、診断および治療介入を 処置)を改善することである 改善し、最終的には個人の健康と公衆衛生を 向上させることである • 2013年§6→2024年§7へ移動した • 医学研究の目的に、最終的に「個人および公衆衛⽣の向上」に繋がるべきであると追加された •「社会的価値」という文言を追加することを検討したが、用語の曖昧さや文化による解釈の違いに 対する懸念があり、上記の表現となった • なお、参加者は自由意思による同意のもと、たとえ個人の利益が殆ど見込めない場合であっても、 他者の利益のために自らを危険にさらす慈悲深い選択をする、という事実を否定するものではない • 「医学研究の目標は個々の参加者の権利および利益に優先することがあってはならない」は、変更なし 21
e. 試験終了後アクセスの強化 (§34) 臨床試験の前に、スポンサー、研究者および主催国 ✓ 臨床試験に先立ち、資金提供者と研究者は、試験に 政府は、試験の中で有益であると証明された治療を おいて有益かつ合理的に安全であると確認された 未だ必要とするあらゆる研究参加者のために試験終了 介入をまだ必要とするすべての参加者に対して、 後のアクセスに関する条項を策定すべきである 資金提供者と研究者自身、医療制度、または政府が 提供する試験終了後の措置を手配しなければなら ない ✓ この要件の例外は、研究倫理委員会の承認を得な また、この情報はインフォームド・コンセントの 手続きの間に研究参加者に開示されなければならない ければならない ✓ 試験終了後の措置に関する具体的な情報は、 インフォームド・コンセントの一部として参加者に 開示されなければならない • 倫理的配慮を試験終了後の治療へのアクセスにまで拡大し、試験期間を超えた継続的なケアの重要性を強調している • 有益な治療への長期的なアクセスが困難な、恵まれない地域において特に重要である • 被験者への持続的な利益を奨励し、倫理的責任は研究が終了した時点で終わるものではないという考えを強化している • 研究とスポンサーに対し、研究成果の広範な影響を考慮し、参加者の貢献が有意義かつ持続的な方法で尊重されることを 保証するよう求めている 22
f. 環境への害を回避または最小限に抑え、環境の持続可能性 に努める方法で設計され実施されるべき (§11 ) • 医学研究は環境に対する被害を回避/最小化する方法で設計・実施され、環境の持続可能性を 目指すべきであるという考え方の強化 ‒ 研究の無駄を避ける ‒ 環境の持続可能性に努める • 研究が地球環境に与える影響を考慮した上、研究の無駄遣いを避けるための世界的な責任を強調 • 研究が地球環境に与える負荷、特に大規模データセンターとその大量の水と電力の消費に関する 懸念の高まりを反映 • 主にヒト保護に焦点を当てた文書において、ヒト以外の利益を考慮する義務を課すもの 23
g. 信頼性が高く、有効で価値ある知識を生み出す可能性が 高く、研究の無駄を回避するような、科学的に健全で厳密 な設計と実施がなされなければならない (§21 ) • 研究者の義務の強化 • 研究の無駄を避けるため、科学的根拠に基づく厳密なデザインの追加 • 臨床研究の設計と実施における科学的な厳密性は、研究倫理の観点から重要 ‒ 有効な知識の創出の見込みがないまま参加者をリスクにさらすことは容認できない ‒ 設計の不十分な研究プロトコルの提出により、審査委員会は研究者との長期間にわたる 意見交換や論争に繋がる • Nature Reviews Drug Discovery誌の分析 | 臨床的影響への臨床試験の評価 ‒ 世界中の2000件以上のCOVID-19試験のうち、価値ある知識を⽣み出すのに十分な科学的 厳密性をもって設計・実施されたものはわずか5%であった Bugin K, Woodcock J. Trends in COVID19 therapeutic clinical trials. Nat Rev Drug Discov. 2021;20 (4) :254255. doi:10.1038/d41573021000373, https://www.nature.com/articles/d41573-021-00037-3 , (2025-01-12閲覧) 24
h. 質に関する研究を通じて、継続的に評価されるべきである (§5 ) 最善と証明された治療であっても (中略) 十分に実証された介入であっても、安全性、 研究を通じて継続的に評価されなければ 有効性、効率性、利用可能性および質に ならない 関する研究を通じて、継続的に評価される べきである • 2013年§6→2024年§5へ移動した • 「最善と証明された」比較対照を推奨する一方で、比較対照が必ずしもすべての地域で利用できるとは 限らないことを認識している • リソースが限られている状況では、地域での意思決定の重要性を強調し、参加者の安全と倫理的誠実さ を維持しながら適応可能な基準を認めた • 医学研究は厳格であると同時に、多様なコミュニティのニーズに応えるものでなければならない 25
i. プロトコル記載事項の更新 (§22 ) 研究計画書には関連する倫理的配慮について 明記され、また本宣言の原則がどのように取り 入れられてきたかを示すべきである 計画書は、資金提供、スポンサー、 研究組織 との関わり、起こり得る利益相反、被験者に 対する報奨ならびに研究参加の結果として損害 を受けた被験者の治療および/または補償の 条項に関する情報を含むべきである 臨床試験の場合、この計画書には研究終了後 条項についての必要な取り決めも記載されな ければならない ✓ 人間の参加者を含むすべての医学研究の設計 と実施は、研究計画書に明確に記述され、 正当性が示されなければならない ✓ 研究計画書は関連する倫理的配慮を示した旨 の記述を含むべきであり、本宣言の原則が どのように扱われているかを示すべきである ✓ 研究計画書は、研究の目的、方法、予想され る利益と潜在的なリスクや負担、研究者の 資格、資金源、潜在的な利益相反、プライ バシーと秘密を守るための措置、参加者への インセンティブ、参加の結果として被害を 受けた参加者の治療および/または補償に 関する措置、および研究のその他の関連する 側面に関する情報を含めるべきである ✓ 臨床試験では、研究計画書にいかなる試験 終了後の措置についても記載しなければ ならない 26
j. ICF記載事項の更新 (§26 ) 目的、方法、資金源、起こり得る利益相反、 研究の目的、方法、予想される利益と潜在的なリスクと負担、 研究者の施設内での所属、研究から期待され 研究者の資格、資金源、潜在的な利益相反、 る利益と予測されるリスクならびに起こり プライバシーと秘密を守るための措置、参加者に対する 得る不快感、研究終了後条項、その他研究に インセンティブ、参加の結果として被害を受けた参加者の治療 関するすべての面について十分に説明されな および/または補償の措置、およびその他の研究に関連する ければならない 側面について、平易な言葉で十分に説明されなければならない (中略) 参加候補者は、いつでも不利益な行為を受けることなく、 個々の被験者候補の具体的情報の必要性のみ 研究への参加を拒否したり参加への同意を撤回したりする権利 ならずその情報の伝達方法についても特別な があることを知らされなければならない 配慮をしなければならない 個々の参加候補者の特有の情報やコミュニケーションのニーズ、 被験者候補がその情報を理解したことを確認 および情報提供のために使用される方法についても特別な配慮 したうえで、医師またはその他ふさわしい がされるべきである 有資格者は被験者候補の自主的なインフォー 医師または他の有資格者は、参加候補者が情報を理解している ムド・コンセントをできれば書面で求めな ことを確認した後、紙または電子的に正式に記録化された参加 ければならない 候補者の自由意思によるインフォームド・コンセントを求め 同意が書面で表明されない場合、その書面に なければならない よらない同意は立会人のもとで正式に文書化 同意が紙または電子的に表現できない場合、書面によらない されなければならない 同意は正式に立会人の確認を受け、記録化されなければなら ない 27
k. ウェルビーイング (well-being) の追加 (§3 ) • well-being [名] 幸福 (な状態) ,安寧,繁栄,福利,健康 (な状態) • ジュネーブ宣言 プログレッシブ英和中辞典より (2017年改訂) ‒ 私の患者の健康と安寧を私の第一の関心事とする • 医の倫理国際綱領 (2022年改訂) ‒ 医師は、患者の健康とwellbeingを最優先することを約束し、患者の最善の利益のためにケアを 提供しなければならない • §8「個々の参加者の権利および利益に優先することがあってはならない」に関連している 日本医師会-WMAジュネーブ宣言, https://med.or.jp/doctor/international/wma/geneva.html, (2024-11-28閲覧) 日本医師会-WMA医の国際倫理綱領, https://www.med.or.jp/doctor/international/wma/ethics.html , (2024-11-28閲覧) 28
l. その他 全体 研究 study §1 特定可能なヒト由来試料および データを用いた研究 §9 自己決定権 right to self-determination §17,18 リスク risks → 試験 research → 本人を特定できるヒトの試料またはデータを 用いる研究 → 自律性 autonomy → リスクと負担 risks and burdens → 患者と医師の関係や標準的なケアの提供に 決して悪影響を及ぼしてはならない → 最善と実証されてきた介入以外の介入 → 自身の報告の適時性、完全性、正確性に (患者の研究への参加拒否または研究離脱の決定) §31 患者・医師関係に決して悪影響を 及ぼしてはならない (プラセボ対照試験) §33 §36 最善と証明されたものより効果が 劣る治療 (結果の公表) 報告書の完全性と正確性に 29
参考文献 Andreas Alois Reis, MD, MSc; Ross Upshur, MA, MD, MSc; Keymanthri Moodley, MBChB, MMed (Fam Med) , MPhil, MBA, DPhil. Future-Proofing Research Ethics—Key Revisions of the Declaration of Helsinki 2024. JAMA. Published online October 19, 2024. doi:10.1001/jama.2024.22254, https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2825286?resultClick=1 , (2024-10-31閲覧) Barbara E. Bierer, MD . Declaration of Helsinki—Revisions for the 21st Century. JAMA. Published online October 19, 2024. doi:10.1001/jama.2024.22281, https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2825284 , (2024-10-25閲覧) Carla Saenz, PhD; Sarah Carracedo, MBE. The Revision of the Declaration of Helsinki Viewed From the Americas—Paving the Way to Better Research. JAMA. Published online October 19, 2024. doi:10.1001/jama.2024.22270, https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2825285/ , (2024-11-28閲覧) Cathleen O’Grady. 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