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August 11, 26
スライド概要
2026年8月11日開催のNaITE勉強会 Vol.38のセッション資料です.
https://nagasaki-it-engineers.connpass.com/event/402144/
JaSST'26 Hokkaidoでの特別講演で扱わなかった論点についての資料です.
個人事業主「クオリティアーツ(Quality Arts)」代表。ソフトウェアやシステム開発の伴走支援を主とし、スタートアップから大手メーカー、公共まで幅広く活動。組織・チーム・個人を対象に、技術導入、エンジニア教育、プロセス改善、経営層やCxOの支援している。近年はDX/AI文脈の組織整備やリスキリング、品質経営や経営戦略まで、立場や課題に応じて支援。
AIと ひとりで 働く 〜今後に向けた, わたしの現在地 と みんなの論点〜 NaITE#38向け追加論点 池田 暁 クオリティアーツ 代表 NPO法人ASTER 理事,NaITE 代表 NaITE#38 2026/8/11(火)
勉強会拡張 本編で扱わなかった9つの論点 ― 論点C・F・H ・I・J・K・L・M・N 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 2
勉強会拡張:本編で扱わなかった9つの論点 # 論点 問 C 法と律 ルールが追いつかない時代,規範は誰が立てるのか F 人財パイプライン ジュニアの仕事が消えたら,後継者はどこで育つのか H ガバナンス 組織では「どの人間が」統合と判断を握るのか I 格差 AI活用の格差(組織規模・地域・人)に,品質はどう向き合うか J 地政学 AIスタックの分断,技術選定が政治判断になる K AI投資の経済学 この過熱は,鉄道バブルの再演か L 電力・物理制約 ソフトウェアの話が,物理と地域の話になる M 知財・著作権 創作と模倣の境界という,古典的な問い N セキュリティ 攻撃側も「複眼」を手に入れる 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 3
論点C【法と律】規範は誰が立てるのか 社会のこと • 本編の「ある出来事」で見たのは,各要素が法や手続きの通りに動いても,全体は望 まぬ結果になりうるということ • 法(外のルール)は事後的で,技術の速度には追いつかない.だから当面は,内側から 自分に課す「律」で埋めるしかない • ルール自体は,いま急速に動き始めている – EU AI Act:2024年発効.禁止行為は2025年2月,汎用AIの義務は2025年8月から段階適 用(出典:欧州委員会) – 日本:AI推進法が2025年5月成立・9月全面施行.ただし基本法・理念法で,企業への罰則は ない(出典:内閣府) • つまり法は「方向」は示すが,「現場の作法」までは決めてくれない.その隙間を律 が埋める – 品質の世界には規格やガイドラインの蓄積がある.それは律の下敷きになるのではないか • 議論:その律は,誰が立て,誰が更新するのか – 個人の作法か,企業の規程か,業界の合意か.どの層で決めるのが妥当か.あなたの組織に 明文化された「律」はあるか 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 4
論点F【人財】後継者はどこで育つのか わたしたちのこと • 役割論(論点E)の続き.形式化された作業から順にAIが吸収していくと,ジュニアが 担ってきた仕事が先に消える • 若年層の雇用への影響は,すでに実データで見え始めている – Stanfordの研究(2025):AI曝露の高い職種で,22〜25歳の雇用が相対的に約13%減(出 典:Stanford Digital Economy Lab/ADP) – ただし減っているのは「自動化」用途.「補助」用途では減っていない.鍵は自動化か拡張 か • ここにジレンマがある.実務の入口をAIが埋めるほど,「実務で覚える」という育成 の王道が痩せていく – 左官の見習いは,どこで修行するのか – わたしは本編で「揺るがない基本」ほど価値が上がると述べた.ではその基本は,どこで身 につけるのか • 議論:育成の入口が消えるなら,育成の設計をどう作り直すか.「実務で覚える」を 何で置き換え,誰がコストを負うのか 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 5
論点H【ガバナンス】統合と判断は誰が握るのか みなさんのこと • 第1部で「統合と判断は手放さない」と述べた.これは,ひとりだからできる話でもあ る • 組織では,統合と判断を「どの人間が」握るのかが,途端に難しくなる – 権限と責任が曖昧なままAIを走らせると,誰も統合していない「単眼」になりうる.本編の 「ある出来事」は,統合者が不在だった帰結とも読める • これを仕組み化する標準は,すでに登場している – ISO/IEC 42001(AIマネジメントシステム,2023,認証可能),NIST AI RMF( Govern/Map/Measure/Manage).2025年時点で義務ではないが採用が進む(出典:ISO ,NIST) • ただし規格は「枠」を与えるだけ.最後に統合し,責任を負う「人」は,規格の外に いる • 議論:あなたの組織で,AIの出力を最終的に統合し,責任を負うのは誰か.その人に ,判断に必要な情報と時間は与えられているか 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 6
論点I【格差】品質はどう向き合うか わたしたちのこと • AI活用の力は,組織規模・地域・個人で大きくばらつく.これは能力差というより, 前提(資源・データ・仲間)の差だと思う • 格差は,実データで見え始めている – WTO ICC調査(2025):AI利用は小規模企業41%に対し,大企業は60%超(出典: WTO/ICC) – OECDも地域間の分断(emerging divides)を指摘(出典:OECD) • わたしは地方(長崎)で個人として活動しているので,この格差は肌で感じる • 品質の視点で怖いのは,「AIを使える現場」と「使えない現場」で品質水準が二極化 すること.品質保証は中立の技術に見えて,格差を広げる側にも,埋める側にもなり うる • 議論:品質保証は,格差を広げる側か,埋める側か.地方・中小・個人に届く品質支 援は,どんな形なら成立するか 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 7
論点J【地政学】技術選定が,政治判断になる 社会のこと • ソフトウェアは「良いものを選べばよい」はずだった.だがAIスタック(半導体・モ デル・クラウド)は,国家間の分断の対象になっている – 米国は先端半導体の対中輸出規制を継続・変更.2022年以降,規制対象や条件が政治で動く (出典:米商務省BIS,議会調査局CRS) • つまり,技術選定が純粋な技術判断ではなく,政治判断になりうる – 使えると思っていたモデルやチップが,明日も使える保証はない.供給が止まるリスクを設 計に織り込む必要がある • 個人や中小に,国家の力比べはコントロールできない.できるのは「依存の分散」と「 乗り換えやすさ」を用意しておくことくらいではないか • 議論:あなたの技術選定は,地政学リスクを織り込んでいるか.特定のモデル・チッ プ・クラウドに,抜けられないほど依存していないか 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 8
論点K【経済】鉄道バブルの再演か 社会のこと • いまのAI投資は,どう見ても過熱している.これは19世紀の鉄道バブルの再演ではな いか – 鉄道は過剰投資で多くが破綻したが,敷かれたレールは残り,後の経済を支えた • 見落としがちなのは,「過熱」と「実装の難しさ」が同時に起きていること – MIT『The GenAI Divide』(2025):企業の生成AIパイロットの約95%がROIゼロ(300 事例)(出典:MIT) – IMFやイングランド銀行も,AI相場の過熱を警告(出典:IMF) • バブルが弾けても,計算資源やモデルという「レール」は残るのかもしれない.問題は ,弾けたときに自分の事業が生き残れるか • 議論:AI前提の計画は,投資の波が引いても成立するか.過熱した価格や無料枠に, 事業の前提を預けていないか 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 9
論点L【電力・物理】物理と地域の話になる 社会のこと • ソフトウェアの話だったはずが,いつのまにか電力と土地という物理の話になってい る – IEA:データセンターの電力需要が2025年の約485TWhから2030年に約950TWhへ倍増し ,世界電力の約3%に(出典:IEA『Energy and AI』2025) • 電力確保は,もはや経営判断そのものになりつつある – Big Techが原子力に回帰.MicrosoftはThree Mile Island再稼働の長期契約,Google・ Amazon・MetaもSMR等に投資(出典:Fortune,IEEE Spectrum等) • 品質やアーキテクチャの議論は,これまで電力や環境をほとんど「与件」として扱っ てきた.それが,与件でなくなりつつある • 議論:品質・アーキテクチャの議論に,電力・環境コストの観点は入っているか.「 速い・正しい」だけでなく「効率が良い」も品質特性に入るか 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 10
論点M【知財】創作と模倣の境界 社会のこと • 生成AIは,創作と模倣の境界という,きわめて古典的な問いを再燃させた • 学習データと著作権をめぐる訴訟・和解が,各国で相次いでいる – New York Times対OpenAI/Microsoft(2023年提訴,2025年時点で審理継続)(出典: 米連邦地裁 S.D.N.Y.) – Bartz対Anthropic:2025年9月に著作者と和解,最低15億ドル(1冊約3000ドル).合法 取得の学習は「変容的」,海賊版取得は否定(出典:NPR等) • 現場の実務問題は,抽象的な是非より「来歴を説明できるか」に集約されていく気が する – 生成物の権利,学習データの出所,再利用の可否.これらを説明できないと,納品物として 使いにくくなる • 議論:あなたの成果物は,学習・生成の来歴を説明できるか.「AIが作った」ことを ,どこまで開示すべきか 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 11
論点N【セキュリティ】攻撃側も複眼を持つ みなさんのこと • 第1部で,複眼(レビュー)はこちらの武器だと述べた.だが同じ複眼を,攻撃側も手 に入れている – 攻撃の自動化・高速化・巧妙化(説得力あるフィッシング,脆弱性探索の効率化など) • すでに実害が出ている – ArupのディープフェイクCFO詐欺(2024):偽の役員ビデオ会議で約2,560万ドルを騙取 (出典:CNN,世界経済フォーラム) • 怖いのは,防御と攻撃が「同じ道具」で軍拡競争になること.守る側の優位は続かな い – 「AIで守る」だけでなく「AIで攻められる」前提で,テスト・レビューを設計する必要があ る • 議論:あなたのテスト・レビューは,AIを使う攻撃者を想定しているか.なりすまし や社会工学に,品質保証はどこまで踏み込むべきか 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 12
参考・出典(勉強会拡張分) 勉強会拡張 • 本セクション(勉強会拡張分)で触れた主な出典 – C 法と律:欧州委員会「EU AI Act」/内閣府「AI推進法」 – F 人財:Stanford Digital Economy Lab(Brynjolfsson ら,2025)/ADP – H ガバナンス:ISO/IEC 42001:2023/NIST AI RMF – I 格差:WTO ICC(2025)/OECD – J 地政学:米商務省BIS/米議会調査局CRS – K 経済:MIT『The GenAI Divide』(2025)/IMF – L 電力:IEA『Energy and AI』(2025)/Fortune・IEEE Spectrum – M 知財:NYT対OpenAI/Microsoft(S.D.N.Y.)/Bartz対Anthropic(2025和解) – N セキュリティ:Arupディープフェイク事件(CNN/世界経済フォーラム,2024) • ※ 詳細URLは別途一覧を提供します. 2026/8/11 © Quality Arts,Akira Ikeda 13